ニコ・ロビンの示す新たなる進路を拒んだ一味がたどり着いたのは、いまだ原始を残す小さな島であった。うっそうと茂った木々が光をさえぎり、陰鬱な雰囲気が漂っている。とてもニコ・ロビンの告げた名のどこかかわいらしい雰囲気があるとは思えなかった。あの名は一体何に由来するのか。島の中央を割るようにして流れる川をゆっくりと進んでいくと、川の頭上まで木の枝が差し迫って、日光をさえぎっていた。

「こんな島じゃとても町で食料補給なんてことはできそうにねぇな」

「いや意外とあるかもよ」

「おれ達が肉にされそうだぜ」

ミズキとサンジが顔を合わせてカラカラと笑っている間にも、すでにナミとウソップは逃げ腰だ。ナミがログがどのくらいの期間でたまるのかを気にするのはなにもビビのためだけではないだろう。
時折響く地響きと、見慣れない植物が、今までの島以上にここが未知の世界であることを告げていた。少なくともウィスキー・ピークも双子岬もそこにある植物はそれあなりに目にしたことのあるものだ。グランドライン特有のものもあるとはいえ、ミズキですら記憶にないような植物が、このリトル・ガーデンでは生い茂っていた。

「おれは冒険する!!」

「わ、私も一緒に行っていい?」

「おれァ散歩に行ってくる」

ルフィとビビは存外この島が気に入ったようで、ログがたまるまで大人しくなどしている気はさらさらないようだった。サンジの弁当を持って、いつ帰るなどという約束もそこそこにあっという間に船を飛び出していってしまい木々の間に姿を消してしまう。その後を続こうとしたゾロとサンジの間で一悶着あったのはいつものことなのだが、そこでサンジまで熱くなって飛び出していくのは想定外だった。船の上に残されたのは、特に行くあてもないミズキと、恐れのあまりに島へ踏み込むことさえできないナミとウソップのみ。ゾロとサンジの足音も密林の奥深くに飲み込まれるとほぼ同時に、二人はばっとミズキの方を向いた。

ミズキあんたはどこにも行かないわよね!?」

「そ、そそそそうだぞ!おれたちは誰かがいないと死んじゃう病なんだ!!行かないでくれぇえええ!!」

「お、おーけい・・・この近くで魚捕ってるよ」

涙ながらにナミとウソップにすがりつかれては、自分もちょっと散歩に行ってくるなどとは口が裂けても言えそうにない。ミズキは喉のところまででかかっていた言葉を飲み込むと、改めて近くにいることを告げれば二人は目に見えて安心したようだった。
川べりまで迫っている植物は水面にまで張り出ている。ナミによればこの川もそこそこ深いらしく、だからこそメリー号が島の真ん中まで入ってこれているのだ。これだけの水の源泉はどこにあるのかわからないが、もしかしたら島に降った雨の全てがここへ流れてくるのかもしれない。

