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No.54

SS

泡沫夢幻

#カンクロウ

「サソリさん!」
 砂が家々の合間を飛び遊ぶ、今にも砂嵐がやってくるようだ。里は岩棚に囲まれたところにあるので強風が吹き荒れることはないが、それでももう目に飛び込む砂が痛かった。
「三代目から急ぎじゃん!」
 今にも扉を閉めようとした茶色い瞳が心底嫌そうな顔をして自分を砂嵐の中に締め出そうとしたので慌てて扉の隙間から身を滑り込ませる。しんと静まり返った家の中で、サソリが小さな明かりをつけた。カンクロウは三代目から預かった巻物をサソリに渡した。
「里に帰ったばかりだぞ」
 サソリは実に不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「今傀儡師は造形も操演も人手不足じゃん、三代目もサソリさんが教師になってくれたらって」
「傀儡を造る時間がねェだろうが」
 サソリは目の下のクマを少しこすった。三日ぶりにサソリの部屋に入ったがまた一体傀儡が増えてる。これだけの任務の中でどうやって傀儡を造る時間を捻出しているのか不思議でしょうがない。
 サソリはカンクロウよりも背が高かった。幼げな顔は相変わらずだが数年前よりは幾分老けている。いや、十五のときそのままだ? いや? 老けている? 砂嵐が家の中に突如吹き込んで視界がぼやけて消えた。

 暗転

 カンクロウはサソリとともに森の中にいた。
 袖の長い指先を隠す傀儡師独特の服装はチヨバア様が考案したものだった。勘のいい連中は傀儡師の指先を見て傀儡の動きを先読みするので、今はとにかく指先の動きを隠すような服が主流だ。
「次は陽動だな。木の葉の連中がこの谷を通る。傀儡は十二、オレが十、お前が二だ。いけるな?」
「いや、オレは三だ、サソリさん。この間チヨバア様から三体まで戦場で使って良いって言われたじゃん」
「そうか、よくやった。なら遅れをとるなよ、始めてだからといって甘えは許さねぇぞ」
 始めてサソリに褒められた! その高揚感は今でも忘れることはない。だが油断しないようにしなければ、情報によれば木の葉の中にはあのうちは……うちは誰だったろうか。写輪眼? そう写輪眼の、サスケ、ではない、あれは誰だ? 目をこする、サソリがいない、ここはどこだ。

 暗転

「傀儡は仕込みが命だ」
 サソリは淡々と机に向かってそう言った。
 サソリの目の前にある作業机にはまだ組み上がっていないパーツが山のように積み上がっているのだが、サソリにはどうやらそれがすでに完成した傀儡に見えているらしい。
 カンクロウは先日ついにサソリの工房で共に作業をすることを許されたばかりだ。とはいえまだサソリの傀儡を修理させてもらう、なんてことはない。まずはパーツの削り出しから、組み上げまで手順を見て覚える。サソリは寡黙で合理的であったから喋らない時は一言も喋らなかった。喋る時は最低限の言葉しか話さない。カンクロウは必死にサソリの言葉を聞き取った。
「パーツを見て傀儡を見ろ。一つの歪みは傀儡全体の仕込みの歪みだ。空隙を残し、全ての仕込みを完全に動作させる、まずは造るべき傀儡のパーツを正確に作れ」
 サソリがこちらを見る。両親を失ってから虚無を映すようになったサソリの瞳にロウソクの明かりがきらめいていた。
「サソリ」
 サソリの母上がやってきた。
「カンクロウくんもこんにちは、そろそろ休憩にしましょう」
 サソリの両親は死んだのか? 死んでないのか? ではサソリが作っているこの傀儡は誰だ?

 暗転

「夢……か……」
 カンクロウがふと目を覚ますとそこはサソリのいない世界であった。サソリから託された傀儡について考えながらついうたた寝をしたからか、妙な夢を見た。
 サソリが里を抜けることなく自分を弟子にする夢だ。少なくともサソリは里にとって重大な罪人であるから彼を嫌う人も多い。彼の弟子になりたいというと少しばかり嫌な顔をされることもあるから、里の中では絶対に口には出せない。
 しかし里の傀儡師が集まると時折サソリの話になる。あの人が里にいてくれたら、そんな会話は頻繁に話題にのぼるのだった。彼が残した傀儡とその技術はあまりにも優れたるもので、今でも彼の技術を超えるものはいない。
 あの人が里にいてくれたら、やはり自分は技術のなさと天才の前に涙を流すのかもしれない。けれど、その膝下で言いようもない高揚を得たことは確かなことだろうと思う。あの人の下で傀儡を学ぶ日が来なかったこの未来が、世界が、少しだけ恨めしい。それはきっと傀儡師にしかわからない悔恨だった。畳む

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