No.42
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かすれたベルの音が部屋に響いたのがドア越しにもわかったが、肝心の部屋の主は留守なのかまるで反応がなかった。
東京から電車で一時間ほど走った場所にあるボロアパートの二階が天野曜子の借りている部屋だ。年齢的には中学生のはずだがすでに自立している曜子は今まで特に寂しいと言ったようなことを蘭や竜胆にぼやいたことはない。ぼやいたならそれはそれは可愛がってやろうと思っていた蘭は逆に拍子抜けしたほどだ。
今日、蘭と竜胆が曜子の家を訪れたことに特に深い意味はなかった。最近は天竺の幹部の誰かは曜子の家にいて、そのうち皆が集まって騒がしくなるのが常であった。曜子は「もともと家族が多かったから騒がしいのには慣れている」と言っており、そしてそれが虚言でも強がりでもないことを蘭も竜胆も知っている。何せ部屋で大騒ぎしているというのに曜子は「それじゃあ明日早いので寝ます」と一言言ってそのまま同じ部屋で寝たのだ。驚くほどの寝つきのよさであった。
「……でかけてんのかな」
「こんな時間に?」
「曜子の仕事って夜が多いじゃん」
今は深夜の二時である。ボロアパートは廊下の電気も心もとなく、周囲の街灯もほとんどついていない。こんなところに女の子の一人暮らしはどうかと思うと以前竜胆が曜子に言ったことがあるが曜子は「色々と事情があるので」とだけ言ってそれ以上は何も教えてくれなかった。
しばらく曜子の部屋の前で待っていた蘭と竜胆だったが、ついにしびれを切らしてドアをどんどんどんと叩く。暗い深夜の住宅街に音が響いた。月も泣かないような静かな夜である、小さな声で呼びかけてもそれは反響するように大きな声でこのアパートに響き渡るようであった。
「なぁ兄ちゃん」
「なに?」
「なんかおかしくね?」
「なにが」
特に何かきっかけがあったわけではないのだが竜胆はふと今の状況が奇妙なように思えた。そしてそれを考え始めると奇妙な感覚は次から次へと出てくる。その一つ一つには明確は理由も答えも存在せず、ふと竜胆は背筋に寒いものが走る感覚を得た。
「あのさ、普通こんな夜にこんなうるさくしたら隣のやつ出て来るよな?」
「あーまぁ」
「でさ。前に曜子の家でうるさくしたときも夜遅くても誰も出てこなかったよな」
「曜子には大家から苦情入ってるんじゃね」
「そうなる前に曜子なら止めるだろ」
「竜胆お前、何が言いてぇの」
「曜子ってさ、なんでこんなところに住んでんの?」
コンビニまでは徒歩でニ十分はかかる。駅までも遠くまた住宅地と言っても新興住宅ではなく古くからある家々に囲まれた場所だ。周りにある家はとにかく古くトタン屋根は錆びついていた。ブロック塀は今の建築基準では地震の時の被害が大きいとされそもそも建てることさえ許されないのではないだろうか。曜子は金がないわけではない。むしろ実家はそうとうな金持ちのはずだった。しかしそんな曜子が、霊を祓うという仕事をしている曜子がこんなボロアパートにわざわざ住む理由、そしてどんなに騒いでも隣人が怒鳴り込んでこない理由、それは一体なんなのだろうか。
蘭と竜胆はしばらく見つめあった。
「……竜胆」
「うん」
「帰るぞ」
「うん」
蘭と竜胆はそそくさとアパートの階段へと向かう。錆びにまみれた階段はあとちょっとの衝撃で壁から外れて崩れてしまうのではないだろうかというほど不安定に揺れている。二人は速足に階段を降りて、すぐ下に止めていたバイクにまたがった。
「近くのコンビニどこだっけ」
「あー……いや駅の方が近いんじゃね」
「じゃあ駅」
手短に行先だけを確認した二人のバイクが唸りを上げる。
しんと静まり返ったアパートも住宅地もまるで誰も住んでいないようだった。しかし気づけば確かな視線を感じる。振り返っても何もいないというのにそこに誰かがいるような奇妙な視線を感じるのだ。その感覚がひどく気味が悪く、蘭と竜胆はその後朝までコンビニで雑誌を立ち読みしながら時間を潰した。その後天竺のアジトに戻った時曜子が居て怒鳴りつけたのは言うまでもない。ちなみに曜子がいなかったのは引っ越したかららしい。畳む