「ぬあっ!!!」


飛行船でやけに適当な面接を追え、暇を持て余すこと数日。第四試験会場を出発した飛行船はゆるゆるとした空のたびを終えてついに最終試験会場にたどり着いた。
アラビア風の豪奢な建物の中は広く、そして頑丈に出来ている。
興味深げに建物の中を見渡す受験生に、ネテロはあまりに簡単すぎる最終試験の内容を告げると後は受験生の動向を楽しそうに見守った。
ハルシャは対戦表を見た瞬間に女にあるまじきに声を上げて頭を抱え、キルアは少々不満そうに採点内容を問う。だがネテロはそもそも試験の説明しかする気がないかのようで、誰もが一番気になるであろうキルアの質問に答えることはしなかった。
















「おい大丈夫か、ハルシャ


頭を抱えてしゃがみこんだまま動かなくなったハルシャを心配したのか、レオリオが声をかけたが、あまりに不機嫌そうなその表情に先の言葉を告げなくなる。
相手は、とだけ辛うじて言うといかにも怪しい針だらけの男を指差した。


「悪いことは言わねぇ。一回戦目はさっさと負けにした方がいい」


カタカタと君の悪い音を立てながら、こちらを振り向いたギタラクルと目を合わせないようにしてレオリオが言う。
いきなり負けを宣言するのも悪くないが、片側がどう勝ちあがってくるかがまだわからない以上、下手に一回戦を無傷で突破することがむしろ仇となる可能性もある。キルアはないと思うがこれでゴンが負け上がって来たら、正直自分はもう一度「まいった」と言う気がするのだ。
対戦表は身体能力値、精神能力値そして印象値の三つで決められるということだが、これはようするに自分の印象値はすこぶる悪かったようだ。ハンター試験参加理由も明確でないし、仕方ないだろう。
だが何と言っても後悔されるのはネテロに素直に戦いたくない相手を告げたことだった。どう考えたってそれが反映されている。面白いほどに反映されているのが、頭にくる。
しかし結局のところ何を言っても現実は変わらず、始まった一体一の戦いをハルシャは体育座りのままボーっと見ていた。ハンゾーが勝ちあがってきたらちょっと面倒だなーとか、キルアとゴンはさっさと勝ち上がってくれればいいのにとか、ヒソカは頼むからさっさと勝ち上がれ、だとか。
ハルシャとギタラクルの戦いは奇妙なことにゴン、ハンゾー、ポックル、キルアの戦いが全て終わってからだった。要するに負けあがりの相手を見ながら勝負を決めろ、ということなのだろうが、キルアが上がってきた以上ハルシャとしてはもうここでイルミと戦い負けるわけにはいかなかった。
キルアとは本気で戦いたくない。戦って怪我をさせたくもない。(彼はそう簡単に怪我をするとは思えないが。)


「第六試合、ハルシャ対ギタラクル!」


スーツ姿の男の言葉にハルシャはのろのろと立ち上がって会場のど真ん中に重たい足を引きずって行った。すでに前の試合で怪我をした受験生の血が点々と散っているが、相手が相手だけにこの程度の血では済まされない気がして、ハルシャは余計気が滅入った。
そのときはその場にいたほとんどの受験生と試験官が、ハルシャは殺されこそしないが下手したら再起不能になるんじゃないか、と考えていただろう。キルアは若干違う感想を抱き、ヒソカに至っては下手したらハルシャの方が上か、とも思っていたようだが彼らの心中を察するものはない。


「・・・・クラピカ。あのギタラクルって奴、どう思う」

「ヒソカと同じ感覚がする。出来ることなら戦いたくない相手であるな。ハルシャは強いようだが・・・・あのギタラクルとどちらが・・・・!?」


クラピカが驚きのあまり言葉を飲み込んだのは、ギタラクルの容姿が突如変貌したからだ。ギタラクルは試験官のはじめ、の合図でハルシャに殺気を向けるでもなく、突然顔に刺さった針に手を伸ばしたのである。
一本、抜き、またさらに一本引き抜くとギタラクルの顔の様子は次から次へと変化した。

バキ、グチャッ、ゴキャッ

耳を塞ぎたくなるような音が落ち着いたとき、そこにいたのはギタラクルとは似ても似つかない一人の青年が立っていて、ハルシャとヒソカ以外の全員が目を見張った。


「・・・・!イル・・・兄・・・!」


キルアの表情が変わったのに気付いたのはハルシャだけ。後は皆ギタラクル、いやイルミの信じられない変化に目を奪われている。


「オレ、ちょっと仕事の関係上資格が必要なんだ。ハルシャとは戦いたくなかったんだけど」


淡々と言葉を紡ぐイルミは、その口調から心情を欠片も外部にさらさない。本当に戦いたくなかったの、と聞き返してやりたいが、もう今となってはどうでもいいことだ。


ハルシャ、さっさと降参しない?」

「まいったなんて言わない。降参も、しない」

「そ、オレと戦った勝敗覚えてる?」


イルミはハルシャがそう言うことを予想していたのか、それとも内心では驚いているのか知らないが、とにかく無表情のまま唐突にハルシャに問いかけた。
ハルシャはツバを飲み込んで、それからゆっくりと225戦中、200敗25勝・・・・と呟くように言う。


「勝てないと思うけど。それとも無理矢理まいったって言わせようか」


イルミは相変わらず、漆喰で塗り固めてしまったような表情で、右手に構えた針をハルシャに向けて投げる。
あくまで威嚇であるそれは、ハルシャの肌に傷をつけないほどの距離で彼女の背後にある壁に突き刺さる。レオリオは「この壁・・・・コンクリじゃねぇの・・・?」と一人呟いたが、それに軽口を叩いて返す人間は誰一人としていなかった。


「・・・・・・・200回。負けてはいるけど、イルが負けたときの原因、覚えてる?」


ハルシャの言葉にイルミは一瞬怪訝そうな顔をしたが、ああ、としばらくしてから納得したように頷く。


「「白秘儀、十機・近松の衆」」








2013/01/12

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