箱庭甘露作品投げ込み

連載先取り投稿や、何となく書いたSS、夢主紹介など雑多な置き場所です。

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サソリバースデー

2025年11月8日のサソリバースデーをお知らせします。
ハルシャとサソリとベネットとシャルナーク。
なお本日時点でまだ更新してないんですけど、シャルナークはサソリの殺されかけた時にベネットが自分の念をかけて「オレの命令に従えよ」ってしてるので、ベネットの小間使いしています。と言ってももう除念はとっくのとうにすんでいて、別段従う必要もないのですが、ハルシャとサソリと縁を持っているほうが都合がいいのでまぁ除念していることは隠して命令に従わざる得ないふりをしている感じ。たぶんベネットもそれは気づいている。

 入口より入って、古びた棚を超えた先に形ばかりのレジと作業スペースがあった。ベネットが手作りしたという古いテーブルを囲んで座ると、ベネットとハルシャとサソリの三人はまるで家族のようであった。
 外はもう暗くなっており、ぶら下がった唯一の明かりである裸電球が煌煌と部屋を照らし出していた。夏場は小さな羽虫が鬱陶しいが、この時期になるとその数もめっきりと減って過ごしやすくなる。
 サソリは相変わらず何を思案しているのかわからない顔で、小さな道具をいじっていた。ハルシャとベネットはちょうど夕飯の時間で、ベネットの作った手製のパスタを食べながら、グダグダと取り立てて話題にするほどのことでもないことをああでもないこうでもないとしゃべっている。
 ハルシャも今年で十七歳になる。サソリはいまだに黒煙病の対抗策を思いつくこともなく日々を浪費していた。その一方でハルシャは自身が病にかかっていることなどつゆ知らず、日々その技術を上げていく。それがまたサソリのとっては痛ましい事実だった。その技術が失われる日が遠くない日に迫っている。
 サソリは黙々と手を動かす。ハルシャとベネットはくだを巻きながらパスタも残り二口というところになった。
 
 ガシャン、とシャッターを誰かが外から開けようとしている。
 店の入り口には大きなシャッターがあった。もはやロックする機構などないに等しくなった年代物だ。錆は年々広がっており、中をのぞくのも容易である。たいていは外からちょっと力を籠めれば空くのだが、この時右寄りを持つのがコツであった。
「あれ? くそっ……なんだよこれ」
「おいシャルナーク! 右側に手ェ差し込めって言ったろうが!」
「いい加減直せよこのポンコツ!」
 そういいながら入ってきた金髪のさわやかな男は、このボロ家に似合わぬ身ぎれいな格好で片手にはこれまたやけにきれいな菓子屋の箱を持っている。
「あのさぁ、オレを便利屋扱いするのやめろって言っただろ! 大体なんだよケーキ買ってこいって」
「今日はサソリの誕生日だからな」
「そうなの?」
 シャルナークはベネットの言葉にも顔を上げずに手元の歯車をいじっているサソリに顔を向けた。
「そうだ」
「本人全然興味なさそうだけど」
「この年で誕生日が一体なんだ」
「まぁそれはそうかも。そういうことならほら、オメデトウ」
 あまり感情のこもらない声でシャルナークはお祝いを述べながら、机の上に買ってきたホールケーキを広げた。
 色とりどりのフルーツと、それからたっぷりの生クリーム。この部屋の中で最も白い輝きを放っているのはこのケーキに違いない。あとの白色と思しきものたちはすべてくすんだ色をしている。
「はい」
 シャルナークは空いた一席に座りながらベネットに手を出す。
「なんだ」
「代金」
「お前が出せ」
「なんでだよ! いいから五千ジェニー出せって!」
「サソリの誕生日を祝う気がねぇのか?」
「人にケーキ買わせて人に金出させてる時点でそれを言うなよ」
 ベネットとシャルナークがにらみ合いながら喧嘩を始める横で、ハルシャはケーキの上にろうそくを立てている。
「父さんって何歳だっけ?」
「……六十……か……? いや三十三だな」
「差がありすぎだろ、そこ間違えるなよ」
 サソリの言葉に思わずシャルナークが突っ込んだ。ベネットとの金の論争にいい加減終止符を打ちたかったのもあるかもしれないが、その場合結局支払いを持つのはシャルナークとなる。
「えー、ろうそく三十三もないよ……じゃあこれ一本十歳ね」
ハルシャは適当なろうそく三本を十歳カウントとして、残り三本を立ててケーキは完成した。
 ベネットはよっこらせと立ち上がると、棚からいくつかの皿を出してきて、ハルシャと自分の前に置く。
「……オレの分は?」
「チッ」
「おい!」
 舌打ちしたベネットを横目にシャルナークは自分で勝手に戸棚をあけて皿を出す。その手にあるのは勿論一枚の皿だ。
 シャルナークがその皿とそれから目についたマッチをもって机に戻る。一応バースデーケーキならろうそくに火もつけるだろうという非常に常識的な配慮であったが、ベネットはにやりと笑ってシャルナークの手からマッチを取り上げたのだった。シャルナークは怪訝そうな顔をして「火つけられないだろ」と言う。
「いや? いいから見てろ。おいハルシャ、いいぜ」
「ん。父さん、ちょっと人差し指だけ伸ばしてろうそくに向けて」
「はァ?」
 今の今までケーキが出されてもちらりとも目を向けなかったサソリが、ようやっと怪訝そうな顔をして顔を上げる。ハルシャは明らかに何かを企んでいるといった様子の、輝かしい顔でサソリが彼女の言うとおりにするのを待っている様子だった。サソリはしばらく眉を寄せたまま彼女の様子を見ていたが、しぶしぶといった様子で、人差し指を伸ばしたままハルシャの言うとおりにろうそくに向ける、つまるところろうそくを指さすような形になる。
「じゃあ次! 小指をそのまま伸ばしてみて!」
「……」
 サソリは諦めたかのように言われたとおりにした。その瞬間。
 ボッ、と小さな炎が指先から噴き出した。正確には爪の間から平たく火炎放射器のように炎が広がってケーキにたてられた六本のろうそくに同時に火が付いたのだ。
「やった! 大成功! 父さんすごくない!? 爪の間に超小型の火炎放射器を仕込んだの! 火力調整が難しいんだけど、伸ばす指の本数とか、形とかで威力が変わるの! 小指が一番低火力で……」
 ハルシャはいたずらが成功したと言わんばかりの顔で輝かしくサソリの手の仕込みについてしゃべっている。ベネットは先ほどからうつむいたまま何も言わない。ただ、紅茶の入ったカップの中で、水面が激しく波立っていた。
 シャルナークは必死に真顔を保とうとして口の端が歪み、眉がへんてこな形になっている自覚があった。笑うべきか、笑わざるべきか。笑ったらサソリが今まで以上に激怒する気もした。命の危機だ。たぶんハルシャはものすごい発明をしたと思っているのだろうが、少なくとも自分であれば指を曲げ伸ばしするたびに爪の間から炎が飛び出す仕組みはまっぴらごめんだ。
「左手が炎で右が水」
 シャルナークは素直に腹筋を崩壊させ、そのまま床に転がった。ベネットも限界だったのかグフッと小さな音を立ててそのままヒーヒーとひきつった笑いを漏らし始める。笑ってないのはハルシャとそれから空気が氷点下まで下がったサソリただ一人である。
「ハルシャ」
「なに!? すごくない!?」
「最高火力はどのくらいだ」
「ん~……そんなに強くはないかな。せいぜいバーナーくらい。あんまり火力も強くないし、勢いはないんだよね。数秒でガスが切れちゃうし。ねぇねぇ父さんの腹にガスボンベ仕込んでもいい?」
「やめろ。絶対にするな」
「えー! ケチ!」
 シャルナークとベネットは完全につぶれて床の上で転げまわるように笑っていた。あっはっは、と笑い声が裸電球の照らす狭い部屋の中に響き渡る。
 ただ唯一この上なく機嫌が悪くなったサソリだけが冷たい目でシャルナークとベネットを見ていた。
 一拍置いてから、サソリは手の平をシャルナークとベネットの方へ向ける。
「いいか、ハルシャ」
「ん? 何?」
「炎の威力を増幅させるなら狭い場所から一気に放出するのは悪くねぇ。あとはうまく風を使え。そうすりゃこの程度の威力は出る」
 サソリの手のひらから吹き荒れた熱風と炎は、今しがたシャルナークが座っていた椅子とそれから床を丸ごとやきつくてそのまま風穴を開けたのだった。「アブネッ!」と叫んでその場から逃げ出したシャルナークは、無傷であるが、もはや床は大惨事である。
「すご!」
「オレは死ぬところだっただろ!」
 ハルシャは感動し、サソリはシャルナークの言葉を鼻で笑った。今度はベネットが激怒する番だった。
 
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#サソリ #ハルシャ  #シャルナーク  #ベネット

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夢主紹介

蒼月(ツァンユエ)

所属 スメール教令院 アムリタ学院卒業 ガンダルヴァー村レンジャー
神の目 炎
武器種 法器

先祖に璃月の鴆(ちん)の血を引く。岩王帝君とともに魔人戦争時代に戦ったが、鴆は人間と同程度の寿命しかないため、蒼月は当時の鴆とは全くの別物になる。ただ、面影は残っている。
背中に青い翼が生えているのが鴆の特徴であるが、この翼は基本的に隠すことができる。(人から見えなくすることができる。)鴆は翼以外は人と同じ姿形をしているため、翼がないと見分けはつかない。
翼に猛毒を蓄える仙獣であり、毒殺役というよりは毒見係として活躍していた様子。一方で鴆は毒殺という負のイメージが付きまといやすいことから、当時の鴆はあまり表舞台には出なかった。岩王帝君とともに戦ったとされる鴆の姿は、現在はいくつかの石碑に残るのみである。鴆については岩王帝君よりもその毒についての知識が薬師の間に残るばかりである。

蒼月は璃月で生まれた。璃月人であり鴆である母と、スメール人の父の間に生まれた子である。
四歳のころ、スメールへ里帰りするために船に乗ったところ、オルモス港付近でバフルシャー(海王と呼ばれる水元素生物)に襲われた。
当時オルモス港へやってきていたティナリ一家は、バフルシャーに襲われ崩壊した船が入港するのを見る。入港後すぐ沈没が始まる船の中に蒼月がまたいることに気づいたティナリが水の中に飛び出し溺れ、代わりにティナリの父が飛び込んで蒼月を助け出した。
その後教令院からの追及を逃れ、ティナリの父母は蒼月を養子として迎え入れる。

蒼月にはバフルシャーの事件から幼いころの記憶と片翼がない。右の翼はバフルシャーに掴まれた際、誰かに切り落とされたようだった。おそらくは両親が蒼月を生かすためにそうしたのだろうと思っている。
蒼月には実の両親の記憶がほとんどない。恐怖から記憶を意図的に忘れてしまったと考えられるが、それが時折彼女のルーツを考える上で、彼女の精神を不安定にした。
左の翼がないことから蒼月は翼を隠す(文字通り形をなくし、必要なときにのみ出すといった仙術)を扱うことができない。本来なら飛翔も思いのままのようなのだが、飛ぶこともままならなかった。
蒼月の青い羽根は触れるだけでも皮膚がただれてしまうこともあるため、現在はアルベドが作った保護材を塗って管理している。
なお教令院の規則によれば、蒼月の翼を引き抜いたり落ちた翼を無断で研究に使用することは禁止されている。本人の許可があった場合にのみ、実験に使うことができた。なお、何度か蒼月はこの許可を出している。主に毒物を中和する薬品の実験に使われる。なお、この実験で蒼月の作り出す毒物に勝てた薬品は今のところない。

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2025年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

SS

夕方多夕への恋詞

暗号学園のいろはを読了し、そのままドはまりしました。
いろはと同室の男子生徒五名が登場。名前の案出しとあと失言半減質疑応答のリポグラムのところだけChatGPTに手伝ってもらいました。

夢主:朝緋 恋詞(あさあけ・こいこと)1-E唯一の男子生徒。人当たりがよくあっという間に人の懐に入り込むくせに、夕方多夕のことになると気が狂うタイプ。そこそこいいところの出身で多夕とは幼馴染。(きょらと家雪とは面識がほとんどない)両親が政治家で多夕の父親の側近だった。一応親同士がまとめた許嫁ではあったが、現在は破棄されている。両親はまとめて監獄行。多夕と幼いころにしりとりをして負けた時に「将来結婚する」と口約束したことを律義に信じている。多夕は覚えてはいるもののそこまで信じてはない。多夕とは異なりきょらのような頼れる人がおらず小学生時代はずいぶんと苦労したが、中学生になって多夕と再会。多夕に「失言半減質疑応答」にてすべてを赤裸々に話、ついでに「オナニーのおかずは君だよ」と告げた結果多夕がドン引いて話をしてくれなくなった。ゆかこときょらもだいぶ引いて、なるべく多夕と恋詞を近づけないようにしている。
今回の話には多夕は出てこない。

#暗号学園のいろは #夕方多夕 #朝緋恋詞

 暗号学園男子寮は全員が同室という、女性の学生が多い中で大層な扱いであった。加えて、彼らは学園の中でトップの実力を誇る男子たちではない。あくまで数合わせ、あるいはジェンダーの問題から引き込まれた学費無料の「贔屓」された男子である。女性多数の中の男子一人は周囲から見ればうらやましい限りだろうが、恐ろしいまでの才能を集められた一クラスの中、ほぼ無能という空気にさらされた男子たちの寮からは活力が薄かった。もちろん彼らは本当の意味で無能なわけではない。晒されてきた環境が違うだけでそれなりに勉学にも秀でている者たちがほとんどだったが、同クラスの女性たちはそれをさらに上回るのだ。
 その空気を消し飛ばしたのがいろは坂いろはという男子生徒であった。クラスでもそれなりにうまく女生徒との立ち位置を持っている彼は、男子寮でもうまくやっていた。女性とも男性とも見えるその姿は両者からの信用を集めやすい様子であった。
 授業も終わり疲弊しきった顔の男子諸君が部屋に戻ってくる。別段女生徒から何を言われたわけでもないだろうが、癖の強いクラスメイトと共にいるだけで疲労は極限に達している。狭い和室に計六名の男子が集まり、ちゃぶ台を囲んでいる。畳こそ真新しいものの、建物内の部屋の配置から明らかな疎外感を感じざる得ない。暗号学園において男子は今のところそのような扱いだった。そんなわけで今や男子たちの結束は固い。ついこの間であったばかりであるというのに、ある意味女生徒という敵だらけの環境で男子生徒は強く手を握り合い結束して生きていくことが暗黙のうちに決まっていた。誰から言われずとも役割が徐々に決まっていく中、いろははムードメーカーでもあった。ただ、今日に限って言えばいろはの表情は暗く、ほかの男子たちはどうやって彼から事情を聴きだし励ますかということで、ひそひそと部屋の片隅に固まっていた。
「おい、いろはの奴どうしたんだよ」
 D組の余命結人(よめい・ゆいと)はひそひそと声をかけた。
「いやそういうことは恋詞に聞けよ……オレらは別に情報収集は専門じゃねぇって」
 困った顔をしたのはF組の蔵下実学(くらした・みがく)である。今日は血に汚れた白衣をもって帰ってきたが特に何も言わなかったので同室も何も聞かなかった。特命クラスについては聞かないことがいいことが山のようにある。
「恋詞、なんか知ってるわけ」
「知っているも何も」
 E組朝緋恋詞は普段から人当たりがよく、少し抜けているところも多い男子生徒だ。男子であるとどうしても互いを競争相手と見がちなところがあるが、恋詞はいろはと性格が似ている。協力を得意とし、同時に自分が弱いことを知っていて相手に自然と助力を請うことができる。
 暗号学園の男子生徒は、皆、どうでもいい男子たちが集められたということになっている。もちろんそれはある一定ラインで事実だが、それでも多少なりともその素性や性質は選ばれたものだ。決して、そのクラスの性質に馴染まない者が選抜され配属されたわけではなかった。いろはは暗号のいろはも知らなかったがそれでもあっという間にその才能を開花させたように、誰しもがそれなりに素質を持っている。
 朝緋恋詞はそういった意味で潜入捜査には恐ろしく適した人材だ。人当たりがよく、他人がつい助けたくなる、女性からすると「自分がいなければだめなんだ」という庇護欲を駆り立てるところは他人の懐に入る逸材であった。変装も、何もかも不得手であるが彼はいつの間にか人の間に溶け込んでいる。いろはもA組でよくやっているが、その次にクラスに馴染んでいるのは恋詞だったかもしれない。
 その恋詞の表情が普段とは全く違うことにC組の知生知(ちせ・とも)は気づいてそれ以上の言葉を続けるのはやめた。実のところ知も周囲の人の表情や動作から何があったか知っていた。どうせ恋詞も知っているだろうし、合わせて話をしようと思ったところで恋詞の表情を見てやめたのだ。
 明瞭な怒り。あの人当たりの良い顔から滲み出す苦痛と憎悪とそれから嫉妬の視線がはっきりといろはに向いている。
「おい恋詞、お前どうした」
「どけ輪」
 B組嘘坂輪(うそさか・りん)もぴたりと口をつぐむ。精神感応などなくとも彼が明瞭な怒りを抱えていることはよくわかる。潜入捜査クラスの恋詞は普段は感情がわかりにくく、何を言ってもあまり怒った様子がない。というのに今日はどうしたことかと同室の者たちがおびえながら、立ち上がっていろはの元に向かう恋詞の様子を見ていた。まさに一触即発の空気だ。
 いろははゆっくりと顔を上げ。
「恋詞……ごめん、怒ってるのはわかるんだけどボク、今日はちょっと喧嘩する気も起きなくて」
「いいや喧嘩してもらおうか。もちろん暗号バトルだ、覚えてるだろ、今日プレイしたばかりの失言半減質疑応答」
 いろはは恋詞の名前を呼んでもう一度下げていた頭をパッと上げた。その表情に浮かぶのは目の前の男に対する恐怖そのものである。
「せっかくだしオレらもやろうじゃないか。そしたら教えてやるよ、オレがなんで怒ってるのか」
「待って、それは、本当に」
 いろはは歯の根も合わぬほどに震える口と手で必死に恋詞の言葉をかみ砕こうとしている。それだけは今は絶対に聞きたくないとばかりのいろはの手に、恋詞は無理やり二十三枚のカードを握らせた。それは奇しくも今日の午後に夕方多夕が用いたソレと全く同じものであった。いろはの顔が一気に青ざめる。
「質問させてやるよ、お前が質問する側ならそんなに怖くもないだろ」
「待って、ボクは本当に」
「黙れ、オレから質問するぞ」
「わかったよ!」
 恋詞の言葉はもはや有無を言わさぬ強制力があった。すでに精神力を疲弊させやっとのことで部屋にたどり着いたばかりのいろはは恋詞と喧嘩をする気力すら生まれない。半ば強制されるようにして恋詞の勝負に乗ってしまったいろはであったが、今回は多夕に勝負を挑まれたときに質問を投げかけられたこととは全く違い、自分が質問する側に回れるようだった。それが幾分いろはの気持ちを持ち上げさせた。
「なにをおもってこゑをあげたの?(なんでそんなに怒っているの?)」
「まえは『たゆう』と わをまし られた(お前が多夕と言葉を交わしたから)」
 テンポは多夕との質疑応答よりもはるかに遅い。むしろ恋詞がそれを望んで一言一言かみしめている様子だ。
 いろはは明らかに驚いた表情をして、それから眉をひそめた。

 外野では知がひっそりと残りの三人に説明をしている。残りの三人は失言半減質疑応答のルールとその内容に追いつけていない。
「失言半減質疑応答、東洲斎派の夕方多夕がよく使うリポグラムだよ」
「リポグラムってあれだろ、文字限定の遊び。どういうことだ?」
「今日の午後さ、いろははその夕方とこのゲームをやったんだ、って話だけどね。僕も正直本当なのかわかんない。いろんな人の表情とかやり取りからそういうことがあったらしいってのを聞いただけだし、ソースも少ないし」
「でもそれが何なんだよ。恋詞は多夕って言ってたから……その多夕と関わりあるんだろうけど、多夕ってA組の奴だろ。恋詞ってなんか多夕とあったのか?」
 輪がいろはと恋詞の様子をうかがいながら声を潜めて知に尋ねる。
「ああ……うーんまぁ僕も自信ないけど、恋詞はたぶん夕方のことが好きなんじゃないかな」
「……そういうことか……」

