真実を今、告げよう
一瞬とはいえ魚人たちと対等にやりあった麦わらの一味を信じられない面持ちで見つめる
ミズキは、相変わらず長柄に縋ったままだったが身体のしびれも抜けて密かにチャンスをうかがっていた。麦わらの一味は、自分が考えていた以上に強い。物理的な戦闘力もさながら、その屈強な精神力が何よりも彼らを強いと言わしめる要因だろう。
「
ミズキ。お前はさっさとこの島を出て行け。それともお前のナカマが死ぬのを黙って見ている気か?」
アーロンが仲間、と言うたびに酷く感情が篭っていないように聞こえるのは、
ミズキがそうであるようにアーロンもまた
ミズキが麦わらの一味の本当の仲間でないことを知っているからだろう。いや、この場合アーロンはあくまで
ミズキが彼の言う下等種族と仲間になれるはずがないと信じていて、そして
ミズキは彼らに秘密にしていることがある後ろめたさゆえ本当に仲間だと言えないのだった。
アーロンはルフィの足が嵌った地面ごと持ち上げるとそれを海の中に投げ込んだ。血の足りない
ミズキの頭は一瞬アーロンの行動に何の意味も見出せなかったのだが、次のアーロンの言葉でルフィは人間でありさらに能力者であると思い出した。
「まっ・・・・!!」
待って、と叫ぶ前にルフィの身体は飛沫の中に消える。海に潜って苦しいなんて思ったこともない。だから本当は海に放り込まれた瞬間彼がどうなっているのかなんて想像もできないはずなのに、自然と気道が締まって呼吸が出来なくなる錯覚に陥った。
サンジとゾロの間を抜けて海に飛び込もうとした
ミズキを、ゾロが止める。彼自身傷が酷いのだろう。力の加減をあまりつけられないのか腕を無理矢理引っつかまれて投げ出されたせいでまた身体を打ちつけた。・・・痛い。
「動じるな!!海に入ればこいつらの思うツボだぞ・・・!!」
「ああ、
ミズキちゃん。それに
ミズキちゃんだってもう傷だらけだ、そんな傷で海にはいっていいわけあるか。ここはおれらに任せときな」
「やるぞ!!」
二人とクロオビ、そしてハチの戦いはそう長いものではなかった。人間が海中で呼吸を止めたままにするにはあまりに長い時間だったのかもしれないが、それでも傷を負っていながらよくぞ人間がここまで戦えるものだと思う。
幼い頃から過ごしてきた彼らが負けるなんてことは信じられなかった。ハチもクロオビも
ミズキからすれば憧れの対象で追いかけてきた人たちだったから、彼らが今目の前で負けたことは信じ難い出来事だったけれども、それは確かな事実だった。
だが、それだけ強かったとしても、アーロンには適わない。
クロオビとハチが倒れアーロンの目の色が変わったところで
ミズキはゾロとサンジを庇うように二人をその場に押し倒した。瞬間、頭上を何かが激しい勢いで駆け抜けて、そしてそれは一直線にアーロンパークの残っていた支柱にぶつかる。
崩壊。
激しい音と共に、ただアーロンが腕を振っただけで柱が崩壊した。ぽかんとした表情でそれを見つめるゾロとサンジ、そしてウソップにはまさにそのように見えただろう。すでに満身創痍の身体はほんの少しでも動かすだけで呼吸が荒れる。
ミズキはハァハァと荒い息をつきながら起き上がるとまだ濡れているアーロンの手をじっと睨みつけた。
「うおっ!?なんだありゃあ!?」
起き上がり様に叫んだのはサンジで、ゾロもいまだ何が起こったのか理解できていない様子である。
「ッ・・!撃水!!水は魚人の武器にしかならない・・・!!アーロンと戦うなら、すぐにここを離れないと・・・・」
自分でももう半分くらいは何を言っているのかわからなかった。自分には自明のことだったけれども、多分ゾロにもサンジにも今の言葉は何も通じなかっただろう。
だが、そんなことを考えていたのもゾロの次の一言を聞くまでの間だけだった。
「・・・やけに詳しいんだな。だがまぁ助かるぜ、ルフィの奴はあの通り沈んじまった。おれらはなんとしてもここであの半魚野郎をたおさねぇとな」
文字が滑った、いや音が滑った。
今、何て言われたんだろうと思って聞き流せればよかったのだけれど、何故かそのときだけ頭が酷く活発に動き回って、もう一度ゾロの言葉をリピートした。
そして、
ミズキは動きを止めた。
ゾロのその言葉に同時に激昂したのはアーロンで、いつもの彼なら盛大に怒鳴り声を上げるところだが、そこでアーロンは
ミズキの反応を見てあることに気付いたのだ。この場に居る誰にも一番知られたくなかった事実、それは__
