ハルシャは一人、高い建物の屋根の上にねっころがって、ゆっくりと上空を流れる雲とその下を飛ぶ飛行船を眺めていた。高いといえど、天空闘技場より高い建物なんてこの近くにはないから、どこにいても天空闘技場の天辺が目に入るがそればかりは仕方ない。
馬鹿馬鹿しいと自分でも思ってる。物事を途中で投げ出すのは好きでもなかったが、今はどうしたって投げ出しでもしないとやっていられなかったのだ。
(ばっかみたい)
事実馬鹿なのだろうが、昨日の試合の後どうしても今日もう一度試合に挑む気になれなかったのだ。傀儡さえ使えば、念さえ使えば一瞬で終わるだろう試合になぜこんなにも無駄なことをしなければいけないのか、という思いもあったし、同時に自分がこんなことをやったって無駄なんじゃないかという思いがこの一ヶ月で少しずつ芽生え始めていたのだ。
傀儡を覚えるのにはあまり苦労をしなかった。サソリの教え方がよかったのか、それとも最初からセンスがあったのかは知らないが、イルミと戦えるようになるまでわずか数年、その時点ですでに接近戦にさえ持ち込まれなければなんとでもなる。サソリがそもそも遠距離戦を好んだから自分もずっとそうしてきたが、今ではやはりその限界を感じるところがあった。サソリと自分が違うのはよく承知した上のことだと思っていたが、それでもまだサソリの影を追っていたのだろうか。
ここ最近、天空闘技場へ来る前にヒソカに言われた言葉がどうしても頭にこびりついて離れてくれなかった。「なぜ、サソリを追うのか」という彼の問いは、今まで一度たりともそのことについて考えなかった
ハルシャに大きな、自分自身に対する疑惑としてのしかかり、そして答えの出ないもどかしさがどうにもこうにも不安ばかりを煽っている。
何故だろうと思ったときに即座に答えが出ないのは嫌なものだ。
(なんで父さんのことを追いかけるのか、か。別に理由なんてないような気もするけど、理由がなければ追いかけちゃいけない?んー・・・・それは違うなぁ・・・・。)
大通りを歩く人の声がフェードアウトして、耳元で聞こえるのはざわざわというどこか遠い雑音だけになった。
(ハンター試験の前に置いてかれて、えーなんでーって思って、あ、でも待ってよって思ったかなぁ。置いていかれたくなかった?んー・・・別に寂しいわけじゃないか。結構一人でいる時間も多かったし。あの時は父さんを探さなくちゃってすごく思ったけど、ぶっちゃけ理由なんてないか。父さんのところにいて今さら何ができるわけでもないし、・・・・んん傀儡とか。あ。だめか、もうどうせ教えてくれないし。)
なんとなく考え始めた思考はぐるぐると迷路の中を回り始めた。あまり物事を考えるのが得意ではないのは、考え始めるとあらゆるところに思考が飛んでいつの間にか論題が大きくずれてしまうからだ。結局答えが出るのに時間がかかりすぎるから、
ハルシャは何か深く考えることは好きではなかった。だがこの過程を経なければ自分は答えを導き出せないことも知っている。
(逆に父さんが私を見つける・・・・逆か。私が父さんを見つけたとして、何言うかな。置いてくなーとか、あ、抱きついてみるとか?うーん無反応だし振り払われて終りだし、考えてみたら今まで抱きついたことなんてあったっけ?あれ、そういえば父さんに抱きついたことなんてほっとんどなかった気がする。人と接触するの嫌いだからかな。誰にも触らせないし、死体なら触るけどなぁ・・・・・あれ、じゃなんで私父さんのところにいたんだろう。そもそも私が父さん探したとしてもその後どうするかっていうか、あれ・・・・私ってなんで父さんに育てられたの?)