 外野のやり取りなど一切構わずいろはと恋詞は質疑を進めていく。
 いろはは一言目の質問で動揺したが、同時にその表情も含めてすでに恋詞の怒りの根源を理解しつつあった。ただ、自身がトラウマを植え付けられた以上、その内心にどこまで迫っていいのかについて悩んでいる。それが間を産み、今度は恋詞が仕掛けてくる。
「おまへは『たゆう』と なにして そふなことに?(あなたはなぜ多夕と失言半減質疑応答をすることになった?)」
「と、とつせん、そちこそおこしてきたの(む、向こうから突然仕掛けてきたんだよ!)」
 いろははそこで攻勢に転じる。暗号学園にいる以上、必修科目として暗号に関わる基礎教科が存在する。つまりこのリポグラム「失言半減質疑応答」はこの部屋の誰もがすでに習得している内容だった。それでも夕方多夕ほどの速度、あるいはいろは坂いろはのように高速で回答ができるかと言われるとそれは即座には難しい。少なくとも言語の構築と理解にはそれなりの時間を要する。少なくともいろはを除く五名がここまでリポグラムを使えるとはいろは自身も思っていなかったはずだ。恋詞は慣れた様子で言葉を繰り出すので、トラウマになっていたいろはの中に精神生命の危機がよぎり一気に頭が覚醒していく。トラウマを植え付けられてなお、この反応を見せるのはいろはの特異性でもあった。
「きみ、かのこと、おもてゐるの?(あなたは彼女のことが好きなの?)」
 このぐらいだったら許されるはずだ。ちょっとしたコイバナ、だれもが気になるあの子の気持ち、程度だろう。いろははこの場で恋詞にトラウマを植え付ける気など何一つない。ただ、恋詞が何に怒っているのかについて、またあれだけのトラウマを抱えていることを知っていながらなお、この勝負を仕掛けてくる恋詞に少なからずの怒りを抱えている。その鬱憤晴らしではないが、今後その怒りの矛先に触れないために事情を明かしたいとは思っている。いろはにとってはすでに先ほどの表情と多夕に関わる話題で結論はほぼ出ているようなものだったが、おそらく恋詞はそれを明瞭に口にさせたいのだと察したのだ。
「そうや、わたしは『たゆう』とまふ(そうだ、オレは多夕のことが好きだ)」
「なら、きみもかのことこのあそひにてをなせ(じゃああなたも彼女とこのゲームをすればいいじゃないか!)」
「『たゆう』は おれと あそべぬのや(多夕は俺と遊んでくれないんだ!)」
「きみ、ことにおいてこえたの?(あなたが勝ったってこと?)」
「『たゆう』とはいつも わにふれぬままや(オレは多夕に勝ったことがない)」
「なら、なにゆゑかのこは、きみとあそひせぬの?(ならなぜ彼女はあなたと遊んでくれないの?)」
「おれのはんへん、まるてうけられん(俺の回答が全く受け入れられなかった)」
「なにこたへしか、おしえて(何を答えたのか教えて)」
「おれは『たゆう』へ ひめぬまま、まことをやり、かのをいとふとつたへたのみ(オレは多夕に隠すことなく愛してると伝えただけだ!)」
 さてそこで外野が限界だった。ドッと笑い声が起きていろはの集中が途切れる。
「そこまでっ、そこまでにしよう!」
 輪がひたすらに笑っている。
「恋詞、君が多夕のことめちゃくちゃ好きで全部筒抜けにした結果、夕方がドンびいたって話でしょそれ」
 実学が呆れたように言うと、恋詞はきょとんと眼を丸く開いた。
「なぜ引くんだ」
「なぜも何も……」
 知は呆れを隠せない様子である。
「夕方のあれはある種の拷問じゃん。要するに言いたくないことを少ない語彙で言わせるためのゲームでしょ。ふつうはいろはみたいにしばらくトラウマになるっていうのにさ、それはそれは全部つまびらかにされて、というかもしかして夕方で抜いてるとか言ったんじゃないの」
「オレのおかずが多夕以外にはありえない」
「ぐ……ッん、ふっ……」
 結人の腹筋が限界を迎えてちゃぶ台の下に突っ伏した。頭が限界を迎えているいろはですら「女性にそんなことを言ったの!?」とそのまま畳の上にひっくり返った。
「いやぁ同室の意外な側面……おまえってもっと頭良くて人のことを考えられるって思ってたけど、多夕に対してだけはだめってすげぇ意外だわ。でもそりゃ多夕も構ってくれないだろ」
 実学はひたすら笑っていたが、恋詞がすぐそばまで迫ってきてカードを渡してきたところでピタリと笑いを止めた。
「お前、次に『多夕』って呼び捨ててみろ、お前にトラウマを植え付けてやるよ」
「すまなかった、愛だな、愛。うん、実に純愛だ、夕方さんが振り向いてくれるといいな。応援するよ。それよりも夕方さんのことになると口調まで変わるの、本当に面白な」

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2025年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

三人の娘

#サソリ #うちよそ
「え、手はや」
 シャルナークが初めて二人の娘の存在を知ったときの最初の一言目はそんな、大層遠慮のないものであった。
 
 廃ビルの一角が今は蜘蛛のアジトとなっている。
 普段からここを生活拠点にしているわけではないが、蜘蛛のメンバーが揃うとなるとそれなりに広い場所は必要だった。しかしかといって町中のマンションはあまりにも目立ちすぎるので、こういった廃墟が集合場所となりやすい。
 今回集まったメンバーはマチ、シャルナーク、クロロ、ウヴォーギン、クロロそしてサソリだった。サソリは正式には蜘蛛のメンバーではないが、その念能力の有用性が高いこともあり、シャルナークを通じて時折蜘蛛の仕事に参加していた。彼自身、いくつか手に入れたいものがあるらしく、そういった意味でも蜘蛛の仕事は都合がいいらしい。
 さて、なんの話の続きであったか、とりとめもない雑談から発展していったと思う。
 ふと、ハルシャの話になったのだ。普段と違ってサソリが珍しく話に乗ったのでマチも興味をもったらしい。
「あんたが女の話をするの珍しいね、ハルシャって?」
 サソリにもシャルナークにも向けた言葉だった。サソリはもちろんだが、シャルナークも基本的に女と寝たと言ってもその名前を出すことはなかった。
「サソリの娘」
 シャルナークが簡潔に答えると、マチは「えっ」と言ってサソリを見る。
「あんた父親だったわけ?」
「まぁな」
「いくつだっけ」
「今年で……三十五かそこらだ」
「あんたに娘、ねぇ……どんな子?」
 マチはそれなりに関心があるらしい。サソリが座っていたソファに寄りかかるとそのまま話を続けていく。
「ハルシャの話か?」
「他にいないでしょ」
「あと二人娘がいる」
「うえぇ!?」
 次に声を上げたのはシャルナークだった。
「待ってよ、ナギサのことは知ってたけど、もう一人!? 知らないんだけど!?」
「面白ぇ話してんじゃねぇか。なんだ、そのハルシャとナギサってのは、強ェのか」
「バカなことを期待するなウヴォーギン。あれに手を出したら殺すぞ」
「弱けりゃ手を出さねぇよ」
 ウヴォーギンはからからと軽快に笑って飲んでいたビール缶を握りつぶす。
「ハルシャはオレと同じだ、傀儡師。だが、本人は小枝みてぇなもんだ。ナギサは戦えねぇ。手を出すな。それから……」
 サソリは言葉を区切る。
「ワカは」
 サソリはそこで言葉を区切った。
「存外いい相手になるかもな」
「ワカっていうの? ホントに誰だよ、まぁいいやデイダラ経由で探すか……」
「ふん」
 サソリはさっそく探し始めたシャルナークを尻目にマチの質問に答えている。
「ワカ、ワカ、うーん、あ、デイダラと縁がありそうなのはここか……ねぇ、サソリ、こいつ?」
 シャルナークは叩いていたパソコンから顔を上げて画面を見せた。
 とある大学で談笑する男女の姿が写っている。
「……隣の男は誰だ」
「そこは主題じゃないんだけど」
 黒い髪を伸ばした女性はリュックサックを体の前に抱えていた。リボンタイのシャツに、濃い色のスカート、革靴で隣の男性と穏やかに話をしている、ように見える。ただ、その瞳孔をよくよく拡大すると、視線は写真を撮った誰かに向けられていることがわかる。談笑する男性は表情に違和感がないところをみると、この視線はカメラだけが捕らえたほんのわずかなものだったらしい。
「男は誰だ」
「ほんとにせっかちだな。この二人、同じ大学の学生だけど、マフィアとつながって売春の斡旋で小遣い稼ぎしてたらしいよ。でもこの女の子の隣の男は酒を飲みすぎて急性アルコール中毒で死亡。写真撮ってたやつは食中毒らしいけど、手足が完全に麻痺して動かなくなったんだってさ。どうみる?」
「腕を上げたな」
「うわ、否定しないんだ」
 シャルナークは呆れたように言った。
 ふと、クロロが椅子から立ち上がるとシャルナークの持っていたパソコンの画面を覗き込む。
「こいつが?」
「ワカ」
「ハルシャとナギサの写真はあるか」
「なに? クロロも興味あるの?」
「いや。ハルシャの生人形には興味があるが残りの二人にはさほど。手を出すと面倒そうだから事前に避けたいだけだ」
 サソリは喉の奥で笑って「よくわかってんじゃねぇか、さすがに察しがいいな」と言った。 畳む

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保湿

#花紅葉 #ワカ #サソリ #小南
革って保湿のオイル塗るとすごい良くなるよね→もしかして人の生皮の傀儡も保湿するんじゃ……?→サソリって化粧水にめちゃくちゃ詳しいのかもしれないという話

 革は生き物である、とよく言ったものである。もとより生物より切り出されたそれは、適切な管理をすることでその美しさを保ったまま長く使い続けることができる。しなやかで頑丈なそれは、日常生活の中に深く入り込み、私たちもまたよく目にするだろう。
 革の管理は適度な乾湿、油を塗り込むことによる表面保護となる。他にもさまざまな手順はあるものの、ひとまずはこのあたりを押さえていくことになるだろう。
 さて、この話が何に繋がるのかといえば、今まさにサソリが部屋で行っている作業そのものが、まさに革の保護と汚れ落としであった。ただしその革は動物のものではない。人の生の皮膚であった。
 人傀儡は生身の人間から作られる。臓腑の殆どは抜き取るが、それが有用であればある程度形を保ったまま保管された。臓腑の中に虫を飼っていたり、あるいは固有の術が臓腑を由来とする場合にこの方法が用いられる。皮膚は綺麗に剝いで適切な管理をし、完成した傀儡の表面を覆うことになる。
 余談であるが人傀儡作成の過程はデイダラもペインですらも目を逸らしたものだった。全行程を目にした訳では無いが、人をただ殺すのとは全く訳が違う、そこにあるのはもう一度人を作り直す工程である。デイダラはそれを「趣味が合わねぇ」と評し、ペインはそれを「あまりにもおぞましい」と評した。その言葉の意味を正確に理解できないのは唯一サソリ本人のみだ。
 話が戻るが、傀儡は生皮であるから、乾燥やカビに弱い。常にしまっておくわけにもいかず、サソリは約三百体の傀儡を代わる代わる表に吊るしては手入れを行っていた。通常の傀儡作りだけでなく、手入れ、仕込みの確認、毒の調合など彼は常に手を動かしている。拠点に構えている時はサソリは基本的に部屋にこもりっぱなしなのだった。
 傀儡の肌の手入れでも保湿は重要であった。女がよく使うような保湿剤を定期的に塗り込んでより良い状態を保つ、という意味で傀儡の管理は金と時間がかかる。しかしそのおかげでサソリはそこらの女よりもはるかに皮膚を美しく保つことについて詳しい。厳密に言えば死体が専門であるが、皮膚であればおよそ対処の仕方を知っていた。

 サソリとデイダラ、そしてワカが生活する拠点は各国に分散しながらいくつもあった。時には仮の拠点として廃墟を利用するような時もある。やはり人目を避けるので森の奥、あるいは砂漠の果てに多かった。
 ここは砂漠の岩山の合間、かつては小さな一族が住んでいたようだがとうに滅びている。砂隠れの地図にも載らない砂漠の果てに、サソリは居を構える。肌を突く砂が吹き荒れるので、窓はほんのわずかな小さなものしかない。
 リビングとして使う場所も特段整理が行き届いているわけではなかった。適度に生活できるようにはしてあるものの、サソリもデイダラも綺麗でなければ生きていけないような繊細さは持ち合わせていない。多少机が砂でざらついていようと軽く手で払う、床に石材が転がったままでも気にしない。そんな場所だ。
 小南はここを訪れるたびに男たちの乱雑な生活に呆れている。雨隠れの実質的な里長であるペインの拠点と比べれば、ここは確かに汚いが比べられても困るというのがデイダラの言だった。
 小南は時折こうしてサソリとデイダラの拠点を訪れてはワカと話をしにくる。暁のメンバーの中では珍しい女性であることや、ワカのことを幼い頃から知っていることもあり妹のようにも思っているようだ。来るたびになにか不足はないか、と聞くがワカにとってサソリがいれば不足などあるはずもなかった。
「肌が荒れてるわね」
 小南の白い手がワカの頬を撫でた。さすがにこの乾燥する砂の世界の中ではワカの肌もひどく乾燥している。突っ張るような感覚とカサつきが小南の指先から伝わってきて、小南は少し顔をしかめた。
「痛くはないかしら」
「はい、痛みはありません」
「そう、でもせっかく綺麗な肌なのだから少し手入れをしましょう。特にここは乾燥しすぎよ」
 小南はそう言ってワカの手を引いた。
「サソリ」
 小南が向かったのはサソリの部屋である。ワカを連れて町へ降りたいと伝えるためだ。
 サソリは部屋の奥の机に向かって座り、傀儡をいじっている。
「ワカの肌がひどく荒れてるの。少し化粧道具と合わせて保湿するものを買ってきたいわ。しばらくワカを連れて行ってもいいかしら」
「……ワカ、来い」
「もう少し優しく声をかけなさい」
「……」
 サソリは何も言わない。実のところサソリは小南が苦手である。もとより年上の女性が苦手な上、特に小南は暁へ入る際に負かされたことも影響している。なにせ紙になられると砂鉄以上に傀儡ではやりにくい相手だ。三代目風影は本体が砂になって崩れないという意味ではやりやすい相手だった。
 ワカはすぐにサソリのそばに寄ると隣にしゃがみ込んだ。
「……確かに乾燥しているな。下手な保湿剤よりもこっちの方がいい」
 サソリはそう言うと机の上に置いてあった小瓶の一つを手に取った。
「それはなに?」
「植物から抽出した油だ。悪いもんじゃねぇ」
「いいえ、そういうことを聞いているわけではないわ。見間違えじゃなければあなた、それを傀儡に使っていなかった?」
「保湿をするんだ、死んでようが生きてようが変わらん」
「サソリ」
「……なんだ、変わらんだろう」
「サソリ」
「…………」
 サソリは小南の圧に負けて小瓶の中身を手に出したまま眉を寄せた。小南はジッとサソリを見ている。
「ぶっ」
 サソリは結局左手に出した植物のオイル(と本人は呼んでいる)をワカの顔に叩きつけるようにぶちまけたので、ワカは突然のオイルに潰れたような声を出す羽目になった。
「悪いもんじゃねぇよ」
 サソリの言葉は少し言い訳じみていた。畳む

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蛇と蠍

#花紅葉 #ワカ #サソリ
 深い森の中、虫の声も寝静まる丑三つ時でもサソリは外に漏れぬよう灯した灯りの下で指を動かしている。その直ぐ側でワカが寝ていた。
 ふと、ワカがもぞもぞと動いて目を覚ます。サソリはその気配を察してワカの方を向くとどうやら尿意を感じて起き出したようだった。ちょうど行灯の油も切れるころであったため、厠に行くついでに他の部屋に置いてある予備の油を取ってくるのも悪くない。
「さっさと行くぞ」
 ワカは小さく頷くとサソリの服を掴んだまま目をこすった。
 古い家だった。山奥に打ち捨てられていたそれを、傀儡の管理をするのに良しとしてサソリは使っている。暁の他のメンバーは身一つでもなんとでもなるが、サソリはどうしても傀儡を整備する部屋が必要だ。サソリは人が来ない場所にあるうち捨てられた家をアジトとして活用していた。ほとんどの家は雨漏りや隙間風が酷いが、そんな家でも多少修理すればなんとか住める家もある。サソリは隙間風があっても問題ないが傀儡やワカにはあまり良くないので多少の修理はやむを得ないものとして処理していた。
 今サソリとワカ、そしてサソリのパートナーである大蛇丸は山の奥に捨てられた一軒の家に住んでいた。それなりの広さがあり、人がいなくなってさほど時間もたっていないらしい。幸いにしてさほど手を入れなくても十分に活用できたこと、大蛇丸も大抵のサソリのアジトに文句をつけたがここならと妥協したことから今はここを使っていた。暁はツーマンセルでの行動が義務付けられている。本当はこの男と生活は嫌だったサソリだが、リーダーがそこだけは譲らなかったので一番離れた部屋同士を選ぶことで妥協した。
 夜半、ワカをトイレにやって自分は台所の何処かに元々残されたままになっていた行灯の油を探す。窓からわずかに差し込む月明かりだけでは暗すぎる。サソリの眼球は任意で虹彩を調整できるが人間の目ではそもそも限界だった。ふと脇から灯りが差し込んで「助かっ」と言いかけたところでそれが大蛇丸だと気づいてサソリは嫌な顔をした。
「あら、お礼ぐらい最後まで言えばいいのに」
「……さっさと貸せ」
「断る、と言ったら?」
 大蛇丸は笑っていた。夜の闇の中で白い肌が浮き上がる。
「ありがとうございます、大蛇丸様」
 睨み合う蛇と蠍の合間に入り込んで小さな声でお礼を言ったのはワカだった。ワカは「ん」と小さな手を差し出した大蛇丸から灯りを受け取ろうとする。
 大蛇丸もさすがに幼子が求めているものを無視するほど大人気なくはない。欲しければ礼を言えと暗に言ったのは大蛇丸であったこともあり、ワカに灯りを手渡す。ワカはそのまま「サソリ様」と言って灯りを差し出した。
 サソリは不機嫌な顔のままワカの頭をくしゃくしゃに撫でてから灯りを受け取って棚の下をもう一度覗き込んだ。
「あなたにはもったいないほどの良い子じゃない。そういえば素顔を初めて見たけどどこで拾ったのかしら」
「……」
 サソリは一切答えない。
「名前は?」
「ワカ」
「応えるな」
 ワカが答える方が早かった。ワカは素直だ。加えてこの時サソリはワカにフードを被ってないときでも大蛇丸と口を利くなとは命令していなかった。
 ワカはサソリの言葉にバッと口を片手で押さえる。それからサソリの服を掴む。
「ワカ、ね。良い名前ね、ワカ」
 ワカは頷いた。口は閉じたままだが少し嬉しそうだった。
「ワカ、アナタ私の部下になる気はないかしら」
 空気がチリチリと突き刺すように肌を刺激する。わずかな音ですら全て消え去ったように静まる。
「大蛇丸」
 地に響くようなサソリの声。大蛇丸はその変化に口の中でくつくつと笑うのだった。
「次は殺してやる」
「あなたにできるかしら」
 さすがにこれ以上の刺激はリスクを感じたのか、大蛇丸は「それじゃあね、ワカ」とだけいうとその場を辞す。サソリはしばらく同じ姿勢のまま大蛇丸の気配を探っていたが、大蛇丸が完全に去ったと感じるとワカの手をとってさっさと部屋に戻る。
 足音も荒く、サソリにしては珍しい反応だ。ワカはおろおろとサソリの後ろを動き回っていたが、低い声で「寝ろ」とだけ言われたのでワカは慌てて布団の中に潜り込んだ。
「大蛇丸とは口を利くな」
 それがサソリの命令だった。ワカはそれ以降大蛇丸と言葉を交わしたことはない。
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SS

幻術

#サソリ #デイダラ #花紅葉

サソリって自分自身も操っているわけだから、もしやチャクラコントロールがうますぎて簡単な幻術だと引っかかることすらないんじゃないかという話と、デイダラはなんで左目を隠していて左目のあの機械はなんなんだという話をまとめて書いた話。デイダラの左目についてなど、なんもわからん!!!!ので、まぁそういう風に書いたんだなと思ってください。

 デイダラにとっての血継限界と、そこへの強い執着についてはまたいずれ語るとしよう。
 デイダラは血によって受け継がれる血継限界をひどく嫌悪していた。だからこそうちはイタチの写輪眼に美しさひいては芸術性を見出したのはデイダラ自身が許しがたいことだったのである。加えてデイダラは幻術の類がさほど得意ではなかった。それがイタチよりも劣ると言われているようでさらに腹立たしいことこの上ない。
 暁に入ることになり、デイダラはサソリとなかなか顔を見せないサソリの部下と行動を共にしている。
 情報収集ばかりであるのは面倒だが、まぁ仕方あるまい。時折戦うときには存分に爆破させることもできる上に、サソリの傀儡を見るのもなかなか楽しいものだった。
 
 霧深い森の中でのことだった。
 とある術に関して情報収集をしてこいとの命令を受けてデイダラとサソリ、その部下は今霧隠れにほど近い村を訪れようとしていた。
 陰気な雰囲気の森が三人を迎え、足場があまりにも悪いことからサソリはヒルコから出て動いている。ヒルコは防御に特化しているものの、重いためにこういった足場が悪い場所ではとにもかくにも動きにくい。そんなわけでサソリは珍しい本体で活動している。
 森の中は足を踏み入れたときから霧が薄く漂っていたが、時間が立つに連れさらに深く、視界は白くなっていく。ともすれば人の胴体と同じ太さほどの黒黒とした木を相方と勘違いしそうになるほどだ。前方を歩くサソリとその部下の姿を見失わぬようデイダラは歩を進めるが、いくら歩けども森は深い。
「旦那、いつまで歩くんだ? うん」

 サソリは霧深い森の中に入ってすぐにこれが幻術の類であることに気がついた。視界を泳がすたびに、視覚を受信するチャクラがサソリの意図しない形でサソリの中のチャクラを乱そうとしているのがはっきりとわかる。
 サソリは普段以上に自分の体をコントロールするチャクラを増やし、己の感覚をより鋭敏に保ちながら霧の中を進んでいった。
 通常の幻術破りであっても同じように自らのチャクラを増幅させ体内のチャクラを乱すことで幻術から脱する方法は使われている。しかしサソリのようにチャクラの乱れを鋭敏にかぎ取って完全にチャクラの流れをコントロールすることは常人にはできないだろう。これはサソリが人傀儡であり、自らの体を完全にコントロール下に置いているからこそできる芸当である。明らかに精神的に負担をかける非現実的な幻術であれば、幻術と気づけるが、今回のように惑わせることが目的の場合、幻術と即座に気づくことは困難を極めた。もちろん、イタチのようなスペシャリストは別だ。

