第四次試験の醍醐味は、プレートを奪うだけでなく早くに奪ったものはそれを他者から守り抜かなければならないという点にある。つまり初日でプレートを奪われても最終日までにきちんと奪い返せればそれで問題はない。
ヒソカとの間で何かしらのやり取りがあったのか、何か迷いがありそうなゴンはある程度体が回復するとハルシャとキルアと置いてそのままどこかへ行ってしまった。
二人は顔を見合わせて、どうする、とお互いに尋ねる。


「オレ、ハルシャと戦ってみたい」

「え、私としては全力で遠慮したい」

「いーじゃん!!だってハルシャも暇なんだろ」


プレートが集まってしまえば確かに暇なのだが、キルアの狙いが自分の念能力の解読だとみたハルシャは、なんとか話を逸らそうとしたが、子供の特権で裾を捕まえたキルアは絶対に離してくれそうにない。


「・・・・じゃあゲームねゲーム。私とキルアは10m距離を置いて立って、制限時間内にキルアは私に近づいてタッチ出来たら勝ち。制限時間越えたらもう一度開始線に立ってスタート・・・・でどう?さすがに疲れたからそれ以上は勘弁して」


ハルシャは妥協と共にそう疲れた表情をして見せれば、キルアは頷いた。
(・・・・キルアは私の能力が銃だと思ってるだろうからそれでいっか)
ハルシャとキルアは向かい合い、スタート地点となる場所に円を描く。


「私も動くからね」

「オッケー。合図は?」

「じゃ"スタート"って私が言うわ」


ハルシャはホルスターから銃を抜くと両手に構える。まだハルシャはキルアの実力をその目で見ていなかったが、強くなれば強くなるほど相手の実力が分かってくる。キルアは念こそ使えないが、確実に訓練を受けた子供である。それが何かまではわからないが、ほんの一瞬でも油断すればこちらがやられてしまうだろう。


「スタート」


ハルシャはそう大きくない声で呟いたが、キルアにはそれで十分だったのか、一気に距離を詰めようと足元に力を入れる。だが、それを見越してハルシャはキルアが左足を下ろそうとするその地点に念弾を打ち込んだ。


「!?」


そもそも当たったところで衝撃がある程度の威力に押さえているので、あそこで思い切り左足に当たってくれてもよかったのだが、一体何をどうしたのかキルアは本当に紙一重で態勢を帰るとぎりぎりのところで左足を念弾の軌道からズラした。地面を一回転して、それからもう一度立ち上がろうとするがそれを防ぐように、キルアの頭をギリギリかするよう一発、さらに地面に置いた手に向かって一発念弾を放つ。
ハルシャは一歩も動いていない。


「こんのっ・・・・!!」


キルアは自分の動きを先読みするように撃ちこまれる念弾を避けるのに必死で、先ほどからハルシャの10m圏内に入れず円を描くように動いていたが、いい加減痺れを切らしたのか足元の小石を掴んで真っ直ぐに投げた。その小石の軌跡は、常人なら弧を描くだろうに、まっすぐに猛烈なスピードで飛んできて、ハルシャは驚きつつもそれもまた銃で撃ち落す。
だがキルアは撃ち落されることは承知の上だったのだろう、ハルシャが小石に気を取られたときを見計らって今度こそ前に踏み出した。


「でも、残念」


小石に気を取られはした。だが、その程度で10mの距離を詰められるほど柔な鍛え方はされていない。むしろ飛んできた小石の上部を掠る様に念弾をぶつけると、小石はそれ自身が弾丸のようにキルアの足元を狙って飛ぶ。「うわっ」とやはりこれもキルアは避けてしまったが、これでまだ振り出し状態である。


「一応制限時間10分にしたけど、制限時間なんかいらないかしら?」


にこっと笑ったハルシャに、キルアも挑戦するような笑みを浮かべて真っ直ぐに立つ。だがその雰囲気に徐々に殺気が混ざりつつあるのを感じて、ハルシャは内心眉をひそめていた。
(遊びすぎは厳禁、か)
ふと、キルアの纏う雰囲気が変わった。すっと前に踏み出された足があるのに、何故かまだ突っ立ったままのキルアが重なって見えて、ハルシャは思わず瞬きをしたが現状は変わらない。それどころかキルアが足を進めるごとに、その数は一が二に、二が四にと増して行く。


