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No.41

浅き夢・再演 転生

書いてるとこ途中まで

 穢土転生は死者を蘇らせる禁術である。それは特定の条件下の魂を浄土より口寄せする術であった。
 それはつまるところ魂の存在を肯定した。彼らは死後、浄土(天国でも、尸魂界でも表現は何でもいい、魂は一時的に保管される世界があると認識してもらいたい)に向かう。魂は生前の姿と性格を記憶したままある一定期間、あるいは永遠に浄土に存在するのだ。
 それでは彼らは生き返ることがあるのか。数千年後、彼らの魂は浄土でどのように存在しているのか、浄土はいずれ死者の魂で溢れかえることはないのか。
 浄土は常に魂で溢れかえっていた。それはやがてぼんやりと姿を消し浄土からどこかへ行ってしまう。
 浄土という場所においてもなお、時間は流れ魂は徐々にその姿形を失いまっさらな生命の始まりに戻るだろう。そしてそれは新しい命の誕生を意味していた。
 しかし魂の中には時折前世のままに生まれ直すことがあった。それを私達は生まれ変わるであるとか、輪廻転生であるとかそういった言葉で表現した。
 長々と表記をしたがつまるところサソリは生まれ変わったのだった。



 ヨークシンシティから外へ出ると荒野が広がる、その外れに小さな町がある。ヨークシンのような高層ビルが立ち上るほどではなく、しかし水道もないような荒野の果てでもない。適度にインフラも整い適度に人もいる、そんな町だった。
 かつて数千の人を殺し一国をただ一人で落とした赤砂のサソリはここでは小さな赤毛の子どもであった。両親は健在でサソリの誕生を喜びその子どもに「サソリ」と名付けたのだった。その理由は早逝の両親に聞くほかなかったが、サソリはついぞ聞く機会を得られなかった。
 サソリが自身の記憶を取り戻したのは両親に精巧な人形を買い与えられた一歳と二ヶ月の頃であった。しばしの動揺、立ち上がることはできるようになったものの体は思うように動かない。記憶はあるものの、視界はやけに低く、見知った顔が自分のことを可愛い可愛いと愛でている。なんのことだかさっぱりわからなかった。
「ち、よ、ば」
 混乱のあまり回らぬ口でチヨバアを探し求めたのはサソリの抱える恥の一つとなった。三十五になった記憶を持つ男があろうことか祖母を探すなど! デイダラにこのことが知られれば未来永劫、それこそ永遠に馬鹿にされるに違いない。あの男は一瞬にこだわるくせに、妙なところで話を持ち出す。殺してやりたい。一歳の子どもはすでに殺意を覚えていた。
 さほど広くはない部屋、無垢の木で作られた机につかまり立ちをしてぐらぐらする頭で両親を見上げた。この人たちが両親だという自覚はあった。明るい日の差し込む窓、白い壁に、飾られた多くの人形。見慣れた、あるいは形は違えどその使い道を瞬時に理解できる道具が壁に立てかけられている。
 両親はこの世界の人形作家で、劇に使う人形から趣味のドールまで様々なものを作っている。
 サソリはしばらくの間そんな両親に囲まれて愛され、子供の頃に本当にほしかった全てを与えられてすくすくと育っていく。
 五歳の頃にはこの世界を理解した。戦争はあれど忍は存在しない。チャクラを練ることはできないが、その代わりに別の何かを体の中に感じる。サソリの知らない技術が人を殺す世界だ。とはいえ平和なこの町には、銃もマフィアもあまり関係のない話だった。
