幻影旅団の遺体がマフィアンコミュニティーに発見されてからわずか数時間後のこと。
ヨークシンから少し離れた洋風の館の一室にて、部下より渡された一枚の紙を手ににんまりと笑みを浮べる男がいた。
豪奢な部屋はこの部屋の持ち主の力を誇示したいがため、死角を多く作る彫像をずらりと並べた部屋は感心するよりもむしろ居心地の悪さが先にたつが、ここにいる男、ダンキオラ・マルツィーニは何も気にしていないようだった。むしろ先ほどまでの口ぶりでは、こういった骨董品をいかに安く手にいられるか、その情報網を持っていることを誇りに思っているようだが、角都はこの男の本質はひどく臆病であることを知っている。
優れた情報網を見せびらかしたくてたまらない、だがその一方で情報に信用がおけない。故に、他のマフィアに先んじて行動を起こすことが出来ず、出遅れ、結果としてマフィアンコミュニティーの中での評価は、気にするに値しないといったところだろう。
マフィアンコミュニティーが唯一気にかけない故に見落としていることがあるとすれば、ダンキオラが作り上げた非常に緻密な情報網だ。本人は確信たるに十分な情報を集めてもそれでもまだ足りないと足踏みをしているが、外部から見れば十分すぎるほどのものだ。これだけの証拠が揃っているのに何故動かない、と思うほどの。
だから今回ダンキオラが動いたということは、本人の意思というより部下か誰かにけしかけられたと見ていいだろう。
角都の見立てでは、すでに部下の一部はダンキオラを見放している。マフィアのボスであるダンキオラが、賞金稼ぎハンターをしながら一方で自身も賞金首となっている角都と飛段に直接会っていることがその証拠だ。普通に考えれば、わざわざマフィアのボスが賞金稼ぎの前に顔を出すことはないだろう。リスクが高すぎるのだ。普通なら三番手辺りに相手をさせるのが定石であり、実際角都と飛段はボスの顔を知らないまま依頼を受けたことも多い。
角都からすれば相手が誰であろうと金を払ってくれるのであれば問題ない。賞金稼ぎハンターとはいえその人間性を信用して、などといった馴れ合いは角都には不要だった。飛段もまたそういったものに興味を持たない故に、ここでダンキオラ自身が依頼をしてくるということは、部下はもはやダンキオラを見放しているということになるのである。
下手をしたら、そうダンキオラよりはるかに頭のいい誰かがダンキオラをけしかけているとしたら、この依頼の報酬は払われないかもしれないと角都は思い、ため息を吐く。
無駄に広く、逆に座りにくいソファーに腰をかけたまま角都はダンキオラが何事かいきまいてしゃべるのをただ聞いていた。ほとんどが時間の無駄だ、だが時折今回の依頼とは無関係の賞金首の話が上がるので、わざわざダンキオラのおしゃべりに付き合っているのである。
全身を黒っぽい衣服とマンとで多い、顔も目以外の部分を布で覆った角都の顔を見たことがあるものはいない。長年コンビを組んで賞金稼ぎを行っている飛段もまた角都が顔の布をとったところを見たことがなかった。
だだっぴろい部屋の中、奇妙な彫像を手持ちの三連鎌でちょいちょいとつついている飛段は最初からダンキオラに全く興味がなかった。
角都と飛段、裏の世界ではそこそこに名の知れた賞金稼ぎハンターだが、本人たちもまた賞金首であることも有名であった。彼ら、特にこの二人の中で行動の主導権を握っているのは角都なのだが、角都は基本的に金で動く。表の世界で賞金首をかけられた裏の住人がいるのなら、逆に裏の世界で賞金をかけられた表の住人もいるのである。角都にとってそれはどちらも等しく金になる存在であり、そんな殺しを繰り返しているうちに本人たちも賞金首になっていた。金さえあればなんでもいい、と言うとおり、きちんと金が払える相手にはかなり正確な仕事をしてくれることで信頼が置けるといってもいいだろう。
実力のほどは知れない、だがダンキオラが幻影旅団の名前を出しても臆することがないのは本人たちも相当な能力者であることの証明だ。
