No.16
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蒼月のマルチタスク?癖
雨林はひどく雨が降ることが多いがそれは大抵数時間のうちに止んでしまう。しかし時には大嵐が何日も雨林の木々をしならせ悲鳴を上げさせることもあった。そんな時はレンジャーも仕事を休み家で静かにしていることが多い。勿論何かあればすぐに出動するが、大嵐だからといって無理に探索や調査を行えば逆にレンジャーの身が危険になる。増水した川はすぐに足元を濡らし道を隠してしまう。木々を倒す大風は木の葉を散らして地図をも吹き飛ばしてしまう。大嵐が過ぎた後の雨林は今まで知っていた場所とはまるで違う気配を漂わせる自然に戻ってしまうこともしばしばある。レンジャーはそういった嵐の後は改めて道を整え人々の生活を守るために奔走することになる。またそういった嵐で家を失った動物たちの一時的な保護もレンジャーの仕事の一つであった。
ごうごうと外で風が唸っている。ティナリと蒼月が住むこの家は古いものであったため今にも屋根が吹き飛ばされそうだった。古く薄汚れた硝子は何度拭いてもすぐに雨に叩かれ風に吹かれた木の葉が溜まって汚れてしまうのでティナリもいつしか掃除を諦めつつある。壁に叩きつけられる雨は激しく、嵐が上がった後の仕事が多そうだ、とティナリは思いながら二階へ上がる梯子に足をかけた。
この家は一階にティナリが、二階に蒼月が住んでいる。蒼月の出入り口は小さな小窓で普段ははしごなどをほとんど使わないので形式のように取り付けられた梯子はもうぼろぼろになっている。その代わり部屋の中からは自由に行き来ができるようになっていた。ティナリの部屋の片隅に据え付けられた梯子を上るとそこは蒼月の部屋だ。普段よりずっとラフな格好で小さな灯りをつけて机に向かう蒼月は何か書き物をしているようだ。右手が淀みなく動いている。しかしその一方で左手では何かを持って顔は左手の方に向いている。
「……蒼月、何してるの」
「何って手紙を書いて論文を読んでるのよ」
「その二つは無理がない?」
「手紙って書くこと決めたらあとは勝手に出力させればいいだけじゃない。私の頭は今は論文読んでる方に向いてるから別にそんなに」
「マルチタスクっていうのかなそれ」
ティナリは呆れたようにため息をつきながら二階へ上がると蒼月のベッドに腰掛けた。
「何の論文?」
「モリフクロウの羽の擬態について」
「へぇ、フクロウの羽も擬態を?」
「ええ、最近見つかったんだけど、住む地域の樹皮の色に羽の色を合わせるの。即座に体の色を変えたりはできないんだけど、樹皮もそんなに頻繁に色が変わったりはしないからそれで今まで見つからなかったんですって。それで今生息範囲を調べているからってことで手紙が来たのよ。ガンダルヴァ村でも周知した上で調査を頼みたいって」
「なるほどねそれは驚きだ。僕も読みたいけど、次貸してくれる? それで……」
「さすがに頭がいっぱいだわ。何か大切な話?」
蒼月はそう言いながらも右手の動きを止める様子はない。
「大切な話」
「何かしら?」
ティナリがはっきりとした口調で言うと蒼月はようやっとティナリの方を向いた。そしてティナリの表情を見ると少しだけ笑って、ペンを机の上に置き、インク瓶の蓋を閉める。
「我慢できないのかしら?」
「ちょっと無理かも」
「私もさすがに疲れて来たところなの。少しだけなら付き合ってあげてもいいわ」
「少しじゃなくて今晩は君を独占したい」
「あら、私の仕事が進まないじゃない」
「嵐は明日も止まないよ」
ティナリの言葉に笑うと、ティナリに抱きかかえられたままティナリの額にキスをした。畳む
2022/9/1執筆
#ティナリ #蒼月 #賢者は翠海に揺蕩う