「肢曲!?うっそぉ!?」


ハルシャが目を擦る頃にはすでに円形に幾人ものキルアに囲まれた状況で、どれがこの残像の本体なのかわからない。
ハルシャがこの術を始めて見たのはイルミと修行を行っていた10歳の頃である。最初はものの見事に騙されイルミに一本取られたものだが、何度も見ていればなんとなくからくりが見えてくるものだ。
(残像は所詮残像、最初に動く本体が必ずある)
まさかキルアが肢曲を使ってくると思わなかったため一瞬困惑した頭を冷やし、ハルシャは全神経目に集中し周囲のキルアの動きを見つめた。徐々に距離を縮めてくるが慌てる必要はない。最後にはイルミですら見破られたのだから。


「そこ!」


ハルシャは初めて最初に自分で描いた円から足を踏み出し、まさに今一歩飛び出そうとしたキルアの足を狙い、連続で膝、太腿、腹、胸、額に念弾の軌道を置く。それぞれは最初の念弾からキルアが避けることを想定して撃たれたものであり、二発目までなんとか避けたキルアだったが、そこから先はさすがに避けきることは出来なかった。


「痛でっ!!」


当たったところで本当にその程度。いってぇー!!と額を押さえるキルアを見て、ハルシャはようやっと銃を下ろすとキルアに自分から近づいていった。


「これでおーわり。私の勝ちね」

ハルシャが勝つ条件は別になかったじゃん」


むっとした表情になったキルアが言い返すが、ハルシャは実際の戦闘だったら死んでたでしょーの一言と共に銃をホルスターに仕舞ってしまう。


「チェッ。大体なんでハルシャは肢曲の見破り方知ってんだよ!!オレだってまだ兄貴の肢曲見破れねぇのに」


いきなり見破られるとは思わなかった、というキルアに危うく「傀儡師は観察眼が鋭いの」と言うところだったが、それを言わないようにしようと思っていたことを思い出して慌てて言葉を喉の奥に押し込んだ。代わりに彼女自身がちょっと気になっていたことを口にすることで何かを言いかけたことを誤魔化す。


「ところで、キルアこそどこで肢曲なんて習ったの?そんなん、一般の兵役訓練で習うようなもんじゃないよね?」

「そりゃそうだろ。だってオレ暗殺一家の生まれだもん」

「暗殺・・・・・ってまさかゾルディック?」

「知ってんじゃん」


キルアは差し出されたハルシャの手を掴んで立ち上がると、ズボンについた土を払い落とす。


「オレ、ゾルディックの三男。上に___」

「イルミって兄さんがいる」

「・・・・・イル兄のこと知ってんの?」


イルミの名前が出た途端に怪訝そうな表情になったキルアに対し、ハルシャはようやっと思い出したかのように手を打つ。
約8年前、ハルシャはサソリと共にゾルディック家でしばらくの間世話になっていたが、あの時確かにゾルディック当主シルバには三人の息子がいると話を聞いたことを思い出した。ハルシャが会った事があるのはイルミだけだが、その下にまだ二人の弟がいるとイルミ自身も言っていたではないか。確か名前は、ミルキとキルア。てっきり兄弟だというからイルミに似ているのかと思っていたのだが、キルアはきっと父親似なのだろう。
ハルシャが自身のゾルディックとの関わりを教えてやるとキルアはようやく納得したように頷く。


「てっきりイル兄がハルシャ使ってオレのこと連れ戻しに来たのかと思った」


そう言って笑っているところを見ると、ギタラクルがイルミであることを知らないらしい。それを言うべきか一瞬迷ったが、イルミにも何かしら考えがあるのだろうとここは黙って見守ることにしたのだった。






2013/01/05

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