ほとんど人のいないヨークシン市内に再び戻ってきたゾルディック家の車は、破壊痕の見られる地下競売現場を避けて、少し離れた通りに止まった。
 ハルシャは「さんきゅー」と軽くイルミに手を振って車を降りると扉を閉めようとする。だが一歩手前でその扉を押しとどめたのはイルミであった。

ハルシャ、さっき連絡があったんだけどこのままゾルディックに寄っていかない?親父が久々に顔でも見せろってさ」
「んー……悪くはないけどそれより今は探したいものがあるのよね。折角ヨークシンに入り込んだんだし、情報も掴んだし」
「それってサソリのことだろ?ゾルディックにくればもう少し探しやすいと思うけど」
「んーんー……いややっぱりパスかな。悪くない条件だけど___」

 とハルシャが言いかけたところでイルミの携帯がなる。イルミはいかにもうるさいとばかりに運転をしている執事に携帯を投げ捨てもう一度ハルシャの方を向いた。

「ま、俺もハルシャの念を手元においておきたいってのが主な理由なんだけど」
「この上なく自己中な理由ね、断る。私イルの念にそんなに興味ないわ」
「カルトの念の師匠になるってのは?報酬は出すしサソリを探すのも手伝う」
「ええー……優秀な執事がいっぱいいるし大体イルミが見てやればいいじゃない」
「俺も忙しくてつきっきりってわけにいかない」

  同じ操作系なら要領もわかってるし、それにハルシャの実力なら親父も満足するし、とイルミは言葉を続ける。

「いまさぁカルトの師匠探しやってるんだよね。俺は忙しいしミルキは師匠には向いてないし、キルアは家出中だし。それなりに念の基礎は使えるからあとは発、これはできれば近しい人間が特性をよく把握した上で教えて欲しいってことでさ、親父も人探し中。親父も忙しいから、じっくり決められないわけ」
「……今思ったんだけどさぁイルの兄弟ってみんな名前が繋がるんだね」
「……」

 ハルシャが唐突に話を変えるのはよくあることだった。話術というより単純に気になったから口にした、だけなのであるが、その話題にイルミはぴたりと口をつぐんでハルシャの次の言葉を待つ。

「一番上からイルミ、ミルキ、キルア、そんでカルト……って事はもしかしてイルってごにんきょ」

 ハルシャがそこまで口にした時だった。ぴたりと両眼に針が突きつけられ、どちらかが少しでも動いたら刺さる、ハルシャがこれ以上続きを言っても刺す。そんな、殺気をにじませた針はハルシャの前でぐるりと円を描いてからイルミの懐にしまわれる。今のは脅しだ。

「忠告、人の家のことをそれ以上探るな」
「……オーケィ、悪かったわよ」

 ハルシャも長いことゾルディック家に世話になっていた時期は確かにあるが、決してゾルディック家の一員になったわけではない。イルミと一緒に念の修行をしたことがあっても、それはハルシャがゾルディックの内情をかき混ぜていい理由にはならない。
 もしもこれが他の人間だったらこの場で針人間にされててもおかしくなかった。殺気はイルミだけでなく助手席に待機している執事からも洩れており、ゾルディック家の家族に関する事柄には一つ大きなタブーが含まれていることを暗示している。

(しかもただのタブーじゃなくて、存在そのものがバレたらやばい系の)

 ハルシャは軽く謝りながら、話を変えた。
 ここでゾルディックをやりあう気はさらさらないのだ。

「それでさ、カルトの師匠の話。長期じゃなくていいなら見てもいいけど、肝心のカルトはどうなの?なんか勝手に話が進んでるけど私が師匠でいいわけ?」
「……」

 カルトはちらりとイルミを見てからこくりと小さく頷いた。

「兄さんが決めたのならそれで構わないし、ハルシャのことはよく話しに聞いていたし」
「ふぅん……まっ発を決めるぐらいまでならいっか、報酬は?」
「好きな金額をいいなよ、口座に振り込む」
「口座持ってないわ」

 ハルシャの言葉にイルミはため息を吐いた。

「じゃあ他に何か欲しいものないの」
「十年後のカルトが私の傀儡になってくれるなら喜んで」
「却下」

 カルトが何かを口にするよりも早くイルミがハルシャの言葉を却下する。
 ハルシャもそれはわかっていたのかからからと笑って「冗談」と言ったが、カルトにはとてもとても冗談には聞こえない一言だった。