「依頼は
ハルシャ=
エトナを生きたまま捕まえてくること。殺害・遺体のみ持ち帰りの場合は提示した額の半分だ、これでどうだ」
今回の依頼は幻影旅団の直接の始末ではない。幻影旅団はすでにマフィアンコミュニティーが死体を回収し、次の段階にうつっている。それは幻影旅団の親類、近縁者の捜索だ。理由はマフィアンコミュニティーに対する侮辱に対しての報復だ。親兄弟から友人まで、見せしめにするとマフィアンコミュニティーは明言しており、それにまさに乗っかったのがマルツィーニファミリーであった。
幻影旅団と親しい関係があるものであれば誰であっても相当な額がマフィアンコミュニティーから支払われることになっているが、ダンキオラ・マルツィーニにとって重要なのは支払われる金額だけではなく、同時に得られるマフィアンコミュニティーからの信頼である。
マフィアンコミュニティーが賞金をかけてからわずか数時間で対象を見つけ出し、引き渡すことが出来たのならば、マルツィーニファミリーの情報網とその基盤の優秀さ、そしてファミリー自体の株も上がる。何せ今マフィアンコミュニティーが多額の報酬をかけて、全体陸でそれぞれ調べまわっているというのに、幻影旅団と親しいとされるものが見つかったという話はない。そんな中、マルツィーニファミリーだけが、幻影旅団の一人と親しく付き合いのある人間を見つけられたとしたら、金銭ではとても交換できない名誉を得ることが出来るのだ。
ダンキオラは部下にそうそそのかされてすっかりその気になっていた。故に報酬も弾むと豪語し、また現在のマフィアンコミュニティーの現状をぺらぺらと口にする。そんなことを外部に漏らした方がよっぽど危険なのだが、それでも幻影旅団の関係者を見つけ、さらに優秀なハンターも雇った。ダンキオラにはすでに勝利の花道が見えているのだろう。
角都に提示された金額は、他のマフィアが出しているものよりも桁が一つ多かった。さらにいえば、他のマフィアは近縁者の捜索というのも依頼内容に含めているのに対し、マルツィーニファミリーからの依頼はすでに場所や容貌といった対象の情報がはっきりしている。これでこの金額なら、逃す手はない、と角都は首を立てに振る。
「いいだろう」
角都は低く空気を震わせるような声で答えた。その声はまるで喉が潰れて声を出すことができないようである一方、ひどく威圧的な空気を含んでいて、有頂天であったダンキオラはヒッと小さく息を飲んでから改めて自分の依頼を確認し、そして納得する。問題はないはずだ。この女を捕まえればマフィアンコミュニティーから十分な報奨金が得られる。角都に支払うのはその一部で、それでも莫大な金額だ。今の自分には払えないが、そのことを角都に知らせる必要はない。
部下に言い含められた内容を反芻して、ダンキオラは角都の反応を待つ。
「覚えたら全て燃やしてくれ。これはまだマフィアンコミュニティーも掴んでいない重要な情報だ」
「……よくこのようなものを見つけたな」
角都の言葉は疑問でもあったがいくばくかの賞賛も含まれていた。
「ああ、それは簡単だ。そうだとも我々にとっては簡単なことだ。情報とは電脳の中にあるだけではない、多くの都市の多くの人、それは全て情報をただ漏らすだけの道具に過ぎない」
「なんだよ角都ぅ」
「今回のターゲットだ。よく覚えておけ。生きたまま捕まえてくることが前提だ」
「まーた殺しじゃねぇのかよ!!教義に反するって言ってんだろぉ!?」
角都と呼ばれた男はオールバックの髪の男、飛段の言葉に対しふんと鼻を鳴らすだけだった。
「地獄の沙汰も金次第。金がなければどうしようもない」
「ちぇっ、だーから俺お前のこと嫌なんだけどなぁくそっ」
飛段は舌打ちをしながら、角都から紙を受け取る。
「それで?この女を殺るんだって?」
「殺しても構わんが、その場合には報酬は半分だ」
「殺そうぜ」