 デイダラはずいぶんと長い間霧の中をさまよっていたように思う。ずっとサソリの姿を追っているが、サソリは一定の間隔で歩いて行ってしまいいつまでたっても追いつくことができなかった。もとより待つことも待たせることもしない男であることは知っているが、追いかければ遠ざかるその感覚にこれが幻術の類だと気づくとようやっとデイダラはその場に立ち止まる。
 デイダラはもともと幻術が苦手である。幻術をかけるのは勿論、解除するのも正直なところあまり得意ではなかった。そこらの中忍よりははるかに幻術を解除するのも早いが、イタチのような……ここまで考えてやめた。イタチのことを考えるのは癪だった。
 デイダラはわずかに唇の端を噛む。流れる血と痛みが自身の体を知覚させ、口の中ににじむ血の味でさらに感覚が内側へと研ぎ澄まされていく。そのまましばし立ち止まっていれば、やがて霧は晴れて森の空き地にたどり着いた。サソリとその部下が、空き地の一画に腰を掛けて待っている。
「おせぇ」
「うるせぇ」
 サソリの言葉を一蹴する。またしてもこんなにあっさりと幻術にしてやられたと思えばこの上なく気分は不愉快だ。しかしそれ以上に、サソリがこうして座り込んで待つほど彼は素早く幻術から脱したことがやけに気になる。
「なぁ」
「うるせぇ」
 今度はサソリがデイダラの言葉を一蹴しようとしたが、デイダラはそれを無視して言葉を続けた。サソリは口は悪いのだが、存外人の話をよく聞いている。いや、聞かないときもあるのだが、こっちが勝手にしゃべっていると意外と話をきちんと記憶しているのだ。サソリと話すコツは定期的に挟まれる罵詈雑言と飛んでくるクナイあるいは千本を「そうなんだね!」程度の相槌だと思うことである。
「旦那はいつ幻術だって気づいたんだ? うん」
「ああ? んなもん霧に足を踏み入れてすぐだ」
「どうやって気づいたんだよ」
「……オレは人傀儡だぞ。オレのチャクラの流れはオレが一番よくわかってる。幻術が入り込んでくれば乱れる、それを元に戻す、それだけだ」
「なぁ、それって」
「うるせぇいい加減口を閉じやがれ。縫い付けるぞ」
 あいにくとこれは相槌ではない。デイダラは相当にサソリを待たせたらしくサソリはすこぶる機嫌が悪かった。サソリの罵詈雑言という名の相槌も、サソリの機嫌を見極めなければ本当にシャレにならないことをデイダラはすでに身をもって体験していたので、今回はそれ以上の追及を控えた。代わりにフードをかぶったサソリの部下に話しかけてみる。
「なぁ、お前も旦那が言ったことができるのか? うん?」
 フードはしばしデイダラを見上げていたが、小さく頷いてからすぐに前を向いてしまった。

 任務から戻って数日後、デイダラはサソリの部屋を訪れた。傀儡が天井からぶら下がる陰気な部屋で、可能な限り足を踏み入れたくない。それにいつもであればデイダラはあまり人に教えを請うようなことはしたくないのだが、サソリ相手は少しばかり別だった。
 デイダラにとってのプライドとは芸術である。己の爆発、すなわち儚く砕け散ることそのものに美しさを覚えることがデイダラにとっての芸術だ。大半の人間はこれを愚弄し見向きもしない。デイダラはそれがひどく癪に障り、そういった人間の言葉を聞き入れようともしない。ゆえに、彼はプライドが高いと言われている。本人もそう思っている。
 しかし実際のところ彼は存外素直な男だ。サソリのように罵倒しながらも、芸術家というものそのものにはある程度敬意を示すような相手を前にすると、デイダラは文句を言いながらも言葉を聞き入れるのだった。要するにデイダラはサソリのことを認めている。そして彼が年長者であり、忍としての経験が豊富であることもよく理解していた。だからこそデイダラはサソリに対しては意外と素直に教えを請うところがある。これがイタチだったら絶対にありえない光景だ。

「なぁ旦那。砂隠れでは幻術に対する訓練ってのはどうやってたんだ、うん」
 日の光による損傷を防ぐため、サソリの部屋は薄暗い。窓には目張りがしており、部屋の中にはいくつかの行灯が置かれているのみだった。壁に向かって置かれた広い作業テーブルに向ってサソリは座っている。入り口には背を向ける形だった。その少し後ろにフードの部下が座っていた。デイダラが来る前はフードを外していたようだが、デイダラがノックの直後に襖を開いたときにはフードを整えていたので、少しばかり癪である。今回はそれは置いておこう。
 デイダラはサソリの部屋に上がりこむと、傀儡を押しのけて勝手にサソリの後ろに陣取って座っていた。この間の任務の直後はサソリの機嫌がすこぶる悪かったので、一通り部下に話しかけていたのだが部下の方はうんともすんとも言わないので結局デイダラは諦めたのだった。サソリはしばらく傀儡造りに没頭していれば機嫌が直るので、時機を見計らってこうして部屋を訪れたわけである。
「旦那の幻術破りは少し特殊だろ。一般的にはどうしてんだ」
「本当にうるせぇやつだなてめぇは」
 この返事をするときのサソリの機嫌はそこまで悪くない。今ならいけるなとデイダラは思った。
「岩隠れでは教わらなかったのか?」
「教わりはしたけど大したことはやってねぇ。特に岩隠れにはあんまり幻術に特化した奴はいねぇからな、うん。木の葉と散々やりあってた砂なら写輪眼対策も含めてなんかあんだろ、うん」
 サソリは大きくため息をついてから「あるにはある」と言った。
「一般に幻術を破るには自身のチャクラのコントロール権を取り戻す必要がある。わかるな。だが普通は優れた忍びであっても体の細部に流れるチャクラの流れを感覚としてつかんでいるわけじゃねぇ。これを体に強制的に覚えさせる」
「どうやって?」
「多く使われるのは目視だな。特殊な装置で自身の経絡系を目の前で投影し続け、最終的には網膜に焼き付ける。目に見えるってのは不思議なもんでな、その通りにチャクラの流れをイメージすることで幻術を解きやすくなる。常にそのイメージがあれば幻術にはかからねぇ」
「便利だな、うん」
「問題もある。最終的に網膜に焼き付けるから、視覚がほぼ使えなくなる。光やぼんやりとした形は残るようだが、物がはっきり見えねぇそうだ。砂隠れでも大して使っちゃいねぇ。もともと弱視であったりする目を活用することはあるが、あまり勧められはしねぇよ」
「それならオイラにはぴったりだな、うん。オイラ左目があんまりよくねぇ。極端に視力に差があるせいで両目を使うと頭が痛くなるんだ、うん。それならいっそ片目はその方法で幻術対策にした方がいいな」
「……そうか」
 サソリは少しだけ驚いた様子だった。
「なんだよ」
「そうは見えなかった」
 意外なほどに素直なサソリの本音だった。デイダラはいぶかしむ。サソリが素直であるはずがないと疑り深く見つめているうちにサソリは話し終わったことから傀儡に向き合ってしまう。それでもなおサソリの言葉をいぶかしんで考えてから、「もしや褒められたのか?」と気づくころには傀儡を使って部屋を追い出された。肝心の装置のことを聞くのを忘れていた。

 それから数日間サソリの部屋を訪れては装置のことについてしつこく聞き倒した結果、サソリがついに根負けして自分で設計図を探して来いと書庫の鍵を放り投げたのだった。口寄せによって現れるサソリの集めた書物の積み重なる書庫から望みの物を見つけるのに相当に苦労したが、結果としては労力に見合うものが手に入ったと思う。
 特に今は少しばかり技術が進歩していることもデイダラにとっては僥倖であった。自身のチャクラを投影し続けるだけでなく、範囲をある程度絞れば相手のチャクラを感知できる。さすがに感知タイプほど優秀ではないが、元からあまり良い働きをしていなかった左目がまともに活用できることを考えれば十分すぎるほどだ。

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イタチと鬼鮫とサソリ
#花紅葉 #サソリ #イタチ #鬼鮫
サソリは巫蟲の情報を得るためにイタチと鬼鮫に近づいた。ワカの医療忍術を介してイタチの病の緩和を試みると同時にその見返りとして木の葉の持つ巫蟲の情報を引き出そうとした……というところから。
この少し前の話でイタチと鬼鮫は初めてヒルコがサソリの本体でないことを知るって感じです。サソリの本体ががきんちょだったって知った時のみんなの反応みたーい。

 結局イタチは巫蟲についての新しい情報をサソリに提供することはなかった。木の葉のうちは一族ならと少しばかり期待してはいたものの、それでも予想の範囲内なのでサソリもさほど落胆することはない。
「デイダラとワカが帰るまで待たせてもらうぞ。薬の調合方法はワカがまとめたはずだ。だがこの素材では腎臓と肝臓への負担が高いことは覚えておけ。乱用はするな」
「どの道長くはない身だ。多少は問題ない」
「それは結構」
 広い土間代わりの石畳敷の床の上、土足のままで活動するスペースが広いのはこの宿場が忍の利用が多いからだろう。
 サソリは椅子に座ってワカの記した巻物の文字を追い、イタチは布団の上で上半身だけを起こしていた。鬼鮫は土足の間と寝具を敷くスペースのはざまに腰を掛けている。
「しかしまぁ」
 ふと口を開いたのは鬼鮫であった。
「あの赤砂のサソリがこんな若い見た目をしていたとは……あなたおいくつでしたっけ」
「てめぇよりは年上だな」
「おや、……おや?」
「三十五だ」
 サソリは机の上に広げた巻物の文字を追いながら答える。
「全くそうは見えませんねぇ……若作りですか」
「ちげぇ。気になるなら探ってみろ。忍だろう」
 サソリはようやっと顔を上げて鬼鮫の顔を見るとにやりと口の端を上げて笑って見せた。
 鬼鮫は今日初めて、サソリだと思っていたものが装甲傀儡であり、この赤髪の子供がサソリの本体だと知ったばかりである。はじめは人形のような子供だと思ったが、こうしてみると存外表情は多彩だった。だが、鬼鮫の中でどこか違和感が残る表情だった。
「そうですねぇ……イタチさんはどう思います」
 イタチは鬼鮫に問いかけられて、少しむせこむ。昨日からひどく気道が狭まるようでイタチは頻繁に咳をしている。
 しばらくしてからイタチは顔を上げて、サソリを見ていた。サソリはイタチの視線に対し挑むような視線をさらに投げかけた応酬が続くが、やがてイタチは少し笑うと「あなたは、傀儡だろう」と言った。
「傀儡? どういうことですイタチさん」
「生きている人間のチャクラの流れはそうも胸の一か所に集中しないものだ。全身が均一なチャクラの糸に支えられているような……生きている人間にしては不自然……しかし何度か見たあなたの傀儡はあなたと同じチャクラの流れをしていた。肌も、目もよくできているが少し違和感がある。あなたはそもそも人なのか?」
 その時のサソリの表情は隠れ場所がばれたいたずらっ子のようであった。驚いたように少し目を見開いてから、口の端を上げて笑う。
「写輪眼とはそこまでわかるか。便利なものだ」
「白眼ほどではないが、おおまかであれば」
「生きてる人間のチャクラの流れか……それはさすがに再現したことがねぇな。まぁそれを看破できるうちは一族とはそう簡単にお目にかかるとも思えねぇが」
「ふっ」
 イタチは何かを思うように遠い目をして笑う。
「あなた、本当に傀儡なんです?」
 鬼鮫はワンテンポ遅れて会話に乗る。サソリはそんな鬼鮫の反応を笑うと「そうだ」とだけ言った。
「オレは人傀儡だ。オレもオレ自身のコレクションにすぎん」
「自分で、自分を解剖したってことです?」
「そうだな。この見た目は十五の時のものだな。人傀儡である以上成長はしねぇ、まぁ死ぬこともねぇ。どうだ鬼鮫、てめぇもオレのコレクションの一つになるか?」
「いやぁ……残念ですが断りますよ」畳む

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2024年12月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

SS

泡沫夢幻

#カンクロウ

「サソリさん!」
 砂が家々の合間を飛び遊ぶ、今にも砂嵐がやってくるようだ。里は岩棚に囲まれたところにあるので強風が吹き荒れることはないが、それでももう目に飛び込む砂が痛かった。
「三代目から急ぎじゃん!」
 今にも扉を閉めようとした茶色い瞳が心底嫌そうな顔をして自分を砂嵐の中に締め出そうとしたので慌てて扉の隙間から身を滑り込ませる。しんと静まり返った家の中で、サソリが小さな明かりをつけた。カンクロウは三代目から預かった巻物をサソリに渡した。
「里に帰ったばかりだぞ」
 サソリは実に不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「今傀儡師は造形も操演も人手不足じゃん、三代目もサソリさんが教師になってくれたらって」
「傀儡を造る時間がねェだろうが」
 サソリは目の下のクマを少しこすった。三日ぶりにサソリの部屋に入ったがまた一体傀儡が増えてる。これだけの任務の中でどうやって傀儡を造る時間を捻出しているのか不思議でしょうがない。
 サソリはカンクロウよりも背が高かった。幼げな顔は相変わらずだが数年前よりは幾分老けている。いや、十五のときそのままだ? いや? 老けている? 砂嵐が家の中に突如吹き込んで視界がぼやけて消えた。

 暗転

 カンクロウはサソリとともに森の中にいた。
 袖の長い指先を隠す傀儡師独特の服装はチヨバア様が考案したものだった。勘のいい連中は傀儡師の指先を見て傀儡の動きを先読みするので、今はとにかく指先の動きを隠すような服が主流だ。
「次は陽動だな。木の葉の連中がこの谷を通る。傀儡は十二、オレが十、お前が二だ。いけるな?」
「いや、オレは三だ、サソリさん。この間チヨバア様から三体まで戦場で使って良いって言われたじゃん」
「そうか、よくやった。なら遅れをとるなよ、始めてだからといって甘えは許さねぇぞ」
 始めてサソリに褒められた! その高揚感は今でも忘れることはない。だが油断しないようにしなければ、情報によれば木の葉の中にはあのうちは……うちは誰だったろうか。写輪眼? そう写輪眼の、サスケ、ではない、あれは誰だ? 目をこする、サソリがいない、ここはどこだ。

 暗転

「傀儡は仕込みが命だ」
 サソリは淡々と机に向かってそう言った。
 サソリの目の前にある作業机にはまだ組み上がっていないパーツが山のように積み上がっているのだが、サソリにはどうやらそれがすでに完成した傀儡に見えているらしい。
 カンクロウは先日ついにサソリの工房で共に作業をすることを許されたばかりだ。とはいえまだサソリの傀儡を修理させてもらう、なんてことはない。まずはパーツの削り出しから、組み上げまで手順を見て覚える。サソリは寡黙で合理的であったから喋らない時は一言も喋らなかった。喋る時は最低限の言葉しか話さない。カンクロウは必死にサソリの言葉を聞き取った。
「パーツを見て傀儡を見ろ。一つの歪みは傀儡全体の仕込みの歪みだ。空隙を残し、全ての仕込みを完全に動作させる、まずは造るべき傀儡のパーツを正確に作れ」
 サソリがこちらを見る。両親を失ってから虚無を映すようになったサソリの瞳にロウソクの明かりがきらめいていた。
「サソリ」
 サソリの母上がやってきた。
「カンクロウくんもこんにちは、そろそろ休憩にしましょう」
 サソリの両親は死んだのか? 死んでないのか? ではサソリが作っているこの傀儡は誰だ?

 暗転

「夢……か……」
 カンクロウがふと目を覚ますとそこはサソリのいない世界であった。サソリから託された傀儡について考えながらついうたた寝をしたからか、妙な夢を見た。
 サソリが里を抜けることなく自分を弟子にする夢だ。少なくともサソリは里にとって重大な罪人であるから彼を嫌う人も多い。彼の弟子になりたいというと少しばかり嫌な顔をされることもあるから、里の中では絶対に口には出せない。
 しかし里の傀儡師が集まると時折サソリの話になる。あの人が里にいてくれたら、そんな会話は頻繁に話題にのぼるのだった。彼が残した傀儡とその技術はあまりにも優れたるもので、今でも彼の技術を超えるものはいない。
 あの人が里にいてくれたら、やはり自分は技術のなさと天才の前に涙を流すのかもしれない。けれど、その膝下で言いようもない高揚を得たことは確かなことだろうと思う。あの人の下で傀儡を学ぶ日が来なかったこの未来が、世界が、少しだけ恨めしい。それはきっと傀儡師にしかわからない悔恨だった。畳む

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SS

狂気とは

#カンクロウ

 忍連合軍が結成されるほどの大決戦となった第四次忍界大戦が終結してから十年の月日が経つと、生活は様変わりした。
 そんな中、カンクロウは一つの傀儡を前にじっと思考を繰り返していた。広い作業台に寝かされた一体の傀儡はかつて天才造形師と謳われたサソリの作ったソレである。サソリの死後、回収されたいくつかはまだ使える状態であったために、砂隠れの里の傀儡師が回収したのだ。
 傀儡の劣化を防ぐために傀儡工房は大抵窓のない部屋だ。暗く、陰気な部屋の中でカンクロウは小さな明かりを頼りに傀儡の仕込みを観察していく。
 傀儡とは造形と操演の二種の演目から成り立つと言っても過言ではないだろう。操り手がいても造り手がいなければ無意味な術だ。傀儡とは金と時間と人手がかかる術なのである。しかして、大抵の操演者はたった一体の傀儡を操るのに人生を費やすこととなる。一人の人間が一体の傀儡、なかなか割に合わない計算だ。それでも人材の乏しい砂の国ではこの傀儡が潜入操作に役に立った。仮に捕まったところで物言わぬ傀儡はなんの役にも立たないからだ。
 実のところ操演者はそれなりの数がいる。訓練は難しいがそれでも一体操るのであればなんとか人は揃えられる。問題は造形師だった。
 傀儡を造るには熟練の技が必要だ。全身が淀みなく動き、そこに仕込まれた忍具の数が傀儡の性能を決めていく。忍具が必要に応じて、あるいは操演者の望むがままに放たれていく。時には潜入のために陽の光の下ですら傀儡か人間かわからないほどの質を、時には戦闘に特化した仕込みの数を求められる。これらが激しい動きの中でもなお壊れることなく機能することまでを考えると、途方もない技術であることがわかるだろう。
 カンクロウは操演者としての道を選んでいた。しかしサソリに傀儡を託されてから考えが代わり、今は造形師も片手間にやっている。十年の月日を経て今は一体の傀儡を造るレベルに至ったが、その全てはカンクロウが望むそれとはまるで異なるものだった。長らく愛用していたサソリの傀儡はカンクロウが望むままに自由自在に動いた。修理をし仕込みを自らの手で仕込み直すごとに傀儡は己の体と一体になっていくような、そんな錯覚すら覚えたほどである。
 しかし己の造る傀儡はどうだろうか。確かに見た目も仕込みも十分だ。だがふとした時に関節が軋み、違和感を覚える。カンクロウはこの分野において十分な才があったのだろう、仕込みが壊れて動く頻度は少なかった。それでも時折壊れるのだ。千本が全て思ったように発射できなかった時に自分の造形がいかに甘いかを思い知らされた。サソリの傀儡を使っている時にこの違和感は一度たりとて感じなかったのだから。
 何度サソリの傀儡をバラして組み立て直してもそこに至る解は見出せず、加えてサソリの傀儡の耐久年数の問題もある。サソリから託された父と母は今や各パーツに限界がきており、新たに組み直さなければならなかった。
 だが、それができないのだ。
 母の腕を開いてわかる、そこに使われた部品の精緻なこと。
 父の腹を開いてわかる、必要十分な空洞とそこに埋め込むに足る部品の精巧なこと。
「……これを……十に満たねぇ子供が造ったのかよ……」
 カンクロウは思わず呻いたきり言葉を発せなくなった。
 各部品は恐ろしいことに全て手作りだった。歯車は手で切り出されたのに歪みもなく、歪みを見つけたと思ったとき、それが意図的であると思い知らされるこの絶望にも似た感覚をどう表現したらいいのか。
 サソリの傀儡はまさに狂気だった。一寸の狂いも見逃さぬ目、それを頭の中で構築するだけの頭脳、指先は狂いなく部品を削り、傀儡に収まる。彼は里にいくつかの設計図を残している。だが今基準とされているような詳細な書き物ではない。恐ろしいことに今からするとそれはほとんどメモ書きのような状態なのだ。彼の技術は彼の頭の中にのみ残っているのである。
 今はただ、狂気の宿る傀儡がカンクロウの前でもう一度起き上がるのを待っている。これから先自分はこの傀儡を本当に修理することができるのだろうかと悩むほどに、カンクロウは今やこの傀儡が空恐ろしかった。

 時折夢を見た。あの人が生きて傀儡の術を教えてくれる夢だった。
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連載先取り

