※グロ表現有り。 閲覧注意










「・・・・随分向上したな」

「褒め言葉として受け取っておくよ」


シャルナークはベネットの不愉快そうな言葉を笑い飛ばした。


「アンテナは抜いたらまた逃げ出すか?」

「ん?ああ、大丈夫。もう寝てるから」


携帯をいじり終わったのか、シャルナークがポケットに携帯をしまったのを確認してからベネットはアンテナを抜いた。それをまじまじと眺めていると、早く返せよと急かされ投げ捨てるようにシャルナークに返した。


「どれ、この馬鹿娘が寝てる間にでも死体を処分するか」

「え?処分しちゃうんだ?」


ベネットはシャルナークの言葉に当然だろ、と返して血のにおいを辿っていく。その部屋からは明らかな死臭と血の独特の香りが立ち上っていたから、一発でわかった。扉を開いた瞬間、換気してあるにも関わらない酷い匂いに、ベネットは顔をしかめる。
蝿が飛び交い、よくよく見ればまだ残っている脳は溶け出して床の一部に血ではない染みを作り出している。内臓はほとんどないがウジがわき、ベネットが近づくと頭を肉の中に引っ込めた。部屋の隅には、最初こそ気付かなかったが抜かれた骨が綺麗に並べられている。死体や人形の扱いに関しては几帳面であることは知っていたが、想像以上だ。骨には一つ一つ文字が刻まれていて、シャルナークはそれをまじまじと見つめた。念に関係があるというよりは、識別番号のようだった。体のつくりから男であることはわかったものの、眼球は抜かれ皮膚を剥がされた形ではほとんど顔の成り形は想像できない。


「こりゃすげぇ」

「・・・・もっとすごいもん見てるでしょ」



俺より長生きしてるんだし、と言外に添えてやれば、ベネットはそれを鼻で笑い飛ばした。どうやら「すげぇ」の意味はシャルナークの解釈と異なったようだ。


「"良い"死体だってことだ、ボケ」


シャルナークは改めてマジマジと死体を見つめてみたが、どこかどう"良い"のかわからなかった。すでにハルシャを拾い上げた時点で、散々この血の海に踏み込んでいるので、今さら血を踏みつけることに抵抗はないが、わざわざ死体に触れようとは思わない。筋肉がむき出しになり綺麗に中身を洗い落とされたそれは、人体模型に見えなくもない、が、だからといって違いがわからない。


処分すると言っていたからどうするのかと言えばどうやら普通に燃やすらしい。どこかへ行ってしまったかと思えばいつの間にかガソリンを持って返ってきた。そして部屋に適当に撒き散らす。


「捨てたところでそれがわかったらあの馬鹿、拾いに行くからな。こりゃ確かにもったいねぇが、体弱いんだから休まなきゃなんねぇっつってんのに休まないからなあいつは」


馬鹿、とは十中八九ハルシャのことだ。ぶつくさとベネットはハルシャに対する愚痴をぶちまけながら、一緒にガソリンも撒いていく。シャルナークは相変わらず死体の違いについて考えていたが、結局良い考えは浮かばなかった。フェイタンあたりに聞けばわかるのだろうか。


「どけ」

「サソリとかハルシャの良い・悪いの基準ってなんなの?」

「あ?」


酷く不機嫌そうな目を向けられたが気にせずにいれば、ベネットは眉をしかめてから「人形師のこだわりって奴だな」と言った。


「人傀儡って奴にせよ、俺の生き人形にせよ、それぞれこだわりってもんがあんだよ。ハルシャがゾルディックの長男に拘るのは、あの黒髪黒目だな。あれは人形にしたらさぞ美しいだろう」


恍惚とした表情で言われると気持ちが悪い、とシャルナークは思った。だが特に何も言わずに話の先を促す。


「サソリもゾルディックの長男は狙っていたか?まぁそれはともかく、それはあくまで人形師個々人の人形に対するこだわりだ。ある程度美しいもんを造りたいと思ったら素材が良い方が良い。それにあとは人形の造りやすさってのもあるな。背骨が曲がっていなかったり、皮膚に傷が少なけりゃ調整する必要も修正する必要もねぇんだ。楽だろ。この死体は見たところ骨折もねぇし、骨の繋ぎ目が綺麗だな。それに筋肉も損傷が少ねぇ。これなら臓器の状態もいいんじゃねぇのか」


淡々と続けられると頭がおかしくなりそうだ。シャルナーク自身も真っ当ではない世界に生きている自覚はあったが、ここまでの人間にもなるとさすがにシャルナークも引く。やっぱりハルシャの人形遊びにだけはついていけないな、と思いつつ部屋を出た。それに続いたベネットはライターを取り出して火をつけ部屋の中に投げ込む。ぼっと一瞬で部屋の中は火に包まれ、ベネットはしばらくそれを見ていたがやがて扉を閉めて何もなかったことにしてしまう。


