召喚 4

注意
このお話には「終局特異点 冠位時間神殿ソロモン」の重大なネタバレが含まれます。もしFGOをプレイしている方で、まだ終局特異点に至っていない方は、終局特異点を先にプレイすることを強くお勧めします。

 太公望が秋穂の意識喪失と衰弱に気づいたのは、すでに魔力の道が形成されていたからである。太公望はハッとして振り返り、秋穂に駆け寄った。

「マスター!」

 太公望は秋穂の首に手を当てる。いまだ脈はあるが徐々に徐々にその拍動は小さくなりつつあり、秋穂の命はまさに風前の灯火であった。

「ここでは治療もままなりません、まさかここがただの大空洞ではないでしょう!? 医療に精通した者はいないのですか!?」

 太公望は声を張り上げる。太公望の言葉に誰もがたじろぐ。サーヴァントとしての力を見せつけられ今やだれも太公望に対し言葉をかけることは気が引けていた。何より令呪は秋穂の手にある。あれがなければどう足掻こうとサーヴァントを使役することはできない。
 そんな中、ロマニだけはいち早く行動を起こした。ロマニは高台からの落下を防ぐための手すりをぎゅっと握りしめてから、一つ息を吸って、所長に向き直った。そしてはっきりと宣言をする。

「所長、これより先秋穂の身柄はボクが預かります。ボクがここに来た理由を、話しましたよね。マスターとサーヴァント、この二人がいることはきっとこの世界の未来に繋がる。太公望がいる以上、もう聖杯戦争はできないでしょう。ならばあの二人はボクに使わせてください。きっと役立ててみせます」
「……いいだろう」

 マリスビリーは少し間を置いて、ロマニの言葉に頷いた。そして立ち上がり、空洞に向かって声をかける。その声は決して大きいものではなかったが不思議とこの空間に響き渡り、秋穂を除く全員がマリスビリーの言葉を耳にした。

「太公望の召喚を持って疑似聖杯戦争の失敗と終結をここに宣言する。全てのマスター候補はこれよりカルデア職員に復職し、霞流秋穂および太公望の身柄はこれよりロマニ・アーキマンに一任する……太公望、もしよければ彼女の容体が安定したところで私の部屋に来て欲しい。少し君と話がしてみたい」

 マリスビリーの言葉はそれだけだった。太公望は特にマリスビリーの言葉に頷くようなことはしなかったが、高台から飛び降りて秋穂のそばに来たロマニに場所を譲る。

「……魔術回路が一部正常に作動していないんだ! このままじゃ打ち出の小槌が暴走する! すぐに医務室に、いやダ・ヴィンチの工房に運ぼう、太公望、案内するから彼女を連れてついてきてくれ!」
「わかりました」

 太公望は秋穂の小さな体を抱え上げて、先を走るロマニの後を追った。
 それらを呆然と見やるのはかつてのマスター候補であり、今はカルデア職員に戻った魔術師たちである。彼らは誰もが一流の魔術師であり、マスターとしての適性も十分にあった、故に、サーヴァントと戦うという愚行を犯すことはなかった。素直に道を開け、同時にありえたかもしれない未来への可能性が閉ざされたことを内心歯噛みしていたのだった。
 ロマニと太公望は地下空洞から出るエレベータに乗り、途中からは階段を駆け上がって、ごく最近召喚されたばかりのレオナルド・ダ・ヴィンチの工房へと急いでいた。キャスターとして召喚された彼女はすでにカルデアの一室を工房と化し、生前に引き続き様々な発明を続けている。カルデアの様々な事象、魔術師としての在り方にはいろいろと思うところはあるようだったが、それでもカルデアにいることを選んだサーヴァントの一騎であった。

「ダ・ヴィンチ!」
「どうしたんだいロマニ、やけに急いで……って新しいサーヴァントか!?」

 ダ・ヴィンチの工房はすでに色々な発明品に溢れている。大きな机の上に広げられた設計図、失敗作の何に使うのかもわからない機械、魔術的な不思議な物品。ありとあらゆるものが溢れて零れているような部屋の中で、ダ・ヴィンチはちょうど書き物をしている最中だったようだ。突然ノックもなしに工房に飛び込んできたロマニとその後ろに続く二人に、ダ・ヴィンチは驚いた声を上げる。ダ・ヴィンチは今回の疑似聖杯戦争に関しては何も聞かされていない。

