互いの仕事、互いの趣味、互いの生活といった要素はサソリとハルシャがゾルディック家に世話になっている間決して訊ねない。そして口にしないのが暗黙の了解のようなものだった。サソリはしばらく生活するうちにハルシャはゾルディック家がどのような存在なのかについて薄々と気づくようになったものの、それを確信するのはもう少し成長してからのことである。

「仕事について聞くなら契約。今回ハルシャがあのオークション会場にいたのは俺としても想定外だったけど、おかげで問題なく脱出できたようなもんだし」

ハルシャがいつもの服装に着替え終わり、車に戻ってきて中に入るなりイルミはひどく簡潔にそんなことを言った。最初からハルシャが何を聞きたいのかわかっていたようで、どうするの?とばかりに首を傾げて見せる。
どうするもなにも、とハルシャもまた首を傾げた。ハルシャとしては本来ならサソリの手がかりを得るためにマフィアの懐にもぐりこんで地下競売へと近づいたのである。おそらくこのような状況になった以上ハルシャは死亡したものと考えられているだろう。もう一度戻って自分の状況を説明するのも、状況説明にあたって自分の念について触れられるのも面倒な上に不愉快だ。クラピカのことは若干気になりはするのだが、今のハルシャにはもう一度ノストラードファミリーに戻るという選択肢はない。

「じゃあ暇つぶし」
「最悪な理由だね。俺からすればきっちりやってくれればなんでもいいけど」
「仕方ないじゃない。私だって地下競売の件は想定外だったし、イルがなんでいるのかも気になるし、こうなった以上戻れないし?契約っていってもゾルディックだって父さんについてなんか情報持ってるわけじゃないでしょ」

当たり前だろとイルミは前を向いたまま言う。ハルシャが乗りこんですぐに出発した車はヨークシンの市街を走りぬけ、そのまま郊外へと移動している。すでに降りるという選択肢はなくハルシャは金銭による簡単な契約をイルミと口約束で交わし本題に入った。

「依頼はマフィアンコミュニティーを取り仕切る十老頭の始末。相手はただの老人の集まりだから殺し自体は難しくないんだけど」

屋敷が広くて探すの面倒な上に邪魔な奴が多い、とイルミはさも面倒くさそうに話を続けた。

「しかもこの天気だ。雨音に混じるから音は気にしなくていいけど、外から室内に入るときに雨が降ってるってのは逆にやりにくいときもある」
「じゃあ私は見つければいい?殺せばいい?」
「・・・こういうときって本当にハルシャの傀儡って便利だよね、何mまでいけるわけ?」

雨に当たれば体温が下がる、ぬれたままの状態で室内を動くのはリスクが伴う。イルミほどの暗殺者になればそれらのリスク程度では仕事の成功率はさして変化しないのだろうが、それでも他に手段があるときにはイルミは徹底的にリスクを下げようとした。他の手段というのは今回で言えば間違いなくハルシャのことである。ハルシャの「傀儡師の共演(マリオネットダンス)」と念糸があれば広い屋敷内での対象の捜索や、悪天候下での仕事も非常に容易であった。

「答えると思う?」

ごく普通の会話の流れの中で念に関することを口にしたイルミに、ハルシャはにやりと笑って一蹴した。ハルシャもイルミの念の全てを知っているのか、というと当然そうではない。一時は同じ人に師事していたとはいえ、イルミとハルシャは互いの能力は大雑把に人を操る、人形を操る程度にしか知らないのだ。そもそもハルシャですらサソリの能力の誓約と制約を知らず、またハルシャの知りうる範囲の操作能力がそれで全てなのだとも言い切れない。念能力者が他者に自分の能力の詳細を知られるということは、死に直結しかねない大事である。たとえ恋人同士でも互いの念能力は教えないのが鉄則であり、その一方で生き残るためには他者の念能力の詳細をできる限り知らなければならない。
サソリの念能力は自ら手をかけて死体から作り上げた人形を操作する、という説明してしまえばとてもシンプルな能力である。サソリの作った人形の内部にはオーラを半永久的に生み出す核:ブラックボックスと呼ばれる部位が存在し、これが存在することで人形全体を念使用者のオーラで包まずとも人形の精密な操作が可能になるのである。サソリの念・・・そしてそれを受け継いだハルシャの念は他者のオーラへの干渉である。イルミやシャルナークといった操作系の面々もさまざまな方法で他者に関与し操作するが、サソリとハルシャの念における干渉力は非常に弱い。生きている人間では一般人で単純な動作、念能力者にいたっては多少動きを鈍らせる程度の操作しかできない。(操作される側が意図的に操られることを望めばまた話は別だが、イルミやシャルナークの操作と比べると圧倒的に性能が落ちる)その代わりに自らオーラを操作することのない死体から作り上げ、オーラを半永久的に生み出すブラックボックスを持つ人形の非常に精密な操作ができるのである。
サソリとハルシャの念能力は、単純に精密な動作をするという要素だけを考えた場合に操作系の中でも五本の指に入るほど性能がよいものである。本人の訓練によるところも多いが、それゆえに念の詳細を知ろうとする輩も多く、非常に近しい関係にあるイルミも時折こうしてかまをかけてくる。とはいえそれでぽろっと話すほど単純であればハルシャは齢20を数えることもできないだろう。

