クロロがスキルハンターのとあるページを開いたのとほぼ同時に分厚い、ウボォーギンであれば単身で開けられたであろう石の扉がゆっくりと持ち上がった。衛兵の明かりが廊下の一番端に見えるが、クロロたちはもう今は明かりを持っていないのでクロロたちの様子が衛兵に見えることはないだろう。
扉が完全に開ききれば何かロックがかかったのか、特に落ちてくる様子はなかった。そしてその瞬間、クロロの身体を纏っていた纏すらも、それこそろうそくの火が消えるかのように掻き消えて、スキルハンターも右手から消える。
肩をすくめたクロロを一瞥してから、シャルナークとウボォーギンは走り出す。といってもそのまま行けば衛兵とぶつかるだけなのでほんの少しの助走をしてから真上に飛び上がった。
非常に背の高い廊下は上に行けば行くほど幅が狭くなっていたから、腕を突っ張るにしてもまた石の壁は指をひっかけるにしても比較的簡単にできる。シャルナークとウボォーギンはそうしてしばし衛兵がクロロに何事か怒鳴って彼を連れて行くのを見ていた。
ウボォーギンの腰布がもぞもぞと動いて、イシスが姿を現す。


「危なかったね」

「歴史の一部ってどういうこと?」


シャルナークはイシスと会話をする気がないのか、つっけんどんな物言いをする。
イシスは少しだけ驚いたような表情をしてから、うーんと唸った。


「説明は・・・あの・・・団長さん?のところに行ってからでもいいかな?どの道一度は彼に会いにいかなきゃ」


イシスはそんなことを言った。ウボォーギンとシャルナークはお互いに顔を合わせて怪訝な表情をする。


「大体なんであんなとこに居たんだよ」

「僕?僕たちも君たちと似たような感じでちょっとヘマをして閉じ込められたんだよ。あ、安心して僕が閉じ込められたのは一日前ぐらいなもんだから。どうしようかって思ってたんだよね」


イシスは心底ほっとしたようにそんなことを口にした。


「念を使えば脱出できるけど、そうもいかないから」

「君さぁ、自分が念使いだってバラしてもあんまりいいことはないよ」


その口調に半分ほど脅しが入っていることに気づいたのだろう、イシスもはっとして口を噤む。しかしそうでもしないと説明がつかないのも確かだ。


「・・・ところで君たちって一体何なんだい?盗賊さんだよね?」


話をごまかそうとしたのか、それとも純粋な興味なのか、イシスが次に口を開いてきたことにどのように答えようかとシャルナークは一瞬思案した。ウボォーギンはそもそもこの類の回答に対しては全てシャルナークに丸投げなようで、腰にイシスをぶら下げたままあくびをしている。


「うーん何って言われても、幻影旅団?」


ぱっとイシスがウボォーギンの腰から手を離した。だがそこで逃がすわけもなくウボォーギンの大きな手がイシスの襟首を掴み、イシスは宙吊りになって「ぐえっ」とカエルが瞑れたような声を出す。


「幻影!旅団!!最悪だ!!」


イシスはまだ何か下の方で動き回っている衛兵たちに聞こえないようにだが、叫び声とうめき声を同時にあげた。


「まさか、団長っていうのは、」

「旅団の団長だね」

「もしよければこの手を離してくれても構わないよ」

「断るぜ」


にやっと熊のような巨体の男に笑われて、そうでなくても小さいイシスはきゅっと口を結びできる限り身体を小さく小さく丸める。


「なんてこった!一難去ったらまた一難なんて、よく言ったものだよ・・・」


心なしか元気のないイシスは相変わらずウボォーギンに襟首をつかまれたままブラブラとゆれている。


「ところでそろそろ首が絞まってるんだ、もう一度腰にしがみついてもいいかな?」























三人がピラミッドから抜け出したのは、クロロが衛兵たちに連れて行かれてから二時間ほどたってからだったと思う。その間にイシスは何度も手が痛くなったようで色々と体制を変えていたが、それが邪魔だったのか最終的にはウボォーギンの肩に乗せられていた。まるで大人と子供・・・・という以上に身長差のある二人を見ていると、なんだか自分の感覚がおかしくなりそうだとシャルナークは思う。
手に取り出した携帯は画面を見ても圏外になっている。とはいえ圏外だろうと関係ないので、シャルナークは何の警戒もせずに歩いているイシスの首筋に、持っていたアンテナをぷすりと刺したのだった。


「・・・・」


沈黙が流れてそれからゆっくりとイシスが振り向こうとしたが、シャルナークは携帯をいくつかいじってそれは許さなかった。


「あの・・・なんか今・・・ぷすって・・・」

「そうだね」

「体が・・・・上手く動かないのですが・・・」

「逃げられたら面倒だし」

「でも・・・お話は・・・できるのですが・・・」

「意識がないと案内してもらえないだろ」


シャルナークはとても良い笑顔でそんなことを言った。要するに抵抗はするな、でも案内しろということなのだろう。シャルナークの能力はこういうときに便利だ。別に動かしたいと思ってもいない手足が勝手に前に出るイシスは目を白黒させながら、しかしその行く先が目的地であることがはっきりとわかった。


「・・・最悪だ。この上なく最悪だ」

「安心しなよ、こんなの大したことないよ。何?それとも腕の一本へし折った方が良かった?」

「ごめんなさい、案内します」


2014/03/01

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