思ひ出
この感情を羨ましいというのか、懐かしいというのか。
ミズキはゾロがついに倒れて、それを待っていたかのように飛び出したルフィの背中を見つめながら考えていた。
仲間の"誇り"を汚さないために、ひたすらに耐えに耐え続けたルフィ、そしてそのルフィの志に答えるがごとく「二度と負けない」と誓うゾロ。互いが互いを信じているこの二人いや、
ミズキはまだ知らないだけでウソップもナミもきっとそうなのだろう、強固な絆で結びついた麦わらの一味を鷹の目が「いいチームだ」と言う理由がよくわかる。あの七武海の一人鷹の目にここまで言わせるとは、と言うのが
ミズキの素直な感想で自分が考えていたことが全て杞憂だったと知りなんだかほっとした。
彼らはこんなにも強い。グランドラインに生まれて様々に強い人を見てきたつもりだったけど、こんな強さもあるのだと
ミズキは初めて知った気がした。
疼く。かつて自分を受け入れ守ってくれた人たちに似ている背中が彼らと重なって、ずっと彼らに並び共に歩みたいと思っても無理だった、そしてその背中をただ見つめる夢さえ儚く失われたあの日から、諦めきれずずっと心の奥底で切望していた気持ちが改めて持ち上がってきたのだ。自分の夢を抱き共に歩む仲間が欲しいと思っていた気持ちがあふれ出したようだった。
どことなく輝いた瞳でルフィやゾロたちを見つめる
ミズキを端からじっと観察していたのは、今までの一切の騒ぎに手を出さなかったリョウガで彼はふん、と一度だけ鼻をならすとレストランの中へ姿を消した。一方で鷹の目は暇つぶしはこれまで、とばかりに現れたときと同じように唐突に姿を消して、残されたのはバラティエのコックにルフィ、そしてドン・クリークの一味だ。
「ウソップ!!行け!!」
ゾロはこれ以上動けないことは明らかで、ルフィはゾロをウソップとヨサクとジョニーに任せナミを追わせる。これも信頼がなせるわざかと思うと体を動かしたくてたまらなくなり、
ミズキはルフィと同じように立ち上がり長柄を構えた。
「おれ、すごく勝手だけどあんたらのこと気に入っちゃったかも」
「にししっ!!ならお前もおれの仲間だな!!」
「・・・それは、ちょっと無理か、な」
本音を言えば仲間になってしまいたいという気持ちは充分にあった。ずっと昔から追いかけたかった背中をもう一度見つけて、今度は自分もその隣に立てるというのだから、自分が今の姿でずっといられるのならおれを仲間にしてくれといくらでも言えただろう。でも、
ミズキにはまだ彼らに何も言っていない。彼が抱える事実を口にして受け入れてもらえる自信が足りなくて、まだどうしても仲間になるという一言を遠ざけていた。
「何でだ!?」
「そんなことより、ルフィ、おれルフィが負けたらあいつの仲間になるみたいだからそれは勘弁して欲しいんだけど」
そういって誤魔化せば、よく言えば真っ直ぐ悪く言えば馬鹿なルフィは話を変えられたことにも気付かずそうだった!!と怒鳴り声を上げる。
「おっさーん!!おれあいつらぶっ飛ばすからここやめてもいいか?」
当たり前だ!と返事が返ってくるほどどうやらウエイターとしての彼は最悪だったらしい。クッと笑えばゼフは笑い事じゃねェと顔をしかめ、
ミズキは悪いと悪びれもせず謝った。
奇妙な邪魔が入ったとはいえ、それもなくなってドン・クリークの海賊達は今度こそこのレストランを奪う気で襲ってくるだろう。サンジは煙草をくわえたまま、「ヒレ操作しろ」とだけ短く隣に立つコックに伝えた。
湧き上がるのは海賊達の雄叫び。だがそれを聞いて何故か燃えはじめた男はぐいと腕を伸ばしてそのままロケットのようにすっ飛んでいったのだ。勢いを殺さないままに伸ばされた腕に引っかかる男たち。彼らはルフィの腕から逃れることもできずそのまま海に叩き落される。
そこから先の展開はグランドラインで本当に変なものを見てきた
ミズキでも瞠目せざる得ないもので、はっきり言っていきなりレストランの頭部が動き出したときは開いた口が塞がらなかった。かっこいい!と叫んだルフィに心の中であれが!?と思わず突っ込みを入れる。コックたちはやたら騒いでいるが、海賊達はまだ遠くにあるそれを呆れた表情で見ているだけでなんとなく雰囲気が醒めたのも事実だ。だが、砲台を兼ね備えたその船だかよくわからないサバの頭はかなりの火力を持ってして海賊たちに大ダメージを与えたのだから、本当に物事を見た目で考えてはいけない。
「おい!白銀の兄ちゃん!!そこいると危ねェぞ!!」
呆れたというかもう何も言葉が浮かばずぽかんとしていた
ミズキの耳に唐突に怒鳴り声が飛び込んできて、反射的に
ミズキが一つ上の階へ飛び上がると突如海中から競りあがってくるものがあった。海水をわけるように海面に出て来たそれは、魚を模した(現在は頭が戦闘中)バラティエを上空から見るとまるでヒレのように見える。とはいえその役割は魚が持つヒレのように泳ぐためではなく、こういった海賊からの奇襲の際に店内を傷つけないための戦闘用の足場である。まだ濡れてはいるものの、戦闘を想定して作られた足場はかなり頑丈で
ミズキは数度トントンと石突で叩いても大した傷などつきもしない。
