or 管理画面へ

No.60

SS

夕方多夕への恋詞

暗号学園のいろはを読了し、そのままドはまりしました。
いろはと同室の男子生徒五名が登場。名前の案出しとあと失言半減質疑応答のリポグラムのところだけChatGPTに手伝ってもらいました。

夢主:朝緋 恋詞(あさあけ・こいこと)1-E唯一の男子生徒。人当たりがよくあっという間に人の懐に入り込むくせに、夕方多夕のことになると気が狂うタイプ。そこそこいいところの出身で多夕とは幼馴染。(きょらと家雪とは面識がほとんどない)両親が政治家で多夕の父親の側近だった。一応親同士がまとめた許嫁ではあったが、現在は破棄されている。両親はまとめて監獄行。多夕と幼いころにしりとりをして負けた時に「将来結婚する」と口約束したことを律義に信じている。多夕は覚えてはいるもののそこまで信じてはない。多夕とは異なりきょらのような頼れる人がおらず小学生時代はずいぶんと苦労したが、中学生になって多夕と再会。多夕に「失言半減質疑応答」にてすべてを赤裸々に話、ついでに「オナニーのおかずは君だよ」と告げた結果多夕がドン引いて話をしてくれなくなった。ゆかこときょらもだいぶ引いて、なるべく多夕と恋詞を近づけないようにしている。
今回の話には多夕は出てこない。