「そういや、燃え移らない?」

「あー・・・・。まぁそうなったらそうなっただな」


他に住民が居るにも関わらずの発言に相変わらずだな、と思った。燃えているのはハルシャが居住区にしている部屋の一室だ。コンクリートの建物だから、建物そのものが燃え落ちることはなさそうだが、火が飛び移らないとも限らない。勝手に持ち込んだパソコン類が燃えようとさしたるダメージはないが、いざとなったらハルシャを連れて逃げる準備だけはしておこうと思った。要するにあまり危機感はなかった。
結局火はそれから数時間に渡って部屋の中を燃やしつくし(といっても最初からほとんど何もなかったが)たものの、火勢が勝って他のところに移ることまではなかった。かなり頑丈な木製の扉も残念ながら数時間後には完全に燃え落ちて、黒焦げの部屋がよく見渡せるようになっている。
ハルシャはまだ起きてこないだろうと、しばらくクロロからの調べ物の依頼に専念していれば、ハルシャの寝室でごそごそと動く音がする。起きたか、と思ったもののキリが悪い。あとちょっとと思っている間に案の定、ハルシャはまたふらふらと起き上がって死体の置いてある部屋に向かったようだった。そしてほんの数分後、悲鳴が聞こえる。
廊下を覗き込めば黒焦げになった部屋の前でぺたんと床に座り込んでるハルシャがいた。放心したように部屋の中を見つめたまま「何も・・・なくなっちゃった・・・・」とどこか意味深に呟いた。確かになくなった。なくなったが中にあったのは最初から亡くなったものなのだから、今さら気にするなとシャルナークとしては全力で言いたい。だがハルシャからすれば造りかけの"良い"死体がなくなることは、シャルナークがアンテナや携帯をなくすに等しい意味を持つ。つまりシャルナークの言う「諦めろ」というのは彼女にとってはあまりに軽すぎる言葉だった。


「ベネットが休めってさ」

「うあー」


言葉にならない声を上げて、座ったまま床の上に突っ伏す。そしてベネットと同じように「良い死体だったのにぃぃぃ」と呟いた。


「俺さ、ハルシャの人形遊びだけは理解できないよ」

「私もシャルがパソコンいじくってるのだけは理解できない」

「えー・・・よっぽどわかりやすいと思うけど」


それは価値観の相違だ。価値観と言うよりも、頭の根本的な構造の違いのせいかもしれない。とにかくハルシャは突っ伏して理解できない理解できないとくぐもった声でだだをこねる。それから私の死体を返せ、とも言った。


「まだ熱あるんだろ?早くベッドに戻りなよ」


たとえ蜘蛛のメンバーにだってこんな台詞を投げかける日がくるとは思えなかった。それほどまでにシャルナークがこうして誰かを気遣うのは珍しかったが、ハルシャにとってはそれが普通だったので「うるさい」と一蹴する。座って前のめりになった体勢は座るにはちょうどいいな、と思ったシャルナークはそのままハルシャの上に腰かけた。


「ちょっ!!痛い痛い痛い!!!」


額と、曲がった状態の悪い姿勢でシャルナークの全体重を支えるには幾分無理があったようだ。これでフィンクスやウボォーギンのように鍛えているならともかく、ハルシャの身体能力は一般人よりちょっと上程度のかなりお粗末なものである。旅団の筋肉馬鹿共ほどではないが筋肉質で長身のシャルナークの体重を支えるには、文字通り荷が重い。


「ベッドに戻るならどいてあげてもいいよ」


いじわるに言い返すと「戻る戻る戻る」というくぐもった悲鳴が下から聞こえてくる。もう少し苛めてやるのも楽しいな、と思ったがハルシャは苛めたら苛めた分だけ離れていくタイプの人間だ。少なくとも他人に依存しないといけないほど弱くない。いじめはじゃれあい程度に留めておくに限るだろう。仕方ないなと立ち上がったものの、ハルシャは結局つっぷしたまま動こうとしなかった。体重をかけたと言っても本気で全体重をハルシャの上に乗せたわけではない。そんなことしたらオーラで体を支えない限り本気で潰れるだろうと思ったからだ。あいにくと風邪を引いて体調の悪い彼女のオーラは纏ですら安定感がなく、あまり危険な真似は冒せなかった。だから骨が折れたわけでも何かしら怪我をしたわけでもないはずなのだ。それなのに何故起きてこないのだろうと、しゃがみこむと瞬間ハルシャがバネのように跳ね起きてシャルナークの額に頭突きをする。


「いったぁ!!!」


当然だ。反射的に堅で身を守ったシャルナークには痛くも痒くもないが、オーラをロクに纏っていないハルシャには今の一撃はむしろ自分に跳ね返ってきたに違いない。なまじ反抗心を起こすからだ。額を押さえてまた蹲ったハルシャの首根っこを掴んでずるずると引きずる。持ち上げることも簡単ではあったがまだ風呂にも入っておらず臭かったからやめた。












2013/12/01

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