 サソリが七歳のときに両親が死んだ。流行り病である。怪我をしたところから得体のしれない病巣が広がり全身を蝕んでいく。サソリの両親は長いことその病に気づかず、医者に指摘されたときにはもはや手遅れであったのだ。
 サソリは両親の死を正面から受け止めた。泣いてもよかったがどうにも涙は出ない。少なくとも、こうして両親が死んでしまったとしても、両親が作り続けた人形をサソリが受け継ぐ限りそこに宿る意思は永遠なのだと今のサソリはよく知っている。それに見た目は七つの子供でも中身は三十五である。父と母を求める心など当の昔に捨ててきたこの年で涙は出ようはずもない。ただ、過去にありえたかもしれない幸福を抱えるのはなんだか居心地が良いような悪いような複雑な気分だ。そんなものははじめから存在しなかったはずなのに、奇妙な縁でサソリはそれを得た。もう一度失ったとしてもさほど辛くもないが、もう少しだけ浸っていたかった。幸福な夢を見ていたような気分だ。
 なんにせよサソリは両親を見送り、七歳にして広い家に一人で住むことになる。といっても近隣の者たちが気にかけてくれたので小さな体でもそれほど苦労はしなかった。なお近隣の住民に声をかけられたら「うん、大丈夫だよ、キにかけてくれてありがとう」と言わねばならないのは三十五のサソリにとってはなかなか複雑な感情が湧き上がる。少し困ったような笑顔でそのように応答するほうが手間がかからないゆえの対応であるが、中身は親がいなくて寂しい年ではないのでむず痒い変な気分だ。こんな姿、デイダラに見られたら何年からかわれるかわかったものではない。この町で暮らす日々が長くなればなるほどデイダラに見せられない県道は山のようだ。別にあの男が隣にいるわけではないのでどうでもいいといえばどうでもいいのだが。
 サソリは存外この生活が気に入っていた。誰もが優しく天涯孤独のサソリを助けてくれる。助けは必要としていないが、己の求めた永遠について答えを得た今、サソリの心は穏やかに周囲の人々の好意を受け入れられたのだ。一度目の死を迎えたときにここに来たとしても、決してこの穏やかな感情は浮かびもしなかっただろう。サソリの芸術はカンクロウが受け継ぎ、そしてまた誰かに受け継がれていく、傀儡に込められた思いは永遠に未来へ続いていくと思えば、未練はない。もう少しこの平穏の中に身をおいても悪くない、そんな気分だった。時折人を殺したい衝動になるのは昔の癖が抜けないだけだと思い、ひとまず思いとどまることにしている。
 この頃からサソリは体の中にうずくチャクラではないなにかを察していた。サソリは早い段階からチャクラを練ろうとしていたが、どうも感覚が少し異なっている。出力の過程がチャクラとは異なるようで、安定しなかった。それでも長いこと練り上げることでそれなりにはかつての傀儡操演を行えるようにはなった。
 とはいえ武器などさしてない。サソリが操る人形は一から削り上げた陶器であり、衝撃に弱い。木造りにしても柔軟性に欠けた。かつて作っていた傀儡は人を素材にしているだけあり一から作るよりもはるかに簡単に柔と剛を整えられたのが今は惜しく思える。さすがにこの平穏の中で人を傀儡にするとどうなるか、サソリにも想像はついたので何も手は出せなかったというわけである。別に人傀儡を作らずともやってはいけるので今はさほど執着してないつもりではあった。
 転機は一人の男が町に転がり込んできたところから始まった。

