波乱万丈の一次試験はとにもかくにも終了し、二次試験に突入。しかし二次試験そのものはさしたる大惨事もなくある意味順調に幕を下ろした。(ハルシャは勿論、スシなんてものを知らなかったから握れといわれたのにも関わらず、お櫃のご飯に生魚を入れて隠して差し出したところ散々駄目出しを喰らったのだが、合格したのならスシがどんな形状だったとしても問題ない)
そして二次試験合格者を乗せた飛行船は次の試験会場に向かい順調に高い高い空の上を進んでいく。
ハルシャはゴンとキルアの探検しようという誘いを断って、一人飛行船の中を歩き回り空き部屋を見つけると中に入り込んだ。鍵をかけてひとまず安心。これで先ほどヒソカに壊された傀儡の修理をすることができる。
「一人で」というのは常にサソリに言われた言葉だった。サソリは常に一緒に居るハルシャにですら自分のみが使う傀儡の製作・修理の様子を見せてはくれなかった。それは傀儡の命が仕込であるためであるが、幼かったハルシャはそれにとても不満があったことを覚えている。だがこの齢になって自分で傀儡を作るようになってからはサソリがなぜ常に一人だったのかよくわかるようになった。
関節に詰まった土を取り除き、空っぽになった腕の中に予備の針を詰めなおす。完全に破壊された部品は仕方ないので替えを取り付けるが、この傀儡一体一体はある意味特注品なのでピタリと一致する部品がないから大抵部品が壊れた時点で使い物にならなくなってしまうのだ。一体は正しくそれで、もう腕がくっつきそうになかった。腕はバランスのためにつけているのではないのでなくても問題ないがバランスは悪い。


「どーしよっかなー・・・・」

「相変わらずよく出来てるね」

「どうも。これ私が始めて作った奴だから確かに部品にガタが・・・・って誰だぁぁぁぁぁ!!!!!」


鍵閉めてたよね!?と反射的に振り返って鍵を確認したら、内側からかけたはずの鍵は特に破壊された様子もなく普通に開いていた。


「誰!?」


傀儡を膝から払い落として銃を構えるとギタラクル(という名前だったと思う)不気味な男がゆっくりとハルシャに近づいてくる。そしてゆっくりと顔に刺さった針に手を伸ばした。


「オレだよ。あれ、ハルシャオレのこと気付いて無視してたんじゃないんだ」


ズリュ、といかにも痛そうな音と共に針が一本一本顔から抜け落ち、最後の一本がギタラクルの手の中に落ちるとそこにいたのはギタラクルとは似ても似つかない美青年だった。


「イル・・・・・」

「やっ、ハルシャも受けてるとは思ってなかった」

「いや、それ私の台詞」


ハルシャはヒソカのときと違い相手があのゾルディック家長兄のイルミであることがわかると銃を下ろす。若干空気が緊張しているのは否めないが、彼女自身がまとう空気もヒソカのときとは大違いである。


「もしかして一次試験の時ヒソカが『いいところだったのに』ってハルシャと一緒に居たの」

「断定的に首かしげながら聞かないでよ・・・・そうですよーだ。あの変態と知り合いならどうにかしてくれない?」

「犯された?」

「一遍死ね」


一度ホルスターに閉まった銃をもう一度抜くと今度は威嚇だけでなく殺気を込めて引き金を引いた。「ははは、冗談だよ」とイルミは口では言っているものの、その口調も表情もまるで変化がないから何がイルミの冗談で何が本気なのかさっぱりわからなかった。


「わっ前より精度上がったね」


ハルシャの念弾は急に弧を描き避けたはずのイルミにもう一度迫る。
ひょいと軽い動作で避けられて、残念ながらもう一度曲がるだけの空間が足りず今度は壁にめり込んでしまった。


「ところで何の用?私傀儡の修理したかったんだけど」

「ごめんごめん。続けていいよ」

「いや一人でやらせてよ」


ははは、ハルシャが一人で部屋に篭るみたいだったから何するのかみようと思って、とやはり無感情の言葉がイルミの口から飛び出て今度は本当に冗談だろうとハルシャは思った。
イルミ=ゾルディックとハルシャが始めてゾルディック家の敷地内で出会ったのは確かハルシャが10になるかならないかの頃だ。養父であるサソリは有名な操作系能力者であると同時に薬師でもあったから、一時期ゾルディック家お抱えの薬師として雇われていた経歴がある。その間、気に入った執事は勝手に殺して傀儡にするわ、庭でハルシャを半殺しにするわめちゃくちゃやらかした挙句「飽きた」の一言でゾルディック家を抜け出し、現在サソリはゾルディック家の暗殺対象リストに載っている。だが載っているだけで血眼になってサソリを探した、という話は長兄のイルミですら聞かないから、表向きはそうであっても実際はまだ地下深くでサソリとイルミの父・シルバは繋がりがあるのだろうと踏んでいた。
イルミもハルシャも同じ操作系念能力者としての資質があったということで、イルミはほんの一時だがサソリを師事したことがある。サソリは基本は思いのほかあっさりと教えてくれたが、結局イルミに傀儡の極意を教えることはなかった。だからイルミは別の形で己の念能力を完成させなければならず、イルミとハルシャの念能力はかなり違うものとなっている。
ハルシャはその後イルミと会ってはないが、シルバとなら何回か会ったことはあった。イルミが読んだ通りサソリとゾルディック家は今だ細々とながら繋がっており、ハルシャはそのサソリの小間使いとしてシルバと情報や毒のやりとりをしていたのだ。いつも怖くて話が終わると即効で逃げ帰ったためさして顔は覚えていないが、ある意味お互いにとって一番いい関係といえるだろう。


「何年前だっけ?8年?かな。サソリは元気?」

「父さんこの間私を置いてどっか行っちゃったけど元気なんじゃないの?だって病気しないし」

「それもそうだね」


昔から表情が乏しいとは思っていたがそれは今も変わらないらしい。イルミは落ち着いて足元に転がったネジを拾うとハルシャの方に投げてよこした。


「まぁいいや。そろそろ着くみたいだし、オレは行くよ。後でまた会おう。そうそうヒソカには注意しないよ」

「最初っから要注意人物でしょあいつは。何?イルってヒソカの友達か何か?」

「いや、顧客」


そりゃお疲れ様、と言うとイルミは一体何をしにきたのか特にハルシャに伝えることがあるわけでもなくあっさりと部屋を出て行った。戸口から覗いた窓の外はだいぶ地面が近づいており、なるほどイルミの言う通り会場への到着も近いようだ。
結局大して修理できなかった・・・と思いながらハルシャは散らばった部品を片付けて、また最初のようにすっからかんになった部屋を出て飛行船の待合室へと向かったのだった。






2012/12/31