砂と石しかない空間はざらついていて、風が吹く度に肌が痛くなる。飛行船を下りてしばらく車で移動しなければ、エジプーシャに点在する遺跡群にたどり着けないのは、観光客にとってはひどく面倒なことだったが、それ以上の魅力を放つエジプーシャの遺跡はいつだって観光客に溢れ帰っている。
クロロが、いつもの黒いロングコートを着ていないのはエジプーシャの気候のせいだ。日光を遮るもののない砂漠の道をワゴンががたがたと揺れながら走っている。クーラーが壊れたワゴンの中は蒸し風呂も同然で、さらにそこに乗っているのが暑苦しい男共ときたらなおさら暑苦しかった。整備をされていない道をシャルナークの運転するワゴンがひたすら走っていく。揺れて、跳ねる度にフェイタンが悪態をついたが、体の小さな彼は車の中ではかなり楽なはずだった。ウボォーギンは一人でまるまる一列座席を使っているというのにそれでも狭そうだった。真ん中の座席に座るのはフィンクスとフェイタンだが、フィンクスは暑さのあまりか下しか履いていない。フェイタンが重ねて見苦しいと悪態をついているが、暑さには変えられないようだった。
クロロはひどく揺れる車内にも関わらず本を広げている。外を見ていても何も楽しいものはないのだから、暇つぶしの手段としてクロロが本を選んだのはある意味当然だったが、それだけ軽装でどこに本を持っていたのかがシャルナークは不思議でしょうがなかった。


「あ、ギーザが見えてきたよ」


シャルナークがそう口にするとフェイタンとフィンクスが窓から同時に顔を出そうとしてまた騒いだ。シャルナークも暑さにやられてうるさいなぁと口にすれば、クロロがようやっと本を閉じて前を見た。腕半ばまでまくりあげられたシャツから覗く腕も汗をかいていて、暑そうに前髪をかきあげる。シャルナークとて椅子の背もたれと背中の接触面は汗でびっしょりで気持ち悪いことこの上ない。


「で、団長、今回のターゲットは?」

「エジプーシャ王墓に眠る死者の書、だ。王墓それそのものにも価値があるからせいぜい壊すなよ」


エジプーシャは死後の復活を信じる。彼らは正しい行いをした者は死後に再び生命を持ち復活すると信じている。そのためミイラを作ったり墓の中に生活の様々な品を用意したわけだが、無事死後の楽園にたどり着くために用意された文書、それが死者の書だ。フィンクス流に言わせればいわば楽園へ迷わず行くためのガイドブックらしい。
死者の書は基本的には死者の一人一人のために用意された文書だが、一方で呪術的な用途のために作られたものがあるという。エジプーシャの宗教に出てくる冥界の王イウ・ス=イルスが書いたとされる死者の書はあるまじないの書だそうだ。だが勿論それは建前であって、実際にはパピルス紙を使って死者の書を作る専門の職業があったのだ。まさかまさかエジプーシャの全員が揃いも揃って死者の書をイウ・ス=イルスが書いてくれているなどとは思ってもいないだろう。だがその中に本当にイウ・ス=イルスが書いたとされる書があるとされていた。
古代よりエジプーシャに信仰されている宗教の根底に流れる発想は、様々な地方で見られる「死後の復活」である。現世に復活するのではなく、死後は本当に素晴らしい楽園にいけるというもので厳しい砂漠の地方の中で生活するための希望でもあったのだろう。その死者のための楽園を守護する者こそが冥界の王イウ・ス=イルスである。


「へー・・・・」


興味なさそうにあくびをしたフィンクスは、「で」と話の続きを促した。言葉を継いだのは運転席のシャルナークだった。


「死者の書は全部で180章からなるらしいけど、現在発見されている死者の書はすべて揃っているものはない。今回は全章が揃っている死者の書、できれば冥界の王様が書いた本物・・・って言うのかなとにかくその死者の書をとりに行く。とするとどうしたって盗堀されていない墓が必要になるから、ギーザのピラミッドに向かう。あそこのうち一つは研究者ですら中に入ることを許されていないから、まだミイラごと残ってる可能性がある」

「墓荒らしか・・・気がすすまねぇ。大体暴れちゃなんねぇんだろ、団長」

「頼むからビックバンインパクトでピラミッドをクレーターにしないでくれ」


クロロは少しだけ楽しそうに言う。本をこよなく愛す彼はよっぽど死者の書を読むのが楽しみなようだった。今まで外で手には入るものは一通り読んではいるらしく、あとは本当にイウ・ス=イルスの書いた死者の書か、180章すべてが揃っている死者の書のどちらかしか読み残しがないようである。物好きだな、とフィンクスは肩をすくめた。


「フィンクスいい加減服着ろよ」


シャルナークが見苦しいとばかりにとどめの一言を口にした。


2014/03/01

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※心底どうでもいいマメ知識
※管理人が好き勝手に集めた情報なので正しいとは限りません。
【冥界の王イウ・ス=イルス】作中ではイウ・ス=イルスという表記となっていますが、オシリスの別称。オシリスの名前ぐらいは聞いたことがあるかもしれません、死者の書の中にも頻繁に登場する冥界の王様です。王様、というよりは守護者?古代エジプトでは死んだ後復活し楽園にいけるとされていますが、その楽園「セケト・イアル」の守護者こそがオシリスであります。個人的にクロロってもはや冥界の王様だと思うんですよ。
【死者の書】ちょっと前にどこかで展示をやっていた気が。映画・ハ/ム/ナ/プ/ト/ラでも登場しましたが、実際には本の形はしていない。フィンクス流に言わせると「無事楽園に到達するためのガイドブック」そのまんまの意味。