その後のトラップはすでに念をマスターしている二人にとってはあってないようなもので、感覚からしてすでにかなりの階数を下りてきていることは確かだった。
ヒソカが言ったとおり銃と言う媒介無しに放てるトランプと傀儡師の共演【マリオネットダンス】の相性はいい。自分も何か媒介を必要としない飛び道具でもやるかな、とハルシャに思わせるほどだったがあいにくと彼女の身体能力は低いのでそれは無理かもしれなかった。


「さて・・・また大きな空間に出たね」

「ってことは囚人と戦うの?また?」


ハルシャがヒソカを見上げたときザザッ、とスピーカーが雑音を上げた。


『44番及び85番の到着を確認。他受験生の到着を待て』

「それだけ?」


手錠が外れないところを見るとまだ最下層にはたどり着いていないはずなのだが、スピーカーはそれだけ言うとプツンと音が途切れてしまった。まさかまた足手まとい(という名前の仲間)を待たなければならないのだろうか。


「♥」


ヒソカは手に持ったトランプの枚数を確認するように遊んでいるが、あいにくとハルシャの場合傀儡で遊ぶわけにはいかなかった。イルミに邪魔されたせいで修理しきれてない傀儡を直したいのは山々だが、自分以外の人間がいるところで傀儡の仕込を見せるわけにはいかないのだ。


「暇そうだね♣ボクと遊ぶかい?」

「 い や 」

「ククッつれないなぁでもそんなに待つ必要もなかったみたいだ♣僕たちは相方に恵まれてるようだよ」


カタカタカタ、と小さな何か揺れるような音がしたから一瞬嫌な予感がしたのだが、その予感どおりハルシャたちが下りてきた通路とは別の通路から、もう一組自分達と同じように鎖で繋がれたペアが現れた。
カタ、と不規則に揺れる首と針だらけの顔はついこの間見たばかりだが、やはり見慣れない。正直なぜ素顔で受験しないのかがハルシャにとっては大きな疑問だ。
ギタラクルと鎖で繋がれた男はそれなりに(本当にそれなりに)実力があるようだが、さすがに奇奇怪怪なギタラクルには辟易しているようできちんと距離をとっている。ハルシャと同じようにいくつもの銃をホルスターに収めていた。
鎖で繋がれたペアが二組、つまり四人の受験者がここに揃ったことを確認したできたのか、スピーカーからは再び音声が流れ始めた。


『・・・・109番及び301番の到着を確認。試験を開始する。ここで通過できるものは三人。二組のうち誰か一人が死亡した時点で残りの三人を第三次試験通過とする。手段は問わない。相方に手を下すことのみ禁ずる。以上』

「♠」


トランプを口に当てたヒソカはにっこりと笑う。その笑みは美しくもあり恐ろしくもあったが、ここへきて初めてハルシャはヒソカがそれなりに整った容姿の持ち主であることに気付いたのだった。


「どうしたんだいハルシャ♥ボクに見惚れた?」

「性格が最悪だからそれはないわ」


ヒソカの言葉を叩き返せばヒソカはクツクツと笑うだけだった。


「それよりイル、いい加減その姿やめたら?ここ、スピーカーしかないし、元の姿に戻ればいいじゃない」

「・・・・イルミと知り合いなのかい、ハルシャ


その言葉にほんの一瞬殺気が混じっているようにも感じたが、気のせいだということにしておこう。ハルシャの言葉にギタラクルは己の顔に刺さった針に手を伸ばす。抜くたびに顔が少しずつ変形し最後の一本を抜いたときそこに立っていたのは、ヒソカに負けず劣らずの美青年だ。それにはギタラクルいやイルミの相方の男の方がよっぽど驚いているようで、開いた口が塞がっていない。


ハルシャはつくづく運がないね。ヒソカと一緒なんて」

「それはイルも同じなんじゃないの?」


ねぇ?とハルシャは男に微笑みかけたが、それが男の最後に見たものだった。男がこの部屋に入って来た時点で取り付けられたハルシャの念糸が男の腕を持ち上げ、銃を掴み銃口を己の頭に当てて引き金を引く。


「オレが殺そうと思ってたのに」

「相方に手を出さないのが条件だって」


事切れた男を前にハルシャは肩を竦める。


『109番死亡を確認。44番85番301番を第三次試験通過とします』


本来ならば四人のうち三人しか通過できない試験で疑心暗鬼なりを誘うものだったのだろうが、四人のうち三人が知り合いであったことは、試験官側としても想定外だったのだろう。その条件ゆえにあっさりと終わった試験(もし四人中二人合格だったらこんなに簡単にはいかなかったはずだ)にハルシャは安堵しながら、ようやっと外れた腕輪を地面に落として窮屈だった手首をさする。


「これでヒソカともおさらばね。はい、バイバイ」

「待ちなよ、ハルシャ♥イルミのところへ行くのかい?」

「・・・・伸縮自在の愛【バンジーガム】をさっさと剥がして」

「イルミとの関係は?」


腕輪が外れて第三次試験も終了しようやっとヒソカから離れられると思った矢先の出来事だったので、当然のごとくハルシャの機嫌は急降下である。だがハルシャのそんな様子など意にも介さずにハルシャをもう一度自分のもとへ引き寄せて、その細い体を捕まえる。
この男といるくらいなら、無感情だけどイルミの方が遥かにマシだ、というのがハルシャの思いである。イルミとはサソリがゾルディックに居た頃に何度か修行した仲でしかないが、それでも約半年の間はずっと一緒にいたわけで、ヒソカより幾分イルミの方が仲がいいと言えよう。イルミがハルシャをどう思っているのかは別として。


「正確には7ヶ月と13日」


オレとハルシャがサソリのところで修行してた時間はね、とイルミが二人の間を割るようにして会話に入って来た。


「基本的にゾルディック家とサソリの繋がりがあるから、ハルシャはいわばビジネスライクの関係。気が合うことは確かだけど。だけどオレハルシャの人傀儡の趣味は好きじゃないよ」

「趣味じゃないわよ、あれも仕事のうち」


イルミが針を弄びながらそう言うとハルシャは頬を膨らませて怒った。


「子供っぽいところは変わってないね」


ハルシャの膨らんだ頬をつつくとぷひゅっと言って空気が抜ける。そこからしばらくの間二人はサソリの話に入ってしまいヒソカの入り込む隙がなくなってしまった。自然と解けた腕からハルシャは抜け出して、イルミの隣で自分のときよりも遥かに打ち解けて彼と話をしている。
(気に入らない・・・・♥)
ヒソカにとってイルミもまた自分を興奮させてくれる玩具であることは間違いなかった。だが、それよりももっと興味をそそられる玩具を、折角自分が見つけた玩具を彼に盗られたようで面白くない。
放ったトランプはあっけなくイルミに受け止められてハルシャには届かなかった。


「・・・・ヒソカ何やってんの」

「別に♠」






2013/01/02

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