イルミのプレートを早々に諦めたハルシャはとりあえずいつも着ているパーカーが乾くのを待ってから次の獲物を探すために立ち上がった。
別に何も姿を見せるわけでないのでお気に入りのパーカーでなくても問題はないのだが、それでも気分と言うものがある。幾何学模様が幾重にも重なった鮮やかな紫色のパーカーはハンター試験を受ける直前に気に入って衝動買いしたものだ。大抵フードつきパーカーに短パン、足首をしっかりと固定できるタイプのサンダルと言ういでたちのハルシャは、ごくごく一般的な町中にいる娘といった様相で、見た目から彼女が裏世界の人間であることはなかなか想像できない。一房真っ赤に染められた黒髪は緩い天然のウェーブでところどころ巻きながらふんわりと背中を覆っている。
ようやく乾き始めた髪に手櫛を通して整えるとハルシャはイルミに壊されたいくつかの傀儡を別の巻物に仕舞ってパーカーのポケットに仕舞う。ポケットの中には巻物の他財布などが入っているだけで彼女の格好は非常に身軽だ。一応ウエストポーチもあってその中には別の傀儡が仕舞われた巻物も入っているのだが、この巻物はそう簡単に開かれることはなかった。
ヒソカはハルシャが焚き火を焚いて自分の服を乾かしている最中、木にもたれかかって寝ている様子だったが実際は目を瞑っているだけだろう。ハルシャが立ち上がり特にヒソカに声をかけることなく姿を消すとパチリと目を開けてハルシャが消えていった方向を見つめた。


「・・・・イルミが95点、ハルシャは80点かな♣」


まだ、惜しい。操作系の中では屈指の実力を有するといわれるサソリから受け継いだ傀儡にも、全体を通しての戦闘の面でもハルシャはイルミに比べて伸び白が大きかった。彼女が傀儡師の共演【マリオネットダンス】を完璧に自分のものにし、さらなる戦闘センスを磨き上げたのなら、イルミや自分と張り合うだけの実力を得ることができるだろう。そうなったときのハルシャと戦ってみたいと思う。そして、もしも負けたのなら、そのときは彼女の傀儡にしてもらいたい。あの細く、白く、美しい手で操られるのことを想像するとえも言われぬ快感が体を支配する。
だが、力が足りぬときはその体をこの手の中に閉じ込めてやろう。泣いても喚いても決して逃げられぬように。
クツクツクツと、一人湖畔で笑みを浮かべるヒソカの狂気は、すでに遠く離れたところにいたハルシャを身震いさせた。
(・・・・なんか気持ち悪いこと考えられてる気がする・・・・)
















その後イルミとヒソカとハルシャはほとんど接点なく残りの試験時間を過ごした。
ハルシャに必要な3点のうち2点は傀儡だけで軽く奪い、残り一枚の獲物をどうしようか迷っている最中に、キルアとアモリ・イモリ・ウモリの三兄弟が対峙している場面に遭遇する。キルアの狙っているプレートがなければ全部譲るとしても、もし彼の目指す3点のプレートがこの中の一枚にあるのだとしたら残りをもらいうけようと、ハルシャは木の上に隠れて機を伺う。
キルアが三兄弟からプレートを奪い軽く叩きのめすのに十秒とかからなかっただろう。イルミほどではないが、その動きは見事なもので感服に値する。これで念が使えるとなるとさぞ恐ろしい敵になりそうだ、とハルシャは思いながらハルシャはじっとキルアの動きを見守った。と、その瞬間ハルシャには想定外のことにキルアは自分の獲物以外のプレートを高く放ったのだ!キルアがプレートをもってどこかへ行ったのなら即座に追いかけようと思っていたのだが、まさか捨てられるとは思ってもいなかった。
慌てて隠れていた木の上から飛び出すと、ハルシャは狙いを定めて念弾を撃つ。勢いよく飛び出した念弾は通常と異なりハルシャの念糸と繋がっている。念弾が空中で回転しながら飛んでいくプレートに当たると同時にハルシャが指を動かすと、プレートは空中で一瞬動きを止めてから彼女の手の中に納まった。


ハルシャ!なんだよ近くにいたら言ってくれればよかったのに」

「いやぁあとでもらおうと思ったら、まさか投げると思わなくって」


でもこれで点数揃ったから合格ーとハルシャは笑う。オレも!とキルアもまた揃った二枚のプレートを見せてにっと笑った。


「こいつらはどうするの?」

「いいよ、ほっとこうぜ。それよりハルシャ、ゴンの様子見にいかねぇ?あいつやっぱヒソカ相手に苦戦してるみたい」


キルアの誘いにハルシャは「ヒソカに会うのはやだけど」と言って了承した。残された三兄弟はその場で動くことも出来ずに固まったまま放心していた。
キルアとハルシャはあっちだ、こっちだと言いながら勘だけを頼りにゴンを探す。そもそも探し人は嗅覚の強いゴンの方が得意であり、キルアはゴンの様子を見に行きたいと行ったわりに全く場所まで把握していなかったらしい。


「よいしょっ、ほっおおおおお!!!」


なんとか乗り越えたはずの丸太の枝にパーカーのポケットが引っかかって、ハルシャはバランスを崩し頭から地面に激突した。お腹の部分を枝に引っ掛けたままぷらぷらとしている人物は、一次試験開始前にヒソカのトランプを一瞬で撃ち落とした人物とは到底思えない。
ポケットから転がり落ちた財布と巻物を拾ったキルアはハルシャが起き上がるのを待ったが、さっきからもだもだとその場で腕なり足なりをつこうと頑張っているが高さ的に無理だ。バキっ、と手でハルシャが引っかかっていた枝を折ると彼女はもう一度地面に激突した。


「うぐっ・・・・あ、ありがとう」


顔を抑えたまま財布と巻物を受け取ったハルシャをキルアは呆れ顔で見つめる。


「・・・・ハルシャってさぁ強い、よな?」


ついに疑問系がついてしまったその問いにハルシャは、返す言葉もない。
キルアはため息をついてハルシャが立ち上がるのを手伝うと、一緒に服についた埃を払ってやる。それからしばし何かに迷ったような素振りを見せてから、ハルシャの服を掴んで尋ねた。


ハルシャ、さっき何した」

「さっき?こけた」

「違ェよ!!プレートを取ったとき!弾なしの銃で撃っただろ。でも何故かプレートはハルシャの手元に戻ってきた。あれ、どうやったの」

「あ、そっち」


キルアが袖を掴んできたから何かしらおねだりでもされるのだろうとは予測したのだが、まさか念を教えろ、と来るとは思わなかった。ハルシャはさすがに驚いて、思わず「あ、そっち」なんて言ってしまったものだからもう隠しようもない。


「兄貴が使ってた術となんかすっげー似た感じがした。ハルシャのそれ、オレにも教えてよ」





2013/01/04

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