「よっしゃ!!手に入れたぜ、ゴン!!」

「やったねキルア!!オレ全部失敗だったのに・・・・」

「こーゆーのはコツってのがあるんだよ」


笑うキルアの手の中には四枚のチケットが握られている。あと半日後にあるヒソカVSハルシャの試合のそれは、薄っぺらいがこれだけでなんと10万もする代物だ。それだけ二人(特にヒソカ)が天空闘技場内でも注目されているということがわかる。ウイングとズシに余分の二枚を渡せば彼らもまた二人の戦いに興味があったのだろう、普通に礼を言って会場まで着いてきた。
試合開始までまだ時間があるというのに随分と会場は人で混み合っている。席はどこがいいだろうと思ったが前の方の席はほとんど満員で、四人も入れそうな隙間はなかった。ズシとゴンは少し残念そうにしながら後ろの方の席を選んだが、むしろキルアとしてはそちらの方がラッキーだ。


「なんで?だって近くから見たいじゃん」

「これがもっと違うやつの試合だったらな。今回はヒソカとハルシャだぞ。ハルシャはどうだか知らないけど、ヒソカのヤツ調子が上がったら手近なヤツから殺しかねねーよ。出来る限り離れるのに越したことねーし」


だから後ろでいいんだよ、とキルアは言って名残惜しそうな二人を後ろの席に引っ張っていく。


「で、あんたはどっちが勝つと思う?」


先に席に着いていたウイングの隣にどっかりと腰を下ろしたキルアはまだ誰もいないリングを見下ろしながらウイングにそう問いただした。彼はしばし考え込むような素振りをして、それからゆっくりと「本当にわかりませんが、ヒソカ・・・ではないでしょうか」と言った。
先日のヒソカVSカストロの戦いを見ているためにヒソカに思いが傾くのか、それとも単純にハルシャの実力を測りかねているのかはわからない。キルアはふぅんと頷いてから頬杖をつく。
開始前から熱狂に包まれている会場に、二人が姿を現したのはそれから一時間後のことだ。平素通りのヒソカといつもより若干空気の重いハルシャ、しかしハルシャもまた気が高ぶっているのかその表情に恐怖や怯えは欠片もない。


「ヒソカも勿論ですが・・・・彼女も・・・相当な実力者でしょう?」

「ああ、ハンター試験すごかった」


審判が二人の間に立って何か話している。それを遠くから見つめて、キルアはウイングのほうを向くこともなくそう口にする。


「ヒソカと戦ってるところは見たことないけど、ホント感覚鋭いし、センスいいし、オレもハルシャとゲームみたいなことやったんだけどさ。全然ハルシャに近づけないんだよね」


近づいてハルシャの体に触るだけでいいんだけど、無理。キルアはそう言って距離を置く二人を指差す。


「だからオレ、ハルシャに賭ける」


















審判の始め、の合図と共にハルシャが右手を上げた。


「あ、ねぇ忘れてた。これ、武器あり?」

「ありだよ♣」


審判に向けた問いかけに答えたのはヒソカで彼はすでにトランプを取り出している。ヒソカがこの天空闘技場で一番初めからこうしてトランプを取り出していたことはない。それだけ彼にとってハルシャが危険な相手、ということなのだが、それに気付かない解説の言葉は暢気なものだ。


『おおっとヒソカ選手!!試合開始だというのにトランプを弄び余裕の表情だァー!!』


何をどう見たら余裕に見えるのか教えて欲しいと思いながらヒソカはようやっと巡ってきたハルシャとの戦いに舌なめずりをした。今まで追い込まれ追い込まれでいやいや戦ってきたようなハルシャが、今回ばかりは自ら試合を申し込んできたのだ。これが楽しいわけがない。いつスイッチが入るかもわからないような状況の中で、さて、どれだけ遊べるか。いや、遊ぶ余裕などないかもしれなかった。
先に動いたのはハルシャだ。目隠しの煙がハルシャの巻物から立ち上がり、空調の悪い天空闘技場の会場の中でそれが晴れる頃にはすでにハルシャの姿はない。


