No.51
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マツは迷うことなく屋敷の中を進んでいく。複雑に折り重なる建物は、増築に増築を重ねていることがよく分かった。建物が継ぐごとに新たしい材木となり、継ぎ目は隠されているものの見ればすぐにそれと分かった。要所要所には仕込みばかりの仕掛け屋敷は奥へ行けば行くほど巧妙なそれとなっていき、ついにはデイダラにも見分けがつかなくなっていく。だが、仕掛けがないということもないだろう。
階段を昇れるだけ昇った先の部屋は、一つの階が丸ごと一部屋になったひどく豪奢な場所であった。どうも、怪しいとデイダラは思う。この部屋はおそらく客室だ。楼主が客と楽しくおしゃべりするだけの部屋ではないだろう。何かあるのだろうか、いやしかしそれならワカは席を外すはずだ。自分に何か用があるか、あるいは罠に仕掛けたいというのであれば。
広い畳敷きの部屋、続き物の絵が描かれた衝立が部屋を仕切って、三人のいる場所を一つの空間に仕立てていた。ふすまも天井も細やかな装飾があり、この部屋に入るには随分と金が必要だろう。
すっと感情がフラットになっていくのを感じながらいつも通りの表情で、マツとワカの様子を眺めていた。
茶と菓子を運んできた女に礼を言う。マツもそうだがあの女も忍だろう。里は分からないが抜け忍だろうと思う。
「さて……と」
マツは少しばかり高い席に腰掛けて、肘掛けに体重をかけると菓子をつまみながら「岩隠れのデイダラだね」と言った。
「オイラのこと知ってんのか」
「当然だとも。岩隠れ爆破部隊所属、里を抜けてしばらくは爆破テロで名を聞いたが……暁に入ってからは静かになったもんだねぇ」
お食べよ、とマツはワカとデイダラにも茶を勧めながら言う。ワカは茶と茶菓子に手を付けたがデイダラは触れなかった。
「随分と詳しいな……うん」
「ああ、あたしとサソリの関係が気になるのかい。まぁ話してもいいがね」
マツはデイダラが警戒していることを察している。加えてデイダラが今この状況の中でサソリやワカの詳細について情報を与えられていないという事実にいら立っていることもわかっているようだった。マツは笑いを含んだ口調で言葉を続けていく。
「さぁて、ワカ。デイダラはワカのことをどこまで知ってるのかね」
「いえ、おそらく、何も。巫蠱口寄せについて少し」
「ああ、そう」
デイダラは少しイライラする。どうも自分だけ何も知らないガキのような扱いを受けているようだった。
「まずあたしとワカは同郷さ。それは砂隠れの里という意味じゃあない。とある小さな村の出身でね。里というほどじゃあないがそれなりに傀儡師が集まった場所さ」
「傀儡師……? じゃあ、あんたもワカも旦那と同じ……?」
「厳密には傀儡を造る村さね。傀儡初代操演者、モンザエモンはそれは見事な造形と操演の腕を持っていたそうだが、その弟は操演に関してはからっきし、造形に兄よりも優れたとか。体が弱かった弟は山奥に小屋を建て、良い材を集めて兄の操演を手助けしたという、それがあたしらの始まり」
マツは目を細めながら、何かを懐かしむように遠くを眺めた。
「長らく里には傀儡を下ろしていてね。傀儡師ってのは基本的に操演者を指すのさ。サソリのように自ら造り、自ら演じるのは珍しい。ああ、チヨも優れていたか」
「チヨバア様はサソリ様の祖母にあたる方です」
ワカが口を挟む。
「そんなわけでサソリとは昔から縁があってね。だがあたしらの村は木の葉の連中に焼かれたのさ」
「……」
戦時中の話であれば珍しくもない。
鍛えられた傀儡師は一人で国一つ滅ぼせる、サソリが実にいい例だろう。先の大戦では砂隠れの傀儡師は猛威をふるい恐れられたと聞く。故に大国であるかを問わず、砂隠れの忍との戦いではいかに傀儡師を殺すか、が各国での戦術に組み込まれたそうだ。
「村は死んだ。ちょうどその頃里を抜けたサソリが助けてくれてね、何人かは生き残ったんだよ。まぁ、サソリはある意味命の恩人かね」
マツはくつくつと笑う。
「ワカの母親は村一番の美人でねぇ。気立てもよく幼い頃のサソリもよく懐いていたねぇ」
「それは存じませんでした」
ワカもマツの言葉には少し驚いたようだ。
