ワァァァァ
いつもは耳障りだと感じる歓声も、今回ばかりは
ハルシャには届かなかった。
「
ハルシャ♥」
「えっ?あっ・・・」
「もう終わったよ、彼の試合♣」
思わず見入り、そして思考の渦の中に囚われていた
ハルシャは隣のヒソカに声をかけられて、ようやっとイタチの試合が終わってしまったことに気付いた。
ハルシャはヒソカが隣に座っている状況で気を抜いてしまったことに、自分で自分を罵倒する。
ああ、もう!!と口にして
ハルシャはその場で立ち上がり手を差し出した。ひゅん、とイメージはまさしく空を切るように、だが実際にはその場にいた誰も
ハルシャの指先からオーラが細い細い糸状となって飛び出したことに気付かなかっただろう。
「どうするんだい
ハルシャ♣」
「どうもこうも、私も興味出た。彼、念使ってたよね」
疑問ではなく確信を持って
ハルシャが言えば、ヒソカは「さすが♥」と笑う。
「最初に彼と会ったときも念を使ってくれたよ♦でも彼の念はまだまだ不十分、それにあのまま使うときっと二度と念を使えなくなる♣」
ヒソカは足を組みなおして口元に薄く笑みを浮かべたまま言う。
ハルシャとヒソカが凝で確認した限り、イタチの念能力は彼の目に関与する何かである。それが具体的に何かまでははっきりとしないが、少なくとも二人に分かったのは彼の念能力は外部からの圧力によって強制的に引き出されたものであり、順を追って修行を積んでいないということははっきりとわかった。。
ハルシャもヒソカもやり方は様々だが、念の基本から応用まで全てを学んだ上で今の念能力を使っている。だが、イタチは恐らく強制的にその力を引き出されたまま、基本すらも知らずに念を使い続けている。これは、身体に負担をかけるだけでなく精神的にもかなり危険な行為である。念の元となるオーラは言い換えれば生命エネルギー。この生命エネルギーは身体と精神に大きく依存するものであるからだ。
ハルシャの立っている場所からイタチのところまで果たしてどれくらい距離があるのか知らないが、すくなくとも視界に入る程度の距離であれば
ハルシャの念糸が届くには十分である。
「捕まえた」
そうやって笑うその表情はどこかサソリと似ていたが、それに気付くことが出来るのはサソリを知っている何人かの人間だけである。ヒソカはサソリと面識がなかったから、酷く妖艶に口角を挙げた
ハルシャの表情は彼女だけのものでしかなかった。
「そういえば、その念糸は相手の場所を特定できるのかい♣」
「できるわよ。だって傀儡を操るのと同じ原理だもの。ただ、実際に相手に干渉しないだけ。大体ちょっと太めの念糸にすれば凝を使えば簡単に見えるわけだし」
それじゃあね、と
ハルシャはあっさりと別れを切り出して、そのまま客席の人混みの間に姿を消した。
つまらない、と思うのはいつだって
ハルシャが自分に対し何の興味も見せないからだ。自分に興味を示したら飽きてしまうような性分ではない、むしろ興味を示してくればくるほど余計に激しい衝動に駆られる。
イルミも、
ハルシャも、ヒソカがどんなに絡もうともどんなに追い詰めようとも次の瞬間にはするりと水が掌から零れ落ちるように、ヒソカの腕の中から逃げ出してしまう。興味がないのかもしれない、もとより性格が他者に対して非常に無感動なのかもしれない。そうでもなければ自分を襲おうとした男の隣に、ああも警戒なくいられる理由がない。イルミも、
ハルシャも二人ともの話である。襲われたその瞬間は不愉快さや恐怖を感じても、時間が立てばあっという間に薄れてしまう、二人がヒソカに抱いているのはその程度の感覚なのだ。
理由はどうであれ、そうやって無視されれば無視されるほどヒソカの中の執着心が、ガムのように二人に張り付くのだ。
外的な要因でもなく、金銭的な話もなくただ
ハルシャの本心を向けられてみたいと思う。ヒソカにとってそれは憎悪でも愛情でもなんでもよかったが、とにかく彼女本人が心の奥底からヒソカという人物に対し向き合う瞬間に立ち会いたい。
その思いがどんなに歪んでいると言われようとも。
ハルシャは暑苦しく汗臭い空間を、とにかく早足に進んでいった。体が小柄だとこういうときに便利なのだ。逆に言えば前が見えないということなのだけれども、念糸がイタチに繋がっている以上、前が見えないことはあまり関係なかった。
一度つなげてしまった念糸は物質を透過することができなかったから、最短距離を辿れないのがもどかしかったが、それは仕方ないことだ。
ハルシャは黙々と進み、途中少年とぶつかって「ごめんね」とだけ言い残してまた歩いていった。
「大丈夫かい、ズシ」
「大丈夫ッス!!人が多くて前が見えなくて・・・・」
背の小さいその少年は天空闘技場に来ていることに違和感を感じるものだったが、ズシと呼ばれたその少年もその師匠であるウイングも周囲の怪訝そうな視線などものともせずに再び天空闘技場の混み合った廊下を歩いていく。
「今日はこれから修行場にする天空闘技場を見に来ただけだったけれども存外面白いものが見れたね」
「はい!!さっきのイタチさんの試合すごかったッス!!体捌きがとてもきれいで・・・・」
目を輝かせ若干興奮気味にそう言うズシに、ウイングは微笑みかけ、そして「彼だけじゃない」と言う。
「彼はこれからズシが学ぼうとする念に関して言えばきっと素人だ。それよりもさっきぶつかった人の顔を覚えている?」
「さっき・・・ッスか・・・?女性だったことはわかりましたが、顔までは・・・・」
「いずれズシにも教える"凝"を使えば彼女がどれほど優れた念使いかわかるよ。美しい纏だ。できることなら、もう一度会ってみたいものだけれど・・・・」
ウイングはそういって
ハルシャが消えていった人ごみの向こうに視線をやったが、背の低い彼女の姿を見つけることなどできるはずがなかった。
2013/01/26
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