実況も言葉を止め、観客も息を呑んで試合を見守る。いや、最早何が起こっているのかわからないというのがこの場にいるほとんどの現状だろう。中にはまともな凝が使える人間も何人かいるようだが、だからといって見えるのはヒソカのオーラのみ。傀儡がリングに現れたと同時に姿を消した
ハルシャの存在も、そしてどのようにして傀儡が動いているのかも看破したものはいない。
唯一ウイングは彼にとって最大限の凝でもって、かすかにぶれる細い、本当に細い
ハルシャのオーラを一度だけ感知していた。しかしそれもほんの一瞬のことで、
ハルシャの位置すらつかめないままにすでに試合は始まってから十分が経過している。
ゴンとキルア、そしてズシまでも何が起こっているかわからないだろうが、ただただ目を奪われてじっとリングを見つめるだけだ。
(・・・・参りましたね・・・・まさかここまでとは)
ゴンとキルアの二人が最初に
ハルシャを連れてきたときから彼女がかなりの実力者であることは分かっていたが、まさかここまで戦い慣れした念能力者だとは思ってもいなかった。あくまで念を修行の一環としてマスターし、戦うことを極力避けてきたウイングにはとても
ハルシャにはかなわないだろう。
以前彼女が部屋で、ヒソカのビデオを見ながら「隠と絶が下手」と言った理由が今なら分かる。彼女の隠と絶はほぼ完璧だった。
絶でオーラを立てば気配は自然と希薄になる。生きているものなら誰しも持っているオーラは、たとえ念と言う形で使えなくても誰でも少しは外部へ漏れ出ているものなのである。だからそれを立つ、ということは気配を消すということに等しく、念能力者同士の戦いでは練と同様に必須の応用技とも言えるだろう。一方の隠は放出しているオーラを隠す業であって、実はこちらは全ての念能力者が必要とする業ではない。例えばヒソカのように相手に気付かれないように念をくっつけたりするならば使える必要があるが、ウボォーギンのようにオーラが見えようが見えまいが関係ないような念を使う場合、習得する必要がないとも言える。(勿論絶の振りをして飛び込んできた相手にカウンターをかますような応用もできるし、いくら必要がないといっても念能力上級者は大抵マスターしている)念を使う、ということは普通オーラを一箇所に集中させるということだから、念を使えるものなら無理に凝をしなくてもオーラがかすかに見えることがある。また肌や第六感で感じることもあるだろう。それでも普通凝をしなければ見えないものであることは確かだ。ならばなぜわざわざ隠という業があるのか?凝を使えばどの道ばれてしまうものを隠す必要は何故あるのか?
それは隠が使う念能力者の実力によってその効果を大きく変えるからである。
マチやヒソカレベルの念能力者の隠であれば、念をマスターしたばかりのもの、また念能力中級者の凝では見破れない程度の効果を持つ。だがイルミやシルバといった上級者にもなるとほとんど隠をする意味はない。だが油断している念能力者には十分有効だ。
だが
ハルシャの隠はマチやヒソカに比べ遥かに優秀なものである。基本的に彼女が隠によって自分の念糸を隠そうと思ったら、凝で見破ることは不可能だ。念糸の重なりならば多少見破れたとしても糸がどのように動いているのかまできちんと認識することは誰であってもできないだろう。それは育て親のサソリも同様である。
その状態で常にオーラを放出し、傀儡と傀儡師を結びつける。これは並大抵の人間がなしうる業ではない。彼女の天性の才と言ってもいいだろう。だがこれだけの細く常に隠によって隠された念糸で操作できるのはあくまで手に馴染んだ人形(死体)だけである。イルミのように生者を操るとなれば傀儡を操るのと同じだけの念糸では十分で、相手のオーラに干渉できない。つまり
ハルシャは製作と管理に莫大な労力を使う傀儡、という媒体を使うという制限(誓約・制約ではない)を貸すことで、凝でも見破れない隠を使うことが出来ると言ってもいい。
(・・・・・彼女は十中八九操作系・・・・それに自分の系統もよく理解している。ギドとはレベルが違う。しかしあの人形・・・・まさか・・・・)
ウイングはふと人形の首筋の印を見つけて驚愕した。
「まさか・・・・!!」
思わず立ち上がったウイングは、後ろからの「邪魔だ兄ちゃん!!消えろ!」という罵声によって改めて椅子に座りなおしたが、冷や汗が止まらない。
「ゴンくん・・・キルアくん・・・・
ハルシャさんと知り合いだと言っていましたが・・・・彼女について何を知っているんですか?」
不思議な問いかけにゴンとキルアは顔を見合わせた。
「あー・・・いやオレもゴンもよく
ハルシャのこと知らないぜ?なにせハンター試験で初めて会ってさ・・・すっげー強いやつ・・・ってことぐら・・・・あっ!!あいつオレの兄貴と知り合いなんだ!なんか
ハルシャの父さんがサソリってヤツらしくてオレの家に・・・」
「サソリ・・・・」
ウイングは裏ハンター試験の補助試験官でありながら、
ハルシャについてネテロから詳しい説明は受けていなかった。少なくともイルミ、ヒソカ、
ハルシャの三人は本当の意味でハンター試験は合格である、とだけ話を聞いており、彼女の正体や詳しい念能力についてウイングは知らないのである。だからこそまさかこの天空闘技場で会うとは・・・・・と驚いたし、また今彼女の父親があの赤砂のサソリと聞いて動揺もあった。
(ならば彼女は傀儡師!!・・・・全くネテロ会長も人が悪い・・・・)
できることなら同じ操作系のズシが彼女と出会って欲しくなかった・・・・というウイングの頭の片隅に湧き上がった小さな思いはやがて後悔となって膨れ上がるが、それはまた別の話。
2013/03/03
S.D.Sランキング参加中
