「えーっと・・・あ、逆だこれ。・・・・ハンター試験?」

「今年の奴を受けて来い。試験場は勝手に探せ。オレは新しい傀儡を探しに行く。以上」

「え、まっ、」


目の前で飛行船のゲートが閉まって置き去りにされたハルシャは左手には飛行船のチケット、と思っていたハンター試験の受験票を握り締め、右手は伸ばしたままその場で完全に動きを止めた。
危ないですよーと係員の声に引っ張られるように二、三歩後ろに下がったが今だに開いた口は塞がらない。みるみるうちにサソリを乗せた飛行船は大空高くへ昇って行ってしまい、最早追う手段もなくハルシャはただそれをぽかんと見つめるほかなかった。


















ハルシャエトナがこの第287期ハンター試験会場に足を運んだのはつまり先述のような理由によるものである。彼女の養父であるサソリは飛行船に乗る直前に、唐突にハンター試験の受験票を彼女に渡してめちゃくちゃなことを言い残し姿を消した。
基本的な必要経費はサソリが持っているし、移動先は彼の気の向くまま、そして何よりも彼女を飛行船に乗る直前で落とすためにわざわざ出発ギリギリまで待って駆け込むように乗った。サソリは最初からあの飛行船に乗る前にハルシャと別れるつもりだったのだ。
一文無し、養父の行き先知れず。そんな状態ではサソリを追うことなど(物理的に)できるはずもなく、彼女はひとまず目標をハンター試験に定め旅費その他諸々の経費集めに奔走した。
今までサソリと一緒にあまり裕福とはいえない旅の生活を送ってきたので、金の稼ぎ方について疑問はなかったが、女独り身を雇ってくれるところが少ないのは痛手だった。サソリのときはいくら若く見えても男と言うだけでそれなりに職はあったのだが、あいにくとハルシャの最初にたどり着いた町が問題だったということもあるのだろう。何にせよなんとか金を集めたハルシャは本当にギリギリ駆け込みのような状態でハンター試験会場にたどり着いた。
髪を振り乱し明らかに走ってきたとわかる様相の女に入り口付近に待機していた受験者からはクスクスと小さな笑い声が漏れる。ウェーブがかった赤黒い髪、と細い体のラインはいかにも女性といった様相で、品定めをする目は一瞬で他所へ向いていった。


「間に合っ・・・うえええ人多いし、なんかガラ悪・・・・」


薄暗い洞窟のような空間だから余計そのように感じるのかもしれない。まるでパイプを幾重にも繋ぎ合わせたようなその空間は、どこまでも続いているようだが薄暗い灯りだけでは先の先まで見通すことは難しそうだった。


「おおっ、なんだ女性も受けるんだな!」

「失礼だぞレオリオ。ハンター試験の受験資格は何も男に限ったことではない」


少しだけ嬉しそうな声にそちらを向くと、このハンター試験会場ではハルシャ並に異質な三人組がいた。
一人は他の受験者と大体同じくらいの年齢であろうスーツ姿の男性。一人は民族衣装のようなものを纏った性別のよくわからない非常に顔立ちの整った人。そして最後は髪の毛がツンツンとたっている恐らく受験資格ギリギリの年齢の少年である。


「わ、なんだよかったー若い子もいるじゃん!よろしくねー・・・・っていう雰囲気じゃないのここ?」


今年で18になるが童顔であるがゆえ幼く見られることの方が多い。中身が子供っぽいわけではないが、年齢が上の集団にいるよりは同年齢の人と一緒の方がなんとなく安心するものだろう。なるべく打ち解けられるよう明るい口調でその三人に声をかけたが、周りの空気に黙殺されて非常に微妙な間が空いた。思わず顔が引き攣ったが、そのままちょっとだけ声を潜めて尋ねると金髪の人が苦笑する。


「私はクラピカ。試験前で皆だいぶ緊張してるんだろう」

「オレ、ゴン!!お姉さんもハンターになるの?」

「いや、ゴンお前ハンターにならないやつがなんでここに来るんだよ。オレはレオリオだ。よろしくな」

「私はハルシャハルシャエトナ。よろしく」


ハルシャは三人から差し出された手を一人ひとり握り返す。


「勿論私もハンター志望だけど・・・・・やっぱりここってこんな自己紹介するところじゃないの?」


元気のいいゴンにちょっぴり勇気を貰ったが、だけど・・・・と続けたところでやはり周囲の視線と空気が気になって再びハルシャのトーンが落ちる。そんな姿は端から見ればルーキーもルーキー。恐らく何度か受験している受験生にはハルシャは第一の試験で落ちるだろうと鼻で笑われているだろう。


「私たちのような初受験者も話によるとそれなりにいるみたいだが・・・・・・」

「話?誰の?」

「僕だよ。始めましてハルシャさん」


唐突に背後に現れた男にハルシャはギャッと悲鳴をあげて横に退いたが、それで驚いたのはむしろ男の方だ。まさかハンター試験を受ける人間がここまで良い(悪い意味で良い)反応をするとは思ってもいなかったのだろう、差し出した手は空中を彷徨ったまま、ぽかんと口を開けている。


「反応が良いね」

「あっ、ごめっ、すいません!いや、急に後ろにいたから・・・・」


トンパの言葉は決して褒め言葉ではないのだが、ハルシャは褒められたと勘違いしたのかそもそもその言葉に返事するほどまだ落ち着いてないのかしどろもどろになりながら謝罪を口にする。


「改めて、僕はトンパ。今年でこの試験を受けるのは35回目、いわば試験のベテランだよ」

「え?それベテランじゃなくてダメなだけじゃない?」


ハルシャがその言葉を口にしたのはほぼ反射といってもいいほどであった。トンパが言い終えるか言い終えないかのうちに、この場にいるほぼ全員が思ったことをそのままそっくり口に出したのだ。試験会場は一瞬のうちに別の意味で凍りつき、ハルシャは思わず口を押さえた。
レオリオが哀れむようにぽんと彼女の肩に手を置く。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい私すぐ思ったことが口に出るからぁぁぁぁ」


それはすなわち今の言葉が完全に本心であることをばらしているのだが、ハルシャ本人がそれに気付く頃にはすでに完全に言い終わった後。更なる失言にああああああと悶絶するハルシャにクラピカもゴンもそして言われた本人のトンパも苦笑した。


「はははっ言われてしまったなぁ。確かにその通りさ。でも僕は気にしないけど、周りにはやっぱり同じように何回も受けて落ちている人だってたくさんいる。特に・・・・君のようにあまりハンターに向いていないように見える人は・・・そういうことは口にしない方が賢明かもね」


ハンターに向いていない、というのは先ほどから何度もハルシャが見せている明らかに素人のような素振り、言動のことを示しているのだろう。ハルシャはトンパに言われて正しくその通りでと土下座していたが、そんな五人の様子を端から見ていた銀髪の少年はその場で小さくぽつりと呟いた。


「『ハンターに向いていないように見える』?むしろこん中じゃほぼ合格確定者の間違いじゃね?」

「ん?なんか言ったか?坊主」

「なーんにも。それよかそろそろ始まるみたいだぜ、おっさん」






2012/12/30