No.27
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タイトルのまんま。裟羅が登場。
稲妻の森は深く、スメールとは違った暗さで覆われている。鎮守の森は虫の音鳥の声がしているというのに、彼らもまた囁くように言葉を交わしているようにさえ思う。この静けさというものは、スメールの森の常に騒がしい夜の世界とは異なりどことなく不気味だ。
稲妻を一通り見ていこうということになり鎮守の森にも足を踏み入れたフィネフェルとセノは、文化の感覚が違うために鎮守の森をさほど恐れることはなかった。あの色のない気配の森の中も、静かな音も、違和感を感じこそすれそれは恐怖の対象ではない。その感覚がむしろまずかったのだろう。人と一線を画す小妖怪たちにとっては、この雰囲気に怖がらないという人間がたいそう腹立たしかった様子だ。気づけばセノとフィネフェルは妖術の中に紛れ込みすっかりと道を見失っていた。そしてもう一度二人が顔を合わせた時フィネフェルはスピノクロコの姿をしていた。
「……」
セノはまず、スピノクロコの胴体の上に乗り上げて口をがっしりとつかんで開かないようにした。スピノクロコを視認した瞬間からそこまでの間はわずか一秒にもならず、人がいればそこまでの判断のはやさと見事な手腕に拍手を送ったに違いなかった。
「こんなところになぜ。スピノクロコはスメールの固有種だろう。誰か飼っているのか? いやそれも奇妙だな……まぁいい」
セノはそういうと腰ひもを少しばかりほどいてスピノクロコの口に巻き付けた。そしてその胴体をしっかりとつかむと軽々と持ち上げる。このスピノクロコはさほど大きな個体ではなかったが、頭の先から尻尾の先までセノの伸長を優に超える。腹をひっかかれようと尻尾で打たれようと全く気にすることなくそのまま軽い足取りで歩きだしたのだった。決して軽くはない上に動く荷物だが、セノは動じなかった。
「天領奉行の大将殿はいるだろうか」
「は、どのよ……うわっこれは……これはなんですか?」
「スピノクロコだ。スメールのワニだが……大丈夫だ、暴れてはいるが逃げ出しはしない」
「裟羅様は今立て込んでおりまして、すぐにおいでにはなれない状況です。申し訳ないのですが……」
「待て! その方はスメールの要人だろう、今草神様からご連絡があって大マハマトラ様を探していたんだぞ! 申し訳ありません、すぐに裟羅様のもとへご案内いたしますが……」
「ああ、いやすまない。俺が不在にしていたから問題が起こったようだ。できればすぐに……」
セノはそこで言葉を区切った。天領奉行の兵たちもセノの担ぐ荷物を見上げる。
スピノクロコはさすがに疲れたのか、それともあきらめたのかわからないが沈黙してセノに担がれていた。しかしこれが天領奉行の建物の中で暴れるとなるとそれなりに被害が考えられる。なかなか、簡単に中に担ぎこむわけにはいかない荷物だった。
「あの……大マハマトラ補佐様は……」
「それが鎮守の森ではぐれたんだ。困っているが……」
「さようでしたか。今日中に見つからなけれ捜索も必要かもしれませんね。ひとまず人の少ない建物にご案内いたします。客人を迎える場所でないことをお許しください」
「いやこれがいる以上そういった場所のほうがいいだろう。気を使わせてすまないな。これの飼い主探しのほうが危急の課題だろう」
「ええ、承知いたしました」
九条裟羅がセノのもとへ足を運んだのは、セノが天領奉行を訪れてからおよそ半刻ほど経過した後のことであった。もろもろの荷物を抱えて現れた裟羅は頭を飾る天狗の面も傾き忙しいことを思わせる。セノは縛り上げたスピノクロコの脇で本を片手にくつろいでいたが、裟羅が現れるとすぐに立ち上がった。
「遅くなって本当にすまない」
「いやこちらこそ予定時刻に戻れなくてすまなかった」
「それよりも……その……なぜフィネフェル殿が縛り上げられて転がされているかについて聞いてもいいだろうか」
「……?」
「?」
セノの困惑した表情を見て娑羅もまた首をかしげる。それからしばらく土間に転がされたスピノクロコを眺めてから納得したように手を打った。
「小妖怪の妖術だな。今解いてみよう」
裟羅が羽団扇で軽くスピノクロコを撫でるとそこに現れたのは手足を縛られて土間で暴れるフィネフェルであった。
畳む
2023.1.2 執筆
#九条裟羅 #セノ #フィネフェル