「ま、そんなに真面目に師匠やるつもりないし、戦闘で使えるだけの念を教えればいいんでしょ。適当な時に声かけてくれたらいいよ、報酬もそのつどって感じで」
「ん、それならこれ渡しておく」

 ハルシャが承諾するとイルミは頷いて懐から丸い小さなスピーカーのようなものを取り出してハルシャに渡した。

「なにこれ」
「ゾルディック専用の携帯みたいなもん。なくさないでね、必要な時はそれで呼ぶよ」
「はーん、なくしそうだわ」
「結構な機密情報だからなくされると困るんだけど」
「精々努力だけはする」

 ハルシャはなくした場合どうなるのか、まるで気にした様子もなく、そういうと、いつものポケットに放り込む。一応チャックを閉めたのはそれなりに大切に扱うぞ、というアピールでもあるのだろう。
 カルトはなんとも不思議な関係だと思いながら、イルミからもう一つの携帯を受け取った。

「はい、こっちはカルトの。何か気になったらこれでハルシャに連絡しなよ」
「僕の、発がハルシャに洩れることになるけど、いいの?」
ハルシャの念もそれなりに知ってるからおあいこ、ってのと多分基本的なところしか教えてくれないし、発まで覚えさせようとしてきたらそれ、ハルシャにとって都合のいい念になる可能性が高いから。適当なところで切り上げて」
「あっはっはバレてる」
「そりゃそうだろ」

 イルミはため息を吐いて、改めて車の座席に座りなおす。

「それじゃ、なんかあったら連絡が行くと思うけど」
「はーいはーい。私が答えるとは思わないでね」

 ばたん、と自動で車の扉が閉まると黒塗りのいかにも高級車はハルシャを人通りのない道において去っていった。それを特に見送ることもなく、次はどうしようかな、とハルシャが考えていると、先ほどの高級車が、路地をぐるりと一周して再びハルシャの前にやってくる。
 滑らかな動きで車の窓ガラスが下がり、イルミがひどく面倒くさそうな顔をして携帯を片手に握っていた。

「ねえハルシャ
「なに、なんか用?」
「いつからクロロと知り合いになったわけ?」
「……クロロ?」

 ハルシャはイルミの口から出た聞き覚えのない名前に首を傾げる。イルミはそんなハルシャの様子に露骨にため息を吐いて、車から降りると、執事に「帰っていいよ」と声をかけた。車は再び発進し、今度はイルミとハルシャが人通りのない道に置き去りにされたのだった。

「知り合いじゃないの?」
「そんな人知らないか覚えてないわ」
「後者かな」
「かもねぇ」
「で誰?」
「直接聞いてよ」

 イルミはハルシャと記憶にない問答を繰り広げるつもりはさらさらないのか、先ほどハルシャに渡したのとは違う形の携帯をぽいとハルシャに投げ渡す。ゾルディック家専用の携帯は通信傍受をブロックする特別な電波を使っているが、今ハルシャに投げ渡されたのはごく一般的な携帯だ。
 ハルシャはそれをぐるりと見てから、非通知でかかってきている電話口に出る。

「もしもし」
『……ハルシャか?』
「まあそういう名前ですね」
『……シャルナークの知り合いだな』
「そんな知り合いもいる気がしますね」

 ぼやかしている、のではなく単純に面倒なのでハルシャは適当に答えているだけだが、電話口のクロロはそれを口調から肯定と受け取ったらしく話を進める。

『仕事の依頼の方がよかったか?』
「ええまぁ金になるし、いやでも別に金に困ってるわけでもないから仕事でも面倒だわ」
『そうか悪いな、電話したのは単純な興味だ、お前が、誰であるのか、それが気になって電話した』
「はぁ?」

 クロロの要領を得ない言葉にハルシャは首をかしげて、イルミに「こいつなによ」と念文字を書く。
 電話口から洩れ聞こえるクロロの口調からどうやらあまり隠すつもりはないらしいことを察して、イルミは「幻影旅団の団長」と同じく念文字で答えるのだった。