「ああ、そうなんだけどそれは後にして! 急患だ! 魔術回路の一部が機能停止状態に陥っている、なんとか復活させないとまずいことになる!」
「んん? 何がなんだかさっぱりわからないが……まぁいい、こちらへ」

 ダ・ヴィンチは椅子から立ち上がると部屋の中央にあった机の上にあったものを一息に叩き落とす。太公望はその机の上に秋穂を寝かせた。その様は手術台に乗せられた患者と、それを取り巻く医師そのものだったが、この三人の中で正しく医療免許を持っている者はロマニだけだ。
 ダ・ヴィンチは寝かされた秋穂の手首や首、そして生命の機関部に触診するように何度か手を当て、確認して顔をしかめる。

「……本当だ、魔術回路が一部停止、末端はかろうじて生きているようだが、中枢機関が動いていない。それに異質な魔力反応がある。このままだと肉体と連動して死ぬな」
「どうすれば?」

 太公望が問う。その声には若干の焦りがあった。

「この子の魔術回路は、そうだな少し違和感がある。まぁ私も魔術回路のすべてを把握しているわけじゃないが……どうもこの魔術回路は外向きに魔術を使うためのものというよりは、どちらかと言うと内向きに何かを閉じ込める……そう檻だ。何かの檻のように感じるね。この魔術回路はなんのためのものだい?」
「彼女の裡に眠る願望器を制御するためのものだ」

 ダ・ヴィンチの問いに答えたのはロマニだ。

「ん? 願望器と言うと……聖杯か? それにしては雰囲気が違うけど……まぁいい聖杯を制御するためのものなら、もう一度魔術回路に魔力を流し込んで励起させてみよう。この異質な魔力反応が聖杯によるもので、彼女の魔術回路がそれを制御するものなら、魔術回路が復活すれば一山は超えるはずだ」
「具体的に」
「外部から直接魔力を流し込む。魔術回路が機能していないと言ったが、それは破壊されたわけじゃない、動いていない状態……魔力の流れが乱れて適切な場所に魔力がいきわたっていない状態と言えばいいか。無理矢理外部から魔力を流し込めば、その乱を正してやれば、あるいは。だけど外付けの魔力循環なんてすぐにできるもんじゃない」

 現状できることは、できる限り早く外付けの魔力循環器を作ることだけど、と言ってダ・ヴィンチは言葉を切る。そのようなものは十分呀そこらでできるものではない、ということが言葉の端々から伝わってくる。ロマニがそれ以外になんとかならないのか、と口を挟もうとした時だった。太公望が前に進み出て、秋穂の体の上に手を翳す。

「なら僕がやります」
「君が? そりゃちょっと無茶じゃないかな。君がサーヴァントならマスターから魔力供給を受けている側だぞ、マスターはこの子だろ? この状態でサーヴァントが魔力を使って、マスターの魔力が空っぽになったらそれこそマスターは死ぬよ」
「僕の魔力ではなく、打ち出の……聖杯の魔力を使います。元々は両方とも彼女の裡にあるもの。僕はその道を正すだけでいい」
「理屈だとそうなんだけど……まぁいいや私はすぐになんとか彼女の中で魔力を循環させる方法を見つけよう。なぁに人工呼吸器の魔力版を用意するわけだろ」
「できるのか?」
「できるさ。天才をなんだと思っている。十分ではできない、けれどもそこのサーヴァントが時間を稼いでくれるというのなら、やってみせるとも」

 ダ・ヴィンチはにっこりと笑って、部屋の中を歩き始めた。あちらこちらからよくわからないものを寄せ集めて、ちぎって、捨てて、組み合わせる。その間に太公望は体の上に手を翳して方術を行使する。
 魔力が渦巻いた。それは秋穂の体の中のオドであり、ダ・ヴィンチが工房にかき集めた希薄なマナであり、そして打ち出の小槌の内在魔力である。本来ならば召喚でそのほとんどの魔力を使うはずだったが、太公望が途中で召喚を強制的に止めたため、打ち出の小槌は放出するはずの魔力の行き場を失った。それが今、打ち出の小槌を管理するためだけにある秋穂の魔術回路から外れて暴れ出そうとしているのである。太公望は秋穂のオドを制御し、魔術回路を再起動させようとしているのだ。秋穂の魔術回路さえ正常に作動するようになれば、打ち出の小槌は再び秋穂の体の中で眠るだろう。
 太公望が行使している方術は、非常に繊細なものだった。針の山の中にある、ただ一つの正しい針穴に糸を通すように、秋穂の体の中を探りながら、一つ一つ魔術回路に魔力を通していく。地道に、焦ることなくしかしできる限り急いで。
 そしてその間にダ・ヴィンチは少ない魔力を循環させる装置を組み上げていた。それは先ほどダ・ヴィンチが人工呼吸器と例えたように、外部からの力で強制的に魔術回路を動かすものである。制御が難しい分、すぐには出来上がらない。太公望もそれは承知の上だ。ダ・ヴィンチが外付けの魔力循環器官を組み上げるまで、太公望が循環器官となる。
 一時間が経過する。
 二時間が経過する。
 三時間が経過する。
 ダ・ヴィンチにせよ太公望にせよ恐ろしい集中力と根気であった。ロマニはそんな二人の邪魔にならないよう、ただ息を殺して待つ。何をしても今のロマニでは助けにはならなかった。太公望もダ・ヴィンチも額に滲む汗を拭うこともせずに、ただ自分のやるべきことを全うした。

