指定された日時に集まれば、バショウ・センリツ・ヴェーゼとしてクラピカと屋敷の前で別れた全員がその場に揃っていた。あの時訪れたのとは違う屋敷一部屋で、皆それぞれがデータカードに記載された何かを持っていた。
ハルシャもまたデータカードの中の一品をきちんと持ってきていた。若干血がついているのは本来の持ち主から奪った際の返り血で、特に気にすることもなくハルシャはそれをダルツォルネに渡す。勿論、この場所まで案内される前に一度鑑定は受けているのだが、指定された場所まできちんと管理して持ってくることが条件の一つのようだった。

「オーケイ。五人とも正式に採用だ」

今回ハルシャが本体で着ているのは、おそらく長距離の移動があると踏んだからである。安全な場所を確立できればいいのだが、そうでない場合は下手に身代わり人形を送り込むと本体がおろそかになる。さらに仕事の内容がヨークシンオークションと絡む護衛なら、ここから国境を越えて移動することは確実で、さすがに数千kmの距離を隔てて人形を操作することは不可能だ。
クラピカと目が会うとにっこりと笑われた。多分「今回は本体なんだな」という意味なのだろう。あれから身代わり人形の目を随分と調整したのだが、まだ違うのかちょっとだけ気になるところであった。

「クラピカ、随分と変わったね」

ハルシャが、ヨークシンに向かう飛行船の中で、外を見ながらハルシャが隣に立っているクラピカに言った。

「・・・何がだ?」
「んーさっきのダルツォルネに言ってたさぁ。「人物の心当たり」って奴、ハンター試験受け始めじゃ言わないでしょ」
「・・・どうだろうな」
「だって私が、ノストラードファミリーに反逆を起こすかもしれないなんて思ってもない発言じゃん。仕事仲間になったら仲間なんでしょ。その外部でしか敵を考えなくなったとか、ねぇ」

クラピカはにやっと笑ったハルシャの言葉に少しばかり驚いたようだった。それからしばし考え込んで「ああ」と小さく呟く。

「・・・・・・私も甘くなったのだろうか」
「まぁ、こういう仕事柄は甘いね」
「しかし私にはハルシャが敵にまわるなど想像もしなかったのだよ」
「私は結構簡単に立場を変えるよ?」

ハルシャは警告でもなんでもなく、ただ自分が常にそうであるということを口にした。誰かに縛られるのは面倒だ。立場は常に自分のありたいようにある。だからいつだって敵にもまわるし味方にもなる。人間関係のしがらみがないわけではないのだが、それに縛られることは少ない。クラピカはそれきりとんと黙り込んでしまった。
ヨークシンにたどりつくまで後半日以上ある飛行船の中。ダルツォルネより能力についてハルシャは聞かれたが、ハルシャ能力に関しては一切しゃべろうとしなかった。ダルツォルネはそんなハルシャの反応に対し軽く方を竦めただけで、特に何も言わなかったがそれなりに不満はあるようだ。それはハルシャも、であるが、とりあえずヨークシンについてオークションに参加するまでその不満は口にしない方が無難であろう。飛行船は至って平穏な航行を続け、そしてヨークシンの郊外へと到着した。
あえて郊外で離着陸をするのは、人の密集地帯に飛行船などと目立つものを停泊させて、人の視線が集まるのを避けると同時に、要人暗殺へ備えるためである。ヨークシンの郊外、特にある方向に広がる地帯は岩と整備の悪い道路しかない空間だ。人がいないわけでもないが、とにかくよく見通せるその空間では、警戒するものが少なくてすむ。ヨークシンまでの移動が少々手間だが、上からの指示によって飛行船は無事何もない岩石砂漠地帯に着陸したのだった。
遠くにヨークシンが霞む。もうじき開催されるオークションに向けて色めき立つ空気がこちらにまで伝わってくるようだった。だがそこには明らかに善意以外のものも混ざっていて、乾燥しているという理由だけでなく空気が肌を刺すようだった。

「うーん・・・・なんか・・・嫌だわ・・・・」
「どうした、ハルシャ
「いや・・・なんとなく」

ノストラードの護衛に応募する前、千耳会を訪れる直前のシャルナークの反応もあってハルシャはヨークシンに近づけば近づくほど妙な不安が増していった。具体的に何があるわけでもない。聞かれたところで言葉にできないのだが、ここから先物事はあまり良い方に転がる気がしない。だがそれが自分のことなのかそれともまた別のことなのか判然とせず、ハルシャは結局黙ったままクラピカと同じ車に乗り込もうとした。

「おいハルシャ。お前運転できんのか?」
「えっ・・・うーんできるかもしんない」

ごく普通に後部座席に乗り込もうとしたハルシャだったが、ふいにバショウに声をかけられて足を止める。ハルシャたち、新人護衛が乗り込むのは五台のうち一番前を走る車だが、自動で動くわけではないので当然誰かが運転する必要がある。また今後も車を運転する可能性はどこかしらで出てくるわけで、バショウはひとりひとりに確認していったが、運転できるのかできないのかよくわからない反応をしたのはハルシャだけだった。

「できるかもしんない、ってお前運転したことないのか?」
「ない。でもアクセル踏んで走ってブレーキで止まるんでしょ?簡単じゃない」
「・・・・アクセルはどっちだ」
「どっちか、よ」

別に胸を張っていえることではないのだが、ハルシャは堂々と言い切る。一瞬空気が静まり返り、あまりにも反応が無いのでハルシャは要するに運転しなくて言いということなのだろうと判断するとそのまま後部座席に乗り込んだ。結局バショウが運転席に座ったのだが、そのときポツリと「アクセルでどっちかなんて答え始めて聞いたぜ」と呟いたのを助手席に座ったクラピカは聞き逃さなかった。

「むちゃくちゃすぎんだろ」
「いいんだ、彼女は」
「なんだそりゃ」

クラピカは少しだけ口元に笑みを浮かべてそんなことを言った。

「まぁ運転させるにはちょっと不安だが」
「ちょっとどころじゃなく不安だ!普通車に触ったことなければ運転できないって答えるだろ!」
「車ぐらい触ったことあるし」
「そういう意味じゃない。ハンドル握ったことあるかないかだぜ」

バショウの言葉にハルシャが肩をすくめて、センリツがくすくすと笑った。

「あなたって落ち着いているのね。不思議。前回来たのは誰だったのかしら」

センリツの言葉にハルシャが振り向いた。

「誰だったのかって?」
「ええ、だってあのときのあなた、心音がなかったもの。それから関節からキーキーとまるで金属がこすれるような音がしていたから、正直もう一度会うのが不安だったの」
「げっ」
「おいそりゃどういうことだ」

ハルシャが心底嫌そうな表情をして、バショウは思いもしないセンリツの言葉に顔をしかめる。

「あれは本当のあなたじゃないのよね?」
「うげー・・・・。絶対バレないと思ったのに・・・・」
「私にばれていた時点で絶対ということはないだろう」
「違うって、人形ってこと」
「おいだからどういうことだ」

センリツはおおよそ何事か把握しているようだがバショウに説明するつもりはないようだ。ハルシャは大きくため息をついて、後部座席に深く座りなおすとシンプルに一言だけ説明をした。

「だから前回屋敷で会ったのは私の身代わり人形ってことよ。私の念はそういうものなの」
「操作系か?」
「それ以上先は言わないわよ」

べーっと舌を突き出せば、バショウは肩をすくめて前を向いた。フロントガラスの向こうには単調な岩の道が続いている。その荒野を、見慣れぬ服装の男女四人が歩いていたことに、ハルシャ達一行は気にも留めなかった。


2014.05.19

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