花紅葉 情報収集5

 C2ドラゴンがさらに楼の最上階を破壊し飛び出す。サソリはとっさに殺意が向けられているのを察し、己も楼の屋根に上った。戦場において上を取られることは不利だ。サソリはそれをよく知っている。デイダラと戦うならば必然的にサソリは常に不利に敷かれるが、それでも爆弾を使う相手に建物の合間に居座れば崩落にも巻き込まれない。
 サソリは即座に三代目風影を口寄せし、砂鉄を出した。C2ドラゴンはすでに爆弾の生成を終えている。重ねて吐き出される誘導弾が恐ろしい速度でサソリに迫る。あれは、相当な速度か時空間移動忍術がなければ回避で力を浪費するだけだ。サソリは砂鉄でそれを防いだ。薄い砂鉄の壁では砂鉄が破裂して大きく周囲に飛び散るほどの威力だ。直撃を食らえば傀儡は粉々になる。
 常に砂鉄を周囲に散らして、その砂鉄の移動を磁場で感知する。
 C2ドラゴンは作るのに時間がかかるが、その一方、一度作れれば術者は常に制空権を持ち、手で練るよりも早く高威力の爆弾を、高速で発射できる利点がある。ドラゴンの尾が尽きるまでという制限はあるものの、サソリはあの尾が半分以下になったのを見たことがない。それは尾が半分を切る前に相手を制圧できることを意味している。
「デイダラ! てめぇ何しやがる!」
「うるせェ! オイラを利用しやがったな!」
「な、んの話だ!?」
 サソリは困惑を含んだ声で返すが、デイダラはそのすべてを無視した。あるいは気づけないほど頭に血が上っている。怒りは術の制度を乱すはずだが、恐ろしいことにデイダラは相当怒っているはずだというのに、その観察眼は見事なものだった。
 砂鉄で足場を作りながら爆弾を破壊し、あるいは砂鉄で防ぎデイダラに迫ろうとするものの、一度上空へ上ったデイダラを落とす手段はそうそうない。加えてデイダラはC2ドラゴンによる爆撃でサソリを一方的に攻撃できる。
 サソリは今までここまでデイダラを怒らせたことはなかった。リーダーがデイダラを暁に勧誘すると言い出した時はなぜこんなガキを、とも思ったが、なるほどこの術はあまりにも便利だ。物質にチャクラを練りこむ、ただそれだけだが、デイダラの発想と加わるとこの上ない厄介な武器になる。彼の爆発へのこだわりが明瞭な殺意に乗ると、おぞましいほどの殺りく兵器になる。
 サソリにとってこの楼閣を壊すことは情報収集源を失うことであったので、大技を使いきれないのも不利な点であった。砂鉄界放はあまりにもランダムだ。術者以外を保護するのが非常に難しいため、全員を皆殺しにしてもいい状況じゃなければ使い難い。かといって細かく砂鉄を飛ばしすぎれば防御が薄れ、細かすぎる砂鉄の刃はドラゴンの速度に追いつけない。あれは土遁をベースとした術であるから、雷遁を持つ傀儡にするべきなのだが、サソリの保有する雷遁の傀儡は防御面が薄い。また感知能力も低いためデイダラがまき散らしている細かな爆弾に対して対処が遅くなりやすい。せめてヒルコをまとっていればとも思うが、これもこの状況では難しい。足場が悪いとヒルコはその装甲の重さから安定性を失いやすい。
 要するにこの戦場はサソリが圧倒的に不利だった。砂鉄さえ大きく動かせるのならばいくらでもやりようがあるが、楼閣を傷つけぬ形での防戦を強いられている。
(少し傀儡を変えるか……)
 サソリは防戦を強いられながら、この原因を探る。デイダラとワカ、マツを残してサソリは傀儡の工房へ向かった。サソリがマツに対して命令したのは「デイダラを見定めろ」という点のみである。あれがどの程度ワカに関心があるか、量らせるためにマツを使った。となれば、マツかワカを起点にあれは怒りを発している可能性が高い。
 誘導弾がサソリに迫る。崩壊した楼の屋根の隙間からワカがこちらを見ているのが見える。
 サソリはいくつかの利害の差し引きをとっさに行い、叫んだ。
「ワカ! 盾になれ!」
 ワカはその言葉に反応して逆口寄せでサソリのところへ飛ぶとそのまま誘導弾めがけて飛び出した。そして誘導弾をそのまま体で受けて自らの体で抱き込む。
 その瞬間にデイダラの反応が鈍り、誘導弾は起爆することがなかった。サソリの判断はどうやら正解だったらしい、これはワカを起点にした怒りだ。しかもワカを中心にしたサソリへの怒りである。あれはどうやらワカごとオレを殺したいわけではないようだ、とまで考えながら、三代目の砂鉄はデイダラをとらえた。この辺りの判断と決断が少しばかり甘いところがまだガキだなとサソリは思いながら、砂鉄の檻の中に閉じ込めてしまう。
 崩落した遊郭の中でたいそうな人が騒いでいる。これ以上目立つ前に、とサソリは暁のコートを脱いで壊れた壁の中から建物の中へと身を滑らせた。デイダラも合わせて連れていく。C2ドラゴンは適当なところに投げ落とした。畳む

#デイダラ#ワカ#サソリ#花紅葉

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花紅葉 情報収集4

 マツは迷うことなく屋敷の中を進んでいく。複雑に折り重なる建物は、増築に増築を重ねていることがよく分かった。建物が継ぐごとに新たしい材木となり、継ぎ目は隠されているものの見ればすぐにそれと分かった。要所要所には仕込みばかりの仕掛け屋敷は奥へ行けば行くほど巧妙なそれとなっていき、ついにはデイダラにも見分けがつかなくなっていく。だが、仕掛けがないということもないだろう。
 階段を昇れるだけ昇った先の部屋は、一つの階が丸ごと一部屋になったひどく豪奢な場所であった。どうも、怪しいとデイダラは思う。この部屋はおそらく客室だ。楼主が客と楽しくおしゃべりするだけの部屋ではないだろう。何かあるのだろうか、いやしかしそれならワカは席を外すはずだ。自分に何か用があるか、あるいは罠に仕掛けたいというのであれば。
 広い畳敷きの部屋、続き物の絵が描かれた衝立が部屋を仕切って、三人のいる場所を一つの空間に仕立てていた。ふすまも天井も細やかな装飾があり、この部屋に入るには随分と金が必要だろう。
 すっと感情がフラットになっていくのを感じながらいつも通りの表情で、マツとワカの様子を眺めていた。
 茶と菓子を運んできた女に礼を言う。マツもそうだがあの女も忍だろう。里は分からないが抜け忍だろうと思う。
「さて……と」
 マツは少しばかり高い席に腰掛けて、肘掛けに体重をかけると菓子をつまみながら「岩隠れのデイダラだね」と言った。
「オイラのこと知ってんのか」
「当然だとも。岩隠れ爆破部隊所属、里を抜けてしばらくは爆破テロで名を聞いたが……暁に入ってからは静かになったもんだねぇ」
 お食べよ、とマツはワカとデイダラにも茶を勧めながら言う。ワカは茶と茶菓子に手を付けたがデイダラは触れなかった。
「随分と詳しいな……うん」
「ああ、あたしとサソリの関係が気になるのかい。まぁ話してもいいがね」
 マツはデイダラが警戒していることを察している。加えてデイダラが今この状況の中でサソリやワカの詳細について情報を与えられていないという事実にいら立っていることもわかっているようだった。マツは笑いを含んだ口調で言葉を続けていく。

 「さぁて、ワカ。デイダラはワカのことをどこまで知ってるのかね」
「いえ、おそらく、何も。巫蠱口寄せについて少し」
「ああ、そう」
 デイダラは少しイライラする。どうも自分だけ何も知らないガキのような扱いを受けているようだった。
「まずあたしとワカは同郷さ。それは砂隠れの里という意味じゃあない。とある小さな村の出身でね。里というほどじゃあないがそれなりに傀儡師が集まった場所さ」
「傀儡師……? じゃあ、あんたもワカも旦那と同じ……?」
「厳密には傀儡を造る村さね。傀儡初代操演者、モンザエモンはそれは見事な造形と操演の腕を持っていたそうだが、その弟は操演に関してはからっきし、造形に兄よりも優れたとか。体が弱かった弟は山奥に小屋を建て、良い材を集めて兄の操演を手助けしたという、それがあたしらの始まり」
 マツは目を細めながら、何かを懐かしむように遠くを眺めた。
「長らく里には傀儡を下ろしていてね。傀儡師ってのは基本的に操演者を指すのさ。サソリのように自ら造り、自ら演じるのは珍しい。ああ、チヨも優れていたか」
「チヨバア様はサソリ様の祖母にあたる方です」
 ワカが口を挟む。
「そんなわけでサソリとは昔から縁があってね。だがあたしらの村は木の葉の連中に焼かれたのさ」
「……」
 戦時中の話であれば珍しくもない。
 鍛えられた傀儡師は一人で国一つ滅ぼせる、サソリが実にいい例だろう。先の大戦では砂隠れの傀儡師は猛威をふるい恐れられたと聞く。故に大国であるかを問わず、砂隠れの忍との戦いではいかに傀儡師を殺すか、が各国での戦術に組み込まれたそうだ。
「村は死んだ。ちょうどその頃里を抜けたサソリが助けてくれてね、何人かは生き残ったんだよ。まぁ、サソリはある意味命の恩人かね」
 マツはくつくつと笑う。
「ワカの母親は村一番の美人でねぇ。気立てもよく幼い頃のサソリもよく懐いていたねぇ」
「それは存じませんでした」
 ワカもマツの言葉には少し驚いたようだ。
「……旦那が懐いているってのはあんまり想像できないな……」
「ま、いつも通りのひねくれたクソガキだったけど、少ぉーしだけ優しいのさ。ま、その娘も死んだがね。結局サソリが娘の胎から子供を取り上げることになってワカが生まれたんだよ」
 デイダラもその話は少しだけ聞いている。同時に、サソリのワカに対する態度はやはり過保護なものなのだと察した。
「あたしらは村を離れ散り散りになったが、それぞれサソリを支援する立場にあるんだよ。里はあのときあたしらを見捨てたが、里を抜けたサソリに助けられた身だからね」
「それも理由の一つですがマツばあさまはサソリ様の傀儡の虜なのです。サソリ様含めて傀儡師は傀儡の整備に場所が必要です。マツばあさまはこの楼閣に傀儡の整備部屋をご用意くださって、サソリ様がいつくるかもわからないのにいつも綺麗に……」
「ワカ、これ以上余計なことを言うならその口縫い付けるからね」
「申し訳ありません」
 ワカは澄ました顔をしているが、さて、その口調の端々には「してやったり」といった様子が滲んでいる。デイダラがワカを見るとワカは目元だけをわずかに緩ませた。
 おや、と思う。サソリと同じでまるで表情のない女だと思ってたが、どうやらそんなことはないらしい。知己に会えばこうしてふざけたように言葉を交わし、からかい、声を上げてということはなくとも笑っていたずらの成功を喜ぶようだ。
 妙に面白げのある女ではないか、とデイダラは思った。彼女が単独でもそれなりに実力があるのは知っていた。今までは表情がわからなかったこともあり、いまいち興味がわかなかったが、どうも今のワカが笑って泣いて騒ぐ姿には少しばかり興味がある。サソリに似た傀儡の腕、サソリの傀儡にも使われる毒の調合、澄ましたと思っていたこの女の次の表情はどこにあるのか。
 とはいえ同時にデイダラの中の苛立ちも一つ募った。サソリにもマツにも親しげなワカはなかなかこちらに気を許す様子はない。それなりに長く共にいる気はするがどうもそれだけでは物足りないようだ。
 どうにも、腹立たしい。
 デイダラの不機嫌を察してか、察さずしてかマツとワカは軽快に言葉を交わしていく。サソリとの会話や自分との会話では必要最低限に言葉を留めるのに対し、今のワカはとにもかくにも楽しそうだ。
「それで、巫蟲口寄せってのは一体なんなんだ、うん」
 デイダラは若干の苛立ちを口調に乗せて二人の会話に割って入った。
「ああ、もう新しく作られないんだっけか」
 マツは含むように笑った。
「巫蟲口寄せは砂隠れの里が作った禁術さ、まぁ簡単に言えば人ひとりを丸ごと犠牲にして地獄の毒蟲(どくむし)を口寄せする術さね」
「毒虫……?」
「まぁ形は定まらないね。女の胎に寄生させ、経絡系を口寄せの術そのものに組み替えていくのさ。臓腑が一つ潰れるごとに小さな虫を口寄せできるが……殺せば木の葉隠れ一つ潰せるほどのものを呼び出せる。それは人の望みの形となって表れるからねぇ、砂隠れの里がこの巫蟲口寄せを完成させたときに、それはそれは美しい泉の形になって現れるようになったそうだよ。あそこは水の少ない場所だからね」
「……それのどこか恐ろしいんだ? うん」
「水に触れただけで毒が全身に回って死ぬ。だが、人はその水を前にすると幻術にでも惑わされたかのように飲みたいという欲求にとらわれる。要するにその地に根付いて人を惑わし殺し続けるものを呼び出しちまうのさ。拡大を多少止めることはできるみたいだが、木の葉ですら、巫蟲の者を里内で殺さない以上の対応ができていないとか」
「そういや岩隠れにも……」
 デイダラが思い出したのは、里内では決して里外のものの処刑を行ってはいけないというものであった。拷問も捕虜の管理も基本的に里外で行う。情報や捕虜奪還の可能性を考えた場合に里内にそういった施設を置いた方が管理が楽であるように思うが、万が一捕虜が巫蟲の者であれば里に甚大な被害が出ることを恐れたのだろう。
「巫蟲が死ぬと周囲を食らいつくして平坦な大地を作る。その中央に美しい泉が生まれる。巫蟲の憎しみが収まるほどの人がその水を食らって死ぬまで泉はその場にあり続けるから、禁域に指定するしかない。それが巫蟲口寄せ。砂隠れの生み出した禁術の中でも恐ろしいものさ」
「ワカはその巫蟲口寄せの術式を持ってるのか?」
「はい。母が巫蟲であり、私を産んだ時にそのまま引き継がれました」
「継代する……」
「巫蟲は三十歳まで生きることはできない。強すぎる術だからね。しかし巫蟲が女の子供を産むとその術式を引き継ぐことができる。結果、母親がまだ若いうちであれば術を完全に引き継がせて生き延びる可能性がある。ただ、年を食って女を産んでもすでに臓腑がほとんど死んでしまって出産と共に死ぬともいう」
「じゃあワカはもう長くなく死ぬってことか?」
「察しがいいね、だがまだ足りない」
 マツが動いたのはその瞬間であった。デイダラは警戒していたものの、聞いたことがなかったワカの禁術に関わる話に聞き入ってわずかに反応が遅れる。
 マツのクナイがデイダラの頸動脈を狙って迫る。老婆とは思えぬその身のこなし、デイダラはとっさに回避したが、わずかにクナイは首筋をかすった。さらに飛ばされたクナイを二本避けて、デイダラは壁際でクナイを構えたままマツをにらみつける。
「悪くないじゃないか。出来が悪かったらこのまま殺してやろうと思ったが。さてワカ、手順はこの前教えたね。しっかりおやり」
「マツばあさま!」
 ワカは叫んだがマツはそのまま部屋を出ていった。その時にデイダラは気づいた。これは牢獄だ。中に入れたものを逃さぬための部屋だ。
 それよりも先ほどのクナイに塗られていたであろう何かがデイダラの中を駆け巡っている。心臓が激しく鳴り響き、今にも破裂しそうだった。クナイを持つ手が震えて、思考が一向に定まらない。
「デイダラ様」
「ワカ、近づくな」
「マツばあさまも毒を使います! 早く毒抜きしなければ!」
「今のばばあの言葉を聞いてわかんなかったのか!? うん! こりゃ毒じゃねぇ、あのクソババア、お前を孕ませるためにオレを利用するつもりだ」
 ワカがびくっと動きを止めてその場に立ち止まった。
「サソリもッ……! かんでんのか……!」
「サソリ様は何も……言っては……」
「あのババアの独断じゃあねぇだろ……くそ……」
 体の変化は明瞭だった。熱が集まって思考が定かでなくなっていく。目の前の女が欲しいと体がうずく。
 だがデイダラはそれが気に食わない。他人に踊らされているその感覚はあまりにも不愉快だった。あの女はデイダラをはじめから利用するつもりだったのだ、そのために己の反応を常に量っていた。もしやするとサソリもこれに一枚嚙んでいる。
 震える手で落としたクナイを握る。こんな薬程度にしてやられるとは情けないが、仕方あるまい。デイダラは一呼吸おいてクナイを腹に突き立てた。
「グッ……!」
 痛みで頭に上った血が一気に引いていくようだった。熱はすぐには引かないが、血が流れればやがて冷めていくだろう。わずかに横に動かして傷口を広げるとそこから血があふれ出し、着物を濡らしていく。
 ワカがすぐに駆け寄ってクナイを引き抜き止血を始めたが、デイダラはその手を止めた。白い手がひどくなまめかしく思えるが、痛みがその思考に挟まって冷静さが戻ってくる。もう少し血を抜けば落ち着く、だが死ぬ可能性も高くなる。
「これ以上はだめです!」
 ワカが叫んで止血を始めた。幸いにして思考はずいぶんと冴えており、薬の影響が抜けてはいないものの、痛みが強くそれが現実に引き戻してくれる。ここまでくれば意志一つで体を動かせる。
 デイダラはワカの静止を振り切って立ち上がると起爆粘土を手にした。
 これは牢獄であるが、あくまで薬を使った相手を閉じ込める程度のものである。少なくともデイダラの起爆粘土を防ぎきるほどのものではないはずだ。
「ワカ、下がってろ!」
 デイダラはワカを部屋の片隅に蹴り飛ばしてその上から己の暁のコートをかぶせた。ワカが何か反応するよりも早くワカとは反対側に向かってC2を飛ばす。喝の一声と共に粘土が連続して爆破すると檻は大きくひしゃげた。建物も一部吹き飛んだ。
 轟音が楼閣を揺るがす。デイダラが煙が晴れるのを待って空いた大穴から外を見下ろせば、そこには何事かと表に出てきたサソリの姿もあった。その瞬間にデイダラの堪忍袋の緒が切れた。
「サソリィ!!! 殺してやる!!」
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#ワカ #デイダラ #花紅葉 #サソリ

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花紅葉 情報収集3

 マツは迷うことなく屋敷の中を進んでいく。複雑に折り重なる建物は、増築に増築を重ねていることがよく分かった。建物が継ぐごとに新たしい材木となり、継ぎ目は隠されているものの見ればすぐにそれと分かった。要所要所には仕込みばかりの仕掛け屋敷は奥へ行けば行くほど巧妙なそれとなっていき、ついにはデイダラにも見分けがつかなくなっていく。だが、仕掛けがないということもないだろう。
 階段を昇れるだけ昇った先の部屋は、一つの階が丸ごと一部屋になったひどく豪奢な場所であった。どうも、怪しいとデイダラは思う。この部屋はおそらく客室だ。楼主が客と楽しくおしゃべりするだけの部屋ではないだろう。何かあるのだろうか、いやしかしそれならワカは席を外すはずだ。自分に何か用があるか、あるいは罠に仕掛けたいというのであれば。
 すっと感情がフラットになっていくのを感じながらいつも通りの表情で、マツとワカの様子を眺めていた。
 茶と菓子を運んできた女に礼を言う。マツもそうだがあの女も忍だろう。里は分からないが抜け忍だろうと思う。
「さて……と」
 マツは少しばかり高い席に腰掛けて、肘掛けに体重をかけると菓子をつまみながら「岩隠れのデイダラだね」と言った。
「オイラのこと知ってんのか」
「当然だとも。岩隠れ爆破部隊所属、里を抜けてしばらくは爆破テロで名を聞いたが……暁に入ってからは静かになったもんだねぇ」
 お食べよ、とマツはワカとデイダラにも茶を勧めながら言う。ワカは茶と茶菓子に手を付けたがデイダラは触れなかった。
「随分と詳しいな……うん」
「ああ、あたしとサソリの関係が気になるのかい。まぁ話してもいいがね」
 マツはデイダラが警戒していることを察している。けらけらと笑った。
 広い畳敷きの部屋、続き物の絵が描かれた衝立が部屋を仕切って、三人のいる場所を一つの空間に仕立てていた。ふすまも天井も細やかな装飾があり、この部屋に入るには随分と金が必要だろう。
 「さぁて、ワカ。デイダラはワカのことをどこまで知ってるのかね」
「いえ、おそらく、何も。巫蠱口寄せについて少し」
「ああ、そう」
 デイダラは少しイライラする。どうも自分だけ何も知らないガキのような扱いを受けているようだった。
「まずあたしとワカは同郷さ。それは砂隠れの里という意味じゃあない。とある小さな村の出身でね。里というほどじゃあないがそれなりに傀儡師が集まった場所さ」
「傀儡師……? じゃあ、あんたもワカも旦那と同じ……?」
「厳密には傀儡を造る村さね。傀儡初代操演者、モンザエモンはそれは見事な造形と操演の腕を持っていたそうだが、その弟は操演に関してはからっきし、造形に兄よりも優れたとか。体が弱かった弟は山奥に小屋を建て、良い材を集めて兄の操演を手助けしたという、それがあたしらの始まり」
 マツは目を細めながら、何かを懐かしむように遠くを眺めた。
「長らく里には傀儡を下ろしていてね。傀儡師ってのは基本的に操演者を指すのさ。サソリのように自ら造り、自ら演じるのは珍しい。ああ、チヨも優れていたか」
「チヨバア様はサソリ様の祖母にあたる方です」
 ワカが口を挟む。
「そんなわけでサソリとは昔から縁があってね。だがあたしらの村は木の葉の連中に焼かれたのさ」
「……」
 戦時中の話であれば珍しくもない。
 鍛えられた傀儡師は一人で国一つ滅ぼせる、サソリが実にいい例だろう。先の大戦では砂隠れの傀儡師は猛威をふるい恐れられたと聞く。故に大国であるかを問わず、砂隠れの忍との戦いではいかに傀儡師を殺すか、が各国での戦術に組み込まれたそうだ。
「村は死んだ。ちょうどその頃里を抜けたサソリが助けてくれてね、何人かは生き残ったんだよ。まぁ、サソリはある意味命の恩人かね」
 マツはくつくつと笑う。
「ワカの母親は村一番の美人でねぇ。気立てもよく幼い頃のサソリもよく懐いていたねぇ」
「それは存じませんでした」
 ワカもマツの言葉には少し驚いたようだ。
「……旦那が懐いているってのはあんまり想像できないな……」
「ま、いつも通りのひねくれたクソガキだったけど、少ぉーしだけ優しいのさ。ま、その娘も死んだがね。結局サソリが娘の胎から子供を取り上げることになってワカが生まれたんだよ」
 デイダラもその話は少しだけ聞いている。同時に、サソリのワカに対する態度はやはり過保護なものなのだと察した。
「あたしらは村を離れ散り散りになったが、それぞれサソリを支援する立場にあるんだよ。里はあのときあたしらを見捨てたが、里を抜けたサソリに助けられた身だからね」
「それも理由の一つですがマツばあさまはサソリ様の傀儡の虜なのです。サソリ様含めて傀儡師は傀儡の整備に場所が必要です。マツばあさまはこの楼閣に傀儡の整備部屋をご用意くださって、サソリ様がいつくるかもわからないのにいつも綺麗に……」
「ワカ、これ以上余計なことを言うならその口縫い付けるからね」
「申し訳ありません」
 ワカは澄ました顔をしているが、さて、その口調の端々には「してやったり」といった様子が滲んでいる。デイダラがワカを見るとワカは目元だけをわずかに緩ませた。
 おや、と思う。サソリと同じでまるで表情のない女だと思ってたが、どうやらそんなことはないらしい。知己に会えばこうしてふざけたように言葉を交わし、からかい、声を上げてということはなくとも笑っていたずらの成功を喜ぶようだ。
 妙に面白げのある女ではないか、とデイダラは思った。彼女が単独でもそれなりに実力があるのは知っていた。今までは表情がわからなかったこともあり、いまいち興味がわかなかったが、どうも今のワカが笑って泣いて騒ぐ姿には少しばかり興味がある。サソリに似た傀儡の腕、サソリの傀儡にも使われる毒の調合、澄ましたと思っていたこの女の次の表情はどこにあるのか。
 とはいえ同時にデイダラの中の苛立ちも一つ募った。サソリにもマツにも親しげなワカはなかなかこちらに気を許す様子はない。それなりに長く共にいる気はするがどうもそれだけでは物足りないようだ。
 どうにも、腹立たしい。
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#花紅葉 #ワカ #サソリ #デイダラ