「はぁ!?あんたが旅団の団長!?」
『なんだシャルから聞いてはいないのか?、てっきり聞いているものだと思っていたが……いや、そうかシャルの奴ハルシャと俺を会わせたくない様子だったからな……シャルが幻影旅団であることは知ってるな?』
「ええ、まぁそうね、で用件」
『率直に言えば会いたい、だ。ハルシャエトナという人物に興味があるといったらいいか?』

 ハルシャは肩をすくめる。

「別によくはないわ。そして私は別に会いたくもないから。とりあえずこれでさよならでもいい?」
『……サソリから言伝を受け取っている、と言ってもか?」
「前言撤回会うわ」
『話が早くて助かるよ』

 電話越しのクロロは少し笑っているようだった。同時にこの結果を予想しているようでもあって、そのまま話を続ける。

『ヨークシン市内は今は人がいなくて待ち合わせには逆に目立つな。郊外に来れるか?東に20km、岩石地帯があるが密談をするには悪くない場所だ』
「密談ねぇもっと落ち着いたカフェとか」
『いざとなったときの盾でも準備する気か?安心しろお前の念に興味はない』
「はっきり言われると逆にむかつくわ!どーせ父さんの念見てんでしょそれじゃ興味ないわねはいはいどーも!」
『それで__」
「いーくわよ行くその代わり碌な情報じゃなかったらあんたも人形にしてやるわ!」

 勢い込んでぶちっと電源を切るとハルシャは携帯をイルミに投げ返す。

「知り合いじゃ、ないみたいだね」
「知り合いじゃないわよって、父さんは知り合いみたいだけど。イル、父さんがなんで幻影旅団に接触したか知ってる?」

 ハルシャの問いにイルミはさぁ、とばかりに肩をすくめた。イルミとてサソリとは常に連絡をとりあっているわけでもなし、イルミの父のシルバもそれは同じだ。だが連絡を取りたくとも携帯を元とする電子機器を持ち合わせない上に常に移動し、常に人形に入り込んで移動しているサソリを見つけ出すのは、ゾルディックほどの情報網を持っていても難しいことだった。

「そうよね、そりゃそうだ。でイルミはついてくるの?」
「まぁ、そうだね。一応サソリから言われてることもあるし」
「えっなにそれ教えてよ」
「サソリの居場所に関することじゃないよ」
「別にいいから手がかりになることかもしれないじゃない」
「いや、俺宛のメッセージ。だからハルシャは関係ない」
「あ、っそ。それならいいわ」

 さっくりと切り捨てるあたり、ハルシャは付き合いやすい。先ほどのゾルディック家に関することもそうだが、ある一定以上の距離からは踏み込まない。ハルシャはその距離をよくわかっているからイルミも付き合いやすいことは確かだった。
 お互いの個人的なことには踏み込まず、必要ならば相手の実力をもって信用のおける相方となれる。

(できることならハルシャも俺の傀儡にしておきたいところだけど)

 それはイルミをもってしてもさすがに難しい。
 基本的に操作系は早い者勝ちといわれることが多い。つまり先に何らかの媒体を使って操られているモノは第三者が操ろうとしても操ることが出来ないのである。ようやっと練を覚えて発ができるような、初心者であればともかくハルシャとイルミほどの実力者になれば、自分が操作される可能性も考えて、自分の体に細工をしていることが多い。
 事実イルミも、他者からの操作を受けないように自分の中に針を仕込ませてある。イルミが掴まり操作系の念能力者に操作されるという可能性は限りなく低いことは確かだが、それでも常に保険は持っておくに限る。イルミがイルミ自身を操作するという状況がある限り、ハルシャでもイルミを操作することは難しい。手の先指の先を動かして体を少し動かすならばともかく、ハルシャが人形を操るように操ることはほぼ不可能であるということだ。
 逆もまた然り。ハルシャとて自分が操作される可能性を考慮していないはずがなかった。
 生きた人間を操ることに関してはハルシャよりイルミの方が圧倒的に得意だ。ハルシャは自分が丹精こめて作った人形を動かすことは出来るが、生きた人間を動かすのは苦手である。そういった意味でイルミがハルシャを操作することはハルシャがイルミを操作することよりも難易度は下がるが、それでも完璧にハルシャを操作することは出来ないだろう。何より、イルミがハルシャに針を刺すことでハルシャは自衛手段から自殺する可能性も十分にある。

