No.49
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暁は戦争を請け負う組織として活動している。平和とはいえ、紛争はそこここで繰り広げられており、その度にサソリにもデイダラにも声がかかった。リーダーの言うがままに殺すなり、破壊するなりすることが今のデイダラにとっての仕事である。
戦争請負の仕事ではないが、世界情勢を把握するための情報収集の任務も頻繁に降りてきた。これは非常につまらない。大抵の場合この任務はサソリに向けて当てられたもので、様々な国に配置している彼の部下を当てにしたものである。デイダラはあまり仕事がなく、サソリがどこかへ行っている間に暇を持て余すのが常だった。サソリはそんなとき大抵ワカを置いていくのだが、ワカは一言も喋らず顔も見せずデイダラについてくるのでなおつまらない。それでもリーダーは基本的に二人一組での行動を強要するのでやっていられなかった。どうもリーダーには単独行動を嫌うなにかがあるようだった。
「デイダラ、出るぞ」
サソリの言葉にふと我に返る。出るぞと言われてもなんの話も聞いてないので準備はもちろんしていない。
「任務か?」
「早くしろ」
「連絡があったなら教えてくれよな……うん」
相変わらずのせっかちさと個人主義に呆れながらも、そんなサソリの行動にもいい加減慣れてきた。デイダラはすぐに荷物をまとめて、さて、五分もかかっただろうかというところだが、サソリからは「遅い」と言われる。
サソリの隣にはワカも立っている。いつもの面簾、フード姿だ。面簾にはサソリが傀儡につけるマークが刻まれており、いかにもサソリの所有物らしい出で立ちである。
「悪かったよ、うん。それで今回は何するんだ?」
「……川の国での情報収集だ。どうもここしばらく小競り合いが多い」
「また情報収集かよ……うん」
「てめぇは忍だろうが」
「オイラは忍以前に芸術家だぜ」
売り言葉に買い言葉のような意味のない会話を繰り返す。サソリは興が乗るとこうして多少の会話に付き合ってくれるが、機嫌が悪いと何を聞いても完全に無視されるので、そんな道中は心底やってられない。ワカは何を聞いても無反応だ。
「てめぇ、ワカの面の下を見たな」
唐突にワカの話になったのでデイダラは驚きながらも答える。
「オイラが覗き込んだわけじゃねぇ」
「チッ、おいワカ。勝手に顔を晒すな。気をつけろ」
「はい」
そのとき初めてワカが喋ったのでデイダラは驚いてワカを見た。
「もう面を見せたならいい。好きに喋れ」
「はい」
「……なぁ旦那、なんでワカは顔を隠してるんだ、うん。別に顔を見せたところでなんてことねぇだろ」
「……前にオレの相方が大蛇丸だったことは知っているな」
サソリは今日はいつにもまして機嫌がいいようだ。今日の彼は饒舌である。
「ワカは巫蠱口寄せを持ってる。大蛇丸はそれを狙っていてな。暁を抜けた今でもそれなりにワカを攫うつもりで部下をけしかけてきやがる」
「へぇ」
「面簾とフードには拠点にかけてある術と同じ術がかけてある。多少の目眩ましにしかならないが、アレの下っ端程度なら誤魔化しは効く」
「ん? じゃあ禁術がどうのこうのってのは本当なのか? うん?」
「今ここで説明するつもりはねぇが、事実だ」
巫蠱口寄せの術、デイダラも聞いたことはあるがあまり詳細を知らない。ただその術を持っているものは殺してはいけないとか、なんとか。あとで調べておこうと思いながらワカを見るとワカも面簾越しにこちらを見ているように思えた。
「お前、忍者なのか?」
「はい、一応一通りは学んでおります」
ワカは静かに答えた。淡々としたその口調はサソリ以上に感情が読みづらい。面簾の下に表情が隠れてしまっていることも相まって、ますますワカは何を考えているのかわからなかった。
「……ワカは普段なにやってんだ?」
「サソリ様の傀儡作りの手伝い、毒の調合です」
「へぇ。じゃあその背負ってんのは薬箱か」
「はい。忍具も入っておりますが」
ワカは問えば答え、問わねば答えない。会話というより尋問のような流れを感じつつも、今まで一言も喋らなかったワカの話を聞くのは興味深かった。サソリは時折口を挟んだが基本的には無言である。
急ぎの任務ではないこともあり、道中は歩きで進んでいく。
三日ほど歩き通した先で、サソリが少し待っていろと言って姿を消した。数分の後に珍しいことに本体で現れたため、デイダラは心底驚いた。