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花紅葉 情報収集2

暁は戦争を請け負う組織として活動している。平和とはいえ、紛争はそこここで繰り広げられており、その度にサソリにもデイダラにも声がかかった。リーダーの言うがままに殺すなり、破壊するなりすることが今のデイダラにとっての仕事である。
 戦争請負の仕事ではないが、世界情勢を把握するための情報収集の任務も頻繁に降りてきた。これは非常につまらない。大抵の場合この任務はサソリに向けて当てられたもので、様々な国に配置している彼の部下を当てにしたものである。デイダラはあまり仕事がなく、サソリがどこかへ行っている間に暇を持て余すのが常だった。サソリはそんなとき大抵ワカを置いていくのだが、ワカは一言も喋らず顔も見せずデイダラについてくるのでなおつまらない。それでもリーダーは基本的に二人一組での行動を強要するのでやっていられなかった。どうもリーダーには単独行動を嫌うなにかがあるようだった。
「デイダラ、出るぞ」
 サソリの言葉にふと我に返る。出るぞと言われてもなんの話も聞いてないので準備はもちろんしていない。
「任務か?」
「早くしろ」
「連絡があったなら教えてくれよな……うん」
 相変わらずのせっかちさと個人主義に呆れながらも、そんなサソリの行動にもいい加減慣れてきた。デイダラはすぐに荷物をまとめて、さて、五分もかかっただろうかというところだが、サソリからは「遅い」と言われる。
 サソリの隣にはワカも立っている。いつもの面簾、フード姿だ。面簾にはサソリが傀儡につけるマークが刻まれており、いかにもサソリの所有物らしい出で立ちである。
「悪かったよ、うん。それで今回は何するんだ?」
「……川の国での情報収集だ。どうもここしばらく小競り合いが多い」
「また情報収集かよ……うん」
「てめぇは忍だろうが」
「オイラは忍以前に芸術家だぜ」
 売り言葉に買い言葉のような意味のない会話を繰り返す。サソリは興が乗るとこうして多少の会話に付き合ってくれるが、機嫌が悪いと何を聞いても完全に無視されるので、そんな道中は心底やってられない。ワカは何を聞いても無反応だ。
「てめぇ、ワカの面の下を見たな」
 唐突にワカの話になったのでデイダラは驚きながらも答える。
「オイラが覗き込んだわけじゃねぇ」
「チッ、おいワカ。勝手に顔を晒すな。気をつけろ」
「はい」
 そのとき初めてワカが喋ったのでデイダラは驚いてワカを見た。
「もう面を見せたならいい。好きに喋れ」
「はい」
「……なぁ旦那、なんでワカは顔を隠してるんだ、うん。別に顔を見せたところでなんてことねぇだろ」
「……前にオレの相方が大蛇丸だったことは知っているな」
 サソリは今日はいつにもまして機嫌がいいようだ。今日の彼は饒舌である。
「ワカは巫蠱口寄せを持ってる。大蛇丸はそれを狙っていてな。暁を抜けた今でもそれなりにワカを攫うつもりで部下をけしかけてきやがる」
「へぇ」
「面簾とフードには拠点にかけてある術と同じ術がかけてある。多少の目眩ましにしかならないが、アレの下っ端程度なら誤魔化しは効く」
「ん? じゃあ禁術がどうのこうのってのは本当なのか? うん?」
「今ここで説明するつもりはねぇが、事実だ」
 巫蠱口寄せの術、デイダラも聞いたことはあるがあまり詳細を知らない。ただその術を持っているものは殺してはいけないとか、なんとか。あとで調べておこうと思いながらワカを見るとワカも面簾越しにこちらを見ているように思えた。
「お前、忍者なのか?」
「はい、一応一通りは学んでおります」
 ワカは静かに答えた。淡々としたその口調はサソリ以上に感情が読みづらい。面簾の下に表情が隠れてしまっていることも相まって、ますますワカは何を考えているのかわからなかった。
「……ワカは普段なにやってんだ?」
「サソリ様の傀儡作りの手伝い、毒の調合です」
「へぇ。じゃあその背負ってんのは薬箱か」
「はい。忍具も入っておりますが」
 ワカは問えば答え、問わねば答えない。会話というより尋問のような流れを感じつつも、今まで一言も喋らなかったワカの話を聞くのは興味深かった。サソリは時折口を挟んだが基本的には無言である。
 急ぎの任務ではないこともあり、道中は歩きで進んでいく。
 三日ほど歩き通した先で、サソリが少し待っていろと言って姿を消した。数分の後に珍しいことに本体で現れたため、デイダラは心底驚いた。
「……珍しいな旦那。なんで本体なんだ? うん」
「今から行く場所はヒルコでいくと邪魔だとうるせェ」
 サソリはそれだけ言うとさっさと歩き出す。
 ワカも何も言わずにそれに続くので、デイダラも従うように歩き始めた。
 歩きにくい山道はやがて小さな集落へと続く道となり、やがて大きな街道にぶつかる。
 人あるところに色もあり。
 この街道は川の国近辺で最も大きな歓楽街ヘと通じるものだ。川の国の管轄にあるものではなく、寄せ集めの無法地帯である。国は是正を試みてはいるものの、抜け忍が拠点とすることも多く、結果として少しずつ統合された隠れ里としての機能を持ちつつあった。
 老いも若きも、男も女も何かを求めてこの場所を彷徨っている。情報もあれば金も動く。奇妙な輩が頻繁に出入りしていることから暁の装束もさほど目立たず風景の中に溶け込んでいく。
 そこかしこで魔窟の中に人を呼び込む声がする。街中へ入ると三人にも頻繁に声がかかるが、三人共それの一切合切を無視している。この類のものは反応したほうが厄介だ。
 サソリは歓楽街の中でもひときわ大きな遊郭の前で立ち止まると、店の前の娘に声をかける。娘はすぐに店の中に飛び込み、サソリはそのまま店の裏側に回るのだった。
「表からは入らねぇんだな」
「客じゃあねぇからな」
 ワカは相変わらず沈黙したままついてくる。
 派手な色味の建物の合間を縫って路地に入ると、とたんに物寂しい雰囲気が溢れ出した。客から見えないところに金をかけることは不要と言わんばかりの景色の中で働く人々も表の連中と比べると薄汚い。
 サソリの後ろにワカ、その後ろにデイダラが続く。ワカを中央に置けとサソリは必ず言うのでデイダラはそうしている。
(今までは旦那の行動を把握してる部下だからかと思ってたが……ワカを真ん中にするのはただの過保護に思えてきたな……)
 小さな歩幅でサソリについていくワカのフードを見ていると、その思考は正しいもののように思えてくる。考えれば考えるほどサソリは優しい言葉をかけないものの、随分とワカを大切に扱っているようだ。それは何も貴重な医療忍者だからというわけではないらしい。
 細い路地を通って裏道に出ると、木造りの掘っ立て小屋が並んでいる。整備されてない道は水たまりができて歩きにくかったが、誰もがあまり気にすることなくその中を歩いていた。
 一つのドアの前に立つと、ドアは自然と開いて三人を迎え入れる。誰かがひそひそと「あそこの客とは珍しい」と言っている。ここでいう客とは遊女の客ではなく店主への客の意味だろう。

「久しいじゃないか、もっと頻繁に顔を見せればいいのに」
 ドアを開けて迎えたのは派手な姿の老婆であった。年の頃は六十かそこらだろうか、顔の皺は苦労の形を物語っていた。真っ白の髪に質素だが高級そうな簪を一つ、おそらく相当に値が張るものだろう。これを見せれば相手がどの程度の人間か測れるような代物に違いなかった。
「そんなに足を運ぶ時間があるか」
「まったくあんたがあたしとワカの命の恩人じゃなけりゃ殺してやるってのに」
「てめぇじゃ無理だ」
 サソリはつれなく言ってそのままデイダラとワカには何も言わずに奥の部屋に入っていってしまった。
 デイダラが呆気にとられているとワカは背負箱から巻物を一つ取り出して老婆に渡す。
「ワカ、久しいねぇ、サソリに虐められたりしてないかい」
「しておりません、マツばあさまもお元気そうで」
「全くあんな無愛想に付き合う必要もないだろうよ、ここへくればいいのに」
「いえ、大丈夫です」
 ワカは手慣れたようにマツと呼ぶ老婆と話を進めていく。その合間にワカはフードと面廉を外すのだった。
 デイダラは以前話についていけなかった。いきなりサソリに呼び出されるように任務についてはきたものの、詳細については何も聞いてない。挙げ句サソリはどこかへ行き、ワカはここの連中と顔見知りの様子でもある。
「おいワカ、」
「デイダラ様、マツばあさまがお茶をくださるそうです。参りましょう」
「……」
 ワカはそれだけ言うとマツの後ろについて建物へ上がっていく。道を外れると面倒そうなのはそこかしこの仕掛けで見て取れた。ここは遊郭ではあるが同時に籠城のできる仕掛け屋敷でもあるらしい。しばらくは土足のままでいいようで、デイダラもワカに遅れぬよう、建物の中に入っていったのだった。畳む


#花紅葉 #ワカ #デイダラ #サソリ

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連載先取り

花紅葉 情報収集

サソリの娘でデイダラお相手の新規連載予定の話。
#ワカ #デイダラ #花紅葉 #サソリ
 赤砂のサソリという人はとにもかくにも部下の多い人だった。デイダラが見る限り、サソリは何かしらの情報を容易に集めて、あるいは人を動かして処理をしているイメージがある。 
 とはいえ人が好きなわけでもなく、社交性の欠片もない男なので部下というのも金に釣られたものかとも思っていた。ところが縁あってサソリの部下と出会うと、全員とは言わないがサソリへの心酔が見られるので不思議なものである。個人主義を極めたような男がこれだけ、狂信的な部下を持っているのは不思議だったが、優しさではない合理主義に救われる人間はいるのかもしれなかった。
 サソリの部下であるワカもその一人であった。
 ワカは必ずサソリのそばにおり、普段は黒いフードをかぶったまま顔は面簾(めんれん:顔を覆うもの)で覆っていた。フードと面簾の下では、ワカは一言も喋らず、サソリもその名前を呼ぶことがない。ワカはまるでサソリの意図することが全てわかっているとばかりに、サソリの行動に先んじて動くのでそもそも名前を呼んで指示することがない。強いて呼ぶなら「おい」である。
 ワカが医療忍者であることを知ったのは、暁に入って数カ月後の任務でのことであった。ひょんなことで怪我をしたデイダラの腕の傷をワカが治してくれたのがきっかけだった。医療忍者はその習得の難易度から数が少ないため、良い部下を持っていると思った。
 ワカの名前と素顔について初めて知ったのは、小南と会話をしているところを偶然目撃したからだった。小南もペインも基本的には雨隠れの里より出てはこないため直接顔を見ることは少ない。近くまで立ち寄ったという理由で小南がサソリの拠点へ足を運んだ際、ワカは初めてフードと面簾を脱いで小南に駆け寄ったのだ。
 サソリが拠点に使っているのは山奥の古びた屋敷であった。これは幾つもあるサソリの拠点の一つに過ぎない。表は一切手を加えていないこと、結界を張っていることからここには誰も来ない。結界に入ると幻術と気づかぬまま、この山を抜け出ることになる。
 抜けた床板を張り直した一室に小南は小さな音を立てて入ってきた。恐ろしく小さな鈴の音が四度、鳴った。デイダラは二度、サソリは一度、ワカは三度、誰が入ってくるのかがわかる。鈴の音を聞いてサソリは表にすら出てこない。部屋にいたデイダラと顔を合わせ、その後ワカが出てきたのだ。
「ご無沙汰しておりました、小南様」
「久しぶりね、ワカ。あなたデイダラに素顔を見せたことがないのね、彼、素っ頓狂な顔をしてるけど」
「サソリ様が不要であると……」
 ワカは困ったように眉を寄せて小南に答えている。
「何かお出ししましょうか」
「いいえ、構わないわ。すぐに出るから。それじゃあデイダラも、また」
 小南はそれだけ言うとワカの頬を撫でてから出ていった。出ていくときも三度鈴が鳴る。サソリはやはり顔を見せることはない。
 部屋に残されたのはワカとデイダラのみとなった。明かりは提灯のみ、部屋の中は薄暗い。ワカはやはり困ったように眉を寄せているのでデイダラはそれが少し癪に触る。コンビを組んでいるのだから自分にくらい顔を見せてもよかろう。これがサソリへの怒りなのか、ワカへの怒りなのかは判然としなかった。
「その……申し訳ありませんでした。本当は今もサソリ様には禁じられていたのですが」
「なんでだ」
「私は、見る人が見ればわかる禁術を持っているからだと」
 おそらくそれは口実に過ぎない。
「その、今はデイダラ様がいらっしゃるのに気づかなくて、小南様しかいないかと」
「……小南は随分と前から顔見知りみてぇだな、うん」
 自分でも驚くほど不機嫌な声が出た。サソリが個人主義なことも知っているしお互いにそんなに干渉するまいとも思っていたが、どうにも気に食わなかったのだと思う。
「……はい、サソリ様が暁に入られた頃から、私のことを存じております。ペイン様と角都様も」
 その言葉にデイダラは少し驚いた。ワカがいつ暁に入ったのか知らなかったからだ。
「……お前暁に入って長いのか?」
「私はそもそも母の胎からサソリ様に取り上げてもらったと聞いております。それ以来サソリ様と共に」
「……ってことは部下じゃなくて旦那の娘なのか……?」
 先程の不機嫌さが一転して少し驚いた声になる。
「いえ、部下でございます」
「そこまでいったら娘と大差ねーだろ……うん」
 ワカは譲らない、デイダラは呆れたが、なんとなくそれなら角都やリーダーもワカのことを知っているのは当然だろうし、顔も知っているのだなと納得したのだった。自分より暁入りが早いことは知っていたが、まさか生まれてからサソリのそばにいたとは知らなかった。
 黒い長い髪に黒い瞳、白い肌はサソリにも似通うが、顔形はまるで異なる。サソリが取り上げたと言っても実の娘ではないようだ。経緯が気になるがあまり詳細を聞くのも憚られ、そのときはそれ以上聞くことはなかった。畳む

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蒼月

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夢主紹介

フィネフェル
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#フィネフェル
お相手 #原神 #セノ

ストーリー
大マハマトラ・セノの副官であるフィネフェルの出自は謎に包まれている。セノと一緒にキングデシェレトの知恵を司る神官によって育てられたとも言われるし、砂漠の神の生まれ変わりとも好き勝手言われているがどれも違う。
フィネフェルは遠い昔、果ての地にて神を降ろす儀式の生贄となった。あまりにも危険なその神の名は魔神・アンムト。砂漠において死を司る。
フィネフェルは神降ろしの後すぐにヘルマヌビスによって封印された。アンムトは砂漠の地に解き放つわけにはいかなかったのである。
そして千年後、フィネフェルはセノによって封印を解かれた。
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夢主紹介

ハルシャ=エトナ
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#ハルシャ #浅き夢見じ暁の
NARUTO✕HUNTER×HUNTER転生トリップ連載夢主。
サソリの一番弟子であり、サソリの養女でもある。
傀儡の造形と操演に優れ、殺人を厭わない一方、一般的な感覚も持ち合わせておりはたから見るとアンバランスだが、本人の中では明確な線引きがある。

念能力
傀儡師の共演(マリオネットダンス)
サソリと同じ傀儡操演術。
チャクラ(オーラ)を糸状に細く伸ばして人形のオーラに干渉し操作する。
サソリもしくはハルシャ自身が作った人形の場合もっとも操作しやすく、他者の作った人形、死体、生きている人の順番で操作しにくくなる。
この能力の真髄は生前のオーラを留めて作る生人形(いきにんぎょう、人傀儡に同じ。サソリは傀儡と呼ぶが、ハルシャは人形と呼ぶ。実の両親のこだわりでもある。)を操作し、自分とは系統の違う念能力を使えることにある。

空っぽの弾丸(エンプティバレット)
銃弾の代わりにオーラを詰めて発射する。軌道をある程度操作できることで、正直さほどでもないハルシャの腕でもなんとか的に当たる。
あまりメインの武器ではない。

人生
医者の家系の生まれだが、サソリの人形を観た時から両親は人形に魅せられてしまう。
生きた人間を使った人形を作るようになり、当然犯罪者として追われ、逃げるうちに病死。
まだ幼かったハルシャは両親の死を許容できず、両親が常々言っていた「人形とは永遠そのもの」であることを実現しようとし、両親の肉が腐り落ちる度に他人の肉を削いで貼り付けていった。ちくはぐな死体と生活する中、ハルシャはサソリと出会い弟子になる。

口調
挨拶:はぁい、あたしハルシャ。じゃあね~。
怒る:ちょっと、ここあたしの家でしょ!? なんで勝手に上がって勝手に椅子を使ってるわけ!? 今すぐ窓から出ていきなさいよ!

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SS,連載没ネタ

スイカ割り

#ハンターハンター #シャルナーク #浅き夢見じ暁の
過去編出る前の旅団の解釈なので今読むと違和感。

 なぜハルシャがシャルナークら幻影旅団と夏の海にやってくることになったのかについてはシャルナークに仔細を聞く方が早く済むだろう。何せ今回はシャルナークに騙されるような形でハルシャは海にやってきたのだから。
 この海の少し先に海底に沈んだとある遺跡があるという。この遺跡を守るように念が張られすでに何人もの遺跡ハンターが犠牲になりその骨を海に沈めたという。クロロが目をつけたのはこの遺跡の中にある、とある書物であった。念で守られた遺跡の中は水に満たされておらず遺跡が建てられた当初の環境を守り続けているらしい。その書は今は失われた陶芸の技術に関する書だそうだ。別にクロロが陶芸をしたいわけではない。この間盗んだとある陶器にかけられた特殊な念と、その遺跡の中にある陶芸の書が関係があるということで幻影旅団の一部メンバーが今こうして海に来ていた。どうせ調査は夜になるし、その前に海の状態を調べたいという理由でクロロ、シャルナーク、フィンクス、フェイタン、マチ、そしてハルシャは水着で海水浴場に来ている。
「暑いわ」
「暑いね」
「いや二人ともそんな格好してるからでしょ。ハルシャもフェイタンも上着脱ぎなよ」
 シャルナークが見ているだけでも暑そうとばかりに苦言を呈すとハルシャとフェイタンは実に嫌な顔をした。
「そんな薄い格好でどうやって私の刺青を隠すのよ」
「武器を隠せない」
「あれ、ハルシャってそんな刺青あったっけ」
「さぁね」
 ハルシャはぷいと横を向いてアイスを頬張った。フェイタンも同じくアイスをかじっている。
 ビーチパラソルの下で長そでの上着を着ている二人は汗がだらだらと出ているがそれでも上着は脱ぎたくないというのだから、これはもう仕方ないかとシャルナークは二人を無視して太陽の下に躍り出た。ちなみにクロロは長そでこそ来ていないが海に出るつもりはないらしくハルシャとフェイタンと共にビーチパラソルの下で本を読んでいた。
 まさに海水浴にぴったりの天気と言えよう。多くの人が波と海水の冷たさに騒いでいる。色とりどりの水着が砂浜を踊っている。しかしやはりマチやフィンクスの体型は見事なものだ。すでに何人もの男女に声をかけられその度に全て辛辣な言葉でマチは断っていた。本当はイヴァンも呼んだのだ。しかしイヴァンは今、学会発表か何かで国外出張らしい。マチの水着を見れないイヴァンは写真をくれと電話の向こうで泣いていたが、あいにくとそれはシャルナークにとっても命がけなのでとりあえず五千万で手を打ったのだった。
 シャルナークはビーチパラソルの下から出て海に足を漬ける。連日の暑さで海水温もそこそこに上がっており極端な冷たさは感じなかった。しかし暑さで火照った体から熱が抜けていくのは感じられた。
「それで」
「ん?」
「どこに沈んでんの?」
「割とすぐこの下だよ。ここはちょっと特殊な地形なんだ。しばらく大陸棚が続いているように見えるけどその下に洞窟がある。昔波によって削られた地形がそのまま地盤沈下して砂が降り積もったような感じかな。ほら、あの注意書きによるとあんまり遠くまでは海水浴場として開放されていないんだ。あそこから先は地面があるように見えて穴だらけでさ。水面から十メートルぐらいは平気だけどさらに下に行くと水流に飲み込まれて水中洞窟にどぼんだよ。普通は死ぬね」
「結構危険なところじゃん」
「まぁあそこをこえなければ安全は確保されてるってこと。それに最近は念能力者が関わって一般人はあのラインを越えられないようにしてるとか。だからハルシャを連れて来たんだろ」
「なるほどね」
 マチはそう言うとドボンと海の中に体を滑りこませた。シャルナークもシュノーケリングの道具をさっとつけて潜る。人が多い場所は砂が舞い上がって視界が悪かったが少し沖へ進めばすぐにクリアな視界になった。海水浴場として設定されている安全なラインはすぐに訪れ、凝をしてみればなるほどそこには壁のような特殊な何かが存在していた。シャルナークは水面に顔を出す。マチとフィンクスも同じように顔を出した。
「どう?」
「完璧じゃなさそう。でも破壊したらわかるだろうから抜け道を見つけるのが一番だろうね」
「フィンクスに割ってもらうのは最終手段か。じゃマチはそっち、フィンクスは水の中、俺はこっち調べるからよろしく」
 二人が頷いたのを確認してシャルナークはいかにもこの先に興味がありますとばかりに安全な海水浴場の範囲を示すロープと浮きに触れながら泳いでいく。この念は壁のようなものを作るらしい。一般人には確かに通り抜けることはできないだろう。しかし凝をするとその壁はかなり脆く不均一で場所によっては穴が開いている。人間が通るには厳しいがハルシャの人形なら問題ないだろう。そう、水中でほぼ無限に活動することができかつ念の被害にあっても人形だけで済むという理由でハルシャは連れてこられた。人形の貸出量は一体七千万。シャルナークはかなり値切った。ちなみにイヴァンに提示したマチの水着に関してはかなり値を釣り上げた。
 シャルナーク、マチ、フィンクスは全く仕事をしないハルシャとフェイタンとクロロをしり目に夕方までには念でできた壁の綻びと遺跡の大まかな位置などを把握し砂浜に戻ってくる。本当の仕事はこれからだが、昼間に散々調べ回ったせいで三人ともかなり疲れていた。少しぐらい休憩した上で楽しみがあっても悪くないだろうということでフィンクスが持ってきたのはスイカであった。大きなスイカが丸々三つ。どこで盗ってきたきたかは想像に難くない。
「折角だし念無しで割れるかやってみる?」
 シャルナークの言葉に乗ったのは勿論フィンクスである。ハルシャとフェイタンは速攻で嫌な顔をした。しかしまぁ今はハルシャも蜘蛛のメンバーのようなものなので、日差しの弱まった夕方の浜辺に引っ張り出されて一番手としてスイカの前に立たされたのである。
「無理」
「やってみないとわかんないじゃん」
 シャルナークは実に楽しそうだ。
 ハルシャはそんなシャルナークをじろりとねめつけてから、仕方なしとばかりに腕を大きく振り上げて、そしてバチンとスイカを叩く。
「……いや平手は無理でしょ」
「普通に殴ったらあたしの手が死ぬでしょ?」
「死んだら片手で頑張れ」
「死ねシャルナーク」
 そう言いながらハルシャはもう一度手を振り上げる。手のひらではなく手の側面がスイカに叩きつけられたが、悲鳴を上げたのはハルシャであった。
「かっった!」
 シャルナークが笑う。フィンクスとマチも笑った。ハルシャは片手を抑えてシャルナークを睨むとシャルナークは腹を抱えて笑っており、ハルシャは腹立ちまぎれにスイカを蹴り飛ばす。しかしどうしたことか丸いスイカは砂浜を転がっていかず再び悲鳴を上げたのはハルシャであった。
「ごめんごめんそれスイカの色を塗った石だった」
 シャルナークが笑いの合間に必死で発した言葉にハルシャがぶちぎれたのは火を見るよりも明らかであった。畳む