#暗号学園のいろは #夕方多夕 #朝緋恋詞

 暗号学園男子寮は全員が同室という、女性の学生が多い中で大層な扱いであった。加えて、彼らは学園の中でトップの実力を誇る男子たちではない。あくまで数合わせ、あるいはジェンダーの問題から引き込まれた学費無料の「贔屓」された男子である。女性多数の中の男子一人は周囲から見ればうらやましい限りだろうが、恐ろしいまでの才能を集められた一クラスの中、ほぼ無能という空気にさらされた男子たちの寮からは活力が薄かった。もちろん彼らは本当の意味で無能なわけではない。晒されてきた環境が違うだけでそれなりに勉学にも秀でている者たちがほとんどだったが、同クラスの女性たちはそれをさらに上回るのだ。
 その空気を消し飛ばしたのがいろは坂いろはという男子生徒であった。クラスでもそれなりにうまく女生徒との立ち位置を持っている彼は、男子寮でもうまくやっていた。女性とも男性とも見えるその姿は両者からの信用を集めやすい様子であった。
 授業も終わり疲弊しきった顔の男子諸君が部屋に戻ってくる。別段女生徒から何を言われたわけでもないだろうが、癖の強いクラスメイトと共にいるだけで疲労は極限に達している。狭い和室に計六名の男子が集まり、ちゃぶ台を囲んでいる。畳こそ真新しいものの、建物内の部屋の配置から明らかな疎外感を感じざる得ない。暗号学園において男子は今のところそのような扱いだった。そんなわけで今や男子たちの結束は固い。ついこの間であったばかりであるというのに、ある意味女生徒という敵だらけの環境で男子生徒は強く手を握り合い結束して生きていくことが暗黙のうちに決まっていた。誰から言われずとも役割が徐々に決まっていく中、いろははムードメーカーでもあった。ただ、今日に限って言えばいろはの表情は暗く、ほかの男子たちはどうやって彼から事情を聴きだし励ますかということで、ひそひそと部屋の片隅に固まっていた。
「おい、いろはの奴どうしたんだよ」
 D組の余命結人(よめい・ゆいと)はひそひそと声をかけた。
「いやそういうことは恋詞に聞けよ……オレらは別に情報収集は専門じゃねぇって」
 困った顔をしたのはF組の蔵下実学(くらした・みがく)である。今日は血に汚れた白衣をもって帰ってきたが特に何も言わなかったので同室も何も聞かなかった。特命クラスについては聞かないことがいいことが山のようにある。
「恋詞、なんか知ってるわけ」
「知っているも何も」
 E組朝緋恋詞は普段から人当たりがよく、少し抜けているところも多い男子生徒だ。男子であるとどうしても互いを競争相手と見がちなところがあるが、恋詞はいろはと性格が似ている。協力を得意とし、同時に自分が弱いことを知っていて相手に自然と助力を請うことができる。
 暗号学園の男子生徒は、皆、どうでもいい男子たちが集められたということになっている。もちろんそれはある一定ラインで事実だが、それでも多少なりともその素性や性質は選ばれたものだ。決して、そのクラスの性質に馴染まない者が選抜され配属されたわけではなかった。いろはは暗号のいろはも知らなかったがそれでもあっという間にその才能を開花させたように、誰しもがそれなりに素質を持っている。
 朝緋恋詞はそういった意味で潜入捜査には恐ろしく適した人材だ。人当たりがよく、他人がつい助けたくなる、女性からすると「自分がいなければだめなんだ」という庇護欲を駆り立てるところは他人の懐に入る逸材であった。変装も、何もかも不得手であるが彼はいつの間にか人の間に溶け込んでいる。いろはもA組でよくやっているが、その次にクラスに馴染んでいるのは恋詞だったかもしれない。
 その恋詞の表情が普段とは全く違うことにC組の知生知(ちせ・とも)は気づいてそれ以上の言葉を続けるのはやめた。実のところ知も周囲の人の表情や動作から何があったか知っていた。どうせ恋詞も知っているだろうし、合わせて話をしようと思ったところで恋詞の表情を見てやめたのだ。
 明瞭な怒り。あの人当たりの良い顔から滲み出す苦痛と憎悪とそれから嫉妬の視線がはっきりといろはに向いている。
「おい恋詞、お前どうした」
「どけ輪」
 B組嘘坂輪(うそさか・りん)もぴたりと口をつぐむ。精神感応などなくとも彼が明瞭な怒りを抱えていることはよくわかる。潜入捜査クラスの恋詞は普段は感情がわかりにくく、何を言ってもあまり怒った様子がない。というのに今日はどうしたことかと同室の者たちがおびえながら、立ち上がっていろはの元に向かう恋詞の様子を見ていた。まさに一触即発の空気だ。
 いろははゆっくりと顔を上げ。
「恋詞……ごめん、怒ってるのはわかるんだけどボク、今日はちょっと喧嘩する気も起きなくて」
「いいや喧嘩してもらおうか。もちろん暗号バトルだ、覚えてるだろ、今日プレイしたばかりの失言半減質疑応答」
 いろはは恋詞の名前を呼んでもう一度下げていた頭をパッと上げた。その表情に浮かぶのは目の前の男に対する恐怖そのものである。
「せっかくだしオレらもやろうじゃないか。そしたら教えてやるよ、オレがなんで怒ってるのか」
「待って、それは、本当に」
 いろはは歯の根も合わぬほどに震える口と手で必死に恋詞の言葉をかみ砕こうとしている。それだけは今は絶対に聞きたくないとばかりのいろはの手に、恋詞は無理やり二十三枚のカードを握らせた。それは奇しくも今日の午後に夕方多夕が用いたソレと全く同じものであった。いろはの顔が一気に青ざめる。
「質問させてやるよ、お前が質問する側ならそんなに怖くもないだろ」
「待って、ボクは本当に」
「黙れ、オレから質問するぞ」
「わかったよ!」
 恋詞の言葉はもはや有無を言わさぬ強制力があった。すでに精神力を疲弊させやっとのことで部屋にたどり着いたばかりのいろはは恋詞と喧嘩をする気力すら生まれない。半ば強制されるようにして恋詞の勝負に乗ってしまったいろはであったが、今回は多夕に勝負を挑まれたときに質問を投げかけられたこととは全く違い、自分が質問する側に回れるようだった。それが幾分いろはの気持ちを持ち上げさせた。
「なにをおもってこゑをあげたの?(なんでそんなに怒っているの?)」
「まえは『たゆう』と わをまし られた(お前が多夕と言葉を交わしたから)」
 テンポは多夕との質疑応答よりもはるかに遅い。むしろ恋詞がそれを望んで一言一言かみしめている様子だ。
 いろはは明らかに驚いた表情をして、それから眉をひそめた。

 外野では知がひっそりと残りの三人に説明をしている。残りの三人は失言半減質疑応答のルールとその内容に追いつけていない。
「失言半減質疑応答、東洲斎派の夕方多夕がよく使うリポグラムだよ」
「リポグラムってあれだろ、文字限定の遊び。どういうことだ?」
「今日の午後さ、いろははその夕方とこのゲームをやったんだ、って話だけどね。僕も正直本当なのかわかんない。いろんな人の表情とかやり取りからそういうことがあったらしいってのを聞いただけだし、ソースも少ないし」
「でもそれが何なんだよ。恋詞は多夕って言ってたから……その多夕と関わりあるんだろうけど、多夕ってA組の奴だろ。恋詞ってなんか多夕とあったのか?」
 輪がいろはと恋詞の様子をうかがいながら声を潜めて知に尋ねる。
「ああ……うーんまぁ僕も自信ないけど、恋詞はたぶん夕方のことが好きなんじゃないかな」
「……そういうことか……」