「……珍しいな旦那。なんで本体なんだ? うん」
「今から行く場所はヒルコでいくと邪魔だとうるせェ」
サソリはそれだけ言うとさっさと歩き出す。
ワカも何も言わずにそれに続くので、デイダラも従うように歩き始めた。
歩きにくい山道はやがて小さな集落へと続く道となり、やがて大きな街道にぶつかる。
人あるところに色もあり。
この街道は川の国近辺で最も大きな歓楽街ヘと通じるものだ。川の国の管轄にあるものではなく、寄せ集めの無法地帯である。国は是正を試みてはいるものの、抜け忍が拠点とすることも多く、結果として少しずつ統合された隠れ里としての機能を持ちつつあった。
老いも若きも、男も女も何かを求めてこの場所を彷徨っている。情報もあれば金も動く。奇妙な輩が頻繁に出入りしていることから暁の装束もさほど目立たず風景の中に溶け込んでいく。
そこかしこで魔窟の中に人を呼び込む声がする。街中へ入ると三人にも頻繁に声がかかるが、三人共それの一切合切を無視している。この類のものは反応したほうが厄介だ。
サソリは歓楽街の中でもひときわ大きな遊郭の前で立ち止まると、店の前の娘に声をかける。娘はすぐに店の中に飛び込み、サソリはそのまま店の裏側に回るのだった。
「表からは入らねぇんだな」
「客じゃあねぇからな」
ワカは相変わらず沈黙したままついてくる。
派手な色味の建物の合間を縫って路地に入ると、とたんに物寂しい雰囲気が溢れ出した。客から見えないところに金をかけることは不要と言わんばかりの景色の中で働く人々も表の連中と比べると薄汚い。
サソリの後ろにワカ、その後ろにデイダラが続く。ワカを中央に置けとサソリは必ず言うのでデイダラはそうしている。
(今までは旦那の行動を把握してる部下だからかと思ってたが……ワカを真ん中にするのはただの過保護に思えてきたな……)
小さな歩幅でサソリについていくワカのフードを見ていると、その思考は正しいもののように思えてくる。考えれば考えるほどサソリは優しい言葉をかけないものの、随分とワカを大切に扱っているようだ。それは何も貴重な医療忍者だからというわけではないらしい。
細い路地を通って裏道に出ると、木造りの掘っ立て小屋が並んでいる。整備されてない道は水たまりができて歩きにくかったが、誰もがあまり気にすることなくその中を歩いていた。
一つのドアの前に立つと、ドアは自然と開いて三人を迎え入れる。誰かがひそひそと「あそこの客とは珍しい」と言っている。ここでいう客とは遊女の客ではなく店主への客の意味だろう。
「久しいじゃないか、もっと頻繁に顔を見せればいいのに」
ドアを開けて迎えたのは派手な姿の老婆であった。年の頃は六十かそこらだろうか、顔の皺は苦労の形を物語っていた。真っ白の髪に質素だが高級そうな簪を一つ、おそらく相当に値が張るものだろう。これを見せれば相手がどの程度の人間か測れるような代物に違いなかった。
「そんなに足を運ぶ時間があるか」
「まったくあんたがあたしとワカの命の恩人じゃなけりゃ殺してやるってのに」
「てめぇじゃ無理だ」
サソリはつれなく言ってそのままデイダラとワカには何も言わずに奥の部屋に入っていってしまった。
デイダラが呆気にとられているとワカは背負箱から巻物を一つ取り出して老婆に渡す。
「ワカ、久しいねぇ、サソリに虐められたりしてないかい」
「しておりません、マツばあさまもお元気そうで」
「全くあんな無愛想に付き合う必要もないだろうよ、ここへくればいいのに」
「いえ、大丈夫です」
ワカは手慣れたようにマツと呼ぶ老婆と話を進めていく。その合間にワカはフードと面廉を外すのだった。
デイダラは以前話についていけなかった。いきなりサソリに呼び出されるように任務についてはきたものの、詳細については何も聞いてない。挙げ句サソリはどこかへ行き、ワカはここの連中と顔見知りの様子でもある。
「おいワカ、」
「デイダラ様、マツばあさまがお茶をくださるそうです。参りましょう」
「……」
ワカはそれだけ言うとマツの後ろについて建物へ上がっていく。道を外れると面倒そうなのはそこかしこの仕掛けで見て取れた。ここは遊郭ではあるが同時に籠城のできる仕掛け屋敷でもあるらしい。しばらくは土足のままでいいようで、デイダラもワカに遅れぬよう、建物の中に入っていったのだった。畳む
#花紅葉 #ワカ #デイダラ #サソリ