腹にくくった一本の槍の名は、"覚悟"
「ハ・・・・ハッハッハッハッハ!!そいつらはお前の仲間か!?随分と大層なメンバーだな!!」
大口を開けて笑ったクリークにむっとしたルフィは前へ一歩踏み出して、「何言ってんだ!!後二人いる!!」と指を突き立てる。果たして五十隻の艦隊の提督であるクリーク相手にわずか二名追加された程度で何が自慢になるのやら、けれどもルフィはそれが素晴らしいと思っているようで胸を張ってフンッと自慢げな顔をする。
どう考えても舐め切っているとしか考えられないその態度に、クリークは怒るが、それだけ相手を怒らせてもまるで気にした風のないルフィはある意味非常に大物である。一般人ならクリークとは正面切って話すことすらも拒みたくなるだろうに、ルフィはまるで気にならないとばかりにあっかんべーと舌を突き出した。ぴきりとクリークの額には青筋が浮いたが、彼は意外なことにそれ以上怒鳴ることはなかった。
「・・・いいだろう」
馬鹿を相手にするだけ無駄だと悟ったか、それとも相手のペースに乗せられっぱなしなのが悔しかったかは知らないが、彼は一呼吸置いて目の前にドンと置かれた食料の袋を持ち上げながらそう言った。
「なら貴様らに一時の猶予をやる。逃げ出したい奴はおれがこの食糧を部下に与え戻ってくるまでの間に逃げ出すといい。おれの目的はこの船と航海日誌のみだ、逃げる奴まで追う気はねェ」
その言葉のどこまでを信じていいのやら、と呟いた
ミズキをじろりとクリークは睨みつける。
「てめェらはここへ残れ。船に乗せてやる。・・・・それでも死にたい奴がいるのなら、面倒だがおれが海に葬ってやろう・・・・」
そう言って食糧と水を担ぎ、レストランからようやく姿を消したクリークと、一方で取り残されたのはギン。彼はすまない、と何度も何度もサンジに謝っていた。が、サンジとて少なからず最初から、そうギンに食事を分け与えたときからこうなることは予測していたのだろう、叩きつけられた頭に痛そうに触れてから懐から取り出した煙草に悠長に火をつける。
「・・・・だ、そうだが
ミズキ、きさまどうする。ちなみにおれは乗らないからな」
「えー・・・おれは「だめだ!!
ミズキは絶対ダメだ!!こいつはおれの船に乗るんだからな!!」・・・ちょ、ルフィおれまだルフィの仲間になるなんてのも一言も言ってないから!!」
「じゃおれがあいつに勝ったらおれの船に乗れ」
それも確かに面白そうだけど、とひっそりと思うも口には出さなかった。
だが先にも言ったとおり自分にはどうしても見つけ出さなければいけない探しものがあるのだ。本当は追いかけたい夢もあって、でもそれ以前にヘマをやってしまった自分は自分をもう一度取り戻さなければいけないのだ。それが何か、というのは説明が長くなるし色々めんどくさいしそれに何より恥ずかしいのでできる限り言いたくないのだが、これは案外よろしくない状況かもしれない。何より、リョウガが人間に戻ってしまったのはミズキからすれば少々想定外の事態だったのだ。
「あ」
「あ?どうした
ミズキ」
「いや・・・・そういやギン・・・つったっけ、クリークの。あの船は誰にやられたわけ?」
これ以上ごねられると押しの強くない自分はすぐに負けそうだと思った
ミズキは、話題を反らそうと思って苦し紛れに話を振ってみたのだが、その効果は
ミズキが思っていた以上に絶大だったようだ。
「あんたは、知っているのか」
ギンは目をカッと見開いて
ミズキの方を向くものだから、その気迫に
ミズキは思わずしり込みした。
「い、いや?知らないけど」
「あ、嵐がこなきゃおれ達の本船も確実にやられてた・・・!仲間の船が何隻残っているかもわからねェ!」
悲鳴を上げるように叫ぶギンは果たしてグランドラインに入ってどれほどのものを見たのだろうか。
ミズキ自身はグランドラインに生まれたが故、グランドラインが恐ろしい理由はわかっても実際に猛烈な恐怖というものを感じたことがない。それとも、あの時は守られていたからだろうか。もう一度、ルフィに誘われたままに一緒に船に乗って入ったら違うグランドラインを見られるかもしれない、と言うのは確かに魅力的だが・・・・考え込む
ミズキを他所にギンはグランドラインで見た恐怖をとつとつと話し始めた。
何とか全ての船は無事グランドラインに入ることが出来たこと、それまでは確かに恐ろしい気候ではあったが航海士のお陰でなんとか船を進められたこと、そして七日目、何もわからないままに、たった一人の男に艦隊は恐らく本船を残し全滅させられたこと。
コックたちはそのほとんどが始めて聞くグランドラインの様子に皆ごくりと唾を飲み込む。