だが、足場の登場はコックたちだけでなく海賊達にも随分と有利に働く。海中という不安定な場所から堅い足場へ踏み出した彼らは、やはり戦闘を専門としているだけあってコックたちよりも遥かに強い。魚や、時たま現れる海王類を仕留めるための武器は海賊たちの持つナイフに劣るし、体裁きも見るものからすればいまいちといったところか。そんなコックたちの間で一際群を抜いているように見えるのがパティとカルネだったが、彼らもまたクリークの海賊団の部隊長には到底及ばないようだった。突如海中から現れたその男はわずか片手だけで海賊達相手になかなかいい戦いっぷりを見せてくれたパティとカルネを伸し、ざぱっとヒレに乗り上げる。
「・・・・・何あいつ・・・・」
ミズキは長柄を構えたまま意味のわからない決め台詞を放ったパールという男を呆れ顔で見つめた。円形の左右対称な模様の入った盾を背腹に抱え、さらに書く関節部分にも同じような盾を持つその男は全体のフォルムも丸い。それぞれの盾の中央に入っているきらきらと輝くものは、真珠だろうか。鉄壁、と言う割りに左右ががら空きで、
ミズキとしてはどこからどこまでが無敵なのか是非とも逐一教えてもらいたい気分だ。
「チッ・・・・お前ら下がってくたばってろ。あいつらはおれが片付ける」
パール登場に何故か元気付けられた海賊達はコックたちの大半がいなくなったことをこれ幸いとばかりに、一気に攻め込もうとした。が、彼らが船に触れることすらできない距離で、先ほどからポケットに手を入れてただ突っ立っていたサンジは唐突に片足で踏み出しなんと足だけで彼らを蹴散らしてしまったのだ。逆立ちする容量で手だけで身体を支え、それを軸に足で海賊を叩き伏すとは大した脚力である。自分に向けられた刀を一瞬で叩き折り、見事顔面に蹴りを入れれば男たちは信じられない距離を吹っ飛んだ。
ヒレから海賊がいなくなってしまえば
ミズキも一旦は休戦といったところだろうか。未だ本船の残骸に居座っているクリークの方にはルフィがいるし、このパールという意味のわからない男にはサンジが向き合っていてあいにくと戦うべき敵は今のところ見当たらない。ルフィとサンジなら多分大丈夫だろうとそこからはしばし傍観する立場に落ち着いた
ミズキも、そして他の誰も店内にもう一人の敵がいることをすっかり忘れていた。
「ぬあっ!!!」
老齢の男の苦痛を呈す声が響いて、反射的に誰もがそちらへ視線を向けた。
「もう、やめてくれサンジさん」
聞こえてきたもう一人分の声は、彼自身が悩みを抱えているような響きを持っている。
「おれはあんたを殺したくねェ!!!」
それでも自分はドン・クリークの一味の者なのだとはっきり示したその男はまぎれもなく店内に最後まで残されていたギンだった。
片手にはゼフの義足、そしてもう片手にはゼフの頭に向けられた銃が握られ、その目は真っ直ぐとサンジに向けられている。かつて赫足のゼフ、と呼ばれ恐れられた男だとしてもこうとなってしまえばただのコック。義足が無ければ立ち上がれもしないゼフの頭など今のギンには簡単に打ち抜ける。オーナー!、と自らもまた傷ついているはずのコックたちから声が上がり、ルフィは拳を握り締めギンに殴りかかろうとするがサンジはあくまで冷静だった。今動けばあの男はゼフの頭を打ち抜くという確信があったのだろう。
「まァまて麦わら野郎。あいつの言い分ってもんを聞いてやろうじゃねェか」
あくまでこっちの方が立場が上だぞとばかりの口調にこそ焦りはないが、口から吐き出す煙は一瞬ゆらりと揺らいだ。
「この男を助けたいだろ?頼むサンジさん、大人しくこの船を降りてくれ!!」
ギンの言い様は人に何かを頼むにしてはあまりに無礼だ。だが彼もまた海賊で彼にとってはこれが恩人に対してのこれ以上ない礼儀に値するのだろう。しっかりと握られた銃は震えもせずまっすぐ銃口がゼフの頭を向いていたが、サンジが今のところ動きを見せないとわかってか引き金に指は触れていなかった。
人質をとられて、しかもその人質が船で言えばいわば船長に値する人物だったとしたら普通はどう答えるのだろうか。だがそんな世間一般の常識とか、普通であるとかそういったことを一切無視して、サンジは煙草の煙を吐き出しながら一言「やなこった」と言い切った。
これには人質を取った側のギンも、端から見ていたクリークやコックたちそして本来完全な部外者である
ミズキも驚いた。ゼフの命などなんとも思っていないのか、と誰もが思った瞬間、次にサンジの口から飛び出た言葉に周囲はさらに驚かざる得ない。
「ギン、その銃おれに向けろ」
「・・・・!?サンジさん・・・!何で・・・・!!」
ギンはここへ来て初めて人を殺すのではなく、まったく読めないサンジの心の内に動揺を見せた。それはいつもいやに相手を信頼しているルフィも同じで「お前馬鹿かよ!死ぬぞ!!?」と忠告らしきことを口にするも、ただ一人サンジは全く同時もせずに「まァな」と言い切ったのだ。
つい数日前、何故信念を捨てず命を捨てようとするのかとゾロに問うた人物とはまるで別人のように簡単に命を捨てようとしているサンジは一体何を考えているのか。
ギンは自らの命の恩人に銃を向けかねているようで、一瞬しんと沈黙が訪れる。だがゆらりとそんなサンジの後ろで立ち上がった男が一人、迷うことなく彼に拳を向けたのだった。
「そんなに死にたきゃ・・・殺してやるぜイブシ銀にな!!」
正直、決め台詞すら何を言いたいのか分からない。
2012/03/19
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