某日某所。まだ日は高いというのに室内には暗い影が落ちている。室内、と呼べるのか疑問であるのは窓ガラスという窓ガラスが砕けて床に散乱し風が吹き抜けるからだ。夏の夜の風は寒さを感じるほどではなかったが、湿気が気持ち悪かった。
「おい。なんでわざわざここを指定した」
「オレはお前のことを知らないからな」
どことなく暗いのは窓があってもそれを覆うように高い塀が四方に作られ外界からの視線を遮断しているせいである。まるで隠れるようなつくりのこの建物は、少し前まである研究所だった。何を研究しているのかもサソリは知らないが、クロロはそこにある資料の一つを手にとって満足げに眺めている。
背に逆十字の黒いコート、幻影旅団団長クロロ=ルシルフルは若く、サソリはその一挙手一投足を観察していたものの隙は見られなかった。
「傀儡になる気はないか」
「悪いが断る。シャルにもそういわれたら絶対に断れと言われた。それよりもお前は操作系か?」
「聞いてどうする」
「興味本位だ」
「嘘をつけ」
お互いに少しだけ口の端を歪めて笑った。ひどく綺麗なクロロの笑みと、剣呑な何かを纏ったサソリの笑みはこの静まり返った空間ではひどく不気味である。
「まぁいい。用件はなんだ。シャルからお前が幻影旅団に興味を持っていると聞いたが」
「まぁそうだな。オレはてめぇらが9月のヨークシンオークションで動くのかが知りたい」
「知ってどうする?」
クロロの表情はサソリの言葉を聞いたところで微塵の変化もない。シャルナーク同様、何か明白な理由がない限り彼は何も言わないだろうとサソリは確信し、ため息をついた。こういう連中と話すのは疲れる。特に
ハルシャは実にシンプルな言葉遊びに引っかかったから、余計に・・・・と思ってサソリは知らず知らずのうちに顔をしかめた。
「一つ、オレはヨークシンオークションに用がある。二つ、ある伝でオークションで騒動が起きると聞いた。しかも馬鹿でかい騒ぎだそうだ。三つ、それに旅団が関係あるならば、オークションでぶつかるよりも事前に折り合いをつけたい」
「旅団と戦いたいわけではなさそうだな」
「以前あの金髪と戦ったときに傀儡が半分使えなくなった。負ける気もしねぇが、被害がでかい」
吐き捨てるようにサソリが言えばクロロが笑う。そうか、と小さく呟きながらクロロもサソリをじっと観察していた。
「お前の問いに答える代わりにオークションでの目的を教えろ。それ次第ではどの道別の場所でぶつかるぞ。何も旅団が狙うのは何かの団体のものだけではないからな」
「先に教えるのはてめぇの方だろうが、まずは旅団が来るのか来ないのか次第だ」
クロロは盗む目的・対象次第でその後が変わるといったが、サソリはそれらには一切反応しなかった。今後、赤砂のサソリとの接触の機会を含めて考えて、クロロはようやっと口を開く。有名な傀儡師サソリと縁を持っておくのも悪くない、とクロロは判断したのだろう。
「蜘蛛の目的は今期のアンダーグラウンドオークションの全てだ。通常のオークションは個人の判断次第だが、団員の好みのものも出展されているとあれば、全て無事ではないだろうな。これで満足か?サソリ、お前の目的はなんだ」
「オークションに出展されるG.I」
「ほう、あのゲームか?そんなものに興味があるのか?」
「使用目的に関して答える必要はねぇな」
確かに、とクロロは笑った。オールバックにしているとあまりわからないが、黒い瞳は大きく幾分年に似合わない幼さも見て取れる。だがその威圧感は世間を騒がせる幻影旅団の団長にふさわしく、またサソリ自身傀儡にして手元に置くのも悪くないと思わせるものがあった。
床に引かれたじゅうたんにゆっくりと吸い込まれた血はドス黒くなっている。暗い室内でじっと二人はお互いの思惑を探ってにらみ合っていた。
「・・・・お前の目的はおそらく蜘蛛とはぶつからないだろう。だがここからは提案だ。今期のオークション襲撃に、幻影旅団として参加する気はないか。いや本当に旅団に入る必要もない。あくまでお互いの利害の一致による契約と考えてくれればいい」
「利点は」
「蜘蛛と戦いたくはないんだろう?もしも参加するなら、G.Iに関してはサソリに譲れと伝えよう。個人でもそれならばぶつかることもないはずだ。少なくとも蜘蛛の仕事に参加したのなら、個人的な用件でも団員に譲るよう伝えることは可能だ」
「・・・・・」
サソリはしばらくの間何か考え込んでいるようだった。そしてゆっくりと顔を上げて「いいだろう」と呟いた。
2014.04.27
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