「あれが夢だったのか、現実だったのか・・・・未だに区別がつかねェ。ただ、もうあの鷹のようにするどい目だけは思い出したくねェんだ・・・!」
「何だと!!?」
「うわぁ・・・・」
ミズキは正直なところ、ドン・クリークの船が誰と遭遇したのかは予想していたのでやっぱり、と思ったらため息交じりの声が思わず出てしまった。だが同時にまだグランドラインにも入ったことのないゾロが反応したのは予想外で、ん?と振り向けばゾロはぎゅっと刀を強く握り締めただけだった。
「そりゃあほぼ間違いなく"鷹の目の男"だろうな」
ゼフは単に鷹のように鋭い目とお前さんが感じただけじゃ何の証拠にもならんがな、と付け足しながらも確信を持って言い切る。
「た、鷹の目?」
「鷹の目か・・・・最強の剣士って話だけど、そこんところどうなの?」
「何だ、お前ェは会ったことはねェのか。あいつは結構気まぐれにふらふらしやがるから意外と顔を知ってる奴も多いが」
「海侠のジンベエなら」
肩を竦めて
ミズキが笑えば、まァ七武海なんざ会わないに越したことがねェがな、とゼフもまた笑う。
「おいクソジジィ、なんだそのシチブカイってェのは」
「七武海ってのは海軍公認の海賊のことだよ」
サンジの言葉に
ミズキが答えた。
「その名の通り七人いてね、海賊女帝ボア・ハンコック、ゲッコー・モリア、海侠のジンベエ、ドンキホーテ・ドフラミンゴ、暴君バーソロミュー・くま、サー・クロコダイル、そして鷹の目ジュラキュール・ミホーク。こいつらは基本的にグランドラインを根城にして海賊狩りみたいなことをしてる。七武海としては有名だけれど、実際に対面したら普通海賊なら生きて帰れないし・・・・ってか普通の商船とかでも危ないんだけど、どういう連中なのかはよくわかってない。あた・・・じゃない、おれもジンベエ以外の奴とは面識ないし」
「海侠のジンベエか・・・・魚人海賊団の船長だな・・・てめェみてェなひよっこがよくそんな奴から逃げおおせたな」
「ちょっと、色々とね。縁だよ縁」
ミズキはさらりとゼフの追求をはぐらかして、「だからむしろ会って生き延びたってのは運がいいじゃん」とギンに慰めのような言葉をかけた。それはきっと本人にとってはちっとも慰めではないのだろうが、この先の不思議な縁を考えるとそれはまるで自分達に向けられたもののようだった。
「・・・・だが、これでおれの目的は完全にグランドラインに絞られた。あの男は、そこにいるんだ」
カチリ、と刀と刀がぶつかって小さな音を立てる。ゾロは椅子に腰かけたまま何かを確信したように、そしてまた同時に何かを覚悟したようにはっきりとそう言いきった。
なるほど、鷹の目、ね。と
ミズキは内心でひっそりと呟く。彼自身、鷹の目が剣士であることは知っていたが、ゼフの反応、そして同じく剣士であるゾロの反応から世間で最強の剣士と呼ばれる人物が鷹の目と同一人物であることをようやく認識したのだ。噂ばかりが飛び交うグランドラインの中で、どうやら鷹の目が最強の剣士であるというのは事実らしい。
「馬鹿じゃねェのか」
ふわりと煙草の香り。
「お前ら真っ先に死ぬタイプだな」
サンジは決して、ゾロの志を笑ったわけではないだろう。ただ彼が過去に経験した死への直面は、死という猛烈な存在感を彼に植え付けたのだ。人間は食わなければ死ぬ。この広い広い海原で、また戦争の最中で、貧しい国の中でただそれだけと言ってしまえばそれだけのことが出来ずに死んでいった者が果たしてどれほどいるのだろうか。コックの存在理由は、いやゼフやサンジがあえて海上でコックをする理由は、ただそれだけに尽きた。食いたい者に食わせてやる、その時コックが死んで何の意味があろうか。すなわちサンジにとっては死なないことこそが彼の信念を守ることなのだ。
だが戦いの場に身を置く者にとって、死を恐怖すればどうなるかなどあまりにも明確だった。それ故に、ゾロには覚悟がある。
「剣士として、最強を目指すと決めたときから命なんてとうに捨ててる。このおれを馬鹿と呼んでいいのはそれを決めたおれだけだ」
思わず背筋がゾクリとするほど、迷いのない口調に
ミズキも他の誰も一瞬口を挟めなかったというのに、そこで一言空気を読まない奴が一人。
「あ。おれもおれも」
何故お前が言うとこうまで能天気に聞こえてくるのだろう、と突っ込みたくなるほどに緊迫した空気はルフィの一言であっけなく瓦解した。続くウソップはゾロに頭を小突かれ、そんな三人を見てサンジは小さく「けっ・・・ばかばかしい」と呟いたのだった。ギンはただ、そんな麦わらの一味を黙って見つめることしか出来なかった。
2012/03/12
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