「ちょっとシャルナーク、ゼリー買ってきてよ」

「え?ちょっとあのさぁ、俺も仕事あるんだけどそんなにパシるのやめてくれない?」

「私の家に居候してるのあんたでしょ」


ベッドの中で丸まっているくせにやけに殊勝な態度だ。部屋を焼けれて放心したあと、一旦はベッドに入って寝たハルシャだったが、いい加減汗と血にまみれた体が気持ち悪くなったらしい。風呂に入る、といいつつもこんなアパートで水道がきちんと機能しているわけもなかった。仕方なくベネットのところまで行って風呂に入ってきたハルシャは、湯冷めしたのか、布団に丸まったまま一歩も部屋から出ようとしなかった。
外の気温は寒くはないものの、半袖一枚で暖かいとは言いがたい。シャルナークも長袖のシャツにベストを着ているくらいだ。そもそもローライズの丈の短いジーンズを穿いているハルシャが寒くないはずがないのだ。他に服を持っていないのかと聞けば、ないと言われた。


「・・・・もう少し健全な日常生活を送れば体も強くなるんじゃないかな」


シャルナーク自身も全く健全とは言えないが、それでもそんなことを言えばハルシャは「知るか」とそっぽを向く。反応がまるで子供だ。ここまでは普通の会話だった。いつも通りシャルナークが宥めてハルシャが我侭を言うような、だがその次の言葉にシャルナークは一瞬どう答えようかと言葉に詰まる。


「そういやさ。シャルナークって何の仕事してるの?出勤してるところ見たことないんだけど」


シャルナークはハルシャに自分が幻影旅団に所属していることを告げてはいない。そして今までの様子だとサソリもまたシャルナークが幻影旅団に所属することを知っていながらハルシャには告げていないようだった。
裏世界に所属する者たちはお互いに干渉しない。相手を知ることそのものが時には命とりにもなりかねないからだ。ハルシャは少なくともそういう理由ではなく純粋に興味がないのだと思っていた。だからこそ驚き、同時にハルシャの領域に踏み入りすぎたかとも思う。


「答えたくないの?んじゃいいや。別に興味ないし」


考えすぎだったようだ。ハルシャは一瞬のつまりを答えたくない、という意思表示として受け取りさっさと言葉を撤回した。この引き際のよさのせいで、なかなか自分が幻影旅団に所属していることを告げられないというのもある。自分から言い出すのはなんとも馬鹿馬鹿しい話だと思った。


「その引き際のよさは嫌いじゃないよ」

「そう?引き際が良いって言うか・・・うんまぁ、そうなのかな」

「そうじゃない?いちいち干渉されないのは俺としてもありがたいし」

「あっ?そうなの?んじゃ干渉しない」

「え?今まで何も聞かなかったのって干渉するのが嫌いなだけじゃなかったの?」


シャルナークの意外そうな言葉ぶりにハルシャは眉をひそめる。


「確かに誰かに干渉するのが大好きってわけでもないけど・・・・半分くらいはあんまり深く関わると面倒だなってだけだけど?」

「それ、干渉するのが嫌いって言うんじゃないの?」

「・・・・・そう?首突っ込むと面倒なことってあるじゃない?干渉ってのはもう少し違うもんだと思ってたけど、ほら父さんが私のこと育てたみたいな、あれを干渉って言うんじゃないの?」


それは、多分、違うと思うという言葉をシャルナークは飲み込んだ。確かにサソリの性格を考えればハルシャに干渉していた、という言い方ができそうだが、見ている限りではそんな風には見えなかったのだ。少なくともサソリはハルシャのことを実の娘のように扱っていた。だから干渉なんて生易しいものではないと思うし、そのような区分は全くの勘違いであるようにも思う。だが流星街で生きてきた身としては、親の存在というものや愛情という感情の区分がよくわからなくて結局否定も肯定もしなかった。多分ハルシャ自身も迷っているところがあるのではないだろうか。
サソリの愛情はまともではない。"永遠"に固執したあの男が"愛"というあやふやなものを好むとは思えなかったから、サソリ自身がハルシャに対する干渉という言葉を好んで使っていたのかもしれなかった。


「・・・・まぁ何にせよいいんじゃないかな、わかりやすくて」

「そりゃどーも」


理屈屋でマイペース。お互い自分勝手な方向に進む分、不必要なまでに付き合うことはしない。これでもしもハルシャがシャルナークに付きまとうようなことがあれば、シャルナークも早々にハルシャに飽きていたのかもしれない。


「とりあえず寝たら?」

「い や だ」


















ハルシャの風邪が完治したのはそれから一週間後のことだ。ことあるごとに動き出すおかげで、一向に風邪が治らず、随分と長引いた。だが完治したかと思えばまた新しい死体を引きずってきて、部屋が死臭に満ちる。やっぱりこればかりは勘弁して欲しいと思いながらもまた、シャルナークは本格的にサソリの捜索と次の蜘蛛の仕事の情報整理を始めたのだった。


「・・・・・」


シャルナークは自分で調べ上げた事ながら、このデータを全て破棄しようかと思った。ハルシャは部屋に篭ったまま出てこないが、円が部屋の周りを囲っているから心配する必要はないだろう。そして同時に今ここでシャルナークがいくら百面相を繰り広げようともハルシャにばれることはない。
シャルナークが見つめる画面に映っているのは、今年のヨークシンドリームオークションに出品される品の一つであり、それは間違いでなければ「サソリの人傀儡」だった。鑑定は流通経路とサソリが人形に好んでつけるマークによって行われているからまず本物だろう。ハルシャはこれを見せたらまず間違いなくヨークシンに向かう。そしてオークションに出てその流通について探ろうとするだろう。ネット上にほとんど情報が上がってこないサソリの足取りを見つけるにはそれが一番手っ取り早い方法だからだ。ならばそれのどこが問題なのか。まず第一にオークションに出品されるといってもそれは表の一般的なオークションの話ではない。地下競売(アンダーグラウンドオークション)と呼ばれるマフィアンコミュニティーの取り仕切る所謂闇のオークションなのだ。勿論それだけならいいのだが、幻影旅団の情報係と名高いシャルナークはすでにクロロから次の目的を聞かされていて、その対象までも全てを知っていた。


「・・・・あちゃー・・・・これどうしよう・・・・」













2013/12/01

S.D.Sランキング参加中