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SS,連載没ネタ

海深くの遺跡を暴く
#HUNTER×HUNTER #シャルナーク #浅き夢見じ暁の

 海中遺跡を発見するに至るまでの経緯は次のようなものである。
 シャルナークが違法な電波でテレビ番組を適当に流しながら、オンラインゲームに集中している時のことであった。美術館での盗難という言葉が聞こえて、シャルナークはぱっとパソコンから手を放してテレビの方へ向き直った。ちなみにこの部屋は本来ハルシャのものであり、今、シャルナークはハルシャがいないうちに不法侵入して部屋を勝手に弄った挙句テレビとゲームをしている。この建物とこの町そのものが違法の塊なのでシャルナークの違法行為そのものを追求する者はいないだろう。とにかく美術館での盗難事件についてニュースキャスターが淡々と文章を読み上げていくのを聞いているとどうやらこれはクロロの仕業らしいとシャルナークは思った。というのもついひと月ほど前この美術館に関する正確な見取り図と警備の配置について尋ねられたのだ。その程度であれば一時間で問題ないと答えて、その言葉通り一時間で情報をクロロに投げ渡した。仕事になるかと思いきやその後も特に何も言われなかったのですっかり忘れていたが、クロロはどうやら先日盗みに入ったようだった。クロロ自身ももしやすると忘れていたんじゃなかろうかとシャルナークは少し思った。
 その直後電話がかかってくる。シャルナークはいくつかあるスマホのうちの一つをとると案の定クロロからであった。
「あっ団長? 今ニュースでやってるけどさ。なんか壺盗ったんだって? どうせそのことでしょ」
『話が早くて助かるな。単刀直入に言うとその壺に念がかかっていて俺の手持ちではどうにもならない。物にかかった念に強い除念師を知らないか』
「残念だけど知らないな」
『そうか。そこでだ』
「そっちが本題?」
 シャルナークが笑うと電話の向こうでクロロも笑ったようだった。
『ああそうだ。除念師はどの道すぐには見つからないと思った。盗んだ壺なんだがこれがどうやら特殊な製法で作られた陶器らしい。念も制作の過程で作られたそうだ。そしてその壺を制作した場所と制作の手法に関する手記が残っていると聞いた。場所を調べてくれ』
 クロロは壺に関する情報を淡々と読み上げていく。どうやら壺に記載があるらしい。勿論念によって隠された記載だ。シャルナークはオンラインゲームの画面を閉じてすぐに情報屋に当たる。情報屋は速度と正確さが命なのでシャルナークが送った五件のチャットのうち二件が即座に返ってきた。残念ながらその二件から価値のある情報は得られず、その後数分後返ってきた一件のチャットがどうやら核心をついたものになったようだ。
 シャルナークは通話のまま机に置いておいたスマホを手に取る。
「団長? うん、今一件それっぽいのがあった。かつてあった陶芸の都、芸術が発展し特に陶芸の分野で大きな価値のある作品を残している。でもその都自体はもうなくてそれでその都の中央にあった神殿が海に沈んでるんだって。そこには技術の粋が詰め込まれていたって話だからそれじゃない?」
『海の底か……そういえばシャルナークには人形を使う知り合いがいたな』
「ちょっと待ってそれハルシャのこと?」
 その瞬間、ドアがバンと叩きつけられるように開いてハルシャが紙袋を抱え立っていた。
「ちょっと」
『ちょうどいいそこにいるな? 人形を二体ほどレンタルしろ。今回の任務に同行してもらう』
「えー、ちょっと待ってすごく今面倒なことになってる」
 嫌だなぁと呟くもクロロが頼んだぞと言うのでいいえとは答えられなかった。
「おっけーハルシャ。何から謝ればいい? ところで仕事を頼みたいんだけど」
 その瞬間ハルシャの投げたカニ缶がシャルナークの頭に直撃した。畳む

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こんなとこに住んでるのはなぜ?
#東京リベンジャーズ #呪術廻戦 #クロスオーバー #永遠のアマレ

 かすれたベルの音が部屋に響いたのがドア越しにもわかったが、肝心の部屋の主は留守なのかまるで反応がなかった。
 東京から電車で一時間ほど走った場所にあるボロアパートの二階が天野曜子の借りている部屋だ。年齢的には中学生のはずだがすでに自立している曜子は今まで特に寂しいと言ったようなことを蘭や竜胆にぼやいたことはない。ぼやいたならそれはそれは可愛がってやろうと思っていた蘭は逆に拍子抜けしたほどだ。
 今日、蘭と竜胆が曜子の家を訪れたことに特に深い意味はなかった。最近は天竺の幹部の誰かは曜子の家にいて、そのうち皆が集まって騒がしくなるのが常であった。曜子は「もともと家族が多かったから騒がしいのには慣れている」と言っており、そしてそれが虚言でも強がりでもないことを蘭も竜胆も知っている。何せ部屋で大騒ぎしているというのに曜子は「それじゃあ明日早いので寝ます」と一言言ってそのまま同じ部屋で寝たのだ。驚くほどの寝つきのよさであった。
「……でかけてんのかな」
「こんな時間に?」
「曜子の仕事って夜が多いじゃん」
 今は深夜の二時である。ボロアパートは廊下の電気も心もとなく、周囲の街灯もほとんどついていない。こんなところに女の子の一人暮らしはどうかと思うと以前竜胆が曜子に言ったことがあるが曜子は「色々と事情があるので」とだけ言ってそれ以上は何も教えてくれなかった。
 しばらく曜子の部屋の前で待っていた蘭と竜胆だったが、ついにしびれを切らしてドアをどんどんどんと叩く。暗い深夜の住宅街に音が響いた。月も泣かないような静かな夜である、小さな声で呼びかけてもそれは反響するように大きな声でこのアパートに響き渡るようであった。
「なぁ兄ちゃん」
「なに?」
「なんかおかしくね?」
「なにが」
 特に何かきっかけがあったわけではないのだが竜胆はふと今の状況が奇妙なように思えた。そしてそれを考え始めると奇妙な感覚は次から次へと出てくる。その一つ一つには明確は理由も答えも存在せず、ふと竜胆は背筋に寒いものが走る感覚を得た。
「あのさ、普通こんな夜にこんなうるさくしたら隣のやつ出て来るよな?」
「あーまぁ」
「でさ。前に曜子の家でうるさくしたときも夜遅くても誰も出てこなかったよな」
「曜子には大家から苦情入ってるんじゃね」
「そうなる前に曜子なら止めるだろ」
「竜胆お前、何が言いてぇの」
「曜子ってさ、なんでこんなところに住んでんの?」
 コンビニまでは徒歩でニ十分はかかる。駅までも遠くまた住宅地と言っても新興住宅ではなく古くからある家々に囲まれた場所だ。周りにある家はとにかく古くトタン屋根は錆びついていた。ブロック塀は今の建築基準では地震の時の被害が大きいとされそもそも建てることさえ許されないのではないだろうか。曜子は金がないわけではない。むしろ実家はそうとうな金持ちのはずだった。しかしそんな曜子が、霊を祓うという仕事をしている曜子がこんなボロアパートにわざわざ住む理由、そしてどんなに騒いでも隣人が怒鳴り込んでこない理由、それは一体なんなのだろうか。
 蘭と竜胆はしばらく見つめあった。
「……竜胆」
「うん」
「帰るぞ」
「うん」
 蘭と竜胆はそそくさとアパートの階段へと向かう。錆びにまみれた階段はあとちょっとの衝撃で壁から外れて崩れてしまうのではないだろうかというほど不安定に揺れている。二人は速足に階段を降りて、すぐ下に止めていたバイクにまたがった。
「近くのコンビニどこだっけ」
「あー……いや駅の方が近いんじゃね」
「じゃあ駅」
 手短に行先だけを確認した二人のバイクが唸りを上げる。
 しんと静まり返ったアパートも住宅地もまるで誰も住んでいないようだった。しかし気づけば確かな視線を感じる。振り返っても何もいないというのにそこに誰かがいるような奇妙な視線を感じるのだ。その感覚がひどく気味が悪く、蘭と竜胆はその後朝までコンビニで雑誌を立ち読みしながら時間を潰した。その後天竺のアジトに戻った時曜子が居て怒鳴りつけたのは言うまでもない。ちなみに曜子がいなかったのは引っ越したかららしい。畳む

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浅き夢・再演 転生

書いてるとこ途中まで

 穢土転生は死者を蘇らせる禁術である。それは特定の条件下の魂を浄土より口寄せする術であった。
 それはつまるところ魂の存在を肯定した。彼らは死後、浄土(天国でも、尸魂界でも表現は何でもいい、魂は一時的に保管される世界があると認識してもらいたい)に向かう。魂は生前の姿と性格を記憶したままある一定期間、あるいは永遠に浄土に存在するのだ。
 それでは彼らは生き返ることがあるのか。数千年後、彼らの魂は浄土でどのように存在しているのか、浄土はいずれ死者の魂で溢れかえることはないのか。
 浄土は常に魂で溢れかえっていた。それはやがてぼんやりと姿を消し浄土からどこかへ行ってしまう。
 浄土という場所においてもなお、時間は流れ魂は徐々にその姿形を失いまっさらな生命の始まりに戻るだろう。そしてそれは新しい命の誕生を意味していた。
 しかし魂の中には時折前世のままに生まれ直すことがあった。それを私達は生まれ変わるであるとか、輪廻転生であるとかそういった言葉で表現した。
 長々と表記をしたがつまるところサソリは生まれ変わったのだった。



 ヨークシンシティから外へ出ると荒野が広がる、その外れに小さな町がある。ヨークシンのような高層ビルが立ち上るほどではなく、しかし水道もないような荒野の果てでもない。適度にインフラも整い適度に人もいる、そんな町だった。
 かつて数千の人を殺し一国をただ一人で落とした赤砂のサソリはここでは小さな赤毛の子どもであった。両親は健在でサソリの誕生を喜びその子どもに「サソリ」と名付けたのだった。その理由は早逝の両親に聞くほかなかったが、サソリはついぞ聞く機会を得られなかった。
 サソリが自身の記憶を取り戻したのは両親に精巧な人形を買い与えられた一歳と二ヶ月の頃であった。しばしの動揺、立ち上がることはできるようになったものの体は思うように動かない。記憶はあるものの、視界はやけに低く、見知った顔が自分のことを可愛い可愛いと愛でている。なんのことだかさっぱりわからなかった。
「ち、よ、ば」
 混乱のあまり回らぬ口でチヨバアを探し求めたのはサソリの抱える恥の一つとなった。三十五になった記憶を持つ男があろうことか祖母を探すなど! デイダラにこのことが知られれば未来永劫、それこそ永遠に馬鹿にされるに違いない。あの男は一瞬にこだわるくせに、妙なところで話を持ち出す。殺してやりたい。一歳の子どもはすでに殺意を覚えていた。
 さほど広くはない部屋、無垢の木で作られた机につかまり立ちをしてぐらぐらする頭で両親を見上げた。この人たちが両親だという自覚はあった。明るい日の差し込む窓、白い壁に、飾られた多くの人形。見慣れた、あるいは形は違えどその使い道を瞬時に理解できる道具が壁に立てかけられている。
 両親はこの世界の人形作家で、劇に使う人形から趣味のドールまで様々なものを作っている。
 サソリはしばらくの間そんな両親に囲まれて愛され、子供の頃に本当にほしかった全てを与えられてすくすくと育っていく。
 五歳の頃にはこの世界を理解した。戦争はあれど忍は存在しない。チャクラを練ることはできないが、その代わりに別の何かを体の中に感じる。サソリの知らない技術が人を殺す世界だ。とはいえ平和なこの町には、銃もマフィアもあまり関係のない話だった。
 サソリが七歳のときに両親が死んだ。流行り病である。怪我をしたところから得体のしれない病巣が広がり全身を蝕んでいく。サソリの両親は長いことその病に気づかず、医者に指摘されたときにはもはや手遅れであったのだ。
 サソリは両親の死を正面から受け止めた。泣いてもよかったがどうにも涙は出ない。少なくとも、こうして両親が死んでしまったとしても、両親が作り続けた人形をサソリが受け継ぐ限りそこに宿る意思は永遠なのだと今のサソリはよく知っている。それに見た目は七つの子供でも中身は三十五である。父と母を求める心など当の昔に捨ててきたこの年で涙は出ようはずもない。ただ、過去にありえたかもしれない幸福を抱えるのはなんだか居心地が良いような悪いような複雑な気分だ。そんなものははじめから存在しなかったはずなのに、奇妙な縁でサソリはそれを得た。もう一度失ったとしてもさほど辛くもないが、もう少しだけ浸っていたかった。幸福な夢を見ていたような気分だ。
 なんにせよサソリは両親を見送り、七歳にして広い家に一人で住むことになる。といっても近隣の者たちが気にかけてくれたので小さな体でもそれほど苦労はしなかった。なお近隣の住民に声をかけられたら「うん、大丈夫だよ、キにかけてくれてありがとう」と言わねばならないのは三十五のサソリにとってはなかなか複雑な感情が湧き上がる。少し困ったような笑顔でそのように応答するほうが手間がかからないゆえの対応であるが、中身は親がいなくて寂しい年ではないのでむず痒い変な気分だ。こんな姿、デイダラに見られたら何年からかわれるかわかったものではない。この町で暮らす日々が長くなればなるほどデイダラに見せられない県道は山のようだ。別にあの男が隣にいるわけではないのでどうでもいいといえばどうでもいいのだが。
 サソリは存外この生活が気に入っていた。誰もが優しく天涯孤独のサソリを助けてくれる。助けは必要としていないが、己の求めた永遠について答えを得た今、サソリの心は穏やかに周囲の人々の好意を受け入れられたのだ。一度目の死を迎えたときにここに来たとしても、決してこの穏やかな感情は浮かびもしなかっただろう。サソリの芸術はカンクロウが受け継ぎ、そしてまた誰かに受け継がれていく、傀儡に込められた思いは永遠に未来へ続いていくと思えば、未練はない。もう少しこの平穏の中に身をおいても悪くない、そんな気分だった。時折人を殺したい衝動になるのは昔の癖が抜けないだけだと思い、ひとまず思いとどまることにしている。
 この頃からサソリは体の中にうずくチャクラではないなにかを察していた。サソリは早い段階からチャクラを練ろうとしていたが、どうも感覚が少し異なっている。出力の過程がチャクラとは異なるようで、安定しなかった。それでも長いこと練り上げることでそれなりにはかつての傀儡操演を行えるようにはなった。
 とはいえ武器などさしてない。サソリが操る人形は一から削り上げた陶器であり、衝撃に弱い。木造りにしても柔軟性に欠けた。かつて作っていた傀儡は人を素材にしているだけあり一から作るよりもはるかに簡単に柔と剛を整えられたのが今は惜しく思える。さすがにこの平穏の中で人を傀儡にするとどうなるか、サソリにも想像はついたので何も手は出せなかったというわけである。別に人傀儡を作らずともやってはいけるので今はさほど執着してないつもりではあった。
 転機は一人の男が町に転がり込んできたところから始まった。

「すまない、君」
 柔らかな口調で話しかけられサソリはふと顔を上げた。草をかき分けて足を引きずった男が近づいてきた。手足には傷、服には赤黒いものがこびりついている。血であることは明白だ。
 隣の老婦人は今足を痛めている。とはいえ致命的な病ではなかったため、サソリは生前の知識を生かしながら痛み止めを作り定期的に届けていた。あいにくとこの世界の植物は生前のサソリが知るものとはまったく異なるが書籍を読めば容易に想像はつく。さらに今は生身の体もあるために自身でその効能の実践も容易だ。
 サソリは小さな茂みに少しだけ隠れるようにしながら、抱えたかごを体の前に引き寄せた。小さく震えるとまるで知らない人に恐怖している子どものようだろう。
「おじさん……だれ……?」
 弱々しく言葉を発する。隣の老婦人の前で不承不承と演技するのとは全く違った、目の前の相手の隙をつくための演技だった。サソリも生前は忍である。あの世界において忍は最高戦力ではあるが彼らの仕事は戦い殺すことだけではない。何かを装い、振る舞い、演技し情報を集め解析する。それらも忍にとっては重要な仕事だった。サソリとてそれらの手法のすべてを頭に叩き込んである。今は相手の情報を集めなければならない、そのために今の子供の姿は好都合だ。
 弱々しく震える子供に男の口角がわずかに上がるのを感じる。今はまだ攻撃しようという意志はないようだ。怪我をしており化膿もしている。おそらくは近くで隠れる場所を探している。シャツの下には膨らみ、武器、この世界で一般人が取り扱いやすく殺傷力の高い武器は銃であることをサソリも知っている。銃であろう。弾数不明だが、服の下に隠せる程度のものだ。怪我の具合は致命傷ではない。ゆっくりとえぐり取られた痕跡がある、拷問だろう。爪の剥がれ方からもこの男は拷問から逃げ出したと推測するのが最も合理的だ。
「いてて、僕、どこかにお医者さんはいないかな。実はちょっと悪い人たちにいじめられてね」
 相手はサソリを利用して町に近づくつもりだ。目の動きや全身の挙動から嘘は言っていない。医者を探しているのも本当だろう。
「お医者様……? うん僕知ってるけど……おじさん、怪我してる……おじさんもわ、悪い人……?」
 か細く喉を鳴らすように声を出してかごをぎゅっと握りしめた。男はやはりわずかに笑う。一般人では気付かない程度に表情を隠しているがいいカモフラージュ相手が見つかったと思っている様子だった。
 体の動きから訓練を受けているわけではないが修羅場には慣れている。そういった者たちはこの世界ではマフィアと呼ばれているゴロツキであることが多い。
(殺すか)
 町から少し離れた茂み、周囲には男とサソリのみだ。サソリはかごの中の小石を手に握り込む。あいにくの武器は一つも持っていないし人形も手元にはないが一般人を殺すには小石一つで十分だろう。指で軽く弾けば、小石は弾丸よりも素早く男の額を貫通させられる。
 サソリは何も知らないふりをして遺体を見つけたと報告すればいい。この男は確実に何かを町に持ち込むだろうという確信を得て、サソリが小石を手のひらから弾こうとした瞬間だった。
「おおい、サソリ! 今日夕飯を食いに来ないか!」
 車が一台砂煙を上げて近づいてきたのだ。サソリは目を見開き、にこやかに答えた。
「アデルおじさん、ありがとう。でもねこのおじさんが、怪我してるみたいで」
 あと一歩早く殺しておくべきだった。隣人のアデルにこの男をみられた以上、殺すタイミングは見計らわなければならないだろう。
 アデルは男を見て慌てて車に乗せるとサソリも車に乗せて町へと運ぶ。
 これが平穏の崩壊の始まりだった。
 サソリは機を逸したのである。生前であれば不審な男への対応など即座にできただろうに、随分と平和ボケしてしまったらしい。殺すことに躊躇などないが、今のサソリはその後の隣人のことを思う余裕が生まれていた。
 がたごとと揺れる車の後部座席でアデルが男に話しかけるのを聞いている。かごの中の石はまだあるが、ここで男を殺すわけにはいかないだろう。毒でもあれば怪我を理由に殺すこともできたが今はその準備もなかった。
 男は親切な町の人々に迎え入れられて看護を受けている。サソリはその手伝いと称して男のそばにいたが、親切な女たちもそばにいるため殺すのも戸惑われた。いや、サソリほどの実力もあれば女たちに気づかれぬよう男を殺すことは容易く、その証拠など残るはずもない。ただ、女の一人が男に惚れている。自分に良くしてくれる女であったから悲しませるのも妙な気分だ。他人を慮る心などサソリは持ち合わせてはいなかったが、少なくとも子供の頃から良く知ってる世話人を無闇矢鱈に悲しませるほど傍若無人でもないのだ。
 生前から人の心がないわけではない。子どものように両親を求めた。最後は肉親を殺すことにわずかな戸惑いもあった。カンクロウの言葉に永遠を見出した。サソリはただの無情な人殺しでも快楽殺人者でもない。存外面倒見は良く、通りすがりに無意味に人を害するのは面倒だとさえ思う程度の気持ちはあった。ただ世情、環境がそのようにサソリの全てを構築し、赤砂のサソリたらしめるのである。
 平穏な世界で人を殺せば自分が面倒なことになるのは知っているし、緑と人に囲まれながら人形を作る生活も存外気に入っている。無駄な殺生でこの生活を壊したくはない。
 ……ただ、そのような中でも時折疼くように人を殺したくなる。より精巧な人形を作りたくなる。それは湧き上がって、理性に押し留められる感情であったが、サソリはそれに対しては否定的ではなかった。三十五年間の生の中で染み付いた感情が消えるはずもなく、また近づく人を殺すのは楽だ。無駄なことを考えなくていい。
 サソリは男を観察する。丁寧にその行動の一つ一つを眺め、不審な動きをするならばそれにかこつけて殺してやろうと思う。ただ、それよりも早く事態は動いた。

