2時間ほどして第四次試験会場についた船は受験生が全員島の中に姿を消したのを確認すると少しだけ沖に移動して停泊した。
ヒソカ、イルミと共に順番的には二番手で三次試験を通過したハルシャには二番目に島に上陸する権利を与えられたが、他の受験生を探すよりもまず第一に自分が潜んで最も安全な場所の捜索に終始したため、折角の二番目という利点をあまり生かせなかった。
それでも、大方島全体を見渡せる木の上に陣取って、周囲には円の代わりに念糸を張り巡らせる。マチのそれと違い、具現化されていないただのオーラの糸状の物をハルシャは念糸、と呼んでいるので物体的な拘束力はない。ただ何者かがそのオーラの中を通過すればオーラの微妙なブレで侵入が分かるという仕組みだ。円が感覚を円状に広げるのだとしたら、ハルシャの念糸は感覚を糸状にして張り巡らせたものだと思えばいい。いわば末端神経のようなものである。
さらに加えて一体の傀儡を自分の周りに配置することで、ハルシャが遠距離から攻撃を仕掛ける準備は完璧に整った。後は傀儡人形でプレートを奪ってしまえばいい。ハルシャはパーカーのポケットから巻物を取り出して六体の傀儡を引き出した。













ギタラクル・・・・いやイルミ=ゾルディックの対象はハルシャでもヒソカでもない。面倒な戦闘にならないだけましか、と思いながらもこの面倒な試験を片付けるために受験生が入って来たその瞬間プレートを奪いそれで試験の要件を満たした。
あとは本当に一週間寝ているだけ・・・・・の予定だったのだが、探している途中厄介なものを見つけてしまった。
それはハルシャの巣、である。
イルミはかつてこのサソリとハルシャの念糸を張り巡らせた空間に何度も捕まった忌々しい記憶がある。彼はそれを勝手に巣、と呼んでいるがその名称に相応しく幾重にも張り巡らせた念糸に捕まれば逃げ場はない。いや、その念糸自体は拘束力を持たないので触れたところでどうということはないのだが、触れたが最後ハルシャの念糸が体中にくっつき追跡されてしまうのだ。対象を操作しようとせず単純に対象に触れているだけの念糸は、イルミの凝を持ってしても見つけるのは難しい。この巣のように幾重にも張り巡らされていればハルシャとて隠でも隠し切れないのだが、一本は恐ろしいほどに精密で美しい隠により見事に隠されてしまうのだ。
姿の見えない傀儡師相手に戦うのがあまりにこちらにとって不利であることは重々承知。無駄な戦いは避けるに越したことはないと、踵を返した瞬間、すでに目の前には傀儡がいてイルミは無表情のままそれを反射的に蹴り飛ばした。
カシャン
無機質な音と共に針がイルミの足の裏から甲を貫こうとする。一瞬で体を捻りその針を指でつまんでやれば、案の定べっとりと毒が塗りつけられていて面倒だな、と小さく呟いた。
操作系念能力者の中でも特に傀儡師、と呼ばれる連中(といってもサソリとハルシャしかいないが)と戦うにはとにもかくにも傀儡の操り手である傀儡師を見つけなければ話にならない。傀儡は痛みも感じない単なる人形であり、しかも本来なら人体の維持に必要な部分にはありとあらゆる暗器が詰め込まれており、人形を相手にしていてはただ一方的に疲労するだけである。
イルミは自身の武器である針を傀儡の脳の付近に刺しはしたが、予想通りと言おうか、先に操られている以上なんの効果もなかった。木の枝を蹴って、傀儡の放ったナイフを避けると次の傀儡がすでに刀を構えている。
(六体・・・・・)
ここで傀儡の目を潰してしまえば恐らくそれで攻撃は止まるはずだ。鬱蒼と木の枝が張り巡らされたこのような場所ではハルシャの目は届かず、恐らく今動いている傀儡の視界を共有することで彼女はイルミを認識している。ということはとりもなおさず傀儡の目を破壊すればそれで一旦傀儡を動かしようがなくなって、イルミは逃げられるはずなのだ。
(だけど、念糸を体のどこかにつけられてたら追われる)
一度獲物として念糸を体につけられていたら今を逃げ出したとしても残りの時間をゆっくりと寝て過ごすなどまずできない。それならばあの巣の中に入ってでも、強制的にハルシャを、傀儡師を捕まえなければ意味がないのだ。
(近松の衆が出てこないといいけど)
イルミはそう思いながら長い黒髪を揺らしてわずか一回の跳躍で巣の中に飛び込んだ。傀儡は当然のごとく追ってきたが、大方ハルシャのいる位置はわかっている。単純なスピードだけであればイルミの方が傀儡よりも圧倒的に早かったので、まず捕まることはない。イルミは巣の中央に聳え立つ大きな木の上にハルシャがいると睨んで、足に力を入れると木の幹を一気に駆け上がった。


「・・・・見つけた」


巣に入った時点で己を狙われていることを認識したハルシャはすでに用意して構えていたから不利なのはイルミの方だ。手の中の針をハルシャに刺すよりも早く、頭上で待機していた傀儡のワイヤーがイルミの首に巻きつく。


「ッ」


一瞬、そのワイヤーを切り落とすのに時間をとられたその一瞬のうちに、ハルシャはあっという間に木から自由落下し遥か下の森の中に姿を消してしまった。巣から離れ絶によって隠れられるとイルミとてそうやすやすと見つけることは出来ないので、まだ辛うじて姿を認識できるうちに追いかける。頭上の傀儡は頭を腕で貫いて完全に潰した。













「まっさかこんな早くにイルが捕まるとは思わなかったんだけど、失敗したなぁ」


接近戦持ち込まれたら勝ち目ないし、と思いながら的確にハルシャの手足を狙って打ち込まれた針を念弾で打ち落とす。イルミは一応ハルシャを完全な操り人形にしてしまう気はないようだ。一度脳に差し込まれたら廃人になるあのイルミの針は、今のところ手足や胴体と言った体の一部分しか狙っておらず刺さったとしても精々体の動きを支配されるだけですみそうだ。勿論、その時点でハルシャの負けだが。
イルミに対し六体の傀儡、そして自分の周りには三体の傀儡を配置してハルシャは木々が枝を張り巡らせた森の中を駆け抜ける。持久力はそれなりにあるから、なんとか一旦イルミの円から姿を消して隠れなおさなければならない。しかしイルミも以前に比べ随分と実力が上がったようで、筋力的に劣るハルシャは徐々に徐々にイルミに追い詰められていった。


「どうしようっ!」







2013/01/02

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