「あ、皆みたいな・・・・受験番号のそれまだ貰ってない」


ハルシャがそう呟いた途端、気味の悪いベルが試験官の到着を告げた。


「大変お待たせいたしました。これより第287回ハンター試験を開始いたします。・・・・とその前に。最終確認です。この試験では人によっては命を落とす可能性もありますが、皆様それにご同意の上でここにいらっしゃ「すいまっせん!!」・・・・・・・」

「おいハルシャ!!お前せめて試験官の話ぐらい聞いてからにしろよ!!」


慌ててレオリオが留めたが、すでに試験官サトツの目はハルシャの方を向いていた。


「なんですか」

「ナンバープレート貰ってないんですけど」

「おや。そうですが。ですがすでに手持ちのプレートはありませんので・・・・そうですね。適当に近くの人のプレートをもらってください。それではここにいる全員は自分の命は自分で管理、ということに同意したということでハンター試験を始めたいと思います」

「お、おいちょっと待て!!この女がプレートを奪うってどういうことだぁ!?」

「そのままの意味でございますよ」


サトツはさしたる動揺もなく男の言葉に答えた。


「今プレートをお持ちでない女性のあなた、もし二次試験会場にたどり着くまでにプレートを持っていなければ失格です。ですが誰かから奪うことができれば奪われた方は失格となります」

「・・・・・それなら一次試験はその女がプレートを奪うって奴か?」

「いえ、違います。私がこれから二次試験会場までご案内するので着いて来てください。よろしいですか」


ハルシャが頷いたのを確認してサトツもまた納得したように頷いた。
今までノーマークだったハルシャに一瞬で全員の視線が向いた。それも当然、これから先二次試験会場に着くまでの間、プレートを奪う可能性があるハルシャに注意がいかないわけがない。たとえそれがとてもハンター試験を受けるようには見えない弱そうな女だとしても、だ。中にはむしろ弱そうだからこそ気が緩んだ隙に奪われるかもしれないと気を引き締めたものもいるだろう。


「おい試験官さんよぉ。この試験は死ぬこともあるって言ってたな。そりゃ受験生同士が戦って・・・・ってこともあるのか?」


その言葉は明らかに、今ここでこの女を再起不能にしていいかと言っているに等しかったが、サトツはさらりと頷く。


「ええ、勿論。一次試験は私が案内する二次試験会場まで着いてくること、です。その間何があったとしても私が関与するところではありません」


ほう、と質問した男が息をもらす。同時に明らかに空気が変わったのがわかった。レオリオもクラピカもそしてゴンも一瞬身構えるが、誰かがハルシャに手を出す前に名乗りをあげた男がいた。


「奪う必要もないよ? ボクのあまりのプレートをあげよう♣」


立たせた赤い髪がやけに目立つ長身の男だった。まるでトランプのスートのような模様が入った服を着たその男は、ゆっくりとハルシャに近づくと85と記された丸いプレートを差し出す。


「おい、そりゃどういうこった」


いかにも怪しげな男の様子にレオリオはハルシャの一歩前に出たが、男はなんのためらいもなくレオリオに言う。


「どういうこともなにも、さっきボクにぶつかった男をうっかり殺しちゃったからサ♣プレートが余ってるんだよ。それなら誰もプレートを奪われる心配もないし、彼女も試験を受けられる。いい条件じゃない?♦」


その光景を見ていたものは思わず身震いをし、見ていないものもすでに始まっているハンター試験の壮絶さに身を震わせた。サトツはまるで反応しなかったから、殺人すら許容範囲なのだろう。


「ボクはヒソカ、よろしくハルシャ♠」


プレートを差し出すときまではにっこりと微笑を口に浮かべていたヒソカだが、彼女の名前を呼んだ瞬間に明らかに目つきが変わった。


「君はボクを興奮させてくれる?」


ひゅん、とレオリオの耳に何か風を切る音が聞こえてそちらへ振り返ったときにはすでに目の前に何かが迫っていた。それがトランプだ、と認識できるはずもない。ゴンもクラピカも反応するには飛んでくるトランプがあまりに早く、そしてそれには恐ろしいほどの殺気が込められていた。
レオリオは今の今まで生死が関わるような戦闘に立ち会った経験などない。だが、その瞬間「あ、死ぬな」と思って同時に今までの思い出がどばっと頭の中に溢れかえった。所謂走馬灯。目の前に迫る何かに頭を貫かれて死ぬというイメージが明確に頭の中にあるのにレオリオの体は動かなかった。
だが、そのイメージが実際になるよりも早くさらに別の何かがトランプを打ち抜いてレオリオははっと我に返った。三人ともそのときにようやっと自分達に飛んできたものがトランプであること、そしてまさに自分達を殺そうと飛ばされたそれを打ち抜いたのがハルシャの、まだ硝煙を上げている銃であることに気付いた。


「近づくな、プレートをそこに置いて。それでゆっくり下がりなさい。もう一度トランプに触ったら撃つ」


左手の銃で三枚のトランプを全て撃ち落し、右手の銃は真っ直ぐとヒソカの額に向けられている。先ほどまでトンパに背後を取られて悲鳴をあげていた女とはとても同一人物には思えない。
ヒソカを睨みつける目は厳しく、向けた拳銃は微動だにしなかった。


「冗談だよ、ハルシャ♣ 」

「・・・・・それでは全員ナンバープレートを持ったようですし、第二試験会場までご案内いたしましょう」






2012/12/30