 夕日が大地の向こうに沈んでいく。さらさらと岩山からこぼれ落ちる砂の合間を黒黒とした車が走り抜けた。三、四、五と続く車は物々しい。
 サソリは隣の老婦人と夕食の席についている。花と刺繍で囲まれた部屋は小さいながらも優しい空気に溢れ、温かなスープは平穏な世界そのものだった。サソリは老婦人の押しに弱かった。どうも婆さんの誘いは断りきれないのである。
 窓枠がガタガタと揺れ始め、同時に遠くで悲鳴が聞こえる。銃声が響き渡り、窓枠は今にも壊れそうになっている。空気が激しく振動する。
「奥の部屋の机の下に伏せて」
 サソリは婦人を窓の小さな部屋に押し込めると扉を閉める。あの男が来てから寂しい子どもを装って仕込みを入れた人形を持ち歩くようになった。修理も限界がある木の人形だがないよりはマシだ。こんなことになるのだったらヒルコも作っておくべきだった。まったく、平和ボケも甚だしい。
 サソリは可愛らしい装飾の手鏡を使い窓から外の様子を伺う。重装甲の車ではあるが、乗っている男たちは比較的軽装だ。防弾チョッキを着ているものも確かにいるのだが、大抵は銃を抱えているだけだった。黒いスーツの男たちが目立つ。マフィアか、何かの組織の連中だろう。
 男たちは家に押し入り片端から殺しているらしい。男女に子どもの悲鳴が入り交じる。サソリは結局のところこの運命からは逃れられないようだ。
 人形を地面に下ろし、そっと換気口から表に出す。周囲に気を張りながら指を動かせば懐かしい感覚が戻ってくる。このとき、サソリは自然と円を覚えた。
 人形が窓のすぐ外で歩き出すと男たちは明らかに動揺した気配を見せる。今にも家に押し入ろうとして連中ですら、手を止めて人形に銃を向けた。
 数は十三、仕込みは足りない、が。
 サソリは指を素早く動かす。この人形は着地だけでも足が軋むほど貧弱な木造りである。よくしなる、人形にふさわしい素材は子どもに買えるほどではなかったのだ。盗むにしても言い訳が面倒で、関節の合間にクッションを挟みながら強度を増し、人の動きができるように調整しただけに過ぎない。
 人形が地面から大きく跳ねた。大道芸のようなその動きに男たちは警戒しながらもそれをどのように理解すればいいのかわからぬ様子である。 
 空中で一回転する人形の腹がパカリと割れる。腹から縫い針が飛び出し、男たちの肌を傷つける。わずかな間を置いて一人が倒れた。鼻から血を垂らして口から泡を吹く。ありあわせの素材だが悪くない。ただ、人によって効果の大小が異なり、縫い針では三人が倒れたまま動かなくなっただけだった。
 男たちは怒号を上げて銃を乱射する。サソリの人形はそれよりもはるかに素早く、男たちの頭上へ跳んで、手首の中から鋭い千枚通しを抜き出した。
 仕込み武器は全て家にあったものに限る。本当なら良いものを仕入れたかったがそんな時間も金もないのだ。
 千枚通しが一人の両目を抉るとそのまま次の男へ跳躍する。そのままもう一度。人形を狙ったはずの銃弾が男を蜂の巣にした。跳ね回る殺人人形に男たちは恐慌状態に陥り、相討ちにもなりながら地面に伏していく。そのうちにまた何人かが表へ出てきて悲鳴を上げる。サソリは冷静なままそれを聞いていた。
 
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2024年6月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

この投稿には鍵が掛けられていますが、共通鍵がまだ設定されていないため、鍵入力フォームを表示できません。管理画面の[設定]→[ページの表示]→『共通鍵の設定』で共通鍵を設定して下さい。※個別鍵を使う場合でも、共通鍵の設定が先に必要です。
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2024年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

湿気とキノコ

 しっとりと水をカサの中にたたえた水キノコンはベッドの上に。シーツは湿り床には水たまりができている。風キノコンは天井のあたりに留まって、草キノコンはもはやどこと表現できないほどにそこら中に溢れかえっていた。
 湿気と地脈の変化によりどうやらティナリと蒼月の家はキノコンを呼び寄せる場所となってしまったらしい。
 ティナリはため息を吐いて手近の水キノコンを外に蹴り出した。幸い体は小さい個体ばかりで凶暴性も低い。無理に退治するほどのことではないが、とはいえここから追い出さなければ生活は成り立たない。
「困ったわね」
 蒼月は心底疲れたという表情でそう言いながら、風キノコンを捕まえてぷにぷにといじっている。先程まで教令院で講義をしていた二人はとてもここからキノコンを掃除するほどの元気はない。
 ティナリと蒼月はしばしの間キノコンをぷにぷにと弄りながら天井を見つめていた。
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2024/05/11
#ティナリ
#蒼月
#原神

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最近の自カプ何してる

「きた……!」
 涼やかな風が森の合間を駆け抜ける。美しい緑は今日も青々と空に広がっていた。
 アビディアの森の一画、ティナリと蒼月が住まいと定める古い木の家は昔からの知恵を活かして古いながらも快適な生活が用意されている。
 ここのところ蒼月は朝になるとティナリの寝ていたベッドに這いつくばって毎日何かを探していたのだが、今日はついに目的のものを発見したらしい。
「ついに来たわ! この時期が!」
 蒼月が手に持っているのは深緑色のふわふわとした綿のようなものである。それはティナリの抜け毛だ。
 ティナリはまたこの時期かと言わんばかりに耳を垂らした。
 つまるところ換毛期というやつである。稲妻ほど四季が明瞭ではないものの、ある程度まとめて毛が抜けるためこの時期のティナリと蒼月の家はとにかく毛玉であふれかえる。掃除が面倒なことこの上ないのだが、換毛期の後のティナリの尻尾は新鮮なふわふわの毛になるのでこれがあまりにも気持ちいいと蒼月はこの時期を密かに楽しみにしているのであった。
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#ティナリ #蒼月
#原神
2024/05/10

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ドロボウまみれ

ティナリと蒼月
 子どもの洗濯物はいつの時代も両親を困らせる代物である。彼らはまるで予測のできない汚れと共存しており、帰宅して脱ぎ散らかした洋服はとても知りうる知識では即座に洗い落とすことが難しい謎のシミがついているものだ。
 はてさて、ティナリと蒼月はよく両親を困らせた。二人は全身泥にまみれて帰ってきたことも、リシュボラン虎の糞の中で暴れたと思うことも、得体のしれないきのこの胞子に包まれて帰ってきたことも無数にある。
 此度、母が悲鳴を上げたのは洋服といい尻尾といい翼といいありとあらゆるところにドロボウをひっつけて二人が帰ってきたからであった。もはやドロボウの精霊と呼んでも差し支えのないその姿に母は呆れ返って笑いしか込み上げなかったという。
 ふさふさとしたドロボウに包まれて別の生き物に見えたという話だ。畳む


2024/05/10

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2024年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

寝たふりとキス

 フィネフェルがセノの隣以外で眠ることは珍しかった。彼は瞼を閉じるというただそれだけのことにすら抵抗が大きく、普段はセノの手を握りながらでなければ眠ることができなかった。ただ、今日は新人の指導でフィネフェルですらずいぶんと疲れているようで、ソファに横になって新しく取り寄せたばかりのレシピ本を腹の上に乗せたまま眠っている。セノは半開きになっているフィネフェルの唇に顔を寄せる。
「フィネフェル、風邪をひく」
「……」
「フィネフェル、起きないとキスをするぞ」
「……」
 セノは沈黙を守るフィネフェルの唇に自らのそれを限りなく近づけてお互いの呼気を交換しながら、そこに言葉を乗せた。
「俺に寝たふりは通用しないと知っているだろう、起きろ」
「……結構うまくいったと思うんだけどな」
「舌の根が震えたな。もう少し頑張るといい」
「キスは?」
「もう眠い、俺も寝るから詰めろ」
「キースーはー?」
「おやすみ。また明日だ」

次の日

 鮮やかな朝日とともに目が覚めて、蹴散らしたシーツをもう一度蹴り飛ばして落とすとセノは自分の腰に回ったフィネフェルの手をベッドに落とした。
「……んー……」
 まだ寝ぼけているフィネフェルはもぞもぞとシーツの中に潜り込もうとしたが、シーツはさきほど蹴り落としたばかりなので潜り込む先がなくぱちりと目を開いた。
「しーつ……」
「起きろフィネフェル、俺は行くぞ」
 セノもあくびを一つしてそのままダイニングの隣の洗面所へ移動しようとしたが、一歩踏み出したときにフィネフェルがセノの手を取っのでセノはたたらを踏んで一歩さがってそのままベッドに尻もちをつく。じとりとまだ眠そうな目でフィネフェルも睨むとフィネフェルはふにゃっと笑った。
「きすしてくれたら起きる」
「なぜだ」
「きのう言っただろ、また明日って」
 そういえば昨日はセノも眠かったからそんな話をしたような気がした。あまり記憶がないがフィネフェルが言うのだからつまりそういうことなのだ。セノはため息を吐くと「どこに?」とだけ言う。
「くちびる」
「額」
「やだ」
「頬」
「絶対やだ」
「……わかった」
 単純な力比べになると身長が高いフィネフェルに分がある。手段がないことにもないが、体に慣れた方法を取ると寝起きのフィネフェルをもう一度ベッドに沈めそうなのでやめることにした。諦めてフィネフェルの目を空いた片手で覆うとちゅっ、と小さくキスをする。フィネフェルがふふふと嬉しそうに笑った。畳む

#セノ #フィネフェル
2024/04/08

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歯磨き

 職位に似合わぬ古く狭い家をフィネフェルもセノも気に入っている。家を広くするということに強い関心も持てず、学生時代から使っている古いアパートで生活しているのだが、大家はマハマトラがいると治安が良くなったと家賃を下げてくれたので二人はますます出ていく理由もなくなったのだった。二人での生活も苦ではないが、二人共起きる時間が近いこともあり、洗面台で渋滞を起こすのは少しばかり手間であるようにも思う。
 そんなフィネフェルが編み出した手法が、セノとの身長差を利用した、セノの頭の上のスペースの活用である。頭一つ分ほどの差を利用して、フィネフェルはセノの頭越しに鏡を見ながら歯磨きをするのだ。初めてその方法で時短したところ、セノはもごもごと何か文句を言っていたようだがフィネフェルはよくわからないことをいいことに黙殺している。おおかた、身長がでかいことに対する何かしらであることが推察されるのでつむじを押しておいたところ、次の日からジャッカルヘッドをかぶるようになったので今は耳の間から鏡を見ている。畳む

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2024年1月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

フィネフェルとセノで抜きあいっこのSS R-18

 初めて精通を迎えてから、セノとはよく抜きあいっこをしたことを覚えている。今思うと随分な子供の好奇心であった。しかしリサからは局部を他人に見せるのは本当に愛し合った人とだけよと強く言い含められていたため、他人にそのことを話すことはなかった。恥ずかしいものだと重ねて言われていたからだと思う。だけれども、リサにそのようなことを言われていたからこそセノとはお互いに見せあったのだ。なぜならそのころからセノのことが好きだったし、セノも自分のことを好きだと言っていた。それは愛するというにはほど遠い感覚であったけれどもそれでいいのだと思っていた。
 
 椅子に腰かけ、セノを膝の上に乗せる。衣服などお互いとうにはぎ取った後のことで触れ合ったところから体温がよく伝わってきた。普段から露出の多い服を着ているわけだが、いざ裸になればそれなりに緊張するものだ。見られていると不随意に筋肉が動く。ぴくりと痙攣したセノの腹筋を見て、そういやその中にいつも入っているんだよなぁと思うと興奮した。
「おいなぜだ」
 セノがあきれたように立ち上がった陰茎を見て、それから触れる。自分よりも小さなセノの手に捕まれるとどうにも止まらなくなって、完全に立ち上がったそれをあきれるようにセノは眺めていた。
「全くどうしようもないな」
「セノも大して変わらないじゃん」
「それは……」
 いつもこれが腹の中に入っていることを意識したのだろう。セノを羞恥させるには事実に即した想像をさせるのが一番手っ取り早いと最近覚えたので、セノをたたせるときはいつも最中のことを思い起こさせるようにしている。物覚えがいいということは、つまり最中の感覚もよく覚えているということだ。足に力が入ったのがわかる。おおよそ、勝手に後ろを締めたのだろう。早く挿入したいと思いつつも、最近は昔のように向き合って抜きあうのが習慣になっていた。それに明日は大捕り物があるので今日はあまり激しくできない。一回きりじゃお互いに満足できないことは知っているからこうして抜きあうのだ。
 お互いのものに手を添えて、お互いの目を見ながらゆっくりと刺激を与えていく。セノが物欲しそうにしていたので空いた片手を後頭部に添えて引き寄せてからキスをした。先走りがあふれてぐちぐちと水音が響く中、口内をかき混ぜればやはりこちらも興奮しているのかいつもより多い唾液が水音を響かせている。くちくち、ぬちぬち、ぐちゅ。ただの水音と言ってしまえばそれだけだが、その正体を知っているとやけに煽情的だ。
「ッ……! フィネフェル、もう」
「俺も」
 陰茎をすり合わせて、セノの手ごとを握りこんで強くしごけば二人ほぼ同時に達した。手の中に広がるあたたかく粘ついたものはあふれて俺とセノの腹にもかかる。もともとバランスの悪い姿勢で俺の足の上に座っていたセノは体を前に倒して首筋に顔を埋めていた。達した感覚に酔いしれながら、ぼんやりとしている。
「やっぱりイれたいなぁ」
「だめだ。我慢しろ」畳む


2024.1.21 執筆
#フィネフェル #セノ #R18

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セックスしないと出られない秘境単発SS R-18

フィネフェルとセノでセックスしないと出られない秘境です。濡れ場があまり長くならなかったので今後追記してごりっと長くしたい。
なお地雷になりうる案件としては、秘境に入ってセックスして、そのことを報告の必要がありクラクサナリデビにすべてばれていることです。彼女はめちゃくちゃ真面目に聞いていました。なおアーラヴも若干察している描写があります。

