最速で三次試験を突破した三人に待っていたのはその後、試験時間が終わるまでの暇つぶしであった。ハルシャはいい加減に傀儡の修理をしたくてたまらないのか、「絶対にこっちを向くな」と厳命し彼女自身も二人に背を向けると体で隠すようにして傀儡の仕込を広げ始めた。
さして広くない部屋だ。見ようと思うなり邪魔しようと思うなり自由に出来たが、そこまでしてさらに彼女に嫌われる筋合いもないのでヒソカは黙って部屋の隅っで傀儡と向き合う彼女の背を見つめる。


「随分とお気に入りじゃないか」


イルミはまだ他に受験生がいないのをいいことにギタラクルに戻ろうとはしなかった。ハルシャと違いストレートの黒い髪が揺れる。


「それは君もだろう♥本当にビジネスライクの関係かい?」

「そこを疑ってたの?」


信じられないなぁという言葉には相変わらず感情が篭っていない。狭い部屋だから声は届いているのだろうが、ハルシャはそんな二人の会話に無反応だった。


ハルシャに手を出すのは勝手だけど、彼女の父親にはよく注意しときなよ」

「・・・・赤砂のサソリ、かい?さっき君の口からサソリの名前が出たときはさすがに驚いた♣」


スペードのトランプをいじりながらヒソカはその名前を口にした。
サソリは様々な顔を持っている。一つは殺人鬼、一つは人形師、一つは薬師・・・・・数えればきりがなく、だがその中で最も有名なのは殺人鬼としての顔だろう。圧倒的な念の使い手であり、その能力のほとんどが操作系と放出系に偏ったものだというのに彼が負けたという話は聞かなかった。あるとき賞金をかけられたサソリを狙って賞金首ハンターが100人ほど徒党を組んで彼を狙ったらしいが、そのハンターは全て一瞬のうちに皆殺しにされたという。血を吸って真っ赤になった砂を踏みしめその場を去ったサソリは、その燃える様な赤い髪とかけていつしか"赤砂"のサソリと呼ばれるようになっていた。
冷酷無比、まるで感情を持たない人形のようだと裏世界で彼と取引した人間は口を揃えて言うが、その彼が育てた娘が今目の前にいるのだ。実の娘、ではないようだが、それでも噂に聞くあのサソリがという気持ちは捨てきれない。故により一層彼女に興味を惹かれる。
一見ただの女でありながら、あれだけの実力を持つ彼女自身にも、そしてサソリを変えるまでに至った彼女の中にある何かにどうしようもなく惹かれるのだ。
ヒソカの赤い舌がゆっくりと唇をなぞる。


「・・・・昔サソリに稽古をつけてもらったことがあるけど、あれは別格。ヒソカでも危ないんじゃない」

「それは余計にそそるよ♥」

「人じゃないよ・・・・あれは」


イルミの言葉は間違ってはいない。ふいと立ち上がってヒソカに背を向けると黒髪が揺らいで綺麗な軌跡を描いた。瞬きした次の瞬間には、彼はギタラクルとなっていてようやっと三次試験を突破した受験生のお陰でハルシャもまた傀儡遊びをやめてしまったのが残念でしょうがなかった。

















長針と短針が重なるとやはり気味の悪いベルが三次試験終了の悲鳴をあげた。
第三次試験試験官の賞金首ハンターリッポーは無事合格した30人の受験生の前で、第四次試験へ行く前の準備として一人一枚の籤を引かせる。


「・・・・・301番・・・・・イルか。なんだろ。またペア組むのかな。ヒソカは?」

「ボクは384番♦」


じゃ、関係ないかと言ったハルシャはさっさとゴンやキルアたちの下へ行ってしまった。第三次試験を経てそれなりに距離が縮まったかと思ったのだが、特にそういったわけでもなさそうだ。


「さて・・・全員籤を引いたな?これより第四次試験の会場へ向かうが、その前に四次試験の試験内容を説明しておく。第四次試験はプレートの争奪戦。各々が引いた籤の番号と同じプレートは3点、違う番号は1点の配点で合計6点分集めれば合格となる。ちなみに自分のプレートは3点だ」


ハルシャはリッポーの説明を聞いて顔をしかめた。イルミとペアを組むならともかく、彼からプレートを奪うというのは荷が重過ぎる。そうでなくても接近戦に弱いのに、イルミは遠距離近距離両用型の念能力者だ。相手が悪い。
第四次試験会場へ移動するための船に乗る頃にはほぼ全員が自分の番号プレートをどこかに隠してしまい、最初から知り合いでもない限り相手の番号などすっかりわからなくなってしまった。


ハルシャ!!ハルシャは何番引いた?」

「ゴンとキルアは?」

「「・・・・・秘密」」


ま、当然そうだよねーとお互いに笑ってでも覚えている限り二人の番号とは違ったのでハルシャは引いた籤を見せた。


「301番・・・ってえっと」

「あの顔中針だらけの男、ギタラクルって言ったっけ?」

ハルシャもゴン並に運が悪いなー。オレあいつとヒソカにだけは絶対近づきたくねーもん」


キルアの言葉にハルシャも顔を引き攣らせる。確かに他の受験生ならともかくあの二人からプレートを取るというのは至難の業だ。これは素直に他の人から三点分プレートを貰った方が早いかもしれない。


「あれ、でもちょっと待って・・・・ゴン並にってことは・・・・え、まさかゴンは・・・」

「うん。44番引いちゃった」


ぺろりと舌を出しながら言うゴンにハルシャは同情の視線を向ける。


ハルシャはヒソカと仲良いみたいだけどなんかあいつの弱点知らない?」

「まず仲良いって所から撤回してもらいたいけど、わかんない。三次試験でヒソカとペア組まされたけど弱点って言えるほどのものなんてそんなになかったし・・・・」


強いて言うなら念の応用技の細かなコントロールはハルシャの方が上のようだが、そもそも念すら使えないゴンやキルアにとって有効なヒントとはなりそうになかったのでそれは黙っておくことにした。いずれ念が使えるようになればわかることだ。


「そっか、やっぱりそうだよね。でも正面から戦うだけならともかくプレートを奪うだけならなんとかなるかも」

「・・・・そういえばさ前から聞きたかったんだけどハルシャの武器ってその銃だけ?」

「そうだけど何で?」


ふいにハルシャの太腿のホルスターに視線を落としたキルアがプレートのことから話をそらした。ハルシャはその手の質問には慣れていたので、間髪いれずに答える。


「一次試験のときさ、ヒソカとやりあったんだろ?でもオレらのとこに姿現したときはほとんど無傷だったし、あのヒソカと弾入ってない銃でどうやってやりあったんだろうと思って」


この観察眼の鋭さはまるでイルミのようだった。(だがハルシャはまだこの時点で、キルアがイルミの弟であることを知らない)彼もまた全く見ていないような振りをしてハルシャの行動の一つ一つをしっかりと観察しているので隙がつきにくいのだ。昔サソリの修行と称して散々イルミと一対一で戦わされたことを思い出したハルシャは、プレートを盗るということはまた戦わないといけないのだということを思い出し表情をゆがめる。


「・・・・まぁ確かに実弾は入ってないんだけどねー・・・・こっから先は企業秘密ー」


念について今ここで教えてやってもいいのだが、中途半端な知識は返って成長を妨げてしまう。ハンター試験の結果がどうであれ、試験後に時間があるようでなおかつ彼らが知りたいというのなら教えてやろうと思って、ハルシャはキルアの質問に対する答えをはぐらかした。






2013/01/02

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