後ろ半分の受験生は最早歩くのすら限界といった様相で、これではもうとても二次試験会場まではたどり着けないだろう。
向こう側からゴンとキルアがこっち側(つまり二次試験会場側)に向かってきているのが遠くに見えて、
ハルシャは少しだけ走るスピードを落とした。ヒソカはわざわざ逆戻りしてまで
ハルシャのことを追うつもりはなさそうだ。
「ゴン、キルア!」
「鼻血止まった?」
主題はそこじゃないでしょ、と軽口を叩いたキルアの頭をペシンと叩いて二人の後ろを覗き込む。
「クラピカとレオリオは?」
「だいじょー・・・・」
「ぬおおおおおおお!!!こんなところで諦めてたまるかぁぁぁぁぁ!!」
ゴンが笑顔でそう言いかけたとき、さらにゴンとキルアの後ろから半裸の男が猛然と三人の横を駆け抜けて行ったのだ。呆然とする
ハルシャの肩にぽんと手を置いたのはクラピカで、先に行くよ、と言うと半裸の男・・・・いやレオリオの後をほぼ同じスピードで追っていく。
「わーおだいたーん」
素肌のどこに直接プレートをつけているのかよくわからないが、とにもかくにもあの調子なら二次試験会場くらいまでどうにかなりそうだ。
「オレたちも行こう!キルア、
ハルシャ!!」
ヒソカとの攻防より約一時間後、長いトンネルの先にようやっとゴールが見えて受験生の誰もがほっとしたが、それはまだゴールには程遠くむしろトンネル内よりも遥かに危険なルートであることに受験生の大半がため息をついた。ゴンやキルアはこれからさらに激しさを増すハンター試験に喜びすら感じているようだが、
ハルシャは当然前者である。受験生の中の誰よりも大きなため息をついて。「帰りたい・・・・」と遠い目をしながらぼそりと呟いた。
「ここでリタイアされるのは勝手ですが、安全のためこの地下通路の出口は封鎖されます。頑張ってこのヌメーレ湿原を抜けてお帰り下さい」
「やっぱ・・・・二次試験会場までは頑張ります・・・・」
ハルシャはもう一度ため息をつく。
「
ハルシャってば元気ないよ?ほら、トンネルよりもっと楽しそうだから!!」
「そう思えるのはゴンだからでしょー・・・私別にそこまで必死でハンターの資格が欲しいわけじゃ・・・・あ、でもハンターの資格取れば一般人じゃ行けないところも行けるようになるわけだし、父さんがハンターの資格取れって行ったのは、これからつまりそういうところに行くって・・・・・」
ゴンの言葉に呆れなのか尊敬なのかよくわからない視線を向けた
ハルシャだったが、唐突にハンター資格を取ることの有意性についてぶつぶつと独り言を呟き始め、さっきまで完全に諦めモードだった雰囲気が一点してやる気に満ち溢れ始めていた。
「つまり
ハルシャは一般に言うファザコンというものだな」
「はい、クラピカ、そこ、そんなに冷静に判断しなくていいから」
びしりと指差してクラピカに突っ込むがクラピカは笑うだけである。
「大体ファザコンで何が悪いのよ!ずっと私のこと育ててくれた人なんだから、大切なのは当然でしょ!」
ただし「育てる」の前に「誘拐して」という言葉が入るということを、実は
ハルシャは知らなかった。果たしてこれは良いことなのか悪いことなのか。
ハルシャはサソリが養父であることは知っているが、どのような関係で実の父から自分がサソリに預けられたのか知らないのである。
ハルシャ=
エトナは実はクラピカと同じクルタ族の人間であった。しかし外から一族に加入したとある女性の連れ子(この女性との血の繋がりもないらしい)であり、クラピカのような純粋なクルタ族ではないためどんなに興奮しても緋の目になったりすることはない。
ハルシャがサソリと出会ったのは彼女が4歳の頃のことである。もとより性癖はネクロフィリア、人体収集家として名を知られていたサソリはクルタ族の緋の目を手に入れるために、クルタ族の隠れ住む地へと足を運んだが、そこで彼は一人で遊んでいた
ハルシャを見つけた。サソリは彼女をクルタ族と勘違いしあろうことか誘拐、そしてその後は今までのサソリの経歴から考えると非常に不可解ではあるがサソリは
ハルシャのその後の養育の一切を担ったのである。
言葉、マナー、生きる智恵、生き延びる力、念の使い方・・・・・サソリは自分が持ち得る一切を
ハルシャに与え、
ハルシャはそれら全てを貪欲に吸収した。特に彼女の念の形質がサソリと同じであったためより己のものにしやすかったのかもしれない。
ハルシャはサソリのことを一切疑わなかった。そもそも連れ子であったため、もしかしたら当初は本当の父親だと思っていたのかもしれない。成長の過程で彼から本当の父親でないことは聞かされたが、自身がクルタ族の一員であったことや誘拐されていることはサソリから聞かされなかったし、というかそもそもそんなことをあけすけに話す犯罪者というのもいないだろう。
ハルシャとクラピカがお互いになんとなく知っている気がする、というのは間違いではない。事実この二人はクルタ族の同年齢の子供同士何度か遊んだことがある。
ハルシャが18、クラピカが17であるため二人が遊んだ月日は物心つくようになってから一年ちょっとしかなく、そのせいで記憶がかなり薄れているのだ。
とはいえ
ハルシャがもしサソリに誘拐されていなかったとしたら彼女は今ここにいないだろう。そういった意味で
ハルシャはサソリに感謝すべきであるが、なんだか本末転倒な気もするので今さら気にすべきではないのかもしれなかった。
「悪いとは言わない。少し、羨ましいだけだ」
そういうクラピカの目が少し翳ったのを
ハルシャは見逃さなかったが、その理由を深く追求するほど野暮ではなかった。
ゴンとキルアに急かされて
ハルシャとクラピカもまたヌメーレ湿原へと足を踏み入れた。
2012/12/30