(だって父さんの芸術は永遠でしょ。永遠ってのは・・・うん、まぁ朽ちないし、壊れないし、なんか違うな。そもそも永遠って何・・・・ってのはまた今度でいいや。でも父さんは永遠に朽ちないものが好きで、だから自分も傀儡にしてるけど・・・・・なんで私のことなんか育てたんだろう。傀儡にしたかったってわけじゃないさそうだし。大体子供を傀儡にする趣味ない・・・・わけないか。子供型もあったし)
(私は永遠の存在じゃないし、今後もなるつもりないし、自分が人傀儡になる気もないか。別に永遠が芸術だとは思って・・・・あーんー・・・・父さんを否定するつもりかな、これ。でも別に私の芸術と父さんの芸術は違ってもいいわけで・・・・違ったら父さんを否定してる?んんん・・・なんかずれた気がする。)
(そうそう・・・・私の存在は永遠じゃない。いつか年取るし、それ以前にこんな生活じゃ結構早く死ぬかも。永遠に朽ちない体でもなんでもないわけだから、父さんの求める芸術にはなりえないわけだ。)
(じゃあなんで父さんは私を育てたんだろう。ってか私そもそも親の顔知らないし・・・・え、待って父さんって実の父さんじゃないでしょ?拾い子だって言ってたし、いやいやなんで拾うのさ。拾う必要あるわけ?っていうか普通子供が捨てられてたらそれをほいほい拾うのが大人なの?絶対ないわー・・・・。ありえないわー・・・・。大体なんで私も捨てられたのかよくわかんないけど、それは・・・うん・・・まぁいっか。)
(だから、なんで父さんは私を育てたのか、でしょ。最初はなんだっけ、あれ、あそうだなんで私が父さんを探してるのか、だっけ。で、追いかける理由がわからなくて逆に考えてみたら父さんがなんで私を育ててるのかってなって・・・・・そうだよなぁ・・・・育てる理由は?あ、育て親からお金貰った?・・・・お金なんてすぐ稼げるしいらないか。地位や名誉って感じでもないし・・・・・うーん、これは父さんに聞いてみないとわかんないな。でもこれが私が父さんを追いかけたい理由じゃないよね。だって今、聞いてみたいって思ったわけだし)
(でも確かなのは父さんの求める芸術と、私自身・・・・永遠を求めても永遠になれない私は父さんにとって・・・・・・そうだ、矛盾するよね。だって父さんは永遠が好きなのに、育てたってことはいずれ朽ちるってことなんだから、それを手助けするのは・・・・矛盾する。おかしいよ。自分で言ってて切ないけど、底は論点じゃなくって!えっと、そうだ、だから父さんは私を置いていった?逆に言えば私はもう父さんを追っちゃいけない?)
「何考えてるんだろ」
「何に対してだい♣」
「・・・・・・・・」
折角の青空が台無しだ。ふいに顔に落ちた影に
ハルシャは顔をしかめ、どいてと言ったがそれでどいてくれるなら苦労はしない。「何に対してだい♣」と再び繰り返すヒソカから逃げるように場所を移そうとしたが、ふいに気が変わって体を起こしたところでヒソカの方を向いた。
「ねぇ、ヒソカがもし自分の芸術感に反するものがあったらどうする?」
「・・・・君は急に変なことを聞くね・・・♦その答えを得てどうしようってんだい」
ヒソカははぐらかそうとしたが、
ハルシャはいいから、と答えを求めた。
「・・・・まぁいいけど。ボクは興味のないものは捨てるか壊すかのどちらかだよ♥生かしておいて面白いと思う素材は生かすけど、弱いものに興味はない♠」
パララララとトランプを繰りながらヒソカはそういってジョーカーを引き抜き
ハルシャに投げた。それは
ハルシャの置いた指の間に突き刺さる。
「君は、合格♥だけど試験を受けていた大半はダメ、ボクはそういう奴に興味はない♥」
「興味がないから、捨てる・・・・か。例えば追い求めているような何かがあって、それに反するものをうっかり拾っちゃったとして、その矛盾に気付いたら?」
いつもならもっとつれない反応をするので、今回のようにしっかりと目を覗きこまれて聞き返されるのはヒソカとしても予想外だったのだろう。トランプをパタンと手におさめて、しばし顎に手を当て考えていたが、やがてゆっくりと、だがはっきりとした答えを口にする。
「・・・・捨てる♣殺す価値もないよ♣」
「じゃ、私父さんを探しても意味がないのかもしれない」
「・・・・ボクには
ハルシャが何を言いたいのか全く理解できないんだけど♦」
「ああ、うん。私もよくわかんない。でも、もういいや」
2013/02/15
大変分かりにくくて申し訳ありませんでした。基本的にこれが私がキャラクターを作るときに踏む手順なのですが、今回はそれをちょっと形にしてみました。ここでわかったことに関してはまたいつか、サソリとを交えてお話の中で。
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