No.57
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#花紅葉 #ワカ #サソリ
深い森の中、虫の声も寝静まる丑三つ時でもサソリは外に漏れぬよう灯した灯りの下で指を動かしている。その直ぐ側でワカが寝ていた。
ふと、ワカがもぞもぞと動いて目を覚ます。サソリはその気配を察してワカの方を向くとどうやら尿意を感じて起き出したようだった。ちょうど行灯の油も切れるころであったため、厠に行くついでに他の部屋に置いてある予備の油を取ってくるのも悪くない。
「さっさと行くぞ」
ワカは小さく頷くとサソリの服を掴んだまま目をこすった。
古い家だった。山奥に打ち捨てられていたそれを、傀儡の管理をするのに良しとしてサソリは使っている。暁の他のメンバーは身一つでもなんとでもなるが、サソリはどうしても傀儡を整備する部屋が必要だ。サソリは人が来ない場所にあるうち捨てられた家をアジトとして活用していた。ほとんどの家は雨漏りや隙間風が酷いが、そんな家でも多少修理すればなんとか住める家もある。サソリは隙間風があっても問題ないが傀儡やワカにはあまり良くないので多少の修理はやむを得ないものとして処理していた。
今サソリとワカ、そしてサソリのパートナーである大蛇丸は山の奥に捨てられた一軒の家に住んでいた。それなりの広さがあり、人がいなくなってさほど時間もたっていないらしい。幸いにしてさほど手を入れなくても十分に活用できたこと、大蛇丸も大抵のサソリのアジトに文句をつけたがここならと妥協したことから今はここを使っていた。暁はツーマンセルでの行動が義務付けられている。本当はこの男と生活は嫌だったサソリだが、リーダーがそこだけは譲らなかったので一番離れた部屋同士を選ぶことで妥協した。
夜半、ワカをトイレにやって自分は台所の何処かに元々残されたままになっていた行灯の油を探す。窓からわずかに差し込む月明かりだけでは暗すぎる。サソリの眼球は任意で虹彩を調整できるが人間の目ではそもそも限界だった。ふと脇から灯りが差し込んで「助かっ」と言いかけたところでそれが大蛇丸だと気づいてサソリは嫌な顔をした。
「あら、お礼ぐらい最後まで言えばいいのに」
「……さっさと貸せ」
「断る、と言ったら?」
大蛇丸は笑っていた。夜の闇の中で白い肌が浮き上がる。
「ありがとうございます、大蛇丸様」
睨み合う蛇と蠍の合間に入り込んで小さな声でお礼を言ったのはワカだった。ワカは「ん」と小さな手を差し出した大蛇丸から灯りを受け取ろうとする。
大蛇丸もさすがに幼子が求めているものを無視するほど大人気なくはない。欲しければ礼を言えと暗に言ったのは大蛇丸であったこともあり、ワカに灯りを手渡す。ワカはそのまま「サソリ様」と言って灯りを差し出した。
サソリは不機嫌な顔のままワカの頭をくしゃくしゃに撫でてから灯りを受け取って棚の下をもう一度覗き込んだ。
「あなたにはもったいないほどの良い子じゃない。そういえば素顔を初めて見たけどどこで拾ったのかしら」
「……」
サソリは一切答えない。
「名前は?」
「ワカ」
「応えるな」
ワカが答える方が早かった。ワカは素直だ。加えてこの時サソリはワカにフードを被ってないときでも大蛇丸と口を利くなとは命令していなかった。
ワカはサソリの言葉にバッと口を片手で押さえる。それからサソリの服を掴む。
「ワカ、ね。良い名前ね、ワカ」
ワカは頷いた。口は閉じたままだが少し嬉しそうだった。
「ワカ、アナタ私の部下になる気はないかしら」
空気がチリチリと突き刺すように肌を刺激する。わずかな音ですら全て消え去ったように静まる。
「大蛇丸」
地に響くようなサソリの声。大蛇丸はその変化に口の中でくつくつと笑うのだった。
「次は殺してやる」
「あなたにできるかしら」
さすがにこれ以上の刺激はリスクを感じたのか、大蛇丸は「それじゃあね、ワカ」とだけいうとその場を辞す。サソリはしばらく同じ姿勢のまま大蛇丸の気配を探っていたが、大蛇丸が完全に去ったと感じるとワカの手をとってさっさと部屋に戻る。
足音も荒く、サソリにしては珍しい反応だ。ワカはおろおろとサソリの後ろを動き回っていたが、低い声で「寝ろ」とだけ言われたのでワカは慌てて布団の中に潜り込んだ。
「大蛇丸とは口を利くな」
それがサソリの命令だった。ワカはそれ以降大蛇丸と言葉を交わしたことはない。
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