(死体を動かすのは得意じゃない)

 故に、イルミはハルシャとは一定の距離を置いた関係を保ちたいのであった。
 完全な監視下・管理下に置きたいが、それはハイリスクローリターン、それならば生かしてお互いの利害の一致で動いた方がマシということである。
 イルミの一言でさっと身を引いたハルシャはさてと首をかしげた。

「ここから20kmかー……車がないとどうしようもないわ」
「なら俺が運転するよ」
「あっホント?ってかついてくるんだ?」
「クロロとハルシャの会話には少し興味があるし、それにサソリの情報は俺も欲しいし」
「それもそうねーじゃあお互い様ってことで運転よろしく」
「……」
「別に私が運転してもいいけどブレーキとアクセルどっちかわからないわよ」
「俺が運転する」

 運転してもいいという人間はせめてブレーキとアクセルの違いぐらいわかっているだろう。
 ハルシャのトンでも発言にイルミはため息を吐いて携帯をとると、何事か口にする。車、次の交差点、運転手は要らない、とどうやら執事に車を用意させているらしい。
 本当に便利だわ、とハルシャが感心していると「いくよ」とイルミに声をかけられる。

「はいはーい。ねぇその車って乗り心地いい?」
「いいんじゃない?」

 イルミは真面目に取り合うのも無駄とばかりに適当な返事ですたすたと歩いていく。
 マフィアンコミュニティーが主催する地下競売が行われるビルの近くであるため、交通制限がかけられており誰一人通る者はいなかった。道沿いの街灯が照らすほか、普段のこの時間ならまだ開いてるだろうブティックやパン屋、その他様々な高級そうな店はどれもぴたりと門を閉じ、CLOSEDの文字が並んでいる。地下競売の間、と記している店はなかったが、日程は明らかに地下競売を示していた。

「うーん人が居なくて実に爽快」
「通り二つ向こうは地獄だけどね」
「えっそうなんだ」
「幻影旅団が散々暴れまわったらしいよ。親父もクロロと戦りあったって」
「へー……へー……えっシルバさんと!?クロロってめっちゃ強いじゃん」
「幻影旅団の団長やるぐらいだから強いんじゃない?」

 イルミの言葉にそれは驚いたとばかりの表情から、渋い表情に、実に表情豊かなハルシャは「まずったな」と小さく呟いた。

「何が」

 イルミはハルシャのぼそりと呟いた独り言を聞き逃すこともなく、しかしわざわざ足を止めることもなく聞く。

「いや、戦闘になったら不利だなって。やっぱりおしゃれなカフェを指定すべきだったわ」
「大丈夫じゃない?多分クロロ戦う気ないと思うけど」
「何?クロロと知り合い?」
「……顧客」
「ああそうそういう関係ね」

 ハルシャは納得したように言ってから、でもでもと言葉を続ける。

「まぁ私の念には興味ないのはいいとして、殺される可能性はなきにしもあらず」
「ない、と思うけど」
「あらそう?」
「だってハルシャを殺しても特に得るものがないだろ」
「それもそうかも」
「利害の一致で付き合えると思うよ」

 そんなもんかしらね、とハルシャは首をかしげながら、イルミに見つからないようにこっそりとポケットの中を漁っていた。前回いくつか傀儡を壊してから新たに人形を作る暇も、直す暇もあまりなかったせいで残りが若干不安だ。拳銃は毎日手入れをしているから問題ないとしても、やはり対面するには傀儡が欲しい。普段なら会うときは必ず自分の傀儡を持っていく。今も自分の傀儡はあるが、ここでイルミにばれずに傀儡と入れ替わる自信はない。材料を一つ一つ選び水から削りだして自分とそっくり同じに作り上げた人形は、ハルシャの一つの奥の手である。普段は最初から傀儡で交渉をし、本体は安全な場所に居させるのだ。依頼主はハルシャ本人と信じ込んで依頼をするだろう、それが重要なのだ。ハルシャの偽者が居るかもしれないという可能性は絶対に誰にも見せてはならない。そうすることでハルシャは人形と入れ替わることができるのだから。
 こうなることは全く予測していなかったので、ハルシャにとっては分の悪い賭けであった。これで店の一つでも開いていればトイレなりなんなりの理由で一旦イルミの監視から離れることができたものを。しかし20kmも移動するとなればハルシャもどの道一緒に近くにいかないといけない。となれば必然的にイルミに自分そっくりの身代わり人形のことを話さなければならなくなる。それは避けて通りたい道であった。