「……旦那が懐いているってのはあんまり想像できないな……」
「ま、いつも通りのひねくれたクソガキだったけど、少ぉーしだけ優しいのさ。ま、その娘も死んだがね。結局サソリが娘の胎から子供を取り上げることになってワカが生まれたんだよ」
デイダラもその話は少しだけ聞いている。同時に、サソリのワカに対する態度はやはり過保護なものなのだと察した。
「あたしらは村を離れ散り散りになったが、それぞれサソリを支援する立場にあるんだよ。里はあのときあたしらを見捨てたが、里を抜けたサソリに助けられた身だからね」
「それも理由の一つですがマツばあさまはサソリ様の傀儡の虜なのです。サソリ様含めて傀儡師は傀儡の整備に場所が必要です。マツばあさまはこの楼閣に傀儡の整備部屋をご用意くださって、サソリ様がいつくるかもわからないのにいつも綺麗に……」
「ワカ、これ以上余計なことを言うならその口縫い付けるからね」
「申し訳ありません」
ワカは澄ました顔をしているが、さて、その口調の端々には「してやったり」といった様子が滲んでいる。デイダラがワカを見るとワカは目元だけをわずかに緩ませた。
おや、と思う。サソリと同じでまるで表情のない女だと思ってたが、どうやらそんなことはないらしい。知己に会えばこうしてふざけたように言葉を交わし、からかい、声を上げてということはなくとも笑っていたずらの成功を喜ぶようだ。
妙に面白げのある女ではないか、とデイダラは思った。彼女が単独でもそれなりに実力があるのは知っていた。今までは表情がわからなかったこともあり、いまいち興味がわかなかったが、どうも今のワカが笑って泣いて騒ぐ姿には少しばかり興味がある。サソリに似た傀儡の腕、サソリの傀儡にも使われる毒の調合、澄ましたと思っていたこの女の次の表情はどこにあるのか。
とはいえ同時にデイダラの中の苛立ちも一つ募った。サソリにもマツにも親しげなワカはなかなかこちらに気を許す様子はない。それなりに長く共にいる気はするがどうもそれだけでは物足りないようだ。
どうにも、腹立たしい。
デイダラの不機嫌を察してか、察さずしてかマツとワカは軽快に言葉を交わしていく。サソリとの会話や自分との会話では必要最低限に言葉を留めるのに対し、今のワカはとにもかくにも楽しそうだ。
「それで、巫蟲口寄せってのは一体なんなんだ、うん」
デイダラは若干の苛立ちを口調に乗せて二人の会話に割って入った。
「ああ、もう新しく作られないんだっけか」
マツは含むように笑った。
「巫蟲口寄せは砂隠れの里が作った禁術さ、まぁ簡単に言えば人ひとりを丸ごと犠牲にして地獄の毒蟲(どくむし)を口寄せする術さね」
「毒虫……?」
「まぁ形は定まらないね。女の胎に寄生させ、経絡系を口寄せの術そのものに組み替えていくのさ。臓腑が一つ潰れるごとに小さな虫を口寄せできるが……殺せば木の葉隠れ一つ潰せるほどのものを呼び出せる。それは人の望みの形となって表れるからねぇ、砂隠れの里がこの巫蟲口寄せを完成させたときに、それはそれは美しい泉の形になって現れるようになったそうだよ。あそこは水の少ない場所だからね」
「……それのどこか恐ろしいんだ? うん」
「水に触れただけで毒が全身に回って死ぬ。だが、人はその水を前にすると幻術にでも惑わされたかのように飲みたいという欲求にとらわれる。要するにその地に根付いて人を惑わし殺し続けるものを呼び出しちまうのさ。拡大を多少止めることはできるみたいだが、木の葉ですら、巫蟲の者を里内で殺さない以上の対応ができていないとか」
「そういや岩隠れにも……」
デイダラが思い出したのは、里内では決して里外のものの処刑を行ってはいけないというものであった。拷問も捕虜の管理も基本的に里外で行う。情報や捕虜奪還の可能性を考えた場合に里内にそういった施設を置いた方が管理が楽であるように思うが、万が一捕虜が巫蟲の者であれば里に甚大な被害が出ることを恐れたのだろう。
「巫蟲が死ぬと周囲を食らいつくして平坦な大地を作る。その中央に美しい泉が生まれる。巫蟲の憎しみが収まるほどの人がその水を食らって死ぬまで泉はその場にあり続けるから、禁域に指定するしかない。それが巫蟲口寄せ。砂隠れの生み出した禁術の中でも恐ろしいものさ」