「ふぅん、最初からイルミを倒したお人形で遊んでくれるんだ♥」


初代・十機近松の衆は、サソリよりも前にとある人形師は演劇の舞台に出すために作り出したその名の通り十体の人形からなる一群である。本来ならば舞台のための人形に仕込み道具など要らないが、モンザエモンと呼ばれる人形師は恐らくサソリと同じように狂っていたに違いない。生身の人間を使い、人形を作り胴やその他の空隙に様々な武器を仕込んでいたことが彼の死後発覚した。それ以来裏の世界を回り続けた人形は、やがてサソリが十体のうち九体を手におさめることで狂気の人形師の噂も廃れていった。実物がサソリの手に入ってしまったことで真偽が不明になってしまった、というのが最も大きな理由だろう。ちなみに当初は十体あったといわれるその人形だが、一体は完全に行方不明になっていたようだ。そもそも古いものだったから、サソリが九体を手に入れた時点でそれらのほとんどはすでに使い物にならないような状態だった。だからサソリはそれらの人形に姿形を似せて、さらなる仕込みと改良を加え、最後にブラックボックスを内に詰めて傀儡とした。
ブラックボックスとはオーラを生み出す、いわば核である。通常操作系の人間は物体や生命に宿るそのもののオーラに自らのオーラを干渉させることで操る。つまり完全に自分のオーラで物体や生命を覆い、操っているわけではない。(不可能ではないが多大なオーラを消費するのであまり感心した方法ではない)つまり死んだばかりならともかく、死後時間が立ち、体内にオーラを宿さなくなった死体を操るのは非常に難しいのだ。事実シャルナークやイルミも基本的に生者を操ることが多い。死ねばそこまでなのである。しかしハルシャやサソリは本来死体であると言ってもいい人形を操作の対象とする。これは人形の中にそのブラックボックスによって、生前のオーラが半永久的に生み出されているからこそ可能な手法であり、このブラックボックスを始めてこの世に作り出したのはサソリであった。以来ブラックボックスを作ることが出来る人間はサソリとハルシャのみであり、贋作は多数この世の中に出回ったものの今だサソリに匹敵するブラックボックスを作る人間はいない。
サソリはそうして初代に続く二代目十機近松の衆を作り出し、そしてそれはハルシャに受け継がれた。ハルシャはやがて壊れていく十機を徐々に自分の人形と置き換え新たな十機を作っている最中であるので、ハルシャの十機が完成すれば三代目近松の衆が完成するが、今のところは半分サソリ作、半分ハルシャ作と言ったところである。
だが幼い頃より慣れ親しんだ傀儡はサソリが作ったものであろうとハルシャ自身が時間をかけて作ったものであろうと関係ない。その操作は、イルミやシャルナーク以上の精度を持つのだ。
ヒソカは型どおり、傀儡師を探そうとしたが、眩い光がヒソカの凝を不十分なものにさせる。そうでなくても恐ろしいまでに洗練されたハルシャの陰は戦いながらでもなかなか見抜くことが出来ない。ヒソカとて初めて戦ったときハルシャの念糸を見つけられたと言っても本当に一瞬のことだけで、念糸の動き全てを見切ることなど到底不可能なのだ。
そして前回と違うところはもう一点、以前のハルシャはヒソカを知らずそして逃げ腰だった。だが今のハルシャは完全にヒソカを殺す気で傀儡を操っている。思いの違いは動きを変え、一度ハルシャほどの念能力者が思いを強めれば、戦闘力への影響は計り知れないものがある。
全ての傀儡の攻撃を避けきれないことは半ば諦めた。恐らくこれにも毒が仕込まれているのだろうが、イルミと同じなら遅効性。毒が効き始める前にハルシャを仕留めればいい。まぁ、彼女が解毒剤を渡してくれるかは別だが。
ヒソカはただの紙とは思えないほど硬く鋭くなったトランプで傀儡の腕をまとめて切り落とす。傀儡の腕に巻きついていた鋼鉄の糸は恐らくヒソカの動きを止めるものなのだろうが、あいにくとそれらまとめて切ると、ばらばらと巻き起こる風に揺られて地面に落ちた。念は込められていないから、この鋼糸自体が攻撃してくることはもうないだろう。

さぁ、ここからが本番だ。









2013/03/01

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