「!」


一日ぶりに借りている部屋(なお家賃は街中で掏る)に戻ると、家主のいないはずの部屋はなぜか鍵が開いている。おやと思いながらうっかり掛け直してしまった鍵をもう一度開けて、ハルシャが部屋の中に入るとイタチが椅子に座って本を読んでいた。彼はハルシャが突然扉を開けたことに対して特に驚いた様子もなく、何を考えているのだが時々分からなくなる表情のまま、読みかけの本を閉じてテーブルの上に置いた。そしてイルミと同じ黒い瞳がハルシャを向く。


「あら、昨日は悪かったわね」


別にそこまで罪悪感を感じているわけではなかったが、一応昨日発を見てやるという話をしていたので、なんとなく謝罪を口にする。だがイタチはそれは構わん、と言うと読みかけの本を机の上の置いて立ち上がった。そしてハルシャのほうを向いて一言、


「ヒソカのところへ行くぞ」

「は?やだけど」


ハルシャはイタチの言葉に間髪要れずに拒絶を示す。だがイタチは最初から拒絶されることがわかっていたように笑って言葉を続ける。


「一度ヒソカと戦ってみろ」


イタチはどこか楽しそうな口調でそういった。見当ハズレも甚だしい、というのがハルシャの感想だが、イタチはまるでそうは思っていないらしくハルシャに向かって手招きをして、彼は彼女の耳に口を近づけた。そして何かを呟くとハルシャは顔をしかめ、そしてふいに今までなんで思いつかなかったんだろうとでも言いたげな表情に変わって「ソレいいわね!」と叫んだのだ。つい先ほどまであれほどヒソカと戦うのを嫌がってたというのに打って変わって「それならヒソカにも対抗できるかも」と言い出したハルシャに、果たしてイタチは何を言ったのか。


「考えてみれば空間把握能力を生かす戦い方をしなければいけなかった。なぜオレも気付かなかったか、わからんな」


そういって笑うイタチも自分の作戦に絶対の自信があるのか、少し口調が楽しげである。


「それじゃ早速行く?」

「ああ。そうしよう」























「堅苦しいルールなど必要ないが、とりあえずヒソカ、貴様は体術縛りだ。ハルシャもそうだがハルシャの場合念も使用可能でいいだろう」

「トランプも禁止かい?」

「忘れていた。禁止だ」


イタチの言葉になら言わなければよかったな、と笑う奇術師はやけに楽しそうだ。そもそもハルシャと戦うことを楽しみにしているような男なので当然と言えば当然なのだが、今回はイタチからの申し出があったことも踏まえてそれなりの進歩があったことを期待しているのだろう。
ここは天空闘技場より少し離れた森林公園の中である。木々の間より見える天空闘技場の中では今日も試合が行われているがすでに200階にいるヒソカからすれば基本的に戦うよりも暇な日のほうが多い。彼が日常的に一体何をしているのかは知らないが、大方碌なことではないだろうと想像はついた。
イタチとハルシャが200階にあるヒソカに与えられた部屋に訪れたとき、彼は堂々の全裸で現れイタチは絶句、ハルシャは悲鳴を上げて銃を乱射した。そのお陰でドアが大変なことになったのだが、騒ぎを聞きつけた200階の係員の女性が慌てて守衛を呼ぼうとしたことより幾分ましである。(万が一本当に守衛が呼ばれていたら破壊されたのはドアだけでは済まなかっただろう)とにもかくにもヒソカは想像通りあっさりとイタチの誘いに乗った。あえて二人がヒソカのもとへ訪れた、ということは何かしら策を講じているに違いないと思ったのだろう。「ちょうど暇だったんだ♣」と言うヒソカはわずか数分部屋に消えるといつも通りの奇抜な格好ですぐに姿を現して二人の背を押す。よほど暇をしていたのか、それとも戦えるならなんでもいいのか。ほとほと呆れるほどの戦闘狂だが、同時にハルシャも体の奥底で血が沸き立つような興奮を覚えていたことは否めない。所詮この世界に足を踏み入れた人間などそのようなものなのだろう。戦う、ということに興奮を覚え常にその危険の中に身を投じなければいずれ己から平常を壊さなければやっていられない。一般人とどこも違わないはずのこれらの人間がどのような形で生まれるのかは、私たちには到底理解することはできないだろう。


ハルシャ、ボクを失望させるなよ♣」


ヒソカは手元で弄んでいたトランプを投げ捨てると細い目をさらに鋭くして、ハルシャを睨んだ。
その瞬間、空気が変わり周囲で跳ね、遊んでいた全て生物がピタリと動きを止める。それは恐怖に身を竦め息を潜め、次に起こることをじっと見守っているようだった。


「最初から失望していてくれた方が嬉しかったんだけど」


ヒソカの殺気に怯むことなくハルシャはそう言って笑う。巻き込まれるのは勘弁とばかりに二人が対峙したあたりからさっさと身を隠してしまったイタチはかなりの遠距離からじっと二人の様子を見守る。


「さて、これで戦えなければ本気でドン詰まりだな」


イタチはかすかに口元に笑みを浮かべた。









2013/02/21

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