イルミとハルシャの追いかけっこの結末は、とても想像できないほどに意外なものだったと言える。
イルミの圧倒的な追跡によってかなり距離を縮められたハルシャは、行き先に湖があるのを認識して水の中に退避することを決めた。水の中であればイルミとて必然的に動きが鈍くなる上、ダーツのような針はほとんど意味をなさない。傀儡を水に入れると部品が錆びるのであまり好ましくないが、この際仕方ない。
そろそろ限界が来ている体に念糸をつけて無理矢理動かし、ハルシャは開けた空間に出ると同時に地面を思い切り蹴った。


「・・・・え」


だがイルミに気を取られすぎてこんな開けた湖で堂々と水浴びをしている人物がいることに全く気付かなかったのだ。あくまでハルシャが得た情報は湖があるというそれだけで、そこにあろうことか変態がいることは本当に予想外の出来事だった。しかも素っ裸で。


「♥」

「いぎゃあああああああああ!!!」


ありとあらゆる思いが詰まった悲鳴が島に木霊する。ゴンとキルアはそれが即座にハルシャのものだと気付いたが、危機的状況に陥ってのそれというよりどちらかと言うと町中で女性が露出狂にあったときのそれに聞こえたので、あまり心配してもしょうがないだろうと判断した。全く持って賢い判断である。


ハルシャの悲鳴と水しぶきを見て、イルミはもう追う必要はなくなったな、とばかりに動きを止めてゆっくりと二人が盛大に飛び込んだ湖を覗き込む。周囲の傀儡はハルシャが意識を乱したせいで完全に動きを止め、無機質な(本当は本物の目なのだが)死んだ瞳をこちらに向けている。壊すとハルシャが煩いのであえて手は出さなかった。


「いにゃッ・・・!、嫌だ離せこのドグサレ変態!!」


思い切りヒソカの胸に飛び込む形で湖に着水したハルシャは今まさにヒソカに抱きかかえられて一歩も動けない状態である。抜こうとした銃とホルスターとまとめて伸縮自在の愛【バンジーガム】で固定されてしまえば抵抗する術もなく、サソリ譲りの口の悪さでヒソカを罵倒するが、彼は全く堪えた様子がない。


「ここで会えたのも何かの縁だろう♣折角だし、イルミの前で抱いてあげようか」


細められたヒソカの目は半ば本気の色が混じっていて、ぞっとした。離せ、ともう一度怒鳴ろうとしたときにふいに唇を唇で塞がれて声も出せなくなる。フェイスペイントを落とすと余計に端正な顔立ちが際立って、それが目の前にあるのが耐えられずハルシャは目を瞑った。


「・・・・ふっ・・・・」


唇が離されると止まっていた心臓が一気に動き出したかのようにバクバクと激しく鼓動する。口元だけが笑うヒソカの表情が恐ろしかったが、逃げられない。


「・・・・ちょっとヒソカ。オレの目の前で盛るのやめてくれない?見苦しいからさっさと服着てよ。あとハルシャを離して」


オレの念糸きちんと解除して貰わないと困るんだ、と言うイルミは相変わらず能面のように無表情である。ヒソカはイルミの殺気にある程度の本気を感じてはいはいと言いながらびしょ濡れのハルシャを解放してやる。比較的浅瀬でハルシャは両手を湖底につけたままゼェハァと荒い呼吸をしながら現在の状況を確かめていた。ウェーブのかかった髪は水に濡れてすっかりとしおらしくなっている。


ハルシャ

「・・・・・・」


前髪からポタポタと雫が落ちるのも構わずにハルシャは黙ったまま水面を見つめている。


ハルシャ

「わーかった!!わかった念糸外す!!それでいいんでしょ!?」


ハルシャとイルミの無言のやり取りは結局イルミに軍配が上がったようだ。ハルシャは水面を見つめたまま必死でここから逃げ出す策を考えていたが、ここまで至近距離のイルミ相手には逃げることも戦って勝つことも適わないとようやく観念したらしい。
どうせ外れたかもわかんないくせに、とぶつぶつ言うがイルミは妙なところでハルシャに信頼を置いているのか、「外したって言ったら本当に外してるだろ」と言いながら肩を動かした。別に念糸が重さを持っているわけではないが、なんとなく、の行為である。


ハルシャのターゲットはオレだったの?」

「そっ。だから一番に引っかかってありがたいようなありがたくないような。本当は巣から離れたところで襲うつもりだったんだけど、先に巣を見つけられるとは思わなかった」


あれが一番の誤算よねーとため息を吐いたハルシャは濡れた前髪をかき分けて立ち上がる。
もしもイルミが巣からもっと遠く離れたところで傀儡に見つかっていたら、そのときは本当にイルミはプレートを奪われていたかもしれない。彼女の傀儡師としての腕は一流で、一度見つかってしまえば暗殺一家の長兄といえどもそう容易く逃げ出すことは出来ないのだ。


「というわけでイル、プレートくれない?」

「ヤダ。オレ寝たいから」

「やっぱ一から集めた方が早い、か」


諦めたようにため息をついたハルシャは水を吸って重くなったパーカーを脱ぎ、代わりに傀儡の一体が纏っていたマントを自分が纏う。裾が長くて歩き辛いが仕方あるまい。


「素肌が綺麗なんだから見せ付けておけばいいのに♦」

「黙れクソ野郎」


飛ばした仕込みナイフはあっさりとトランプに弾かれた。






2013/01/03

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