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No.24

英雄の話

ティナリが幼少期に蒼月を助けた話を重ね合わせて、英雄についてコレイに話して聞かせる。

「ああ、その話……懐かしいね。あの時僕は両親にこっぴどく怒られたよ」
 ティナリがコレイに尋ねられて語るのはティナリが蒼月を始めて出会った日のことである。出会ったというものの、実際は人混みの隙間からわずかに真っ赤な髪と半ば赤く血で染まった青い翼を見ただけであるためその時は蒼月という名前であることすら知らなかった。いやそもそもあの時の蒼月は名前すら忘れ何もかもを失った状態だったのだ。蒼月とは、後に彼女がティナリの両親に引き取られたときに新しくつけられた名前で、彼女が産まれたときに産みの両親がつけた名前ではない。
「ユエの声が聞こえてあの時どうすればいいかわからなくて思わず海に飛び込んだんだ。あの時助けてくれた父さんと教令院の学生がいなかったら僕はあの時死んでたんじゃないかな。びしょ濡れのまま両親に抱きかかえられて父さんと母さんがもうめちゃくちゃ泣いて、それから僕は自分自身がもたらす行動とその行動の結果が及ぼすだろうことについて説教されたよ」
 ティナリは手元の紙に文字を綴りながら言う。
「じゃあティナリ師匠の説教って」
「そうだね、あの時の経験から来てるだろうね。あの時僕はユエのことをとにかく助けなくちゃと思っていたんだけど何も考えてなかった。とりあえずユエのところへ行くことしか考えてなかったんだ。でもあの時よく考えればまずは母さんに伝えるべきだった。母さんならだれに話せばいいのか、誰ならば船の中の生き残りを助けられるかすぐに判断できただろうしね。勿論、幼かった僕には選択肢がなかったというのは考慮してもいいだろう。でもそれも含めて、何も考えずに行動するのは決していいことじゃない。勿論、たとえ何も考えてなくても動くだけで力を発揮できるなら別さ。思考よりも速く体が動き、それが最善の時もあるだろう。でもそういう人は本当にテイワットでも一部の人だけだ。他の人ができることはまず自分が培ってきたもので考えること。考えた上で最善の結果を出せるよう尽力すること。そしてその結果をより良くするために僕たちは知識を学び、知恵を得て、思考する力を養う。だから僕は教令院に行かないから、アーカーシャ端末があるから考えることを放棄していいとは思っていない。いいかいコレイ。これから君に僕はたくさんのことを教えるだろう。僕はそれが君とこれから君が助けるだろう人達を生かす最善の道になるように願っている。これを忘れないで」
「……はい、師匠」
「そんなに硬くならなくて大丈夫だよ。考える力はちゃんとついてくる。今の君はまだ読み書きが苦手だけど、それはそんなに問題じゃない。君の努力は僕も……セノも知っているから。その上で僕たちは君がまず生きることを望むよ。命を掲げ誰かを救う英雄はいつの時代も輝かしいものかもしれない。でも僕は君が自分の命を大切にした上で誰かを救って欲しい。それはきっと英雄とは呼ばれないかもしれない。未来永劫語り継がれるものでもないのかもしれないね。それでも僕はそうであって欲しいと思う。君が助けようとした命が誰かにとって大切なものであるように、君の命もまた僕たちにとって大切なものなんだ。それはどちらが上かなんて天秤にかけることはできないものだよ」
 ティナリの言葉にコレイはモンドで出会ったある人を思い浮かべていた。彼女はコレイにとって英雄だ。いつか彼女のようになりたいと思う。でも彼女は決して彼女自身の命と引き換えにコレイを助けたわけではない。彼女自身がコレイの手を取って生きることを教えてくれたのだ。彼女は思い出の中だけの人ではなく、いつかもう一度会いたいと思う人なのだ。ティナリが言うことはきっとそういう人のことなのだろうと思う。畳む


2022/9/13 執筆
#ティナリ #賢者は翠海に揺蕩う #コレイ

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