かつての仲間
結局、何の因果なのかその海牛ビーフ(注※正式なこの海牛の名前はモームであることは周知の事実であると思われるが、残念ながら先ほど海から飛び出たこの海牛を見つけたルフィたちが知るはずも無かった。海牛がしゃべるわけもなく、結果ルフィが船を引かせるに当たって勝手に名前をつけたわけだがその結果がビーフである。どう考えても後で食う気・・・とかそんな野暮なことは言ってはいけない。言ってはいけないったらいけない。)はルフィたちの乗った工船を引くことになって少々不満げな表情だが、これ以上殴られるよりはいいと判断したのだろう。今のところ黙って船を引きヨサク曰く順調にナミのいるという島に向かっているそうだ。帆をたたんだままにして、一向はビーフが引く船に乗ったまま束の間の休息といったところか。ルフィは考えてみればつい先ほど結構な怪我を負ったばかりですぐにそれが完治するわけもなく、このところは暇があるとぐーすかとよく寝ているように思う。寝る子は育つ、もとい寝る子は治る。彼によれば肉食って寝ればなんでも治るそうだがそんな民間療法当てになるものか。
とにもかくにも一向は風に気を使うことなく航海が出来たため楽と言えば楽だった。
しかしビーフと言えばご飯時にご飯も貰えず散々こき使われて気分がいいはずがないのだ。コノミ諸島の輪郭が水平線彼方にちょっぴり見え始めた頃、唐突にビーフの泣き声と行動が変化した。しきりに右に左に動くのは船を引き離そうとしているからなのか、それだったら潜ればいいじゃん、ということは言わないお約束。何にせよ乗っている側からすればたまったものではない。慌てて船の縁にしがみつき何とか振り落とされないようにするも、立ち上がろうにも揺れが酷くてとても立ち上がれる状況ではない。肝心のサンジはルフィが振り落とされないよう彼の手を握ることに精一杯だし、自分もリョウガもヨサクも暴れ始めた海獣に手を出すなんて馬鹿な真似する気もなかった。どんどんどんどん加速を続けるビーフはやがて何を思ったのか唐突に左右にふれるのをやめてまっすぐに諸島のとある島に直進を始める。この速度ではたとえ全力でまったをかけても止まるはずが無い。
「ちょっ・・・まっ・・・ああああああああああッ!!!」
全員が全員あらん限りの悲鳴を上げると同時にぽーんと空中へ投げ出される嫌な感覚が身体を支配する。足場が曖昧で一時は空を飛ぶような感覚でもあったが、重力に引っ張られるにつれジェットコースターにでも乗っているときのようなあの内臓が後ろに引っ張られるような嫌な感覚に変わっていった。悲鳴を上げる彼らを他所にビーフは島へ衝突した衝撃で気絶したのか海へぶくぶくと沈んでいった。といってもそれを見ていたものは誰一人としていない。
猛烈な勢いで前方から吹き付けてくる風に若干呼吸を乱しながらも
ミズキは何かに気付いたような素振りでルフィたちの視界から隠れた。そしてなんのためらいもなく船の縁に足をかけたかと思うと、不可抗力で空を飛ぶ船からあっという間もなく飛び降りたのだった。皆が皆なんとか船にしがみつくのに必至だったため誰一人として
ミズキがいなくなったことに気付かず、船は三人を乗せて落下を続ける。
飛び降りた
ミズキは、真下に広がる森の木々の枝に支えられてなんとかかんとか着地に成功していた。
「うっ」
とはいえその着地も着地と言うより単に枝のお陰で落下のスピードが弱まったというただそれだけのものだったから、地面に叩きつけられた衝撃は並大抵のものではない。体の何処といわずに絡みついた葉っぱや枝を取り除きながら片手をついて起き上がろうとした
ミズキは、瞬間全身に走った痛みにうげっ、だのおえっ、だの女の子らしさから随分かけ離れた声を上げてもう一度地面に突っ伏す。
「・・・・ッたくなんて無茶な飛び降り方をするんだ!!」
「うっわやっぱ連れてくるんじゃなかった」
「せめてもう少し高度を落としてから飛び降りろ!!」
がさりと少しだけ離れた場所から
ミズキと同じように葉っぱだらけのリョウガが姿を現した。色々と変なことに巻き込まれているせいか彼のほうが幾分丈夫らしく落ちるときにうっかり手放してしまった荷物を探して再びがさがさと下草の生える木々の間に入っていってしまう。
ミズキはもうしばらく横になっていたままだったが、それから今度は一気に起き上がって身体に付いた砂を払うと長柄提灯を肩に担ぎなおした。
「・・・・あいつらには一言も言わずに行くのか」
「・・・言いに行きたいなら行っていいよ。あたしはちょっとやらなきゃいけないことがあるから急ぐの」
「呪解泉はないと思うがな」
リョウガの一言に
ミズキは少し顔をしかめてそうじゃないとばかりに首を振った。しかしそこから先