 外野のやり取りなど一切構わずいろはと恋詞は質疑を進めていく。
 いろはは一言目の質問で動揺したが、同時にその表情も含めてすでに恋詞の怒りの根源を理解しつつあった。ただ、自身がトラウマを植え付けられた以上、その内心にどこまで迫っていいのかについて悩んでいる。それが間を産み、今度は恋詞が仕掛けてくる。
「おまへは『たゆう』と なにして そふなことに?(あなたはなぜ多夕と失言半減質疑応答をすることになった?)」
「と、とつせん、そちこそおこしてきたの(む、向こうから突然仕掛けてきたんだよ!)」
 いろははそこで攻勢に転じる。暗号学園にいる以上、必修科目として暗号に関わる基礎教科が存在する。つまりこのリポグラム「失言半減質疑応答」はこの部屋の誰もがすでに習得している内容だった。それでも夕方多夕ほどの速度、あるいはいろは坂いろはのように高速で回答ができるかと言われるとそれは即座には難しい。少なくとも言語の構築と理解にはそれなりの時間を要する。少なくともいろはを除く五名がここまでリポグラムを使えるとはいろは自身も思っていなかったはずだ。恋詞は慣れた様子で言葉を繰り出すので、トラウマになっていたいろはの中に精神生命の危機がよぎり一気に頭が覚醒していく。トラウマを植え付けられてなお、この反応を見せるのはいろはの特異性でもあった。
「きみ、かのこと、おもてゐるの?(あなたは彼女のことが好きなの?)」
 このぐらいだったら許されるはずだ。ちょっとしたコイバナ、だれもが気になるあの子の気持ち、程度だろう。いろははこの場で恋詞にトラウマを植え付ける気など何一つない。ただ、恋詞が何に怒っているのかについて、またあれだけのトラウマを抱えていることを知っていながらなお、この勝負を仕掛けてくる恋詞に少なからずの怒りを抱えている。その鬱憤晴らしではないが、今後その怒りの矛先に触れないために事情を明かしたいとは思っている。いろはにとってはすでに先ほどの表情と多夕に関わる話題で結論はほぼ出ているようなものだったが、おそらく恋詞はそれを明瞭に口にさせたいのだと察したのだ。
「そうや、わたしは『たゆう』とまふ(そうだ、オレは多夕のことが好きだ)」
「なら、きみもかのことこのあそひにてをなせ(じゃああなたも彼女とこのゲームをすればいいじゃないか!)」
「『たゆう』は おれと あそべぬのや(多夕は俺と遊んでくれないんだ!)」
「きみ、ことにおいてこえたの?(あなたが勝ったってこと?)」
「『たゆう』とはいつも わにふれぬままや(オレは多夕に勝ったことがない)」
「なら、なにゆゑかのこは、きみとあそひせぬの?(ならなぜ彼女はあなたと遊んでくれないの?)」
「おれのはんへん、まるてうけられん(俺の回答が全く受け入れられなかった)」
「なにこたへしか、おしえて(何を答えたのか教えて)」
「おれは『たゆう』へ ひめぬまま、まことをやり、かのをいとふとつたへたのみ(オレは多夕に隠すことなく愛してると伝えただけだ!)」
 さてそこで外野が限界だった。ドッと笑い声が起きていろはの集中が途切れる。
「そこまでっ、そこまでにしよう!」
 輪がひたすらに笑っている。
「恋詞、君が多夕のことめちゃくちゃ好きで全部筒抜けにした結果、夕方がドンびいたって話でしょそれ」
 実学が呆れたように言うと、恋詞はきょとんと眼を丸く開いた。
「なぜ引くんだ」
「なぜも何も……」
 知は呆れを隠せない様子である。
「夕方のあれはある種の拷問じゃん。要するに言いたくないことを少ない語彙で言わせるためのゲームでしょ。ふつうはいろはみたいにしばらくトラウマになるっていうのにさ、それはそれは全部つまびらかにされて、というかもしかして夕方で抜いてるとか言ったんじゃないの」
「オレのおかずが多夕以外にはありえない」
「ぐ……ッん、ふっ……」
 結人の腹筋が限界を迎えてちゃぶ台の下に突っ伏した。頭が限界を迎えているいろはですら「女性にそんなことを言ったの!?」とそのまま畳の上にひっくり返った。
「いやぁ同室の意外な側面……おまえってもっと頭良くて人のことを考えられるって思ってたけど、多夕に対してだけはだめってすげぇ意外だわ。でもそりゃ多夕も構ってくれないだろ」
 実学はひたすら笑っていたが、恋詞がすぐそばまで迫ってきてカードを渡してきたところでピタリと笑いを止めた。
「お前、次に『多夕』って呼び捨ててみろ、お前にトラウマを植え付けてやるよ」
「すまなかった、愛だな、愛。うん、実に純愛だ、夕方さんが振り向いてくれるといいな。応援するよ。それよりも夕方さんのことになると口調まで変わるの、本当に面白な」

畳む

戻る

Category

Hashtag