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No.17

密猟者

ティナリと蒼月が雨林で密猟者を見つける話。

 スメールの森林に住む様々な動植物は時に高い人気があり密猟の対象となることもある。人々の関心が森に向くことは良いことだが、それが金と結びついてしまうとやっかいなことになる。ティナリはかつてとある植物について双方が得になりかつ生態系を維持できる範囲で採取・販売する方法を設定しその結果密猟が大きく減った事例に関わったことがあるが、森の動植物の全てにそのような対抗策を講じるのは簡単なことではない。
 リシュボラン虎の尾と牙は昔からスメールにおいて勝利・強者・美の象徴であった。リシュボラン虎を狩り牙を取り尾の毛を使って首飾りにするのが一つのステータスであったのだ。しかし今では特に「美」の要素が強調され、リシュボラン虎の乱獲がレンジャーたちを悩ませる問題となっていた。レンジャーたちが見回りを強化したためリシュボラン虎の素材は人々の関心をより高くし、そしてより多くの密猟者を生む結果となってしまったのである。ティナリもこのことについては頭を悩ませていたが、リシュボラン虎の個体数はかなり減ってきており、そのためにかつて考案したようにレンジャーがリシュボラン虎の個体数を維持しながら必要に応じて狩るということはすでに難しい段階に入っている。蒼月はこの件について頻繁に教令院とやり取りし、スメールの一般市民にリシュボラン虎は森林の生態系に必須な存在でありかつその牙や尾が美しいものとされた時代はすでに終わっていることを伝えるためにアーカーシャ端末を使えないか何度も申請をしているそうだ。一般人がリシュボラン虎に対する興味がなくなれば当然密猟もなくなる。モラが動かないところに密猟者はわざわざ手を出さない。そして同時にリシュボラン虎の牙を超えるより美しい装飾品の開発を素論派や妙論派の学者・学生と研究しているという。これらは将来的には実を結ぶかもしれないが、現実を変えてはくれないだろう。少なくとも今はレンジャーによるリシュボラン虎の生息域の見回りを強化していくしか良い方法はないように思えた。
「蒼月、先生からの連絡はどうだった?」
「いいえ、だめ。アーカーシャ端末を利用するには私の教令院での地位が低すぎるわ。申請しても門前払いみたい」
「それじゃあ前に話していた新しい装飾品の流行については?」
「リシュボラン虎の牙は骨密度が非常に高くて彫刻に向いているの。同じようなものを素論派の友人が研究してくれているけど……なかなかすぐにはいかないわ。噂ではモンドに錬金術に長けた研究者がいるとか。なんとか連絡をとりたくて色々と人を当たっているところ。それから仮に牙を超える品ができても流通に乗らなければどうにもならないのよね。その点に関しては商売の知識が必要だわ。ドリーを頼るべきか……」
「商売の講義を受けるだけでも相当モラを要求されそうだね。でも必要だ。僕も商業ルートについては少し調べてみるよ。蒼月はそのまま研究を続けて。どの道この研究は将来的には高い価値がある。現実をすぐには変えられないけど続ける必要はあると思う」
「ありがとう、そうね。私ももう少しリシュボラン虎の研究を続けてみるわ。ところで__」
「しっ」
 ティナリがその場にしゃがんだので即座に蒼月も身をかがめる。蒼月にはまだ何も聞こえなかったがティナリの耳は密猟者の足音を捉えたようだ。ティナリは小声で蒼月に伝える。
「密猟者のルートを確認しよう。でももしリシュボラン虎を狙う様子があったら即座に捉える。蒼月は上から。九時の方角だ」
 蒼月は頷くと風の翼を広げてふわりと宙へ舞った。

 スメールには様々な思想を持った傭兵集団であるエルマイト旅団が存在する。テイワット全域で活動する彼らはモラさえ用意出来ればなんでもやると言われているが、それは半ば真実で半ば嘘であろう。中にはスメールシティを守護する役割を持った三十人団のように明確な思想の他に誇りを持った旅団も存在する。エルマイト旅団とはあくまでスメール出身の傭兵集団を大きく囲っただけであり、その中は複雑に分かれ複雑に関係しているのだ。
 ティナリや蒼月が近頃困らされている旅団は自らをドラコの尾と名乗っているそうだ。旅団の中でも無法者が集まり密猟や時には海賊まがいの行為を繰り返している。そのため教令院からも三十人団からも危険視されているが、逃げ足が非常に速くまた足きりが上手かった。少しのモラで動く下っ端を器用に煽って、胴体が危険になれば即座に尻尾を切り捨てる、まるでトカゲのようであった。密猟者をその場で捕まえたとしても、そのときにドラコの尾の中枢はすでにどこかへ姿をくらましている。それ故にレンジャーは後手後手になっており、完全な対策はいまだできていない。
 蒼月は静かに翼を広げて木から木へ飛び移り徐々に高くへ移動していく。下方には川が見える。その川に船が一艘浮いていた。さほど大きなものではないが、七人の乗船が確認できた。蒼月は指で数と位置、そしておよその上陸地点を地上のティナリに伝える。ティナリは頷いて木の影から出るとそのまま音を立てずに水の中に潜った。上からはティナリの動きがよく見えるが、おそらく船にいる七人は何も気づいていないだろう。彼らは静かに船を動かし岸へつけると上陸する。船に乗っていた一人が素早く陸へ上がり、落ち葉で隠されていた木のボラードにロープを巻き付け船が流されないように固定する。この手際の良さから見るにここは彼らの極秘のルートであるようだ。
 七人は船から降りると言葉をほとんど交わすことなく道を上っていこうとする。この方角は確かにリシュボラン虎の生息域がある。
「動くな」
 自ら飛び出したティナリがロープを切って船を蹴った。川は緩やかな流れに乗って下流へと流されていく。この辺りは整えられた道はほとんどなく船で遡るか、はたまたティナリのように水に潜って岸から岸へ渡る他移動手段はない。船を流してしまえば七人の密猟者はもはや容易に逃れる道は残されていないのだ。
「ガンダルヴァ村のレンジャーだ、ここはリシュボラン虎の生息域として教令院から立ち入りを禁止された区域になる。お前たちをリシュボラン虎の密猟で身柄を拘束する。武器を地面に置いて手を上げろ」
 ティナリの弓には草元素の力が集まっている。密猟者は一瞬怯んだ様子だったが、すぐに相手が一人であることを見て武器を捨てるどころか武器を構えてティナリにとびかかってきた。
「そう、残念ね」
 彼らが聞いた声は前ではなく上からであった。
 熱が降ってくる。
 空気を焼き切る音が森の中に響いて、着弾した炎は着弾地点から広がり密猟者たちをあっという間に取り込んだ。真っ赤だった炎が真っ青に変わっていく。密猟者の体に炎が巻き付き七人の密猟者は悲鳴を上げたのだった。
「少しは後悔なさい!」
 蒼月が跳躍し再び落下する。着地と共に青い炎が爆発した。七人の密猟者は悲鳴と共に武器を放り出し川へと逃げ込もうとした。しかしそれはティナリの弓が許さない。放たれた弓は密猟者の体に触れると植物の蔓となってあっという間に密猟者の体に巻き付く。そして彼らは成す術もなく蒼焔に囲まれお縄に着いたのだった。畳む


2022/9/2~9/3執筆
#ティナリ #蒼月 #賢者は翠海に揺蕩う

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