その囚人は果たしてどれほど正確にヒソカの実力を読み取っていたのだろうか。細くしなやかな筋肉から生み出されるバネ、見事な念の能力と、その使い方・・・・初見でその全てをしっかりと見極められるほどその囚人に実力があればそもそも勝負など挑むことはしなかっただろう。
ハルシャは「自由に動きたいから♥」と言って再びヒソカに抱えられ、あっさりとトランプの餌食となった囚人を見ながらそんなことを思っていた。


「つまらない。ねぇハルシャやっぱりボクとヤろうよ♠」

「次の方ー!!早くしないと私じゃなくてこの人が殺しかねないからお願い早くー!!」


それなりに切羽詰った声で怒鳴ると、もう一人、通路の奥で出番を待っていたフードの男が前に進み出る。先ほどと同じように手錠が外れて、男がフードを取り払うとそこにいたのは至極有名な快楽殺人犯であったからハルシャも多少顔をしかめた。


「なんだねぇぇちゃんの方はオレの顔知ってるみたいだなぁあ」


語尾を嫌な音を立てて伸ばす男だ。ケタケタと笑うと男は素手のままゆっくりとハルシャとヒソカの方に近づいてくる。


「今回もデスマッチ?そういえば武器に関して特に何も指定がなかったけど、武器OK?」

「いいぜぇぇ、ねぇぇちゃんの武器ならなんだって受け止めてやるよぉぉ」


顎が外れるんじゃないかと思うほどの大口で再び笑い、男は首を傾げるような動作をした。単に人を殺したくて落ち着かないだけなのかもしれないが、とにかく気味が悪い。


「ごめんなぁぁ、オレの包丁取り上げられちゃったからよぉぉ綺麗に解体してなんかやれねぇえんだけどぉお」


男の犯罪歴はほとんど全てが殺人で埋まっている。念による強化された肉体と、人体の急所を知り尽くしたその知識によって男は夜な夜な仕事帰りの人間を見つけては襲いゆっくりと甚振り殺した。最後には包丁で臓器を取り出し綺麗に並べ対象を美しく仕上げる、本人曰く芸術家だそうだ。


「ねぇえちゃんがバラバラになったら次はもう片方の方だからなぁあ」

「やれるものならやってみなよ♥」


まずは、ハルシャをね、と言外に込められたその意味を受け取ってハルシャはヒソカから少しだけ距離を取る。


「ヒソカ。とりあえず私が動いたら一緒に動いてよ」

「お安い御用♠」


ヒソカの言葉をしっかりと聞くと、ハルシャは近づいてくるその男から距離を取るように即座に三歩引いた。そして両の手に銃を構える。


「♥」


ヒソカはハルシャの動きの一切を邪魔しないように彼女の動きに合わせて下がり、そして右手を挙げるなら共に左手を挙げた。無駄に動きがいいのはハルシャの行動を逐一よく見ているからだろう。見られているという行為そのものは吐き気がするぐらい嫌だが、こういうときは非常に助かる相手だ。自分にも、そして相手にも何の遠慮もなくてすむ。
念弾は堅によりあっさりと弾かれたが、仕込みは済んでいる。だがそれを一切表情に出さずハルシャは叫んだ。


「跳んで!!」


大きく弧を描いた拳がハルシャのつま先を掠ったが問題はない。念の使いどころに関しては自分の方が上だ、負ける気はしないがそれはあくまで接近戦に持ち込まれなければ、の話である。
ヒソカの方が元の筋力的にも跳躍力があるので、危うくヒソカに引きずられる形になりかけたハルシャは彼に支えられる形で着地する。


傀儡師の共演【マリオネットダンス】


ギュン、とハルシャが撃っても居ない弾丸が突如左右に現れて、バランスを崩した男の脳天を貫いた。パン、とはじける音と共に男は前のめりに倒れ、それきり。
ヒソカがパチ、パチ、パチとお世辞の拍手を送る。


「デスマッチじゃなければ死ななかったのにね。ま、それはともかく先行きましょ。いい加減あんたと離れたい」


ハルシャのその言葉が引き金だったのか、それとも純粋に囚人二人の死亡が確認されたからなのか、先ほどまで閉じていた先へ続く道が開かれ、階下へと行けるようになった。
二人のいる浮島に向かって伸びた通路(勿論手すりなどないので落ちたらアウト)を何故かまたヒソカに抱えられて通る。ヒソカ曰く左手にぶら下げたままだとバランスがとりにくい♥そうだ。
時折別れ道にでる道をヒソカの勘(これが意外と当たる)により進む中、ハルシャもいい加減ヒソカに対し露骨な嫌悪感を見せるのをやめたがそれは決して彼のことを好きになったとかそういうわけではない。ただ実力的には十分であり(精神的な相性を除けば)相方として組むにはベストであることを認めたのだろう。
石造りの四角い廊下は閉塞感があって、気持ちを窮屈にさせた。ヒソカはあまり感じていないようだが、接近戦が苦手なハルシャにとってこのような閉塞的なところは息が詰まる以前にちょっと、怖い。こんなところで通路の両端から敵に迫られ接近戦にでも持ち込まれたらまずハルシャに勝ち目がないからだ。


「・・・・♠ハルシャ


ハルシャの不安を見抜いたのか、ヒソカが声をかける。


「何よ」

「ボクとしてはここら辺でハルシャの念能力について詳しく知っておきたいんだけど♦」

「・・・・・」


ヒソカの判断はペアを組むにあたっては至極真っ当なものだ。先ほどはあくまで一対一の戦闘で、いかに相方に動きを合わせられるかに注意すればどうにでもなったが、今後この塔の中で囚人達が何を吹っかけてくるかわからない以上、お互いの能力を知っていた方がいい。
本来ならそこで仲間割れを起こすことを狙っていたのかもしれないが、あいにくと一次試験ですでにお互いの手の内を見せてしまっているハルシャはヒソカの言葉に反論することはなかった。能力の詳細を教えてしまうと敵になられたときが恐ろしいが、ヒソカのような性格の人間はハルシャにとっては常に敵であり味方でもある。彼はハルシャにとって完全な敵にはなりえない。


「・・・・私の念能力はあなたの言う通り操作系で、傀儡という人形を遠距離から操るのよ。操るための念糸はあくまでオーラを非常に細く見えにくく指先から放出してるだけ。これを傀儡の各箇所に取り付けて操るの。眼球にも取り付けると念糸を通して視界を共有できる。といっても円と似たようなものだから色彩感覚とかは明瞭じゃないんだけど」


ボン、とパーカーのポケットから取り出した巻物にハルシャが指先で触れると、以前と同じように傀儡人形が現れる。だがその数は一体。巻物にどうやってしまっているのか、と聞いたがさすがにそれは企業秘密だと言った。


「ふぅん面白いね♦」






2013/01/01

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