「__できた!」

 最初に声を上げたのはダ・ヴィンチだ。彼女は歓声と共にあちこちにコードが飛び出た複雑な機械を秋穂のそばに立ち上げ、慎重に秋穂の体を探ると、一か所ずつ丁寧に針を刺していく。針は魔力の放出と吸収を兼ねている。この針を通し機械に通じ、通常ならば体が自然に行う魔力の循環を機械が強制的に行うのだ。

「見た目は気にしないでくれたまえ。何せ急造だからね。君、もう術を止めてもいい。あとはこの機械が魔力を循環させる。しばらくは目が離せないが……うんまぁ話をする程度には安心してもいいだろう」
「__はァ! さすがに疲れました!」

 太公望は思い切り息を吐くとその場にしゃがみ込んだ。繊細な作業を続けていたため手が震えていた。

「あっはっは、見事だったね。西洋魔術とは違う感じがしたな。君の見た目も西洋出身のサーヴァントとは思えないし。真名は? あ、聞いちゃまずいのかな」

 ダ・ヴィンチはロマニを見て、ロマニは太公望を見る。少しの沈黙の後、太公望が口を開いた。

「いえ、大丈夫でしょう。それに僕もう名乗っちゃってますし。真名を太公望、生前は姜子牙と呼ばれることも多かったですね」
「太公望!? そりゃとんでもないのが召喚されたものだ! 私はレオナルド・ダ・ヴィンチ、カルデアの英霊召喚第三号にして万能の天才さ。よろしく頼むよ、太公望」
「ええ、ありがとうございます、ダ・ヴィンチ殿」

 ダ・ヴィンチはウィンクして小粋な挨拶をする。それに応じた太公望の手を取って立たせると、適当に座ってくれと声をかけた。太公望は周りを見回したがどうにも座るのに適したところを見つけることができず、とりあえず立っていることにする。ロマニは慣れているのか本当に適当な場所に席を作って、座っている。ダ・ヴィンチは機械の出力を調整しながら、ロマニと太公望に言葉をかけるのだった。

「それで? 私は第四号の英霊召喚の話なんて聞いていなかったけど、これまた突然だね。しかしマスターが存在するところを見ると、私の召喚とは少し勝手が違うようだ。聖杯、太公望、新しいマスター、そして先ほどからカルデアの中のマナの流れが妙だ。気になることは山ほどあるから、彼女の容体が完全に安定するまで話を聞こうじゃないか」

 太公望はロマニをちらりと見た。ロマニはわかっている、とばかりに軽く手を振って、一つ息を吐く。何から話していいのかについて迷っているようだった。手をしきりに動かし視線を泳がせ、ダ・ヴィンチと太公望の二人を見てから、最終的に視線を秋穂に向ける。

「彼女の名前は霞流秋穂。東洋において物語の中にしか存在しないとされたあらゆる願いを叶える秘宝・打ち出の小槌を具象化することに成功した一族の末裔だ。秋穂の魔術回路は打ち出の小槌を制御するためだけにあり、まさに物語……の中の秘宝を形にして伝える者という意味で『物語伝承者(ストーリーホルダー)』と一部では呼ばれている。霞流家は一年前によその魔術師に襲われて、秋穂だけが生き残り、マリスビリー所長が打ち出の小槌に関する全権を握った。そして打ち出の小槌を使った疑似聖杯戦争を打ち立て、その過程で召喚されたのが太公望だ」
「ふむ」