「半魚野郎とは・・・・てめェら
ミズキのことを知っているならそんなこと口に出せるはずがねェだろうなァ。てめェらはナカマだ。違うか
ミズキ」
口の端を吊り上げて笑ったアーロンに答えることはできない。
半魚、半魚、半分、魚。
「それとも、
ミズキ。お前は、あいつらに何も言ってないのか?」
語尾の疑問符は確定的な事実をただ茶化しているに過ぎないのだろう。
何の話をしているのかまるでわからないといった表情のゾロに対し、サンジはようやっと
ミズキが隠していたものがなんであったのかわかった気がした。頬にある切れ目、昔アーロンの一味であったような彼らの言い方、そして何より人間嫌いのはずのアーロンが
ミズキに対し敵意を見せないこと___今思えばそうではないかと思うきっかけはいくらでもあったはずだ。泳ぎが異常に得意で、毒ガスを喰らったときもそういえばあいつは平気な顔をして水に潜ったままだった。海に慣れたあの様子はただ単に長い間海賊人生を送ってきたというよりも、むしろ水そのものと慣れ親しんだような。
「シャハハハハ!!そうか!!それでてめェらはナカマか!!いい馴れ合いじゃねぇか!」
「何言ってやがる」
「どうした
ミズキ、何もいわないのか?何故いわない?お前は、魚人と人間がわかりあえると思っているんだろう、違ェのか」
ミズキは唇を噛み締める。
「何も知らないなら教えてやろう。そしておれらに向かって二度と半魚野郎なんざいうんじゃねぇ。いいか、お前らが人間だと思ってナカマにしていたこいつは、お前らが今いった半魚野郎と同じ、魚人だ!!」
正確に言えば半魚人である。人と、人魚の間の子供。それ故に半魚と言う言葉は何よりも
ミズキを傷つける。
アーロンは紛れもなく魚人だ。魚人と魚人の間から生まれた魚人の子供。それを純血と呼ぶならば、
ミズキは人間と人魚の間の混血種で、魚人からすれば半魚という言葉はただ単純に人間が魚人をさげずむだけでなくそれ以上に混ざり物を意味している。魚人はこのハーフを半人と呼び虐げ、そして人は魚人の純血種もハーフも一切分けずに半魚と呼び虐げてきた。だが半魚と言う言葉が持つ力は、宙ぶらりんの中途半端な存在である魚人(あるいは人魚)と人間の間の子の心を抉る。
「
ミズキ、どうした。お前のナカマのいうことに何故言い返さない。お前は何故ナカマに本当のことを伝えなかった?」
本当は怖かったんだろう、といわれるたびに心臓が締め付けられる気がした。違うといいたいが、本当はアーロンの言葉が何も違っていないことを自分が一番知っている。
「お前は、人間と魚人がわかりあえると言ったところで、本心ではそう感じていないから、言い出せねぇ。違うかァ!!
ミズキ!!」
アーロンの言うことは全て真実だ。一緒に居て本当に、心からいい奴らだとわかったからこそ、もし自分が魚人だといったときにどんな反応をされるのかが怖かった。自分が一緒に居たいと願えば願うほど彼らの反応が怖くなって。全てが全てそうじゃなくても魚人だと明かすたびに向けられる視線が嫌で、段々自分が魚人であることを言わなくなった。その視線は時に好奇なものであり、ただ出会ったことのないものに興味を示すだけのものであったけれども、そんな視線しか受けたことがなかったから、無条件に受け入れられない辛さばかりを感じるしかなかった。汚らわしい半魚だという侮辱の視線であればなおのことだろう。
かつてタイヨウの海賊団に居た頃出会った少女は、お互いを知らないから怖いんだと言って、タイガーもオトヒメも知らない故に拒絶し、しかし何も知らない者たちがこの先の未来を作ると言った。だから
ミズキは知れば分かり合えるのだ、と信じた。信じて一人ずっと海を彷徨っていたが、自分では知らないところでゆっくりとただ一人真実を知るたびに傷つく信頼の恐怖や痛みが蓄積していったのだろう。お互いを知れば分かり合えると思っていても自分が、この人たちに嫌われたくないと思って、しまった。
「あいつも、アーロンの仲間なのか」
「人間の姿をしているように見えるのに」
ぽつりと呟かれた村人の言葉に
ミズキは完全に立っている気力をなくしてその場に座り込んだ。彼らが悪いわけでは決して無い。彼らはあくまで被害者で、今までアーロンから受けてきた扱いを考えれば当然の事だろう。そうと分かっていても、そういわれるのは辛かった。
2012/07/23
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