「痛い」
試合より二時間後。
ハルシャは仏頂面で医務室のベッドに寝ていた。
傷が多いのはお互い様であろうに、ヒソカは包帯を巻いただけで
ハルシャのベッドの横に座って不気味な笑みを浮かべている。
「とっても楽しかったよ♣」
「私はさっぱり楽しくない」
「そうかい?ハンター試験の時以上に精度が上がってるし、でもやっぱりボクとしては本当の君の実力を見たいな♥」
そういうヒソカは恍惚の表情だ。
うげぇ、と明らかに嫌そうな顔と声で
ハルシャはヒソカに牽制をかけるが、彼はそんな
ハルシャにすら「ゾクゾクする」の一言で済ませた。
「この戦闘狂」
「
ハルシャもだろう?君だってあのとき楽しそうだったじゃないか」
ヒソカによってリング上に引き摺り下ろされた後は、ヒソカは出来る限り傀儡の一撃を受けないように、
ハルシャはできる限り傀儡で距離を取って戦えるように動き続けた。罠を仕掛け、誘う微妙な駆け引きはあの時リングに居た本人達にしかわからなかっただろう。
最終的には地力で勝るヒソカに
ハルシャが押し負けたわけだが、あの時は正しく生死は紙一重であった。
避け切れなかったヒソカのトランプに足の腱を切られて、
ハルシャは地面に転がったが間髪居れずに飛んできたトランプを避けるために立ち上がった。じくり、と足元から頭まで広がってくる痛みに
ハルシャは一瞬顔をしかめる。この状態で走るとなれば常時痛みが付きまとうが、今捕まればヒソカに殺されるだろうことは分かっていたから
ハルシャは躊躇なく足を踏み出す。
傀儡師の共演【マリオネットダンス】によって切れてしまった腱を操れば動くことは容易い。痛みが動きを鈍らせるなら痛覚を遮断すればいい。
ハルシャ自らの体を徐々に徐々に正常な状態から切り離し戦闘スタイルに変えていく。これこそが操作系の真髄ともいえる自己操作(セルフコントロール)である。
基本的に六つの系統に分けられる念は、各系統が独自の真髄と呼べるものを持っている。むしろそれがあるからこそ系統分類ができると言ってもいい。
中心に据えられることの多い強化系は、錬そのものが真髄と言ってもいいだろう。それは変化系や放出系も同じである。体を鍛えれば鍛えただけ、錬の精度を上げれば上げただけ強化系は強さを増す。変化系はその変化の幅・質がより広くなり、放出系もその威力を大きく上げるのである。
これら三つの系統はオーラをコントロールするよりもいかにオーラを多く作り出すかが鍵だ。そして操作系・具現化系と異なり鍛えたものが威力に直結する。
具現化系は念能力者が具現化するものそのものが、念能力者のオーラであるため、他の系統に比べ誓約や制約といったものが効果を持ちやすい。つまり通常なら考えられないような弱い制約や誓約で他の系統に比べ莫大な威力を持つ可能性があるということだ。これは念そのものが使用者の精神状態に強く依存することと関係がある。
そして操作系。操作系の念の真髄とは「自己操作」と「他者操作」であるが、一般には後者の他者制御が注目されやすい。これはよく言われる通り念能力者が自分のオーラを用いて他者のオーラに干渉し他者を操る、というものである。操る、という点においては念能力者によって程度の違いはあるが、大抵の場合他者のオーラの干渉により、操られる側はそのまま死んでしまうことが多い。
そして自己操作。これは他者ではなく己のオーラに干渉しその身体を意のままに操る。これが通常の状態とどのように違うのか、という点を強化系と比較しながら考えることにしよう。まず第一に自己操作は通常脳がセーブしている身体の限界値までその能力を引き出すことができてしまう。外部からの強制的な干渉と見なされるためだ。こうなると強化系に非常に似ているが、強化系の発はあくまで身体能力の底上げ、である。細胞を活性化させる、乳酸を分解する、オーラそのものがエネルギーとなることで無限に近いエネルギーを生み出すことが出来る・・・・これらはあくまで主体となる体が鍛えられていればこそのものである。主体が貧弱であっても確かにある程度までの強化は出来るが、オーラで底上げするにも限界がある。勿論いくら体を鍛えようと身体能力の限界を突破できないことは当然だ。
一方の操作系はたとえ体がどんなに貧弱であろうとも強化系に匹敵するだけの力を生み出すことが出来る。細胞の隅々までリミッターを外してしまうことで、身体能力の限界まで力を引き出すことができるのだ。だがその代償は大きい。強化系はあくまで力の底上げであるため、念の使用後に身体への負担はほとんどない。むしろ活性化された分傷の治りが早くなるぐらいだ。だが操作系の場合無理矢理に身体能力を上げるので、ほんの少しの自己操作であっても体に大きな負担がかかる。それが身体能力の限界値に近づけばなおさらである。
ハルシャの体は外傷こそ腱の損傷のみであるが、傀儡師の共演【マリオネットダンス】を自身に適用している段階ですでにかなり体への負担が大きい。ぎりぎりで攻撃を避けるために少しずつ少しずつ体の節々へ負担をかけていっているせいだ。
荒い呼吸を一度大きく深呼吸することで抑えて、ヒソカを捕らえるための策を練る。十機は基本攻撃専門の傀儡一式だが、今回は戦闘に対し制限があるということで、捕獲用の傀儡を一体混ぜてある。胴が膨らんだ丸っこい形状の傀儡がそれだ。だがヒソカ相手では捕らえることが非常に難しく、その間にすでにかなりの数の傀儡を破壊されてしまったため、
ハルシャが使える最大数のうち一体を捕獲専門にしてしまったのは失敗だったかもしれない。
「ところで
ハルシャ。その指についているものはなんだい?」
ヒソカが唐突に口を開いて、
ハルシャは一瞬警戒をした。だがそう言われて自分の左手人差し指を見ればそこにはヒソカと繋がっていない伸縮自在の愛【バンジーガム】が引っ付いていて
ハルシャは目を見開く。
「いつの間に・・・・っ!!」
「さぁ♥」
言うと同時にヒソカはくいと指を曲げて、その動きに合わせて
ハルシャの指も曲がる。
ハルシャの指にくっついた伸縮自在の愛【バンジーガム】は左手に握った銃と繋がっている。指は引き金にかかったまま。銃口はちょうど真下を向き、そこには
ハルシャの足がある。
意図せぬ引き金が引かれ
ハルシャは声にならない悲鳴を上げた。足の甲を銃弾が貫いて、激しい出血と共に、足が支えきれなくなった体は前のめりに倒れる。地面にぶつかった額が痛いとか、そんなことはどうでもよくて、一瞬でも動きが制限されてしまった体が憎らしい。自分が操作系であればこその屈辱だ。
ハルシャは顔を上げてヒソカを睨む。傀儡を通して動きはわかっているが、それでも自分の目で睨まなければ気がすまなかった。
2013/05/06
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