「すまない、君」
 柔らかな口調で話しかけられサソリはふと顔を上げた。草をかき分けて足を引きずった男が近づいてきた。手足には傷、服には赤黒いものがこびりついている。血であることは明白だ。
 隣の老婦人は今足を痛めている。とはいえ致命的な病ではなかったため、サソリは生前の知識を生かしながら痛み止めを作り定期的に届けていた。あいにくとこの世界の植物は生前のサソリが知るものとはまったく異なるが書籍を読めば容易に想像はつく。さらに今は生身の体もあるために自身でその効能の実践も容易だ。
 サソリは小さな茂みに少しだけ隠れるようにしながら、抱えたかごを体の前に引き寄せた。小さく震えるとまるで知らない人に恐怖している子どものようだろう。
「おじさん……だれ……?」
 弱々しく言葉を発する。隣の老婦人の前で不承不承と演技するのとは全く違った、目の前の相手の隙をつくための演技だった。サソリも生前は忍である。あの世界において忍は最高戦力ではあるが彼らの仕事は戦い殺すことだけではない。何かを装い、振る舞い、演技し情報を集め解析する。それらも忍にとっては重要な仕事だった。サソリとてそれらの手法のすべてを頭に叩き込んである。今は相手の情報を集めなければならない、そのために今の子供の姿は好都合だ。
 弱々しく震える子供に男の口角がわずかに上がるのを感じる。今はまだ攻撃しようという意志はないようだ。怪我をしており化膿もしている。おそらくは近くで隠れる場所を探している。シャツの下には膨らみ、武器、この世界で一般人が取り扱いやすく殺傷力の高い武器は銃であることをサソリも知っている。銃であろう。弾数不明だが、服の下に隠せる程度のものだ。怪我の具合は致命傷ではない。ゆっくりとえぐり取られた痕跡がある、拷問だろう。爪の剥がれ方からもこの男は拷問から逃げ出したと推測するのが最も合理的だ。
「いてて、僕、どこかにお医者さんはいないかな。実はちょっと悪い人たちにいじめられてね」
 相手はサソリを利用して町に近づくつもりだ。目の動きや全身の挙動から嘘は言っていない。医者を探しているのも本当だろう。
「お医者様……? うん僕知ってるけど……おじさん、怪我してる……おじさんもわ、悪い人……?」
 か細く喉を鳴らすように声を出してかごをぎゅっと握りしめた。男はやはりわずかに笑う。一般人では気付かない程度に表情を隠しているがいいカモフラージュ相手が見つかったと思っている様子だった。
 体の動きから訓練を受けているわけではないが修羅場には慣れている。そういった者たちはこの世界ではマフィアと呼ばれているゴロツキであることが多い。
(殺すか)
 町から少し離れた茂み、周囲には男とサソリのみだ。サソリはかごの中の小石を手に握り込む。あいにくの武器は一つも持っていないし人形も手元にはないが一般人を殺すには小石一つで十分だろう。指で軽く弾けば、小石は弾丸よりも素早く男の額を貫通させられる。
 サソリは何も知らないふりをして遺体を見つけたと報告すればいい。この男は確実に何かを町に持ち込むだろうという確信を得て、サソリが小石を手のひらから弾こうとした瞬間だった。
「おおい、サソリ! 今日夕飯を食いに来ないか!」
 車が一台砂煙を上げて近づいてきたのだ。サソリは目を見開き、にこやかに答えた。
「アデルおじさん、ありがとう。でもねこのおじさんが、怪我してるみたいで」
 あと一歩早く殺しておくべきだった。隣人のアデルにこの男をみられた以上、殺すタイミングは見計らわなければならないだろう。
 アデルは男を見て慌てて車に乗せるとサソリも車に乗せて町へと運ぶ。
 これが平穏の崩壊の始まりだった。
 サソリは機を逸したのである。生前であれば不審な男への対応など即座にできただろうに、随分と平和ボケしてしまったらしい。殺すことに躊躇などないが、今のサソリはその後の隣人のことを思う余裕が生まれていた。
 がたごとと揺れる車の後部座席でアデルが男に話しかけるのを聞いている。かごの中の石はまだあるが、ここで男を殺すわけにはいかないだろう。毒でもあれば怪我を理由に殺すこともできたが今はその準備もなかった。
 男は親切な町の人々に迎え入れられて看護を受けている。サソリはその手伝いと称して男のそばにいたが、親切な女たちもそばにいるため殺すのも戸惑われた。いや、サソリほどの実力もあれば女たちに気づかれぬよう男を殺すことは容易く、その証拠など残るはずもない。ただ、女の一人が男に惚れている。自分に良くしてくれる女であったから悲しませるのも妙な気分だ。他人を慮る心などサソリは持ち合わせてはいなかったが、少なくとも子供の頃から良く知ってる世話人を無闇矢鱈に悲しませるほど傍若無人でもないのだ。
 生前から人の心がないわけではない。子どものように両親を求めた。最後は肉親を殺すことにわずかな戸惑いもあった。カンクロウの言葉に永遠を見出した。サソリはただの無情な人殺しでも快楽殺人者でもない。存外面倒見は良く、通りすがりに無意味に人を害するのは面倒だとさえ思う程度の気持ちはあった。ただ世情、環境がそのようにサソリの全てを構築し、赤砂のサソリたらしめるのである。
 平穏な世界で人を殺せば自分が面倒なことになるのは知っているし、緑と人に囲まれながら人形を作る生活も存外気に入っている。無駄な殺生でこの生活を壊したくはない。
 ……ただ、そのような中でも時折疼くように人を殺したくなる。より精巧な人形を作りたくなる。それは湧き上がって、理性に押し留められる感情であったが、サソリはそれに対しては否定的ではなかった。三十五年間の生の中で染み付いた感情が消えるはずもなく、また近づく人を殺すのは楽だ。無駄なことを考えなくていい。
 サソリは男を観察する。丁寧にその行動の一つ一つを眺め、不審な動きをするならばそれにかこつけて殺してやろうと思う。ただ、それよりも早く事態は動いた。