飛段の言葉に答えたのは、スーツで身を固めた、白髪が少し混じる頭の男であった。マフィアンコミュニティーではまだ格下、他のマフィアの傘下に入り身を小さくしているマルツィーニファミリーのボスである。少しばかりいらだたしげな口調だったが、飛段はそれを気にした風もない。
「げんえーりょだん?マフィアンコミュニティー?俺には知ったこっちゃねぇっつの。殺しだ殺し!ジャシン様への祈りと殺しが重要だっつってんだろ!」
「だめだ、今回の依頼はマルツィーニファミリーの今後がかかった重要な依頼だ。何のためにお前達に今まで格安で情報を売り、恩を売ってきたと思っている。今回のようなときのためにだな」
「うっせーよ!なげーっつの!」
がぁん、と飛段が三連の赤い鎌を地面に突き立てるとあからさまにびくりと震えたマルツィーニのボスだったが、入り口で部下がこちらを見ていることに気付くとごほんと咳払いをして姿勢を正す。
「我らマルツィーニファミリーは今はまだマフィアンコミュニティーでも格下ではあるが、我々の情報網はマフィアンコミュニティーの中でも群を抜いていることをこれを機に示さねばならん。ノストラードなどは未来予知など怪しげな商法で持って上にのし上がっていったようだが、我らの武器は情報だ。今まで地道に築いた情報網は今ここで役に立つ」
そうだとも!と何かを語りだした男の言葉を飛段はへーへーと耳をほじりながら聞き流す。
男は明かりを落とし暗くした部屋の中で、重厚な机の前に立つと、そこに広げられた写真を一枚取り上げてにんまりと笑みを浮べる。
そこに写っているのは血まみれで横たわる金髪の男の死体だ。全身に打撲を負い留めの一発とこめかみに打ち込まれた弾丸が致命傷となり死亡した男。ほんの数時間前の大騒動の元凶であり、今は亡き幻影旅団のうちの一人である。
今この男の遺体は別のグループが解剖検死を行い身元調査を行っているはずだ。本来ならそこにマルツィーニファミリーも参加すべきであるというのに、いまだ名を知られぬファミリーであるが故に幻影旅団の身元調査に加わることすら許されなかった。そういった場面でこそ活躍ができるはずであるのにと、唇を噛み締めたのもわずか数時間前のこと。密かに用意したマフィア内の情報網にもぐりこみ遺体の写真を見つけられたときは小躍りするかと思うほど喜んだのであった。
写真一枚、これだけで相当な情報を引き出すだけの下地がマルツィーニにはある。この死体の写真一枚から、あの赤髪の女、
ハルシャ=
エトナにたどり着くだけの下地をマルツィーニが持っていることは、マフィアンコミュニティーは勿論、幻影旅団ですら知りえぬことであろう。
「ふん、我らマルツィーニを捨て置いてなにやら上層部はあやつらの手がかりを探しているようだが、我らの手にかかればこの程度のもの」
誇らしげな笑みを浮べたボスは飛段に渡った紙を手に取ると言う。
「この女は確実に幻影旅団と関係がある!特にこの金髪の男とな!いまだ何の手がかりも得られていないコミュニティーの上層部よりも早くこの女を捕まえ更なる情報を得ることができれば、それは我らが上にのし上がる重要な礎となるのだ!なんとしてでもこの女を捕まえろ!生きているならば何でも構わん!」
「だーから俺は殺したいっつってんだろうが話のわかんねぇやつだな」
「殺しは報酬の減額だ。分かっているな角都」
「ああ。了解している。それよりも問題は提示した金額を貴様らが払えるのか、だ」
低い声で、唸るように角都が言う。その言葉にボスは頷いた。
「その点に関してなら問題ない。マフィアンコミュニティーは幻影旅団およびその近縁を捕まえた場合には報酬を出すとしている。お前達の支払いはそれで行う予定だ。安心してくれ」
「ふん、報酬が用意出来るならばなんでも構わん」
角都は低く空気を震わせるような声で答えた。その声はまるで喉が潰れて声を出すことができないようである一方、ひどく威圧的な空気を含んでいて、有頂天であったダンキオラはヒッと小さく息を飲んでから改めて自分の依頼を確認し、そして納得する。問題はないはずだ。この女を捕まえればマフィアンコミュニティーから十分な報奨金が得られる。角都に支払うのはその一部で、それでも莫大な金額だ。今の自分には払えないが、そのことを角都に知らせる必要はない。