(父さんの情報を得られるか否か、どの道ハイリスクハイリターンだわ。イルはついてくるみたいだし、クロロは単純な情報交換、いや下手したら人形一体と交換かな)

 交渉で済むならそれはそれでいい。むしろ幻影旅団の団長とつながりを持っておくことは、今後のハルシャの稼業にも影響を与えるかもしれないのでできることなら積極的には付き合っていきたいところだ。ただ、今、なんの仕込みもない状態で会うということがリスクなだけで、準備万全の状態でクロロと会うことができるのならハルシャは歓迎しただろう。
 ちらりとイルミの顔をのぞき見ると、相変わらず感情の読めない表情で、まっすぐ前を向いていた。

(ポーカーフェイスすぎて何を考えてるのかさっぱりだわ)

 地下競売で危うく殺されそうになった掃除機を持った女の子、あの子もなかなかのポーカーフェイスで次に何がくるかさっぱりわからなかった。むしろ小柄な黒髪__フェイタンの方が明らかな殺気で次の行動がわかりやすい。次の行動とはすなわちハルシャを殺すことなのだから、それに沿った行動を予測することができる。とはいえフェイタンのあの速度はハルシャにとっても予想外であることは確かだったので、あの場でイルミが来なかったら捕まっていたかそれとも殺されていたか__おそらく後者だろう。あの場であの三人がハルシャを生かしておく理由がない。
 ハルシャはそんなことを思いながら、イルミの後をついていく。
 やがて交差点に差し掛かると、街灯の暗がりになった場所にぽつんと車が一台停めてあった。誰も乗っていないそれは先ほどイルミとハルシャが乗っていたゾルディック家専用車と外形はほぼ同じ。違うのは大きさだろうか。先ほどのはある程度の人数が乗ることを想定して作られていたがこちらは精々乗れて4名が限界だろう。むしろ小回りが利く車だ。イルミは車に関して細かいことは何も言っていなかったようだが、相変わらずゾルディック家の執事は優秀である。
 ハルシャがさっさと助手席に乗るとイルミは運転席に乗る。鍵はどうしているんだろうと思っていれば鍵は最初から刺さっていた。イルミとハルシャが来ることを想定しての準備なのだろう、もしかしたら今も誰かが監視しているのかもしれなかったが、ハルシャにはわからなかった。監視しているのかいないのか、すら、だ。相変わらずゾルディック家の執事は優秀である、と改めて思い直しながらハルシャは席の座り心地のよさに満足げな笑みを浮かべた。

「さっきから百面相だね」
「ま色々考えることがあるってこと。それよりいい車ね。ところでイルは運転できるの?」
ハルシャよりは出来ると思うよ」

 それじゃ答えになっていない、といおうとしたところでイルミがアクセルを思い切り踏んで急発進。あわや舌を噛みそうになったハルシャはぎっとイルミを睨むが、ごめんごめんといいながら正面しか向いていない彼からは謝罪の気持ちが一切伝わってこない。それ以降はひどく安定した運転であったから、先ほどのは意趣返しといったところなのだろう。
 ハルシャはふんっと鼻を鳴らして真っ暗で明り一つないヨークシンの一角を眺めている。別に面白いものがあるわけではないが、イルミと話すこともなかったからだ。

「東に20kmの岩石地帯だっけ」
「そう言ってたね」
「死角が多くて悪くはないわね」
ハルシャにはそうかもね」
「イルはまぁ頑張れば」

 ハルシャの言葉にイルミは「俺はクロロと戦うつもりはないよ」とさらりと口にする。
 それが本心なのか、それともクロロにハルシャが襲われた際には前言撤回するのか、クロロとは戦うつもりがないのか、イルミの表情からは相変わらず何も読み取ることができない。

「参ったなぁ……」

 ぽつりと呟いた独り言は誰にも届かずに消えてしまった。


2018.01.04

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