賑やかな宴
半ば引き摺り下ろされるように船下りて、麦わらの一味はウイスキーピークの島民が言うがままに宴に参加していった。
「ほれほれ姉ちゃんも飲め飲め!!」
今飲んでる、と言う間もなく
ミズキの背中を豪快に叩いてくれた男のせいで
ミズキはアルコール度数の弱い酒が器官に入りげほげほとむせこんだ。
酒飲みの相手は嫌いじゃないが面倒だと思うときがしばしばある。自分が前後不覚になるまで飲むと面倒なことになることを
ミズキは話で聞いているから、あまりこういった場所では羽目を外して飲むことができないのだ。ほどほどに、と思いながら
ミズキは隣に座った豪快な男をあしらう。
街は活気で満ち溢れ、さわやかなぶどう酒の香りが心地よい。なるほど、名産であるというだけあってその深く甘い香りは見事な醸造技術を持っていると言わざる得ないだろう。だがそうでありながらもアルコール度数が低いとはどういうことか。味は酒と一緒なのにな、と思いながら
ミズキはグラスを片手に外へ出る。月が明るかった。
窓から漏れる光を背後に
ミズキはもう一口飲んでそのグラスを地面に置き街の中を歩き始めた。一味の大半は
ミズキが姿を消したことに気付いていない。ゾロは
ミズキが外へ出て行ったことを咎めることなく酒を飲み続け、そして密やかに机の下の刀に手を伸ばした。
家のつくりはまるで砂漠の国のそれのようだった。白い壁と小さな窓は強い直射日光を避けるためのものだろう。こんこんと壁を叩くと表面の泥がほんの少しはがれてぱらぱらと地面に落ちた。
暗い家の影に軽く提灯を翳すと、人影がさっと身を翻し消える。後をつけられていることは建物の外に出た時点で気付いていたが、この様子を見る限りどうも素人の集まりのようである。
(気にしすぎ・・・・か)
ミズキは頭を掌でぺんぺんと叩いてもう一度空を見上げた。
「それでは、あの女のことは任せていいんだな、ミス・ホリディ」
「任せるね」
ミズキがちょうど一味の集まる建物の外に出たとき、その様子を見ていた二人分の影がまるで内緒話でもするように顔を寄せ合っていた。
ミス・ホリディと呼ばれたその女性は少しだけ独特な口調で頼もしげに返事をすると、両の手に持った双錘がぶつかり合って小さく鳴った。その音はとてもとても小さかったはずだが、
ミズキがばっと振り返り、屋根の上を見上げる。
「大層な女だな」
特徴的な影はそう言って消えた。
ミズキが見たのは月の光を背後に抱えて立つ、女の姿だけで、ほんの少しだけ視界を掠めたもう一人の姿はいない。
そもそも光の届かない深海に生きる魚種であるため目はあまりよくない。このように暗い環境で比較するなら人間より多少夜目も効くが、今日はやけに月が明るい。
ミズキは目を細めてその女の姿を見ようとしたが、顔がわかるよりも早く女は屋根から飛び降りて、錘を
ミズキに向けて振り下ろした。
上から叩きおろされるものをわざわざ受け止めてやる義理はない。一歩下がって避ければ女は隙のない動きで双錘を振り回す。あまり威力がなさそうに見える錘も、女の力が強いためかそれとも扱いが上手いせいか、体をかするだけで皮膚が切れた。シャツに血が滲んで、
ミズキはそれを指で拭うと、長柄を構える。双錘の方が小回りが利くから懐に入れてしまえばこちらが不利になる。出来るなら遠距離から石突で勝負を決めてしまい所だ。
下肢の骨をへし折らんとする双錘を上に跳ぶことで避ける。そのまま長柄を壁に叩きつけて
ミズキは横にとんだ。その動きをさすがに予測しきれず一瞬止まった隙に
ミズキは長柄は届くが双錘には遠すぎる距離から畳み掛けるように攻撃を仕掛ける。長柄を頭上に掲げ左手を支点に大きく回転させる。提灯が大きく揺れてバランスがとり辛くなるが、そこは長年の経験だ。女の手から錘の片方が弾き飛ばされて、石突が腕を掠った。
下がれば踏み込む。
ミズキは支点を変えずにそのまま一気に長柄を回転させて、女の肩にもう一撃を加えようとする。女は長柄の届かないぎりぎりの距離に退避したが、それはあくまで長柄の本体の距離だけだ。
ミズキの長柄の特殊性はまさに先端に着いている提灯にあり、鎖で繋がれた提灯は長柄本体よりも数瞬遅れて女の肩にぶつかった。
一瞬息を呑む音が暗闇の中で聞こえたが、まだ片手に錘が残っている以上油断はできない。提灯と言ってもどんなナイフですら切り裂けず、深海の水圧にすら耐える頑丈なものだ。それが直撃しながらも握った獲物を手放さなかったのは大したものである。
ミズキは半分感心しながら、長柄を手放す。カラァン、と地面に長柄が落ちる音に女が気を取られた。その隙に
ミズキは女の懐に潜り込み、魚人空手を直接叩き込もうとする。女が脇にずれた。女の位置と月光の向きが変わる。女の顔が、光の下に照らし出される。
「ッ!しゃん・・ッ!」
女の顔を視認した途端
ミズキの体に動揺が走って、その動揺を見逃すことなくシャンプーは
ミズキの鳩尾に強烈な膝蹴りを叩き込んだのだった。
2013/04/21
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