部下に言い含められた内容を反芻して、ダンキオラは角都の反応を待つ。
「覚えたら全て燃やしてくれ。これはまだマフィアンコミュニティーも掴んでいない重要な情報だ」
「……よくこのようなものを見つけたな」
角都の言葉は疑問でもあったがいくばくかの賞賛も含まれていた。
「ああ、それは簡単だ。そうだとも我々にとっては簡単なことだ。情報とは電脳の中にあるだけではない、多くの都市の多くの人、それは全て情報をただ漏らすだけの道具に過ぎない」
つまり人を使う、ということだ。人の口に戸は建てられないというように、どこそこの町で見たという情報は人々の口を伝わって消えていく。対象は出来る限りわかりやすく目立つと探しやすい、が一方で全く目立たないというのもまた探しやすい。程よく人と接触していればまた話題になりやすいが一方で消えやすくもある。
マルツィーニファミリーは各大陸に新聞社を装った拠点をいくつも置いている。勿論他のマフィアの所有地にも入ることになるため、表向きはきっちりと新聞社としての仕事を行う。主に地方新聞で、その地方で起こった事件やちょっとした人物のインタビューなどが主になるわけだが、そこから入ってくる情報は非常に大きかった。マルツィーニファミリーはそこで得られた様々な人物の情報、目撃情報を含めて拠点で管理を行っている。故に幻影旅団の一人と親しく付き合っている人物をピックアップするのもそう難しいことではなかった。むしろ一番難しかったのは幻影旅団の顔写真を手に入れることと言ってもいいだろう。
地下競売の後、再び幻影旅団の襲撃があり、その際複数名のメンバーを捕らえたという報告はあったものの、彼らの情報はコミュニティーの一部でやりとりされ、マルツィーニファミリーのようなさして重要な地位にいるファミリーには一切の情報は渡されなかったのである。
ダンキオラが部下にそそのかされただけでなく、このコミュニティーの対応に内心煮えくり返る思いであったことは確かだろう。ダンキオラは臆病ともいえる慎重さと、傲慢さを持ち合わせている。だがそれらが上手くかみ合わない、トップには向いていない人間だ。マフィアンコミュニティーの中でのし上がっていくには無理がある、それは角都の見解であり、同時に彼の部下の見解でもあるのだろう。
ダンキオラは再び
ハルシャを見つけるに至った経緯を色々としゃべりいかに自分がすごいかをアピールしているようだったが、角都にはそれ以上の話には興味がなかった。
「飛段」
角都は一人暇そうに部屋の中を歩いていた相方を呼ぶと、ダンキオラから渡された書類を渡す。
「なんだよ角都ぅ」
「今回のターゲットだ。よく覚えておけ。生きたまま捕まえてくることが前提だ」
「まーた殺しじゃねぇのかよ!!教義に反するって言ってんだろぉ!?」
だん、と飛段は地面を踏みしめて角都に迫る。飛段にとっては書いてある内容などどうでもよく、重要なのは「殺せるか」「殺せないか」の二択である。彼の言う教義というのは、彼の信仰する宗教の話だが、それは飛段の内実であり角都にとっては別段どうでもいいことであった。
飛段はぶーぶーと角都の耳元で文句を垂れていたが、騒がしいそんな男を角都が相方として一緒に賞金稼ぎを行っているのは、ひとえに飛段の念能力が特殊で、かつ角都にとって非常に有益であるからである。
飛段の能力があれば対象の喉元にナイフを突きつけて脅す必要すらない。飛段が一度能力を発動すれば、それで相手はすぐに投降する。操作系ではない角都にとってこれほど便利な相方はなかなかいない。さらに角都にとって重要なのは飛段は別段金を目的に殺しを行っているわけではないという点である。角都は金を、飛段は教義を守れればそれでかまわない。嗜好は異なるが、それは目的を一致させればさほど問題ではない。強いて言うなら生きている方が賞金が高いターゲットの場合が一番厄介だ。飛段は何かにつけて殺したがるから、それに注意しなければならない。だが大抵の場合デッドオアアライブ、つまり死んでようが生きていようが構わない賞金首の方が多いので、そんな時は殺した証拠さえ持っていけば飛段も満足、そして角都も満足する。