ミズキは言葉を続けず沈黙が二人の間に流れる。
そして、
「リョウガ、ルフィたちのところに戻ってよ。んでさ、早くこの島からナミ連れて行けって、伝えといて。あたしからとは言わなくていいから」
じゃ今回はこれでばいばいね、と
ミズキは言って今度こそリョウガに背を向けると林の中に消えてしまった。
ミズキとリョウガが特に別れの挨拶もなくいつの間にかお互いを見失っているのはいつものことだったから、余計にやけに饒舌な今回の別れが引っかかる。
勝手に深読みするならば、彼女は一人この島を支配するというアーロンの下へ乗り込むのだろう。
言葉通りに受け取るのならさっさと麦わらの一味から逃げ出す口実を作りたかったというところだろうか。
リョウガはしばし彼女の言動に悩んでいたが、やがて彼も立ち上がると荷物を拾って林の中に姿を消した。
その頃アーロンパークではちょっとした騒ぎが起こっていた。アーロンが村から帰ってみればそこいら中に倒れている同胞達。同胞を斬ったと思われる長鼻の男はナミに刺されとりあえずはちょっとしたこの騒動に一段落が着いたというところだろう。ナミがクロオビからこの島の地図を奪ってパークを出て行ってひとまず落ち着いたかと思われたとき、アーロンパークにもう一人の珍客が現れたのだ。
この島では、いやイーストブルーでは今や誰もが恐れる海賊となったアーロンの敷地内へ真正面から踏み入ったその女の髪は白く、よく目立つ長柄とその先に鎖でぶら下げられた提灯を揺らしながらゆっくりと歩を進める。その姿を魚人たちは誰もが目を丸くして見つめていた。
「・・・・・てめぇ・・・まさか・・・・・」
アーロンが椅子から立ち上がった。
「久しぶりね」
「
ミズキか!!」
誰かがそう叫んだと同時に、ナミのときと違ってアーロンパークに響いたのは魚人たちの歓声だった。ハチが駆け出しクロオビもチュウも、そしてあのアーロンさえも
ミズキの下に駆け寄ると彼らからするとあまりに小さい彼女の身体を抱き上げ投げ上げ、一瞬で
ミズキはもみくちゃにされてしまう。
「いっいたたたたっ!!ちょっアーロンの兄貴痛いってば!!」
鮫の魚人のバカ力で摘み上げられては叶わないと
ミズキは悲鳴を上げるもその顔に浮かんでいるのは今まで見たこともないような楽しそうな笑顔だ。
「
ミズキ!お前元気にしてたのか!!」
「タイのお頭が死んでよぅ、おめぇすぐ船降りちまってそれきりだったから心配してたんだオラァ」
「ニュ〜すっかりいい女になったな〜」
ミズキだけでない、人間達に囲まれているときは誰一人として笑わなかった魚人たちが信じられないほどの笑顔を浮かべて
ミズキの周りを取り囲み、様々な言葉を投げかけてくる。あのアーロンでさえもそうなのだから、現在の彼の姿しか知らないものがみたらさぞ驚くだろう。
「ここは皆変わんないんだね。あたしが昔兄貴の船に乗ってた頃みたい」
「当たり前だ。あの頃より幾分同志の数は増えたが、何もかもおれが昔船長として船を率いていた頃やタイの兄貴のところにいたときと変わるはずがねェ。お前は随分と大きくなっちまったがなシャハハハハ!!」
ぽん、といつの間にかアーロンの肩の上に乗せられた
ミズキはかつて、そう彼女が幼い頃見た風景をまた楽しんでいた。
ミズキの言葉に嘘偽りはない。かつてアーロン一味の一員であったこと、そしてタイヨウの海賊団にすら所属していたこと。その詳細は今は語らないが、彼女はナミとは全く違う形で、真の意味でアーロンの仲間だったのだ。一時はアーロンたちと距離を置いたこともあったが、かつての同志の縁が多少の年月を置いたところで途切れるはずもなく、だからこそ彼女は今こうして彼らと笑いあうことができるのだ。
それからしばらくは皆久々に出会うことができた仲間の存在に興奮が冷め切らずわいわいがやがやと騒がしく何やら話をしていたが、やがてそれも収まった頃アーロンは
ミズキを肩から降ろしぽんとその頭に水かきのついた手を置いた。
「
ミズキ」
そして低くしかし優しい声で呼ぶ。
「一時は別れることとなったが、こうして戻ってきたってことはまたおれ達の仲間になりにきたんだろう。大歓迎だ!!もう一度おれ達と海に出よう、
ミズキ!!」
うおおおお、と周囲の魚人たちからアーロンの言葉に賛同するような雄たけびが合図するでもなく自然に沸きあがった。
ミズキは真顔でそれを聞いていたが、周囲が完全に静まり返ってしばらくして彼女は小さくこう言ったのだ。
「・・・・・違うよ、アーロンの兄貴。あたしは兄貴と、もう一度喧嘩をしにきたんだ」
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2012/05/24