 夕日が大地の向こうに沈んでいく。さらさらと岩山からこぼれ落ちる砂の合間を黒黒とした車が走り抜けた。三、四、五と続く車は物々しい。
 サソリは隣の老婦人と夕食の席についている。花と刺繍で囲まれた部屋は小さいながらも優しい空気に溢れ、温かなスープは平穏な世界そのものだった。サソリは老婦人の押しに弱かった。どうも婆さんの誘いは断りきれないのである。
 窓枠がガタガタと揺れ始め、同時に遠くで悲鳴が聞こえる。銃声が響き渡り、窓枠は今にも壊れそうになっている。空気が激しく振動する。
「奥の部屋の机の下に伏せて」
 サソリは婦人を窓の小さな部屋に押し込めると扉を閉める。あの男が来てから寂しい子どもを装って仕込みを入れた人形を持ち歩くようになった。修理も限界がある木の人形だがないよりはマシだ。こんなことになるのだったらヒルコも作っておくべきだった。まったく、平和ボケも甚だしい。
 サソリは可愛らしい装飾の手鏡を使い窓から外の様子を伺う。重装甲の車ではあるが、乗っている男たちは比較的軽装だ。防弾チョッキを着ているものも確かにいるのだが、大抵は銃を抱えているだけだった。黒いスーツの男たちが目立つ。マフィアか、何かの組織の連中だろう。
 男たちは家に押し入り片端から殺しているらしい。男女に子どもの悲鳴が入り交じる。サソリは結局のところこの運命からは逃れられないようだ。
 人形を地面に下ろし、そっと換気口から表に出す。周囲に気を張りながら指を動かせば懐かしい感覚が戻ってくる。このとき、サソリは自然と円を覚えた。
 人形が窓のすぐ外で歩き出すと男たちは明らかに動揺した気配を見せる。今にも家に押し入ろうとして連中ですら、手を止めて人形に銃を向けた。
 数は十三、仕込みは足りない、が。
 サソリは指を素早く動かす。この人形は着地だけでも足が軋むほど貧弱な木造りである。よくしなる、人形にふさわしい素材は子どもに買えるほどではなかったのだ。盗むにしても言い訳が面倒で、関節の合間にクッションを挟みながら強度を増し、人の動きができるように調整しただけに過ぎない。
 人形が地面から大きく跳ねた。大道芸のようなその動きに男たちは警戒しながらもそれをどのように理解すればいいのかわからぬ様子である。 
 空中で一回転する人形の腹がパカリと割れる。腹から縫い針が飛び出し、男たちの肌を傷つける。わずかな間を置いて一人が倒れた。鼻から血を垂らして口から泡を吹く。ありあわせの素材だが悪くない。ただ、人によって効果の大小が異なり、縫い針では三人が倒れたまま動かなくなっただけだった。
 男たちは怒号を上げて銃を乱射する。サソリの人形はそれよりもはるかに素早く、男たちの頭上へ跳んで、手首の中から鋭い千枚通しを抜き出した。
 仕込み武器は全て家にあったものに限る。本当なら良いものを仕入れたかったがそんな時間も金もないのだ。
 千枚通しが一人の両目を抉るとそのまま次の男へ跳躍する。そのままもう一度。人形を狙ったはずの銃弾が男を蜂の巣にした。跳ね回る殺人人形に男たちは恐慌状態に陥り、相討ちにもなりながら地面に伏していく。そのうちにまた何人かが表へ出てきて悲鳴を上げる。サソリは冷静なままそれを聞いていた。
 
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