そんなわけであいにくと今回は少しばかり面倒な依頼になったわけだが、それでも依頼金額を見て引くのは惜しい内容だった。
「地獄の沙汰も金次第。金がなければどうしようもない」
「ちぇっ、だーから俺お前のこと嫌なんだけどなぁくそっ」
飛段は舌打ちをしながら、角都から受け取った紙を改めて眺める。
飛段と角都はお互いを相方に賞金稼ぎを始めてそれなりにたつが、飛段はどうやらあまり文字が読めないらしい。現に飛段が見ているのは今回のターゲット、
ハルシャ=
エトナの顔写真が載っている部分のみであり、文字情報にはさっぱり興味がないらしい。
「それで?この女を殺るんだって?」
「殺しても構わんが、その場合には報酬は半分だ」
「殺そうぜ」
飛段の言葉にダンキオラが答える。ごほんと咳払いをして幾分偉そうな表情で飛段を見下すが、飛段はまるで気にした様子もなく角都から手渡された紙を鎌で半分に割った。
「げんえーりょだん?マフィアンコミュニティー?俺には知ったこっちゃねぇっつの。殺しだ殺し!ジャシン様への祈りと殺しが重要だっつってんだろ!」
「だめだ、今回の依頼はマルツィーニファミリーの今後がかかった重要な依頼だ。何のためにお前達に今まで格安で情報を売り、恩を売ってきたと思っている。今回のようなときのためにだな」
「うっせーよ!なげーっつの!」
がぁん、と飛段が三連の赤い鎌を地面に突き立てるとあからさまにびくりと震えたマルツィーニのボスだったが、入り口で部下がこちらを見ていることに気付くとごほんと咳払いをして姿勢を正す。
「我らマルツィーニファミリーは今はまだマフィアンコミュニティーでも格下ではあるが、我々の情報網はマフィアンコミュニティーの中でも群を抜いていることをこれを機に示さねばならん。ノストラードなどは未来予知など怪しげな商法で持って上にのし上がっていったようだが、我らの武器は情報だ。今まで地道に築いた情報網は今ここで役に立つ」
そうだとも!と何かを語りだした男の言葉を飛段はへーへーと耳をほじりながら聞き流す。
男は明かりを落とし暗くした部屋の中で、重厚な机の前に立つと、そこに広げられた写真を一枚取り上げてにんまりと笑みを浮べる。
そこに写っているのは血まみれで横たわる金髪の男の死体だ。全身に打撲を負い留めの一発とこめかみに打ち込まれた弾丸が致命傷となり死亡した男。ほんの数時間前の大騒動の元凶であり、今は亡き幻影旅団のうちの一人である。
今この男の遺体は別のグループが解剖検死を行い身元調査を行っているはずだ。本来ならそこにマルツィーニファミリーも参加すべきであるというのに、いまだ名を知られぬファミリーであるが故に幻影旅団の身元調査に加わることすら許されなかった。そういった場面でこそ活躍ができるはずであるのにと、唇を噛み締めたのもわずか数時間前のこと。密かに用意したマフィア内の情報網にもぐりこみ遺体の写真を見つけられたときは小躍りするかと思うほど喜んだのであった。
写真一枚、これだけで相当な情報を引き出すだけの下地がマルツィーニにはある。この死体の写真一枚から、あの赤髪の女、
ハルシャ=
エトナにたどり着くだけの下地をマルツィーニが持っていることは、マフィアンコミュニティーは勿論、幻影旅団ですら知りえぬことであろう。
「ふん、我らマルツィーニを捨て置いてなにやら上層部はあやつらの手がかりを探しているようだが、我らの手にかかればこの程度のもの」
誇らしげな笑みを浮べたボスは飛段に渡った紙を手に取ると言う。
「この女は確実に幻影旅団と関係がある!特にこの金髪の男とな!いまだ何の手がかりも得られていないコミュニティーの上層部よりも早くこの女を捕まえ更なる情報を得ることができれば、それは我らが上にのし上がる重要な礎となるのだ!なんとしてでもこの女を捕まえろ!生きているならば何でも構わん!」
