故郷への覚悟

状況を簡単に説明するとこうらしい。
バロックワークス、という賞金稼ぎの集団にとある王国の王女様と護衛隊長が密かに紛れ込んだ。理由は不明。そしてそれがバレて追われている。理由は不明。
わからないことが多すぎるが、簡単に整理してしまうとそういうことらしい。あまりの不穏な雰囲気にさすがにシャンプーを追ってる場合じゃないらしいと判断したミズキは、黙ってナミの後ろにひっついていたわけだが、どうやらゾロの方も片づけが終わったようだった。
何故か喧嘩に発展していたゾロとルフィをナミが引き剥がし、ついにミズキも事件の渦中の王女、ビビと対面した。
彼女の話すことはここでは深く語るまい。大筋は冒頭の粗筋であって、重要なことと言えば主犯が王下七武海のクロコダイルだということぐらいだ。


「クロコダイル!?」


かつて8千万ベリーの賞金をかけられた、彼は比較的七武海入りが早くそのために賞金額はそれ以上上がらなかった。ミズキも詳しいことはジンベエが話してくれたこと以上には知らないので、どんな能力者なのかもわからなかったが、それでもまだ自分達が対面するには早すぎる相手であることは確かである。
その名を聞いてすでに乗り気ではないナミは話を蹴って帰ろうとする。


「おれもナミに同意だな。それに今七武海とぶつかれば全滅だし、というかおれも別の面倒ごとに巻き込まれてて、そっちを何とかしないとどうしようもないし」

「そういやお前、いつ男になったんだ?」

「さっき説明しただろうがぁぁ!!!」


紫の髪の女にこうされたんだよっ!!とルフィの耳たぶを掴んで怒鳴ったミズキにビビははっとして顔を上げた。


「紫の・・・髪?」

「知ってるの?」

「え、ええ。お団子を作って双錘を武器にしてる女の子でしょう?彼女もバロックワークスの一員だったわ」


そこはおおよそめぼしが着いていた。だからミズキもさらりと聞き流していたのだが、その次の言葉に思わず目をひん剥く。


「コードネームはミス・ホリディ。でも私、さっき彼女に会ったときにアラバスタまでのエターナル・ポースを盗られたの」

「よし、アラバスタに行こう」

「ちょっとミズキあんたまで!!!」


180度ひっくり返った意見にナミは思わずミズキの頭を引っ叩いて突っ込みを入れた。


「いや!おれにとっては結構重要なんだよ!!シャンプー・・・ってかミス・ホリディ?の持ってる不死鳥丸がないと元に戻れないんだから!!」

「いいわよ!!あんた一生男でいなさいよ!!」

「いやだ!!」


ビビを助ける、助けない、アラバスタに行く、行かないでもめているも、結局のところすでに顔を見られたこの四人はバロックワークスに追い回されることになるのは必至だ。それならばいっそ立ち向かってやろうぜ、というゾロの言葉に乗り気な船長は「アラバスタに行くぞ!!」と一言怒鳴って楽しそうに笑っている。
船長に言われればナミもミズキもどうしようもない。そこは意外としっかり立場をわきまえているナミは、怒鳴りあっていた声を全て溜息にかえて諦めたようだった。


「でもさ、船長殿。結局どうやって行こうとかそういう計画はないんだろ?」

「ない」


問いかけたミズキの言葉にこうもきっぱりと返されると呆れも出てこないから不思議なものだ。ミズキは苦笑するとどうするよ、とナミに向き直った。


「大丈夫、私に策がある」


マーママー、と独特のビブラートの効いた声が響く。全員がそちらに振り向くと、多分ビビに似せたんだろうな、と辛うじてわかる程度の変装をしたイガラッパがいて、全員はあっけにとられた。実に、似合わない。
彼が提案した策とはイガラッパ自身が囮になるというものだった。さらに言えばビビのエターナルポースを持って逃げたシャンプーも良い囮になる。イガラッパ自身は別のエターナルポースを使い別の島へ行った後、アラバスタへの航路を探す。そしてビビを乗せる麦わらの一味は今ナミが持っているログポースの進路のままでアラバスタに到着することができるため、そのまま進む。すぐに追っ手が来ることを考えるとそれ以上の良作はなく、ナミは頷いた。


「無事に、祖国で会いましょう」


イガラッパの言葉はひどく重くミズキの心に響いた。生まれてすぐに船に乗った彼女にとっては魚人島ですら故郷とは言いがたい。強いて言うならば魚人海賊団、タイガーの率いるタイヨウの海賊団が故郷だが、その二つは随分と昔になくなってしまった。
(祖国か・・・・。いつか、魚人にも大地を祖国と呼ぶ日がくるのか)
それは魚人がタイヨウの下で暮らすよりももっとさきの未来になるだろう。例え魚人が法律として陸で暮らすことが許されても、果たしてどこに足をつけることができるのだろうか。陸に彼らの生まれ故郷は存在しない。それでも必至で大地に根を張ったものだけが、タイヨウの下を祖国と呼ぶようになる。
(長い・・・)
そう、それは長い道のりだ。少なくともミズキが生きている間には実現しないだろう夢だ。
ビビにも、イガラッパにも、そしてルフィにもゾロにもナミにも皆故郷がある。帰ろうと思ったとき受け止めてくれる大地がある。だが自分にはそれすらもないのだ、と思うと何故か今さらになって心が締め付けられた。月夜に感傷的になっているのだろうか。アーロンとも決別した自分に何が残っているのだろうか。
イガラッパが乗った船が遠ざかっていくのを見送りながら、そのときはまだそんな自問を繰り返していた。
だが、追手はすでに迫っていたのだ。
ようやっと五人が船に背を向けようとしたとき、沖合いに響いた激しい爆発は陸にまで熱風を届けた。


「!?」


水平線は最早見えない。轟々と激しく燃え盛る炎はあっという間にイガラッパの炎を炭と貸し、そしてあっという間に消えていった。
あとには何も、残らなかった。
何も言葉がでない、彼は何のためにあそこにいたのか?そこまで思いが達してミズキはようやく動いた。


「・・・立派だった!!」


ルフィが搾り出した言葉もまた、ミズキと同じ結論に至ったゆえだろう。ゾロは何も言わずに振り返り船に足を向ける。
ビビだけが、何もなくなった水平線を見つめていた。唇を噛み締めて。ナミが何も言わずとも全てわかっているのだ。これから先何をすべきか。それでも心の整理がつかない事実が目の前にある。
そんなビビの姿を見て、ミズキは自分のことを思い出した。
(故郷はないんじゃない・・・・私たちの故郷は未来にある・・・!)
例え、その未来に自分が居なくとも。そう決めて自分は海に出たのだと、ミズキは思い出した。








2013/08/21 Back Home Next  
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