 ダ・ヴィンチは頷いた。その瞳はすでに輝いており、打ち出の小槌という存在への興味関心が隠しきれていない。

「疑似聖杯戦争で、秋穂は七騎のサーヴァントを召喚する予定だった。しかし最初に完全顕現した太公望が残りの召喚を阻止、元々打ち出の小槌に大きく依存した召喚だったから、秋穂の体に負荷がかかりすぎて現状に至る」
「召喚を阻止!? へぇ! そんなことができるんだ! 一体どうやったんだい太公望!」
「まぁちょっと色々とですね」

 だいぶ無茶をしました、と言いながら太公望は秋穂の左手を撫でた。

「一画すでに消費されているね。無茶をしたということは……うーん霊基修復を令呪に命令させるほどの無茶をした、とか」
「するどいですね、さすがです、ダ・ヴィンチ殿」
「それほどの大魔術をどう行使したのか気になるなぁ」
「……その話はまたいずれにしてくれ。とにかく太公望によって疑似聖杯戦争は事実上失敗に終わり、秋穂のサーヴァントとして太公望だけが残った。そしてボクは所長から秋穂に関する全権の委任を主張、承認された。よって今後の秋穂がカルデアでどうするか、その決定権は僕にある」
「つまり?」

 太公望が打神鞭を持ち上げる。ダ・ヴィンチが機械をかばうように一歩前に出る。一瞬、不穏な空気が工房に満ちたが、ロマニはそれを打ち消すように声を上げた。

「ああ、違う違う違う! それはしまってくれ! ボクはもともと秋穂を利用した疑似聖杯戦争には反対だった! でも所長の決定は絶対だ、ボクに逆らう権利はなかった。それでもせめてその結末を見届けたかったからあそこにいたんだ。霞流の最後がどうなったのかを見届けたのも、僕だ。所長からの命令でね、わざわざ日本に赴いた」

 それはともかく、とロマニは言う。

「ボクはここで新たなサーヴァントが得られたことを大きなチャンスだと思っている。ボクには少し事情があるんだ」

 ロマニの声は慎重かつ真剣で、確固たる意志を持っているように思えた。ダ・ヴィンチも太公望もじっとロマニの言葉を待つ。

「色々と話せない事情が多いのは申し訳ないと思っている。でもボクもまた一つの切り札だ。そしてボクはその切り札をできる限り多く所持していたい。秋穂と太公望、キミたちも切り札に成り得ると判断したから、ボクは所長からキミたちに関する全権を委任してもらった」
「ということはマリスビリー所長はすべてを知っていると」
「そうだ__端的に言おう。人類はいずれ滅亡する」
「それは穏やかではありませんね」
「いずれ、ね」

 ダ・ヴィンチは片目を瞑って頬に手を当てた。

「いずれ滅亡する。でもそれは生物としては当然のことではないかな。バージェス、澄江を代表とするようなカンブリア大爆発で生まれた生物も、一億六千万年の間栄えた恐竜も、絶滅した。勿論生き延びて今に存在するものもあるわけだけど……それはおいておこう。人類もまた生物の一つであるならば、いずれ滅亡するのは道理なのではないかい?」

 ダ・ヴィンチらしい視点の話だ。ダ・ヴィンチの生前の研究には貝の化石にまつわるものがある。なぜ山頂から貝の化石が出てくるのか? ダ・ヴィンチはこれを研究する中で、ある説を唱えるようになったのだという。

「そうだね。そうかもしれない。でもボクが言うのはもっと近い未来の話だと思う。それは例えば自然災害や隕石といったものではなく、このカルデアを起点におこるもの、だとボクは感じた」
「んん? 感じたとは、なんともはっきりしないな」
「申し訳ない、ボクには今それしか言えないんだ」

 ロマニの言葉は断定的ではなかった、しかしそれは揺るがぬ事実だと知っているようだった。太公望は静かに、言葉を発しない。

「生物の絶滅という話は今は置いておこう。どうやらそういう話ではないようだからね。しかしまぁ、手掛かりがカルデアだけというのは、わからないな。それは直近の話なのか? それともかなり未来の話なのか?」
「わからない。そしてどうしても詳しくは言えないんだ。今は無茶でもそれを納得してほしい。ボクはそれをどうにかして阻止したい。何が、どこで、どういった理由でおこるのか、何もわかっていない。でもそれを阻止するためには今は一人でも多くの味方が必要だ。そしてボクは今マスターとサーヴァントというカルデアに寄らない力を手に入れた。ボクはダ・ヴィンチにも、秋穂と太公望にもその手伝いをしてほしい」
「なるほど、構いませんよ」
「いきなりで意味がわからないと思うけど……は?」
「ええ、ですから構わないと」