「だーから俺は殺したいっつってんだろうが話のわかんねぇやつだな」
「殺しは報酬の減額だ。分かっているな角都」
「ああ。了解している。それよりも問題は提示した金額を貴様らが払えるのか、だ」
低い声で、唸るように角都が言う。その言葉にボスは頷いた。
「その点に関してなら問題ない。マフィアンコミュニティーは幻影旅団およびその近縁を捕まえた場合には報酬を出すとしている。お前達の支払いはそれで行う予定だ。安心してくれ」
「ふん、報酬が用意出来るならばなんでも構わん」
角都は言った。
その言葉からは絶対的な自信が見て取れた。
それにダンキオラは若干気おされながら、二人が部屋を立ち去るのを待つ。そして二人の姿が見えなくなるとはっ、とため息を吐いたのだった。
「失礼します叔父上」
「……シュバルツか……二人は帰ったか?」
「ええ、もう門の外へ。それよりも滞りなく進みましたか?」
シュバルツと呼ばれた男性はダンキオラの甥に当たる。非常に慎重で狡猾で、そして好機を見逃すことのない男であった。むしろマフィアのボスとしてはシュバルツのほうが圧倒的に才能があるといってもいいだろう。ダンキオラは精々管理職止まりがいいところだ。
シュバルツは叔父と同じ銀髪をさらりと撫でてから、ちらりと部屋の隅に目をやる。彫像に偽装した監視カメラは壊された様子もなく、きちんと機能しているようだ。これで叔父が一体どのような契約をあの角都と飛段に対し結んだのか、すぐにわかるだろう。
「後のことはお任せください。あの二人がターゲットを捕らえたらすぐにマフィアンコミュニティーへ連絡する手はずは整っておりますので。叔父上はもうお休みになられては?」
シュバルツはマルツィーニファミリーをのっとろうとしている。それを知らないのはすでにマルツィーニファミリーのボスであるダンキオラだけだ。どちらにつくか、そんな内紛が起こっていることもダンキオラは知らないだろう。何せ彼は自分には才能があると思っているのだから、この才能を他人が認めないはずがないと考えているのである。だがそれはマフィアのボスとしての才能でないことに全く気づいていない。
シュバルツはにっこりと笑うとあとはお任せを、と一言口にするとダンキオラの部屋を出た。
シュバルツはあの部屋が嫌いだった。ごてごてとうるさい飾りばかり、自分の力を示すように置かれた彫像はどれも品が悪い。角都と飛段に対し前々から安く情報を売っていたというのは悪くない手だが、あの二人は危険すぎるとシュバルツは思っていた。
(ここらあたりで縁を切るのがよかろう……あとは……)
シュバルツはこれから起こることを予想してにんまりと笑うのだった。
ダンキオラはそう遠くないうちに死ぬ。それは予言ではなく予想であったが、幻影旅団が流星街出身であることをいち早く情報としてつかみそれをダンキオラに流していないシュバルツにはすでに予言に近い出来事だった。
遠からず、マフィアンコミュニティーも幻影旅団が流星街の出身であることを突き止めるだろう、となればその先にあるのは幻影旅団捜索の打ち切り、及び賞金の撤回だ。これが起こった時点で、ダンキオラは詰んでいる。角都と飛段は金さえ払えばどんな仕事も請け負うが、金を払えないとわかれば即座に手のひらを返して依頼主を殺すことで有名であった。だからこそわざわざ叔父であるダンキオラを角都と飛段の依頼主に仕立て上げたのだ。ダンキオラも表ではそこそこの賞金をかけられたマフィアのボスであるため、角都と飛段はおそらくダンキオラを今回の仕事の埋め合わせとして捕らえ殺すだろう。そうなれば自然、次にマルツィーニファミリーをまとめる役目はシュバルツに回ってくる。
(問題はない、そう何も)
シュバルツは狡猾に情報を握り締めた。
2018.01.04
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