先の見えない不安

 ウソップが何か仕込みをしていたことに、Mr.3とMr.5が気づいたときにはすでに油をたっぷりしみこませた糸を加えたカルーが走り出したところだった。ぼたぼたと油をたらしながら、蝋でできた趣味の悪いケーキに巻きついていく。ある程度巻きつき終わったのを確認するようにウソップがゴーグルをはめて、にやりと笑うと彼は懐のマッチに火をつけたのだった。

 「てめぇ!!」

 ガッとMr.5はミズキを殴るって地面に叩きつけると、再びウソップに向かって走り出す。しかしそのときにはすでに火は油のしみこんだ糸を伝って蝋を激しく溶かし始めていたところだった。ぎゅっと目を瞑ったナミとビビが炎に包まれていく。ゾロだけは足を捕らえて離さない蝋が溶けるのを今か今かと待ち受けているようで、目を見開いたまままっすぐにMr.5を睨みつけていた。
 麦わらの一味の反撃は一瞬のうちに終わった。すでに手の内をさらけ出してしまったMr.3とMr.5そしてミス・バレンタインに勝ち目などなく、ミス・ゴールデンウィークはいつの間にかその姿を消していた。どの道彼女は戦闘員ではないようであったし、敵として害をなさないのであればわざわざ追う必要もないだろうと見逃し、全てが終わって全員がため息をつく。
 ほんの少し寄ってすぐに出発するはずだった寄港がとんでもない大騒動になってしまった。

 「いってぇ・・・」
 「あんたって本当に馬鹿ね。まずは自分の身を大切にしなさい」
 「今回は失敗しただけだって、うまくいくときもあるし・・・」
 「じゃ必ずうまくいくようにしてから使いなさいよ!」
 「ぜひそれはゾロにも言ってくれ!」

 あの蝋の足かせから逃げるために足首を切り落とそうとしただなんてまったく持って笑えない。突如話の中心に引きずりだされたゾロは露骨に顔をしかめてそれしか方法がなかっただろうが、といかにも不機嫌そうに言ったが口ではナミに勝てるはずもなかった。ひとまず次の島で二人ともきちんと治療をするということを約束させられて、しぶしぶながらも頷いたゾロと、割と本格的に腕が痛くて動けず頷くほかないミズキはお互いの傷を見てからため息をつくのだった。

 「おいミズキ
 「ん、何?」
 「お前なんで毎回魚人空手使うたびにそんな怪我すんだ。普通はそんなに身体に負担をかけるようなもんじゃねぇだろ」
 「あー・・・・」

 確かにゾロの言う通りで、魚人空手も魚人柔術も本来は身体への負担をできる限り押さえ、もっとも効率よく力を出す方法を模索する。だが実はミズキの魚人空手はほとんど見様見真似で覚えたもので、本当の意味で魚人空手とは程遠い産物なのである。

 「おれの使う型は正確に学んだもんじゃなくて本当に見様見真似でさ、魚人のときなら魚人の持ってる筋力でサポートできるんだけど、人のときは対応できないんだよね・・・・」
 「それは、本来魚人のみが使うって意味じゃあねぇのか」
 「違う違う。魚人空手も魚人柔術も魚人と人魚の間で生まれたものだけど、普通に人間も使えるよ。骨格的な要素は同じだし、ただ水流をつかんだりってなると圧倒的に魚人の方が手馴れているし、水に立ったり触れたりって感覚をわざわざ覚える必要がないってだけ」
 「水に立つ?」

 ゾロが首を傾げる。

 「水中でね。水面は無理。水面って空気と水の境目じゃん。でもいわゆる水面の下に立つってのはできるけど」
 「へぇ」
 「魚人は水の中で生まれて最初は水の中にいることがほとんどだから、水に触れるとか立つってわりと日常的な感覚の中で覚えていくんだよね。それの延長線上だからある意味型さえ覚えればいいんだけど、人間の場合はまずその感覚を養わないといけないでしょ。だから難しい、でもできないわけじゃあない」
 「おれにもできんのか?」
 「ゾロは向いてない気がするけどそのうち海でも斬りそうだよね」

 ミズキは冗談交じりにそんなことを言ったが、ゾロは本気なようで、海賊王の船に乗ってるんだったら斬れねぇものはねぇぐらいじゃねぇとななんてやけに楽しげに言うのだった。
 いずれ、どこかで学びなおさねばとミズキは思う。今後さらに激しくなるだろうグランドラインでの競争に、中途半端な今の力が通用するとはミズキも思っていない。だが、どこでと問われるとまだミズキにはその未来が見えない。アーロンと袂を分かつことがなければ彼が師になっていただろう。フィッシャー・タイガーなき今は最後に頼るとすればジンベエのほかないが、現在王下七武海に名を連ねる彼に一介の新米海賊であるミズキが会いに行くことなど到底不可能であった。

 「あー・・・・」
 「・・・・・」

 未来はまったくみえてこない。ここに悩む少女が二人。これから先のことを案じてもしょうがないということは頭でわかってはいてもそれでも思考がとらわれたきり前に進めなくなるのである。
 ミズキもビビも己ではなく己に関わる様々なものの行く末に思いを馳せていた。もしかしたらそんな気持ちが伝わったのかもしれない。ふっと顔を上げて目の会った二人はほんの少しだけ笑うのだった。




 
2015.08.13

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