 ロマニもダ・ヴィンチでさえもこの言葉には驚いた様子だった。しかし太公望は至って平静で、何かを確信している様子でもあった。

「驚いたな、正直キミはもう少し長考するものかと思ったよ。いや君が浅はかだと言いたいわけじゃないんだが、その口ぶりはどうも君も何かを知っているように感じるな。おや、とすると私だけが何もわかっていないのかな?」

 ダ・ヴィンチは少し不服そうな表情でロマニを見る。ロマニは困った顔をした。太公望はどうも表情を読みづらいのだが、太公望も何かに迷いがあるようだった。

「うーん、実は、そうですね。もうやっちゃったことなので白状しますが、今ロマニ殿が話をしている最中、失礼ながらあなたの中を覗かせてもらいました」
「中を、えっ?」

 素っ頓狂な声を上げることになったのはロマニだ。ダ・ヴィンチは太公望の話に聞き入っている。

「あなた、ソロモン王なんですね」

 なんともごく普通に、自然なことのように太公望はそれを口にした。ダ・ヴィンチは目を大きく見開いてロマニに詰め寄る。

「どういうことだいロマニ!」
「いや、その、覗いたって何!?」
「方術でちょっと……特に防御機構があるわけでもなかったのでそのままするりと失礼しました」
「キミそんなこともできるのか!?」
「ええ、器用なもので。ダ・ヴィンチ殿の中も失礼しました。ダ・ヴィンチ殿は嘘偽りなくレオナルド・ダ・ヴィンチの英霊であると確信しました。全てを見たわけではないので、ロマニ殿がどうしてその身分を隠し、人間として振る舞っているのかまではわかりません。それはロマニ殿の口から語っていただきたい。ですがソロモン王は未来と過去を見通す千里眼を持っていた。あなたはそれにより人類の滅亡を見たのでは」

 ロマニは頭を押さえて下を向いたまま沈黙している。ダ・ヴィンチと太公望の視線が痛いほどロマニに突き刺さっている。ダ・ヴィンチは当分ロマニのことを離してはくれないだろう。ロマニはしばらくの沈黙のあと、なんとも気まずそうに「そうだよ」と言った。

「ボクは、そうだ。ソロモン王、だった者だ。僕はマリスビリーと聖杯戦争に参加し、勝利し、人となることを願った。その刹那だ、人類の滅亡が見えた。でもその時にはもうボクはただの人間で、未来を見る力も、人類の滅亡を防ぐ魔術王ソロモンとしての力も全てを失っていた。ああ、なんでこんな形でバレるんだろう、ボクって運がないのかな、ダ・ヴィンチ、太公望、頼むからこのことは絶対に他の誰にも言わないでくれ」

 頼む、と手を合わせるロマニに、太公望とダ・ヴィンチは顔を見合わせる。そして少しだけ笑う。

「ああ、いいとも。私たちは秘密の共有者でありそして共犯者だ。この秘密は、私が座に還るまで話さないと誓おうじゃないか」
「そうですね、勝手に見てしまった罪滅ぼしということもあります。マスターにも話しません。ついでというのもあれですが、ロマニ殿には防御機構を用意しましょう。今のままでは僕のようにあなたの中を覗く者がいるかもしれません。そうですね、カバーストーリーは強い霊感がある、ぐらいにしておきましょうか」
「助かるよ太公望」

 ロマニはなんとも言い難い表情で言うのだった。そして太公望は少し言いづらそうにしながら言葉を続けた。

「まぁ、そんな理由で、僕はあなたの言葉を正しいものと認識します。あなたが今嘘をついていないことがわかります。だから、あなたの言葉に応えます。僕は先ほどマスターのことを守ると誓いました。人類が滅亡するということが具体的にどういった事象をさすのかまではわかりませんが、マスターだけが無事ということはありえないでしょう。僕はマスターを守るために、あなたの言葉に応えましょう。マスターがどう答えるかはわかりませんが……それが僕の答えです」
「……ちょっと思ったんだけど、キミもしかしなくてもとんでもないお人よしじゃないか?」
「あはは、そうかもしれませんね。生前もそうだった気がします」

 太公望は笑って言った。

20220207 サイト掲載
20220208 加筆修正