「答えないだろうね」

イルミはハルシャの答えに満足したわけではないのだろうが、あっさりと言い切った。そもそも答えがあることなど期待してはいないのだ。

「あと三十分ぐらいで着くよ。ハルシャは屋敷内のどこかにいる十老頭を見つけること、それから護衛の始末」
「十老頭は殺さないわけ?」
「殺しはするけど別の依頼もあるから、そこは俺がやる」

イルミの言葉にハルシャは頷いた。ぽつりぽつりとヨークシン市街を出た頃は強くなかった雨が、いつの間にかざぁざぁと大降りになっている。警報が出されるほどのものではない、一般人からすれば日常の中の一つだ。だがこのような日にわざわざ外へ出たくないのはハルシャも同じだ。屋敷内で、と言ったが面倒だから車の中で片付けようとひっそりとハルシャは思った。








ヨークシン郊外、市街より二時間ほど車で移動した場所にぽつんとある屋敷と広い庭。6大陸10地区を縄張りとする巨大マフィアの長老である十老頭は、普段常にまとまって活動を行うわけではないがこうしてヨークシンのオークションが開催される時期だけは一同に会してその運営に当たっている。運営の都合もあってヨークシンよりさほど遠くない場所にある屋敷に毎年集まるようだが、当然マフィアのボスともなれば暗殺の可能性も考慮し彼らの情報は基本的に外部へ流出することはない。
イルミが地下競売へまぎれこんでいたのも、十老頭の情報を得るためであり本来であれば競売を終えてからこちらへくるはずだったが、想定外だったのは地下競売を襲った彼らの存在だ。イルミやハルシャからすれば大いに予定が狂うことになったわけだが、それも時間がたてばじょじょに忘れていった。そもそもハルシャとてノストラードファミリーに何か思い入れがあるわけではないのだ。今、生きているのであれば大きな問題はない。予定が狂おうとも十分に修正は可能である。
屋敷は広大な庭に囲まれており、当然敷地内にはある一定以上の人間しか入ることはできない。だがそこはイルミが地下競売場で手に入れていた身分証でもって特に問題もなく通りぬけた。屋敷に近づいたあとはハルシャの出番だ。車の外に傀儡を押し出して、しばらくすれば外の護衛はすぐに静かになる。できる限り屋敷へ来るまで近づいて、監視カメラを壊した後に侵入するのはイルミにとっては容易いことで、十老頭の所属する屋敷への侵入はとても静かに実行された。さらに他に二人ゾルディック家の者が屋敷に侵入していることをハルシャは知らなかったが、彼ら二人を見つけるよりも十老頭をハルシャが発見する方が早かったために特に問題が生じることはなかった。
十老頭は権力を持てど身を守る実質的な力は持たない。イルミの針であっけなく死ぬのをハルシャは扉のそばで見守っていた。

「ねえ」
「何」
「君、だれ?」

十老頭の始末はイルミがやると決まっている以上、屋敷を制圧し終わったハルシャはあとは暇なだけである。特に何をすることもなくイルミが十老頭を始末し、なにがしか針を頭に埋め込んでいるのを見ていたとき、ふいに暗がりから声をかけられた。
イルミと全く同じ黒い髪と黒い瞳。和装は女性だが、顔立ちは男とも女ともとれる。見た目も声もはっきりと性別がわからないほどに若い、言い換えてしまえば幼くも見える子供が一人、そっと暗闇に佇んでいた。その脇に佇む十老頭とは関係ない老人は奇妙な笑みを浮べてハルシャとそれから黒髪の子供、カルトを見ていた。

「あー・・・・・」

マハのことはハルシャも一度ゾルディックにいたときに見かけたことがあった。となると、と首をひねってハルシャは口を開く。

「イルミの・・・弟?」
「・・・なんでわかったの?」

少しばかりトゲのある言い方にハルシャは少し眉を寄せたが、ハルシャとて物言いはきつい。「似てるし」となんとも理由にならないことを口にすればカルトもまた眉を寄せる。

「・・・・ハルシャとカルトは何やってるわけ、ちょっと静かにして」

しばし睨みあっているとイルミのあきれた声が聞こえた。イルミの口にした名前にカルトは聞き覚えがあったのか、はっとした表情で口をセンスで多い、今度は睨むというよりはまじまじと興味深げにハルシャを見るものだからハルシャとしてはどうも居心地が悪い。どうやら敵認定されているわけではないようだが、興味をもたれるのもいまいち落ち着かない。
イルミはハルシャとカルトが沈黙したのを確認してから頭に針を刺した状態の十老頭をなにやら動かし始めた。すでに死んでいる彼らはそう長い間動けるわけでも、ハルシャの傀儡のように精密な動きができるわけでもないが、ほんの少しの間会話をしたり立たせたり歩かせたりは十分に可能だ。死んだ直後ならなおさらで、イルミもそれを理解した上でのことなのだろう暗闇の中から十老頭に画面に向かってなにやら話をさせた後、通信装置の電源を切って完全に十老頭を沈黙させた。

「終わり、報酬は後で振り込むよ」
「あ、講座持ってないから現金でよろしく」
「・・・・」
「何よ」
「いや、なんでも」


2014.11.05

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