「ワカはその巫蟲口寄せの術式を持ってるのか?」
「はい。母が巫蟲であり、私を産んだ時にそのまま引き継がれました」
「継代する……」
「巫蟲は三十歳まで生きることはできない。強すぎる術だからね。しかし巫蟲が女の子供を産むとその術式を引き継ぐことができる。結果、母親がまだ若いうちであれば術を完全に引き継がせて生き延びる可能性がある。ただ、年を食って女を産んでもすでに臓腑がほとんど死んでしまって出産と共に死ぬともいう」
「じゃあワカはもう長くなく死ぬってことか?」
「察しがいいね、だがまだ足りない」
マツが動いたのはその瞬間であった。デイダラは警戒していたものの、聞いたことがなかったワカの禁術に関わる話に聞き入ってわずかに反応が遅れる。
マツのクナイがデイダラの頸動脈を狙って迫る。老婆とは思えぬその身のこなし、デイダラはとっさに回避したが、わずかにクナイは首筋をかすった。さらに飛ばされたクナイを二本避けて、デイダラは壁際でクナイを構えたままマツをにらみつける。
「悪くないじゃないか。出来が悪かったらこのまま殺してやろうと思ったが。さてワカ、手順はこの前教えたね。しっかりおやり」
「マツばあさま!」
ワカは叫んだがマツはそのまま部屋を出ていった。その時にデイダラは気づいた。これは牢獄だ。中に入れたものを逃さぬための部屋だ。
それよりも先ほどのクナイに塗られていたであろう何かがデイダラの中を駆け巡っている。心臓が激しく鳴り響き、今にも破裂しそうだった。クナイを持つ手が震えて、思考が一向に定まらない。
「デイダラ様」
「ワカ、近づくな」
「マツばあさまも毒を使います! 早く毒抜きしなければ!」
「今のばばあの言葉を聞いてわかんなかったのか!? うん! こりゃ毒じゃねぇ、あのクソババア、お前を孕ませるためにオレを利用するつもりだ」
ワカがびくっと動きを止めてその場に立ち止まった。
「サソリもッ……! かんでんのか……!」
「サソリ様は何も……言っては……」
「あのババアの独断じゃあねぇだろ……くそ……」
体の変化は明瞭だった。熱が集まって思考が定かでなくなっていく。目の前の女が欲しいと体がうずく。
だがデイダラはそれが気に食わない。他人に踊らされているその感覚はあまりにも不愉快だった。あの女はデイダラをはじめから利用するつもりだったのだ、そのために己の反応を常に量っていた。もしやするとサソリもこれに一枚嚙んでいる。
震える手で落としたクナイを握る。こんな薬程度にしてやられるとは情けないが、仕方あるまい。デイダラは一呼吸おいてクナイを腹に突き立てた。
「グッ……!」
痛みで頭に上った血が一気に引いていくようだった。熱はすぐには引かないが、血が流れればやがて冷めていくだろう。わずかに横に動かして傷口を広げるとそこから血があふれ出し、着物を濡らしていく。
ワカがすぐに駆け寄ってクナイを引き抜き止血を始めたが、デイダラはその手を止めた。白い手がひどくなまめかしく思えるが、痛みがその思考に挟まって冷静さが戻ってくる。もう少し血を抜けば落ち着く、だが死ぬ可能性も高くなる。
「これ以上はだめです!」
ワカが叫んで止血を始めた。幸いにして思考はずいぶんと冴えており、薬の影響が抜けてはいないものの、痛みが強くそれが現実に引き戻してくれる。ここまでくれば意志一つで体を動かせる。
デイダラはワカの静止を振り切って立ち上がると起爆粘土を手にした。
これは牢獄であるが、あくまで薬を使った相手を閉じ込める程度のものである。少なくともデイダラの起爆粘土を防ぎきるほどのものではないはずだ。
「ワカ、下がってろ!」
デイダラはワカを部屋の片隅に蹴り飛ばしてその上から己の暁のコートをかぶせた。ワカが何か反応するよりも早くワカとは反対側に向かってC2を飛ばす。喝の一声と共に粘土が連続して爆破すると檻は大きくひしゃげた。建物も一部吹き飛んだ。
轟音が楼閣を揺るがす。デイダラが煙が晴れるのを待って空いた大穴から外を見下ろせば、そこには何事かと表に出てきたサソリの姿もあった。その瞬間にデイダラの堪忍袋の緒が切れた。
「サソリィ!!! 殺してやる!!」
畳む
#ワカ #デイダラ #花紅葉 #サソリ