「それじゃちょっと潜ってくる」

「・・・ってミズキ!?あんたまさかこんな濁った水の中に入る気!?」

「そりゃ、まぁ」

「やめなさいよ!何がいるかわかんないのに!」

「大丈夫だって、水の中ならいくら人間になっても私の方が強いから」

濁っていたって肌に触れる水の流れに注意していればさほど怖くはない。水をかぶって人になってしまうと、水流の感知能力も随分と下がってしまうが、それでも人に比べれば圧倒的に水中での感知能力はミズキの方が高かった。ミズキ曰く、コツがあるらしくそれを掴めば普通の人でも濁った水の中のことを把握できるようになるらしいが、一朝一夕の努力では難しいだろう。
ともかく、ナミが引き止めるのにも関わらずミズキは甲板から躊躇なく水の中に飛び込んだ。飛び込む際に気をつけるのは深いところか否か、程度のものだがそれは事前にナミに確認しているから問題ない。少なくともミズキの身長以上は深さがあるということなので、このぐらいの高さから飛び降りる程度ならなんともないだろう。
ドボン、という水音と共に視界は泥水に閉ざされてしまう。目を開いていても目の前に差し出した手の形がわかる程度で、とても視界は効きそうになかった。
(わぁ)
ぶくっと口から息を吐き出して、ミズキは水へ入るときも当然持っている長柄提灯を振り回す。水中での抵抗は空中でのそれに比べてはるかに重く長柄を支配する。だが、それもまた流れがあるのだ。水の中の流れに逆らわずに体を動かし長柄を動かせば、抵抗をほとんど感じることはない。
迫ってきたのは体長3メートルにもなろうかというナマズだった。さらにそのおこぼれに預かろうと小さな魚もわらわらと近くに寄ってきているが、ミズキはそれを長柄で牽制する。水中での動きは魚人と大型魚で五分五分、小型魚となるとその俊敏性には魚人といえどもかなわない。こういう場所にいる肉食魚は非常に獰猛で、共食いまでする連中だっているのだから、最初からある一定の距離以上近づかせてはいけないのだ。
ミズキは水を蹴って前へ進む。泳いでいく中で微妙な水流・水圧の変化をできる限り感じ取ろうとするが、ここいらには非常にたくさんの魚が密集しているせいか、とにかくたくさんいるという程度しかわからない。川のように幅が狭いと手づかみした方が楽かとも思ったのだが、これだけ密集していてかつ餌に飢えているのなら、釣竿をたらせばすぐにいくらでも釣れるだろう。何がつれるかはよくわからないが、そこはサンジの腕の見せ所、ということにしておきたい。
ミズキはもう一度水中を蹴って水面に顔を出した。潜っていたのは時間にして十分程度だったが、果たしてその十分の間に何があったのだろう。一度大きな振動があったことは覚えているが、それ以外はさっぱり何も、何が起こったのか見当すらもつかなかった。船から離れてしまった距離をつめて、甲板に上ってもナミもウソップもいない。残りのメンバーが帰ってきていないのは勿論、暴れた様子もなく忽然として消えてしまった二人に、ミズキはびしょぬれのままぽかんと口を開ける。

「これは・・・どうしようかな・・・・・」

ぽつりと呟いても船の上では誰も答えてくれない。仕方なしに服にしみこんだ水を絞って改めてミズキは長柄提灯を手に持った。

「まぁ、いなくなったものはしょうがない!おれも出掛けるわ!」

一人そんなことを声に出しても、やっぱり返してくれる言葉はなくてほんの少しだけ不安になった。














船は空っぽだが、周囲にはほとんど人の気配がないから大丈夫だろうと勝手に確信して、ミズキは今度は水の中ではなく森の中に分け入っていった。船から続いた真新しい道はしばらく川から垂直にまっすぐ続いていたものの、やがていくつも分岐する一箇所に紛れ込んでしまった。ミズキがもう少し観察力があれば、どの道に真新しい足跡があるかまでわかっただろうが、あいにくとミズキはそこまでの洞察力は持ち合わせていない。踏みしめられた植物となぎ倒された木が作る道は三方に別れ木々の間に消えている。
ミズキはしばらくの間、どうしようかと三叉路の根元でうろうろしていたが結局、三叉路にずどんと長柄を突きたてた。

「こういうときは運だより!」

提灯がついている部分を下にして、まっすぐ天を指している長柄からゆっくり手を離すと、長柄は運命に導かれてかそれともただ単純に重力に引かれてか三叉路の真ん中の道を示した。長柄を拾い上げてミズキは迷いなく長柄が示した道を進む。元より楽観的な思考とはいえない方だが、長い旅路で迷っても仕方ないものと迷うべきものの区別はついているつもりだった。開けた道は曲がりくねって木々の間に伸びている。よほど大きなものが歩いたのか、道の幅は広くそして足元は良く踏み固められて歩きやすかった。ミズキはそこをあまり急ぐわけでもなく進んでいく。急げばわかりやすい目印を見失うからだ。そうして歩くこと30分あまり、ついに道の端に来たか・・・と思ったミズキだったがどうやらそれは勘違いで、ミズキの進む道をさえぎっていたのは巨大な得体の知れない動物であった。
密林の一部が切り取られたかのように開いている道の真ん中にその生物はぐったりと体を横たえている。よく育った木と見間違うほどの手足は、とてもしっかりと太く重量があることを思わせた。一瞬ぴくりと動いたその巨体にミズキは体の前に長柄を構えたが、その体の向うからひょっこりと顔を出したのが見慣れたコックの顔であったものだからミズキの体から一気に力が抜けた。

「サンジ」
「ヨォミズキちゃん!なんだミズキちゃんも冒険か?言ってくれれば弁当用意しておいたのによ」


2014.08.14

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