一方の天空闘技場では、まだゴンとキルアが滞在していた。ハルシャは自らの傀儡を治すため自分の一通りの試合が終わり次第去ったが、ゴンとキルアは当初の目的である金稼ぎとヒソカとの対決が済むまでは去るわけにはいかなかったのである。無傷で、とはいかなかったが、あのヒソカと戦ったにしてはそれなりに無事な方だったとキルアは思いながら、ゴンが試合の後連れて行かれた救護室に向かう。
ハルシャがいなくなってからも念をはじめとする修行はかかさなかった。一朝一夕で実力はつくものでないことは知っている。更に言えばヒソカの実力は並大抵のものではなく、天空闘技場と言う限られたフィールドと誓約の中であれだけ戦えただけでも十分だろう。念を覚え、更に言えばまともな戦い方を覚えて半年あまり、この短期間で一気にここまで駆け上ってきたゴンとキルアに眠っている実力は並大抵のものではない。だがそれはあくまで周囲の思いであって、本人達が今の現状に満足するはずがなかった。いや、むしろここで満足できないという気持ちや精神そのものが、彼らの一番の強みなのかもしれない。
忘れられないのはウイングの「型に嵌れば圧倒的な力を見せる」と言う念系統の話である。さらにその後に、型に嵌ったハルシャの念能力を見せられれば自分達もやりたいと思ってしまうのは当然の流れだった。これこそがウイングの懸念したことの一つであったのだが、そう思われていることを当の本人達は知る由もなかった。
ハルシャから詳しくは何も教えてもらえなかったものの、水見式だけでわかる念能力者としての実力の高さに、キルアは今思い出しても体が震えた。キルアは断じてヒソカのような戦闘狂ではない。その性質が多少なりともあることは認めるが、ヒソカの域に達しているかと問われれば答えはNoである。それでも、あのように実力を見せ付けられればそれなりに気になってくるし、戦ってみたいと思うものだ。考えてみればハンター試験での彼女は最終試験でイルミと戦う以外本当にお遊びの気分でいたのだろう。四次試験も、キルアはいくらでも本気になったがハルシャの本気を引き出すにはまだ遠かった。遊ばれて遊ばれて、そして自分達がようやっと念の基礎を覚えたところで、ヒソカやハルシャの本当に力が見えてきたのである。そして同じラインに兄であるイルミもいた。
ウイングは本当に色んなことを教えてくれた、と思っているしキルアも念を正しい形で覚えられたことに関してとても感謝はしている。しかしその先を知りたい。念系統の話を含め、念の奥深さに見せられたキルアはまだ先があると信じ、それに習得するという願望に先日から身を焦がされる思いでいるのだった。


「・・・よーゴン。元気そうだな」


救護室の扉を開ければ包帯だらけではいるもののいつものように笑っているゴンとそれから見舞いだろうズシがいた。ウイングはなにやら用事があるとのことで席を外しているらしい。医者も看護師も他の怪我人に付きっ切りなのか、救護室の中は三人だけだった。ゴンは傷が多いといってもそのほとんどは単純な打撲とかすり傷である。ギドと戦ったときのような激しい負傷はどこにも見られず、纏をしていればほんの数日で治ることは明白だ。それだけ見てもヒソカがある程度加減していたことがわかる。勿論あくまでゴンが念を覚えているという前提での手加減であり、一般人相手であったらこの程度の怪我ではすまなかったろう。端から見ていてもわかるヒソカの一撃一撃の重さは、到底纏なしで乗り切れるものではない。
ゴンは、ヒソカに手加減されたことが悔しくもありまだ上があることが楽しくもあるのだろう。キルアと同じように、まだ目指すべき上があることに喜びを感じ、同時にそこへ向かいたいという欲求に突き動かされているのだ。
キルアはゴンが自分と同じ気持ちを抱いていることを見て感じて、一つの提案を口にした。あくまで提案ではあったが、その言葉にゴンが乗ってくるだろうことは予想がついた。


「なぁ・・・・あ、いや・・・・んー・・・・ゴン、ちょっと相談があるんだけどさ・・・・あ、ズシも来るか?ウイングには内緒だぞ」


ズシに対して若干迷いがあったのは、キルアやゴンと違ってズシはずっとウイングと言う師匠の下で修行をしていたからであった。


「念の系統についてさ、もう少し知りたいと思わねぇ?」


ゴンはキルアの予想通り迷いなく頷いた。ただそれをどうしてキルアがこそこそと隠れるように話すのかについてはまだぴんと来てないらしく「なんでそんなに小声で話すの?」と聞いてくる。ズシも周りに操作系の念能力者がいないこともあってか、自分自身の系統についてはかなり気になっている様子で頷く。


「こっから先は他に気になることがあるから、とりあえず俺の部屋行こうぜ。聞かれたくないんだ」


キルアはそう言って手招きした。



















最上階に近いところにあるキルアの仮宿で、キルアはベッドに座り、二人は適当なところに腰かけた。部屋からは見る外の風景は高所も相まって非常に清清しいものであった。だが、三人はそんな風景は見飽きたとばかりに目もくれず、輪になってキルアの話しに耳を傾ける。


「なんでそんなにもったいぶるの?」


ゴンはキルアにウイング以外の当てがあるとは思ってないのか、相変わらず首を傾げている。


「いや、ウイングに言ったら反対されそうだったから。なぁゴン、ズシ。ハルシャの念に興味ねぇ?」

ハルシャの?うーん・・・すごくある!!!」


当然だ。散々実力を見せ付けられながらもその真相を全て隠してさっさと天空闘技場を去っていったハルシャに、ゴンが興味がないわけがない。そしてズシもまた同じ操作系の念能力者として、操作系の中でもトップに数えられるだろうハルシャの念には当然興味があった。


「でも、ハルシャさんがどこにいるかなんて・・・」

「だいじょーぶ。俺の兄貴からさ、それとなく情報集めておいたんだ。ハルシャの奴、操作系念能力者の集まるバーンハートって町にいるらしいぜ」


キルアはポケットから取り出した携帯をいじりながら言う。兄貴、というのはイルミの方ではなくミルキの方だ。実際のところハルシャがその町にいるという確証はないのだが、操作系の念能力者が集まり、かつどちらかといえば裏世界に通じる人形の部品を集められる場所、となれば当然限られてくる。その条件下で調べてもらって出てきたのがアテネのスラム街の一画を占めるバーンハートだった。ただ残念なことにその町にさほど興味がなかったミルキは、その町がどのような性格を持つものであるのかまでは調べなかった。もしもキルアからの連絡を受け、その情報を流す前にイルミに相談していれば、絶対にその場所について教えるなと言われただろう。
だが一体どんな不幸か、ミルキがバーンハートが治安がよくないどころではないということに気付いて顔を青くしたのはすでにキルアたちに情報を渡した後だったのである。


「ばーんはーと・・・?聞いたことないっす」

「俺も」

「俺も聞いたことねーよ。つか知らない町の名前の方が多いし。でもめちゃくちゃ遠いってわけじゃないみたいなんだよな。どうする?行って本格的にハルシャに念について教わってみるか?」


キルアは最初から行く気満々なのだろう。天空闘技場でやるべきことを果たしたゴンがそれを断る筈もなく、なかなかいない操作系の能力者への憧れが強まっていたズシもまた同じだった。その日のうちに天空闘技場を出発した三人を、ウイングが血眼で捜すのも、ミルキから事情を聞いたイルミがほんの少しだけ眉を寄せてハルシャに連絡を入れるのもそれからすぐ後のことだった。









2013/12/25 Merry Christmas!!

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