 テイワットに点在する秘境と言うものは、その成り立ちによって大きく二つに分類される。一つは魔神戦争よりもはるか昔、龍の七王が支配するよりもさらに前に作られた祭壇としての役割と果たすと考えられるもの。もう一つは時代が下り、魔神や仙人たちあるいは実に強大な力を持つ一個人の人間がなにがしかの目的をもって、あるいは戯れのように作り出したものである。形状が似ているのは後に作成されたものが先に作られたものを真似することが多かったからだ。時代が下れば下るほどその形状も多様になっていくが、今はその歴史については置いておく。
 スメールの砂漠地帯にも秘境は非常に数多く存在している。ひとたび人が迷い込めば時に命を奪いかねない非常に危険なものから、全く持って無害なものまで、秘境の在り方は実に様々だ。(無害すぎる秘境は時に子供の秘密基地になることもある。)これらの秘境は冒険者協会が管理し、その調査を行うことが多いが、スメールでは学術研究絡む場合においてこの調査をマハマトラが担うことも多かった。
「フィネフェル」
「さほど古いものではない。装飾などから考えるにキングデシェレト文明の頃に作成されたものだという。学者の残した記録によれば、この部屋の中に研究結果を隠し置いているらしい。秘境に関してはその脱出条件も含めて口を割らなかったが、秘境の出入り口と思しき部分に複数の、デシェレト文明時代の言語で二人一組の入場を指示している、というのがアーラヴから上がった情報だな」
「要するに何もわからないということだな」
「だから俺たちが呼ばれたんだろう」
 セノは大きくため息をついてから、秘境の入り口を示す石門を撫でた。
 遺跡の奥深く、さらに隠し戸によって隠されたその小さな部屋は今でこそ朽ち果てているが、部屋中に華美な色彩による様々な装飾が施されていた痕跡がある。まるでこの秘境に入る為だけのようにデザインされた部屋のようであった。部屋自体は狭く、大勢の人間がたむろする場所ではない。せいぜい三人あるいは四人、二人で活動するのがちょうどよい広さであることを考えると、この部屋の装飾には本来この秘境の目的などが記述されていた可能性がある。塗料ははげ落ち、今や石に刻まれた文字だけが秘境の在り方を示しているのがなんとも嘆かわしい。
「どう見る?」
「変数が多すぎる。推測するにもそれはただの憶測にしかならないな。十分に注意して入るしかないだろう。フィネフェル、俺の後に続け」
「わかった」
 教令院の大マハマトラと補佐官が派遣されたのは、この二人が神の目の持ち主だからである。秘境の多くは元素力を行使してその秘境に隠された秘密を暴くものも多く、また秘境に充満する地脈の異常が神の目を持たない人間には強く影響しすぎることもあり、こういった秘境の調査は大マハマトラの仕事の中でも重要なものの一つだ。特に今回はこの秘境の中に証拠となる資料の保管がされている裏付けが取れていることもあり、冒険者やその他の者を雇って調査させることもできない。
 秘境の中はあまりにも予測できない世界だ。何を準備するにも諦めて飛び込むしかない。秘境調査についてはすでに草神クラクサナリデビに報告を上げており、一週間以上戻らなければ何らかの対策を講じることもすべて承知している。あとは自分たちの力量不足でうっかり命を落とさなければ一週間後には出られるだろう。
 セノは手荷物を簡単にチェックしてそのまま秘境に触れた。一瞬、秘境の入り口がセノの姿を大きく映し出しそして鏡面が揺らいだと思うとセノの姿はそのまま溶け込むように消えてしまった。フィネフェルも同じように秘境に触れてその深淵に飛び込む。目を瞑っても瞑らなくてもどの道何も見えない。時には恐怖を再現することすらあるのでどの選択肢をとっても失敗する時はする。
 秘境の内部は製作者の様々な思惑によって左右されるため固定された形式と言うものは存在しなかった。フィネフェルは自分の視界が戻ったことを確認するとまずセノの姿を探した。セノはフィネフェルの少し前を歩いており、すでに秘境の中を見聞している様子である。
 フィネフェルも簡単に秘境の中を見渡して、この場所が動いても即死のトラップが用意されたような場所でないことを確認した。簡単に見渡した限り、夜空に浮かぶ月に照らされた浮島の上という印象を受ける。部屋の中央には寝台らしきものが一つ、大きな木と水をたたえた泉が一つ、その他こまごまとしたものがいくつか点在しているがその細部までは一目ではわからない。
 フィネフェルより先に秘境の全貌をとらえていたセノは、小さくうめき声をあげる。
「七面倒な……」
「セノ?」
 セノはフィネフェルに顎で部屋の中央の寝台とそこに添えられた石碑を指し示す。
 古い文字だ。キングデシェレト文明の当時のものでさすがにセノもフィネフェルも一目では読み解けない。某書記官の話によればすべての若者は教令院卒業までに二十の言語を習得するというが、残念ながらその言葉は真実でもあり虚偽でもある。主語や挨拶、頻発する文面を理解することはできてもその細部を読み解くことができるのは知論派のごく一部の学者に過ぎないだろう。セノもフィネフェルもさすがに教本が必要だった。ただ、この石碑に書かれた文字は一つではない。大本となった文章の脇、あるいは石碑の横、そういったところにいくつもの文字が刻まれている。おそらく時代を重ねながら誰かが翻訳を繰り返しているのだろう。見慣れた文字も含まれており、その文面はセノとフィネフェルにも一目で読み通せた。そして絶句した。
「……フィネフェル、この場合性交は何を意味すると思う?」
「……射精までか?」
「男性同士の場合挿入する側はいいが、挿入される側はどういう判定になるんだ」
「そこまで聞かれても困るな」
 二人はそこまで話をして、大きくため息をついた。怒りか、あきれか、混乱か、処理しきれない状況に追われて瞼がひくついている。秘境脱出の条件として突き付けられたものから意識が飛んでしばしの現実逃避の後に、二人は迅速に動き出した。
 まず第一にしなければならないのは翻訳である。石碑の文字は複数の言語で翻訳されているようにも思えるが、そこに誤訳がないとも限らない。可能な限りすべての言語を照合しなにがしかのヒントがないか探るべきだ。そして同時にこの秘境にやってきた目的を果たさなければならなかった。幸いにしてこれはさほど時間がかからず、セノは秘境内を探索し学者の残した資料を発見した。次に秘境のほころびを発見することである。特に後世に作成された秘境にはポケットのように特殊な環境下で突然抜け落ちるように脱出できる場合がある。現実との整合性が取れない結果なのかもしれない。そのほころびを発見することができれば秘境の脱出の条件を満たさずとも脱出できる可能性がある。
 二人はこれを手分けして調査することになる。セノが秘境内の状況を一通り調査する間、フィネフェルは石碑にかじりついて文字を解読していく。幸いにして普段持ち歩いている手帳には、言語を照合するに必要ないくつかの情報は記載してあった。遺跡探索には時として古代文明の文字の読み解きが重要になってくるからだ。三十分ほどの調査の後に役割を交代することにして、そして交代を繰り返し半日後には二人は沈黙のまま床に腰かけていた。
 秘境は空中に浮かんだ浮島のようである。二人が座っている場所は明確に足場があるが、もともとこの足場は水に浮かんでいるものらしい。つまり土台となる浮島があり、そこはどのような形でか水で満たされている。その水の上にもう一つ足場を置いて今の形を作っている。水は浮島から流れ落ちて虚空へ消えていく。土台から下を覗いてみたが暗闇が広がるばかりでその先に何があるのかはさっぱりわからなかった。小さなものを落としてみると代わりに中央の寝台の上にぽつんと落ちてきたので、この空間はループしているらしい。この空間にあるものは中央の寝台と石碑、それから引き出し、木が一本だけ生えている。木の根元には大きなうろがあり、形状的にここが出口になりそうにも思えた。だが、結局何もない。木の根元には水が広がっており、美しい水が湧き出ている。引き出しの中身は見たくなかったが、潤滑油その他のものが置かれてり、とりあえず手に取って見聞してから戻した。石碑を翻訳するまでもなく、つまりそういうことなのだろう。
 石碑の翻訳は幸いにして簡単に済んだが、中身は簡単にはいかない。結局この秘境の出口を生成する条件は性交なのである。石碑の文字にはジンニーを呪う言葉が時々散らばっていたため、どうやらここはジンニーが作ったものと考えるのが妥当のようだ。
 秘境の中を調べる限り、ほころびは見受けられない。二人は顔を合わせるのも気まずく沈黙したまま床の一点を見つめている。口をきゅっと結んだままの沈黙がしばらく続いたがその先に口を開いたのはセノの方だった。
「フィネフェル、挿入する側とされる側どちらがいい」
 こういった場面で思い切りがいいのは大抵セノの方だった。自分の知識を最大限駆使してこれ以上ないほどこの秘境を調べつくしたということはセノ自身が本当によく理解している部分なのだろう。だから、もうこれ以上調査するよりも早急に資料を持ち帰りたいのならばセックスをした方が早いのだと、セノの中では結論が出たらしい。
「セノ……」
「さっさと資料を持ち帰りたい。次の仕事もある」
「あのな……」
 思い切りと割り切りのよさはセノには叶わないとフィネフェルは自覚している。だからもう少しだけ悩みたい気持ちはあったが、セノの心はすでに決まっているようだ。
「俺はどちらでも構わないと思っているから、そうすると俺がされる側に回った方がいいか?」
「嫌だ」
「なら俺が挿入する側か?」
「絶対に嫌だ!」
 フィネフェルの口からついて出たのは思っていた以上に強い言葉だった。喉から絞り出したような、半ば怒声に近い声に脳を揺り動かされたのは、自ら発言したはずのフィネフェルの方だった。思わずと言った様相で口に手を当てる。目を大きく見開いてセノを見ると、セノは口をへの字に結んで、目を細めた。
「嫌なのはわかるが」
 そこでセノは口をつぐむ。先ほどよりも威勢もなく、しゅんと落ち込んだ様子のその姿を見てフィネフェルは慌ててセノの手を取ろうとする。だが、セノは反応しない。
「セノ」
 フィネフェルは大きく目を見開いて、セノの手に触れればその手は小さく震えていた。
「嫌ならいい。もう少し方法を探そう。一週間待つのも手だ。だが先ほど学者の研究資料を見聞した時、この研究はもう一つ別の研究に繋がっている話が記載されていた、加えてそっちには犠牲者が出る可能性がある。早く、この資料を表に出したい。だから、俺はあと二時間調査したうえで何も発見できなければお前を叩きのめしてでも条件を遂行してもいいと思っている。それはできればしたくないが、覚悟しておけ」
 冷たい声だった。しかしフィネフェルはセノがこういった淡々とした事実を突きつけるようなことを言い出すのはセノ自身がショックを受けているときであると知っている。怒りではないのだ。ショックを受けたから、平静を保つために言葉から平静さを取り込もうとしているのだ。
 セノは立ち上がろうとする。その手に縋ったときフィネフェルは泣いていた。思わずして感情が溢れて、セノの言葉を大きく拒絶してしまったけれども、実際のところその言葉の真意はそこにはない。早く否定しなければと焦れば焦るほど涙が止まらなくなる。セノのことが嫌いなわけではないのだ、決して、決して、決して。
「セノ、待って、お願いだから待って」
「フィネフェル時間がない」
「違う! 嫌なんかじゃない!」
「……」
 悲鳴のような言葉は散逸した。どこまでも跳ね返ることなく虚空に消えていく。
「嫌じゃない、セノ。俺は……嫌じゃないんだ、むしろセノを、」
 抱きたいと思っている、と言う言葉はしりすぼみになって消えていく。セノの体が動揺するように一つ、震えたのがわかった。
「抱きたかった。ずっと。セノのことが好きだった。セノを抱いて全部俺のものにしたかった。でも俺はセノを犯したいわけじゃないんだよ。セノが受け入れてくれて俺のこと好きだって言ってくれて、それでセノが許してくれたら、って思ってた……だからこんな強制されるような形で、同意じゃなくて理性で、なんて、嫌だ……って」
 ごめん、とフィネフェルは言ったきり俯いてそれ以上何も言わなくなる。片手でセノの手を握ったままだったけれども、顔を見るのが怖いとでもいうように足元の石畳を見て唇をかみしめている。
 フィネフェルの頭をセノの手が撫でる。
「フィネフェル、すまなかった。お前はそういう風に思っていたんだな。俺もお前のことが好きだよ」
「……」
 嗚咽と涙の合間でフィネフェルは何かを言おうとしたが言葉にならない。
「俺は、お前のことが好きだよ。それはお前の出自に関係しているものじゃない。性愛を伴ったものなのかはよくわからなかったが、でもお前が俺をそんな風に見ていたと知って、それならいいかと思った。お前は……俺を抱きたいんだな」
「……うん」
「ならさっさと準備してくれ、あ、いや、俺が準備するのか?」
「俺がやりたい……」
「わかった」
 セノがフィネフェルの手を取って立ち上がらせる。兜だけを脱いで、セノはフィネフェルを泉の中に突き落とした。
「わッ」
 びしょぬれになったフィネフェルが慌てて水の中から顔を上げると、恥じらいもなく服を脱ぎ捨てたセノがフィネフェルの上に着地するように飛び込む。水がはじけて涙も消し飛んだ。
「わッ!」
「フィネフェル! 俺は初めてだ、のちのことも考えて傷はつけるなよ」
「わ、かった」
 セノを抱えてフィネフェルはどうにも視線のやりどころに困ったように目を泳がせたが、考えてみると今まで何度も風呂に入っている上に、一緒に抜きあった経験もある。今更かと思えば今度はこの状況に対する高揚感・興奮・欲求が湧き上がってきた。ずっと抱きたいと思っていた、好きだった相手がこのように身を許してくれる状況で勃起しないほどフィネフェルはまっさらではなかった。
「早いな」
 セノが兆したフィネフェルの陰茎に触れるので、さすがに気まずさと恥ずかしさを覚える。それを隠すようにセノの唇にかみつくと、セノは腔内で笑い声を響かせる。セノは声を出して笑わない。フィネフェルの方がずっと人前でよく笑うけれども、セノはフィネフェルの前では大口を開けて笑うことこそないけれど、口の中で笑いをかみ殺すようにわずかに笑うのだ。それがフィネフェルは好きだった。自分だけに許されたセノの喜怒哀楽を知っているからだ。
 舌を絡めて、腔内を丁寧に撫でていく。直接触れる粘膜の熱が心地よく、いつまでもこの場所にいたいような気がしてくる。セノを抱えて半身水に漬かっているから、下半身は冷えていくばかりのはずなのに気づけば全身が熱を持っていた。もっと触れてその奥まで全部犯したいと思う。喉の奥まで舐め尽くしたいけれど、さすがにそこまで舌が届かないから、代わりに歯を撫でてその形を丁寧になぞった。熱が触れ合って溶け合って、だんだん何を触っているのか感覚が崩壊していく。柔らかな肉の合間にある粒の塊がなんなのかわからなくなって、つい力を入れると鋭い犬歯で舌を切った。それを皮切りにフィネフェルはセノから口を離す。
「血なまぐさいキスだな」
「勢い余った」
「だろうな。息が途切れるかと思った」
 フィネフェルはセノを体の前で抱えたまま、水の中から立ち上がる。体を拭ってもよかったが、その時間も惜しい気がして、セノを寝台に降ろすとそのままお互い濡れたままもう一度口づけを交わした。ズボンが濡れて体温は常時散逸し続けているはずなのに、下半身の熱は冷める気配がない。
 それから口づけを何度も交わしながらフィネフェルはセノの細い体に手を添わせていく。この体は自分よりもずっと細いのに、自分よりもずっとしなやかに動くのだ。その筋肉の一筋一筋をいとおしむように丁寧に撫でると、セノは口づけの合間にくすぐったそうに身をよじって笑っている。
「フィネフェル、くすぐったい、さすがに無理だ」
「もっと触りたい」
「またいつでも触らせてやる。今は、少し時間がない。初めてが性急で悪いが、急ぐぞ」
「……それは俺のセリフだと思うけど」
「知らないな。それに俺も少し苦しくなってきた」
 見ればセノの陰茎もすでに兆していた。フィネフェルほどではないが、十分に持ち上がって先走りをこぼしている。
「……無理かと思ってた」
「今から抱かれると思いながら触れ合ってればこうもなる。お前は知らない仲ではないし、お前のことが嫌でもない。それに俺もつまりそういうことなんだろう」
 セノの表情はほとんど変わらないのに、その瞳がいたずらっぽく揺らいでいる。まるで子供が親をだませたようなしてやったりと言う感じを感じて、フィネフェルはしゃべっている最中のセノの陰茎を握りこんで軽く上下にこすった。声を出すのは嫌なのか、とっさに唇をかみしめたので傷にならないように指で唇に触れて、口を開けるように促す。あいたところに指を入れて「声を出して」と頼めば否定された。
「お前相手に悲鳴などあげてやるものか」
 セノの意地にフィネフェルは笑う。親友であり、思いを伝えあった今でも自分たちはライバルのような関係でもある。確かに自分が逆の立場でもセノに啼かされるのは癪に障る気がする。……先ほどぼろぼろと泣いたことはこの際記憶から吹き飛ばすことにしたフィネフェルは、セノにもう一度口づけして「中をほぐすから力を抜いて」と言う。
 とはいえその一言で力が抜けるのならばそんなに難しいことではない。意識を快楽に持っていってセノ自身も達することがなければそれはフィネフェルの一方的な痛みを与える行為に過ぎない。
「自分で握って刺激して。俺はこれから中をほぐして挿れられるようにするから、その間その感覚を快楽に置き換えて」
「難しいことを、い……ッ!」
 手早く潤滑油を引き出しから取り出して、手の熱を移す。そのまま尻のすぼみに指をあてて軽くも見込むようにするとさすがに抵抗があったのかセノは身をよじった。それでも律義に自分の陰茎を握ったままわずかに刺激を続けている。とはいえ手が震えているので意識は完全にフィネフェルの手に持っていかれた様子だった。
「セノ、続けて。挿れるよ」
「さ、す、がにキツいな」
「うんキツい」
「いや俺の気持ちの話だ」
「俺はキツくないすごく楽しい」
「そんな話は聞いていない」
 仰向けに寝かされ大きく足を開かされたセノは抵抗する術が少ない。フィネフェルの方を膝で小突くような形で抵抗を示した。とはいえこのような状態でもセノが抵抗したいと思ったのなら、二人の体格差も不利すぎる態勢の差も関係がない。この状態を甘んじて受け入れているのはセノの方だった。
 フィネフェルは指を中に進めていく。まずは一本、熱を持って絡みついてい来る体温をかき混ぜるようにかき分けるように少しずつ中に推し進めていった。異物に対してセノの中は困惑したように、フィネフェルの指を取り囲んで触れてその状態を探ろうとしているようだった。口の中以上に強い熱と締め付けが指を通して伝わってくる。揉みこむように動く体温にフィネフェルの熱はさらに上がっていった。
 潤滑油を足しながらさらに奥に進めていくと、セノの手は完全に止まって自身の陰茎に軽く触れるばかりになる。意識が完全に体の中に持っていかれている様子だった。それを見てフィネフェルは空いた片手をセノの太ももから離す。状態をよく見たくて足を大きく上げさせていたが、それよりもセノの感覚を前に持って行った方がうまくいきそうだ。セノの小さな手ごと陰茎を握りこんで上下にしごくとさすがのセノも口を閉じる方向に意識がもっていけなかったようだ。
「あッ!? くそっ、フィネフェル声をかけろ!」
「可愛いよ」
 セノはもう一度膝で小突く。
 中で指がグネグネと大きく動く感覚と、陰茎に触れられるいつもの感覚にセノの体が小刻みに震えている。そろそろ前の限界が近いかなと察して陰茎を触る手はそのまま、フィネフェルは指を一度抜くとそのまま二本目を挿入した。痛みが多少強いかもしれないと思いながら、この感覚を前につなげられたら話が早い。セノが達したのはそれからすぐのことだ。白濁を吐き出して腹を汚す。前から思っていたがセノの褐色を肌に白い精液が飛び散る様はひどく扇情的だ。可能ならば自分のもので汚したいと思えば、下半身にさらに熱が集まったような気がした。
 荒く息をついて脊髄から脳まで錯綜する快感に一瞬身じろぎしかしなくなったセノに三本目の指を追加した。感覚が麻痺している間に挿入できる準備を済ませておいた方がいい。まだまだ慣らしが足りないが、一度達したせいで体が弛緩している。指は比較的安定して中に飲み込まれていった。これほどあれば十分か、あと一本入れたい気もする。
 尻のすぼまりこそ弛緩しているものの、体の中身は今まで通り指に絡みつく。まるで吸い付いてくるような感覚に脳がくらくらとしてくるのを感じた。自分もそろそろ限界を感じている。直接的な刺激を与えていないせいでまだぎりぎり達していないものの、これ以上じらしたら触らないうちにそのまま出してしまいそうだ。
「セノ、挿れたい」
「うっ……いけそうか……」
「少し痛いかもしれん」
「いい……あまり長く時間をかけてもられない。あまりにも出血しないならそのまま進めろ……」
 達してから少しばかり冷静になったのかセノの口調がはっきりしている。
 ズボンを降ろせば限界にまで張り詰めた陰茎が、セノの中に挿入するのを今か今かと待っていた。セノは自身の足の間からその様子を見てさすがにいたたまれないのか、顔をそらす。
「……そんなに興奮したか……?」
「そりゃ、ね」
「そうか、それは……健全、な、こと、だな?」
 セノは困惑したように感想を漏らした。さすがに何を言えばいいのかわからないらしい。
 手のひらから熱を移した潤滑油を自身の陰茎に垂らして、尻のすぼまりに先端を当てる。指を引き抜いたばかりであるからまだわずかに口が開いたそこが挿入されるのを今や今やと待ちわびているようで、その光景に頭が沸騰しそうだ。
 ぐ、と腰を推し進めればセノは息をつめた。そのまま手のひらで口を覆って声が一息を漏らさないように必死な様子である。可能であればセノがなりふり構わず喘ぐのを聞きたくもあったが、今はその時間はなさそうだ。これから、これから何度もこういった機会は訪れるだろう。今回は許してやろうとフィネフェルは思う。次の時には声を聞かせてもらいたい。喉の奥からひきつるような快楽の悲鳴を耳の中に残したい。
 先端を飲み込んで、一番深いところをゆっくりと推し進めていく。フィネフェルは同時にセノの前に触れた。痛みか、混乱するような感覚のせいか、一度出したことも相まってセノの陰茎はすっかりとしぼんでいたが触れてやれば少しだけまだ芯を残しているようだ。
「セノ」
 フィネフェルが呼べばセノは視線だけをよこした。
「今誰に抱かれてるか思い出して、これからも何度も抱く相手のことを考えて」
 この腹に出すのは誰か、セノが今この行為のすべてを許しているのは誰か、全部、思い出せと命ずればセノも自然とそのことについて考えたらしい。瞳がうるんで、同時に陰茎が芯を持つ。挿入されている強い違和感から自身が今抱かれていることにきちんと意識が戻ったようだ。
 根元まで入り込んだ。今、セノのすべてを暴いているのはフィネフェルにほかならず、これからもフィネフェルただ一人だと思うと気がおかしくなるようだ。
「セノ」
 十分に芯を取り戻した陰茎に触れながら、わずかな間の後に少しずつ腰を送る。大きく出し入れを繰り返してもよかったが、初めてであまりにも強すぎる刺激は後に響きそうだ。今日は、不本意ながらも完全な状態ではない。もっと激しく追い求めるのはまた今度にしようと思う。どの道セノの中はぎゅうぎゅうと締め付けてくるのでそれだけで十分に達することはできる。それは体の反応でしかないとわかっていても、先端から根元まで、自分のものをセノのすべてが求めているようでその興奮は計り知れなかった。フィネフェルがわずかに動くたびに息が漏れるように小さく叩くような音が喉から漏れている。潤滑油で十分に滑る中はもう少し動かしても大丈夫そうだった。陰茎をしごきながら、片手でセノの足を支えて持ち上げて、そして少しばかり抜き出した自分のものを少し勢いをつけてセノの中に押し込む。終わりがあるわけではないのだ。なのに自分の根元とセノの尻たぶがぶつかって音がするとまるで先端がセノの体の最奥を突いたような感覚を覚える。錯覚だ、すべて、なのにその錯覚がセノのすべてを暴いた実感になってフィネフェルはその最奥ですべてを吐き出した。同時にセノの陰茎への刺激も強めたのでセノもほぼ同時に達したようだった。
 愛しさが頂点に達し、一息つくとすぐに冷静さが戻ってきた。中に出されたセノはさすがに感覚の面で復帰が遅い。口から手が離れてよだれが頬を伝う。目を瞑って必死に息を継いでいるのでフィネフェルはその唇にもう一度触れてから、ゆっくりと自身のものを抜いていく。
 セノの中はまるで抜かないでくれとばかりに縋ってくるようだった。その感覚にもう一度気が狂いそうになったが、泉とそれを守るように生えた木の根元で空間がよじれる感覚がある。扉は開いた、脱出までの時間がないかもしれないことを考えればもう一度セノを抱く余裕はない。
 小さな水音を響かせて抜き去ると、セノの尻の穴はまだフィネフェルの形を覚えているようにぽっかりと穴をあけている。その中から白濁が流れ落ちる様は実に、実に心地よい。
 フィネフェルはまだ湿っているズボンを手に取って、それをもう一度身に着ける。気分は悪いがあまり気にしている暇もない。兜と共に置いてあった資料を拾い上げ、まだ完全に元の状態に戻っていないセノを抱き上げて服を簡単に着せてやりセノを抱えたまま秘境の出口に足を踏み入れる。

 ジンニーが作った秘境の真の目的は残念ながら読み取ることはできなかった。ただあの秘境の入り口を覆うように用意された部屋がやけに華美な装飾であったのは、そのために用意されたものだったのだろう。
 濡れた服は砂漠を歩く途中ですべて渇いた。秘境から持ち帰った資料はマハマトラに引き渡され、関連するもう一つの研究もすぐに調査の手が入ったらしい。
 あの秘境に関してはクラクサナリデビによって封鎖を命じられ、今はその情報も秘匿されている。調査のために足を踏み入れる者は、恋愛関係にある者同士に限られる旨を含めて今後はある程度開放もされる予定だが、その詳しい脱出条件について明確にした者の名は誰にも明かされないことになった。その事実はクラクサナリデビと何かを察したアーラヴのみが知るところである。
 ……つまるところクラクサナリデビにはすべてが明らかになっているのだった。茶会のようにして呼ばれた報告の会で、セノはいつもの無表情のまま秘境の話を全てつまびらかにした。フィネフェルはそのくだりで絶望して頭をテーブルに打ち付け熱いお茶を頭からかぶることになったがもはやそのようなやけどの痛みなど、自分たちのセックスを克明に草神の記憶に刻まれた事実からすればさしたるものではない。クラクサナリデビがからかうこともなく真面目に話を聞いていたところがさらにいたたまれなかった。笑い飛ばしてくれた方がよっぽどよかったかもしれない、などと思ってスラサタンナ聖処を後にしたセノの顔を見ると疲労がひどい。
 なんだ、セノも同じ気持ちかと思うと気持ちは少しだけ落ち着いた。
 畳む


2024.1.20 執筆
#セノ #フィネフェル #R18

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フィネフェル