「あ!!キルア、ハルシャがいたよ!!」


50階より下層は基本的に毎日戦闘があり、その日のうちの一日でも欠席すれば一から登録しなおしになってしまう。面倒な制度だが、所詮下層に登録している選手など誰も見向きもしないので今の今までその制度が変更されたことはなかった。
ハルシャは昨日堂々のサボりを入れたせいで、登録抹消。次回改めて登録するか、いい加減天空闘技場への参加を諦めるかのどちらかしか選択肢は残っていない。どちらにするか、まだはっきりとは決めてなかったが、ほんの少しだけ心のうちのもやもやが晴れたので改めて登録するのも悪くないかもしれなかった。それでもまぁ一日屋根にねっころがっているとはなかなかに無駄な一日を過ごしたな、と思いながらひとつあくびをしたハルシャはゴンの声に振り返った。危うく人の波に流されそうになるのを何とか踏み堪えて、手を振るゴンに近づく。


「何やってんの?」

「今200階にいる」


キルアの確信犯な台詞にハルシャは若干白目をむきかけたが、こちらもなんとか踏みとどまった。ゴンの方を向くと彼は苦笑を浮かべながら、あのねと純粋な瞳をハルシャに向ける。


「オレたち今、ウイングさんって人のところで念を教えてもらってるんだ!!それでもしよければハルシャもウイングさんに念を教えてもらえばいいんじゃないかなって思って!!」

「念?」


ああ、それなら、と言う前にゴンはハルシャの手を掴んで引っ張る。


「こっちだよ!もうウイングさんにはハルシャのこと紹介してあるんだ!!」


ハルシャは知らなかったがついこの間まで大怪我をして寝ていたとは思えない力でゴンはハルシャを引っ張り、人にもまれ押され引かれの中で「待った待った待った!」としかいえなくなってしまったハルシャは、自分が念を使えることを伝えることも出来ずにゴンにどんどんと引っ張られていく。
キルアはそんな二人を見てため息を吐いたが、待てよゴン!とだけ一言声をかけてぴょんぴょんと飛び跳ねながら器用に人の隙間を縫って二人を追いかけた。
ゴンがハルシャを連れて行ったのは、天空闘技場からさほど遠くないところにある一軒の民家である。実はここ、明らかにされているわけではないがハンター協会が所有する物件で、ウイングはその関係者ということで滞在している場所である。今回に限って言えば裏ハンター試験のためのゴンとキルアの教育も兼ねているためウイングにとっては天空闘技場は出張先のようなものだ。


「ウイングさん!!この間話していたハルシャをつれてきたよ!!」


バン、とノックもなしに部屋に突入したがウイングはもとより三人が来ていることを知っていたのか「いらっしゃい」とにこやかに微笑んだだけだった。だが、それはハルシャの目をみるまでの間のことで、ハルシャが部屋に踏み込んだ瞬間、明らかに部屋の空気が変わった。


「し、師範代・・・?」


ゴンやキルアは勿論、今まであまり実戦の経験がないだろうズシも異様な雰囲気に気圧されて一歩下がってしまう。ウイングは眼鏡の下から厳しい目つきでじっとハルシャを見つめ、一方のハルシャはその程度の殺気に気圧されることなどなく、背筋を伸ばしウイングを見つめ返した。


「・・・・下手な殺気は寿命を縮めるわよ」

「・・・・・」


ウイングが目を瞑った瞬間にふっと空気が軽くなる。


「キルア・・・・・」


思わず隣に立っているキルアを呼びかけたゴンは冷や汗でびっしょりだった。ヒソカと向き合ったときにも感じた、この嫌な空気に肺が呼吸の仕方を忘れてしまったようだ。キルアも飲み込んだまま吐き出すのを忘れた空気をようやっと鼻と口から吐き出した。


「・・・失礼しました、ハルシャさん。話はゴン君とキルア君から聞いてますよ」

「どうも。なんでもアナタがゴンとキルアの念の師匠なんですって?道理で纏ができるようになってると思ったわ」


ハルシャの言葉にゴンがぱっと顔を上げる。


ハルシャ、念を知ってるの!?」

「そりゃそーよ。じゃなきゃハンター試験のときどうやってイルミと戦ったと思ってたの?」

「あ、ハルシャ、こいつ一回戦終わってからずっと寝てたから」

「あ、そっか」


ぽんっと手を打ったハルシャは「ま、そういうわけだから念は使えるわよ」と済ました表情で言う。ゴンはそんなハルシャに驚いたのか、「ハルシャはどこまでできるの!?」と聞く。だがそんな質問キルアからすれば馬鹿馬鹿しいものに他ならない。
ハルシャは全て知っている、というのがキルアの確信にも似た直感である。ハンター試験第四の試験、さらにはあのイルミとの戦いの中で彼女が念を使わずして戦ったはずがない。そして今のウイングの反応からしてもハルシャが桁違いの念能力者であることは容易に想像がついた。
だがキルアはそれらの全てを一切表に出さず、さりげなく今日から本格的な念の修行に入ることをウイングに促すと彼は頷いて三人を部屋の中に招き入れた。


ハルシャさんは・・・前回のヒソカとカストロの試合をご覧にはなりましたか?」

「あれ、あいつ試合なんてやってたんだ。知らない。でもヒソカの勝ちでしょ」


ハルシャの言葉は絶対的自信に溢れている。ともすればヒソカへの信頼ともとれるその表現は、ある意味では多大なる彼への信頼が含まれていた。それは戦闘という一面に関する信頼だ。
ハルシャがそう言い切るとウイングは「それならちょうどいい」と言って一本のビデオを取り出す。


「今日はこれを見ながら念の基礎知識と応用について簡単に学びましょう。できれば・・・・ハルシャさんにもお手伝いいただいてもいいですか?」


にっこりと笑ったウイングに対しハルシャは「別にいいけど」と言うと、傍にあった椅子を引いて腰かけた。







2013/02/18

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